殺人犯は救世主   作:薬売り

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第十七話 『殺人犯は再会を』

 地霊殿までたどり着くとさとりが慌てた様子で俺らに話しかけてくる。

 

「玄龍さん!お燐!旧地獄に今までにない程温度が上昇してます!」

「旧地獄…?お空はどうしたんだ。」

「分かりません…恐らくあの子の管理下のことですから自分から調査をしに行っているかもしれません。それと、今繁華街に住んでる方から、博麗の巫女と魔法使いがこちらに向かってきているようです!」

「やっぱりか…」

 

 あの弾幕の音、聞き覚えがあると思ったら魔理沙のマスタースパークだったんだ。それにしても、アイツらが向かってきているということは異変解決が目的だろう。でも、何を異変だとみなしたんだ?旧地獄の高熱は今日の朝から今まで、つまり正午までの間に発生した。行動が早過ぎないか?

 もしかして、以前からマグマの熱が上がりやすくなっているのに関係しているのか?

 

「とりあえず、俺は旧地獄の方に向かう。さとりとお燐は博麗の巫女たちに目的を聞いてくれ。無闇矢鱈に攻撃をする奴らじゃないはずだ。」

「分かりました。」

「了解!」

 

 その言葉を聴き、俺は旧地獄の方へと急いで向かう。目的地に近付けば近付く程、熱気はどんどんと濃度を増していく。今までにないほどに汗が至る所から吹き出し、そしてその入口までたどり着く。

 扉を開くとそこには───

 

「お空…か?」

「こんにちは、玄龍。」

 

 まるで太陽のような赤く燃える球体を後ろに構えたお空の姿があった。彼女はいつものように無邪気にニッコリと笑っており、褒めてくれるのを待っている子どものようだった。

 お空が原因だったとは…気を抜いたな。

 

「…どうしてこのようなことをしているんだ?」

「私はね、神の力を手に入れたの。八咫烏様の太陽の力を。」

「八咫烏…」

 

 八咫烏は日本書記や古事記にも出ているが、中国の伝説にも太陽の中にいると語られている烏である。

 最近、お空の様子がおかしいとは何となく感じていたが、早く対処しておけばよかった。仕事が増える。

 

「この力を使って私は地上を征服しようと思ってるの。すごいでしょ。」

「ちなみに、どうして征服しようと?」

「さとり様がみんなに嫌われてるって、悔しいんだもん。こんな窮屈な地獄にしかいられないなんておかしい。なら、地上を灼熱地獄にすればいいんだってね。」

 

 なんともまぁ、極端な考えだこと。お空らしいと言えばお空らしいけど。

 

「それは、さとりが望んだことか?」

「さとり様は優しいから多くを要求しようとしないのよ。でも、絶対心の奥底では望んでいるはず!」

 

 典型的な歪み方をしているな。さとりの事だから、これを知ったらお空のことを叱るだろうな。ただ、今の状態で叱ると、お空からしたらその人の為に頑張ったのに受け入れられない、つまりは拒絶をされたというように捉えてしまい、さらに暴走をする可能性がある。ならまずは、お空のこの暴走を抑えよう。きっと霊夢たちも来るはずだ。

 

「そっちに近づいてもいいか?」

「え、でも玄龍が溶けちゃうよ?」

「一瞬だけでも?」

「うーん、分からない。」

「なら試してみようか。」

 

 俺は吸血鬼の脚力で太陽まで一気にジャンプをする。そして一瞬手を太陽に触れ、俺はあるものを『解いた』。

 暑い。ただ、手に関しては熱いとかの概念ではない。義手だからな。溶けちゃったけど。溶けた金属は危ないため、着地をする前に義手を外しマグマに捨てる。

 

「え、痛くないの!?」

「まぁな。」

「なんでわざわざそんなことしたの…?」

「太陽がどれだけの力を持ってるか確かめたくてな。」

 

 それにしても、どうしてお空はこんなに膨大な力を得ているんだ?神の力を手に入れたって言っていたが…どういうことだろうか。落ちてた神様を拾い食いでもしたのだろうか。

 

 分かるはずもないことを考えていると、旧地獄の入口が爆発音と共に煙を上げた。やっと来たか。とりあえず俺がいたらややこしくなるため近くの岩に身を隠す。

 

「ゴホッゴホッ…魔理沙!なんでわざわざ扉を破壊するの!」

「いやぁ、この方が登場シーンとしてカッコイイだろ?」

 

 異変解決に来てると言うのに、相も変わらず能天気な二人がその煙から現れた。何やら霊夢の周りには変な陰陽玉、魔理沙の周りには人形が浮いている。

 

「あ、貴方たちね。わざわざどうもご足労頂いて…」

 

 お空は恐らくどういった意味なのか分かっていないで言っているだろうが…霊夢達も何故がお辞儀をしてる。

 

「お前か?地上に吹き出た間欠泉の原因は。」

 

 間欠泉…?旧地獄の温泉が吹き出たってことか?それは別にいいんじゃないか?何が異変なんだ?

 

「間欠泉…そうね。それがどうかしたの?」

「あれを止めて欲しいんだとよ。危ないから。」

「……間欠泉はそんなに危険ではない筈。せいぜい火傷する程度じゃない?」

『お湯と一緒に何かが湧いてきてるの!怨霊か何かが。』

 

 魔理沙の周りに浮いている人形から女性の音声が発せられる。

 怨霊が湧いてくるって…怨霊の管理はお燐の仕事のはずだ。間欠泉と何か関係があるのか?

 

「怨霊……?怨霊ならお燐が管理している筈……怨霊の件は私じゃない。それに、もう間欠泉は止められないのよ。」

「何だと?」

「私が余りに強い力を手にしてしまったから、火焔地獄の炎は強くなる一方。それに伴い間欠泉も強くなるわ。」

「強い力だと?」

「ええ、究極の力。地上を全て溶かし尽くす最後のエネルギー。」

 

 お空がその言葉発したと同時に太陽は膨張した。更なる熱気を帯び、旧地獄は本来の姿を取り戻したかのようだった。

 

「とりあえず、コイツ倒せばいいんでしょ?」

 

 霊夢はこの熱気に対し、暑そうにはしているが余裕の表情を見せる。魔理沙も同様に余裕の笑みを浮かべている。

 本当に、アイツら俺と同じ人間かよ。俺はこのままでは溶けてしまいそうなため地霊殿の入口まで移動する。汗をかきすぎた。水分を取らないと。

 

「究極の核融合で身も心も幽霊も妖精もフュージョンし尽くすがいい!」

 

 末恐ろしいことを言っているが、ここは彼女らに任せることにしよう。俺はもう、準備が整った。今はただその戦いを遠くから見ているだけでいい。というか休ませてくれ。


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