旧地獄の方ではお空と2人の弾幕が色鮮やかに咲いていた。弾幕なんていつぶりに見ただろうな。
俺は近くに置いてあるタオルで顔や体の汗を拭う。ここもまだ暑い。氷結魔法を俺の周囲に放とうとするが、そういや今は魔力がない。さっき使ったからだ。
「あー…あちー。」
倒れるように仰向けになり、地霊殿の天井を見つめる。
霊夢と魔理沙はあの時から変わっていなかった。紅魔館でレミリアと戦った時のように、一方は気だるそうに、一方は楽しそうに、異変に挑んでいた。
久々に話したい。が、霊夢はともかく、俺は魔理沙との約束を破ったからな。俺から弾幕の練習を持ちかけたというのに…
「水飲むか。」
頑張って足を使って立とうとするが、どうも覚束無い。それに視界がぼやける。脱水症かもな。そんな呑気なことを考えながら、体の力が抜けていく。
「玄龍!」
「…お燐か。ナイスタイミングだ。」
お燐が俺の身体を支える。どうやら戻ってきたようだ。なんだかボロボロになっているように見えるが…なんで?
「水、くれるか?」
「もう用意してるよ。」
「サンキュー…」
コップに入った水をもらい、一瞬で飲み干す。冷たくて美味しい。生き返るような気分だ。霊体だけど、俺。
「お空の様子…どうだった。」
「なんだか神の力を手に入れたらしいぞ。それで地上を征服するってさ。」
「そっか…」
「それより、お前に聞きたいことがある。」
そういうと、お燐は右耳をピクッと動かす。何を聞かれるか、大体予想がついているのだろう。
「なんでお空の様子を聞いてきた?お空が異変の正体だなんて誰も知らなかったはずだ。俺もついさっき知った。」
「それは…」
「それに、最近さとりを避けていたそうだな。何か読まれたくない思考でもあったのか?」
「…あ、あはは。玄龍は鋭いね。」
お燐は苦笑いを浮かべる。反応から見るに、さとりにもついさっき怒られたのだろうな。
「なんで怨霊を地上に送った?」
「その…お空が最近様子が変だったから、調べたら地上を征服するって言ってて、さとり様や地底の人に処罰されるのが怖くて、それで…」
「地上に助けを求めたということか。」
これで霊夢達が異変発生時から時間がかからずに来た理由がハッキリとした。異変発生はもっと前からあったということだ。
「お空はバカだけど…アタイの友達だからさ、失いたくなくて…」
「そうか。」
涙ぐむお燐を見て、なんだか悲しい気持ちになった。なんで悲しいのか。それは恐らく単純だ。俺はお燐の頭に手を乗せる。
「一人で抱えんな。俺もいるだろ。」
「…ごめん。」
彼女の頬に一つ涙が伝う。
「あれだな、これが終わったら俺の義手治すの手伝え。約束な?」
「…うん。」
「よし、じゃあ終わらせに行くわ。」
「え、危険だよ!あの二人に任せておけば…」
「お前が今後一人で抱えないように、頼れるところ見せなくちゃな。」
柄にもなく臭いことを言っている気がする。でも、青春を今取り戻してもいいだろ?
「なぁ、霊夢。」
「なによ。」
「消耗戦だぜ、こりゃ。このままじゃあ暑さに体力を削られる。」
そんなことはわかっている。だが、目の前のお空とかいう烏が意外と体力があり、加えて弾幕の密度が濃い。それだけなら大丈夫なのだが、魔理沙の言うようにフィールドの環境が悪い。勝ってギリギリだろう。
「紫、隙間の中に水とか用意してないの?」
『そんなものないわよ。頑張って耐えなさい。』
「使えないわね…」
『聞こえてるわよ。』
周りに浮いている陰陽玉から呆れたような声が聞こえてくる。
とはいえ、あちらも神の力とやらのエネルギーは大量に使っているはずだ。見た感じあちらもギリギリの戦いに思える。しかし、熱気により劣勢なのは明らかにこちらだ。どうしたものか…。
「冬服なんて来てくるんじゃなかった。」
『それ、冬服だったんだ。』
どう見ても冬服でしょ。博麗の巫女のユニフォームを知らないなんて、幻想郷の賢者としてどうなのよ。
「呑気にお話なんて余裕ね!」
「あーあ、紫の所為で怒った。」
『雑な責任転嫁はやめて。 』
弾幕の密度は更に増していき、右も左も弾幕だらけ。常にかすれている。通信の電波が良くなるからいいけど。
「おい霊夢!笑えなくなってきたぞ!もうボムもない!」
「あっちもこれがラストスパートよ!エネルギーを使い切るようなエネルギーの流れを感じる。」
太陽も先程に比べ、心做しか小さくなっているように感じる。このまま行けばきっと…!
『霊夢!危ない!』
「え…」
目の前には一つの弾幕。顔面の目の前にあり、私は体を仰け反ってそれを避ける。危なかった。考え事なんかしている暇はない!
一切の油断を許さず、何も考えず、私のセンスだけで迫りゆく弾幕を避けていく。数分が経過し、その弾幕地獄から解放される。
「今のを避けるのね…」
「これで終わりよ。あなたに私は倒せない。」
「…いいえ、これで終わりじゃない。残念だったわね、まだ最後の力があるの!」
そうすると彼女は先程よりも更に濃く速い弾幕を撃ち、流石に私もこればかりは絶望を感じる。こんなに危ない妖怪をこのままにするわけには…!
「能力を『解く』ッ!!」
「え…」
瞬間、太陽は氷に覆われ光を失い、灼熱地獄のマグマは石と化し、熱気から一気に冷気が全身を襲う。
「おまっ、生きていたのか!?玄龍!」
「残念、死んでるよ。」
死んだはずの鬼島玄龍が、私の目の前に立っていた。