前回投稿してから、約5年が経過しておりました。誠に申し訳ございません。こんな作品ですが、もう一度見る方、そして初めて見てくださる方がいらっしゃるかもしれません。ですが、不定期であるため、それでも見ていただけると幸いです。
加えて、お詫びとして5日間連続で同じ時間に投稿させていただきます。もしよろしければお付き合いお願いします。
それでは、どうぞ。
第十五話ㅤ『殺人犯はゾンビじゃない』
あれから、どれだけの季節が過ぎただろうか?代わり映えしない地底では時の流れを忘れてしまう。
お燐に拾われ、彼女の雇い主である『古明地さとり』の住まう地霊殿にて仕事を担うこととなった。代わりに衣食住の提供だ。
今日も俺は旧地獄にて、床掃除をしていた。
「玄龍〜先に帰ってるからね〜。」
「分かった、今行く。」
お燐は怨霊の管理、俺は旧地獄の床掃除をし、それを維持。そして今日の仕事を果たす。充実している、とても。今思えば、天国に行かなくて良かったと、安堵の吐息すら出てくる。
地霊殿に戻り、旧地獄の暑さによって溢れ出る汗を入り口に置いてあったタオルで拭う。もう死んでいるのに体温調節は必要なのかと甚だ疑問なのだが、まぁ、魂の神秘と言うことで。
「戻ったぜ。」
「あら、おかえりなさい。汗もヒドいでしょうし温泉に入っておいてくださいね。」
「分かった。」
読んでた本を閉じ、「おかえり」と、迎えてくれたのが、この地霊殿当主のさとりだ。彼女は人の心を読むことが出来、勿論能力を使わない限り俺の心も読める。
例えば……
「あ、そうですか。今日は和食にしましょう。」
「流石さとり、俺の気持ちがわかるぜ。」
「ただの能力ですよ。」
こんな風に。
本人曰く、この能力は酷く他者から嫌われ、その多くは邪険に扱われたようだ。自分の考えていること、善意も悪意も、誰にも言えない秘密も、全て伝わってしまうから、当たり前と言えば当たり前だろう。
だから彼女はここにいる。
この地霊殿は、幻想郷の地下…いや、地底に存在する。地底は、言わば嫌われ者の居場所。訳あって嫌われることとなった者の溜まり場なのだ。だから、とても居心地が良い。他者が他者の汚点を認め合い、生きていく理想郷。Shangri-laなわけだ。
「そう思って頂けると光栄です。」
「おっと、つい居心地が良くて思ってしまった。いや、恥ずかしいぜ。さっさと風呂に入って洗い流そう。」
笑顔が絶えないなんて経験、生まれて初めてなんだから。そう思ったってしょうがない。
「あ、そういえばお燐は一緒ではないのですね。」
「先に帰ってるはずだけど…?」
「そうですか…最近なんだかお燐から避けられている気がして…最近見かけないんですよね。」
お燐がさとりを…?にわかには信じ難い。
「気の所為じゃないか?」
「そうですかね…あ、すみません、引き止めてしまって。ごゆっくり。」
さとりはまた本に視線を落とした。
疲労が溶けた溜め息を吐きながら、俺の体を湯に浸す。ここの仕事にも慣れ、友好関係が日々広がり、深まっていくのを身に染みて感じる。
「玄龍ー、背中流す?」
「ありがとう、気持ちだけで大丈夫だ。」
この男湯に入ってこようとするアホの子は『霊烏路 空』と言い、皆からはお空と呼ばれている。旧地獄の温度調節をになっている烏の妖怪だ。俺も詳しくは分からないが、地獄烏っていう妖怪らしい。まんまやん。
ここで勘のいい人は気づいているかもしれないが、この地霊殿には動物、若しくは動物系の妖怪が多い。理由は、さとりの心を読み取る能力が、動物達とのコミュニケーションとして使えるためであるらしい。
それは置いといて、最近、お空は賢くなった。
今の光景を見て、皆さんはさぞ「こいつは何を言ってんだ?」とお思いになってるだろう。だが、前は酷かった。まず、「背中流す?」などと訊いてこなかった。なんの前触れもなく、真っ裸で入ってきやがるのだ。
それだけなら嬉し…違う、それだけならまだしも、その後、心を読めるさとりからは白い目で見られるのだ。俺は何も悪くない。多分。
「ねー玄龍。」
「なんだ?」
「もし、私が強くなったらどう思う?」
「いきなりどうしたんだ?」
脱衣所越しに突拍子もなくそんな事を訊いてくる。
どう思う?というなんとも言えない曖昧な質問は、非常に悩ましい。別に、お空が期待している答えを探している訳では無いが、正直どうでもいいというのが答えだからだ。質問に対して、無責任だと考えてしまう。というよりも、過去に自分がそのように回答された時、そう感じたからだ。
それでは、どうするべきだ?
「玄龍は、最近お燐から聞いたんだけど氷結の魔法を習得したんだったよね?それは強くなるため?」
「いや、旧地獄が暑すぎるから涼むためだけど。」
「そうなんだ…」
どうしたのだろうか。お空はいつも元気が有り余っている。らしくない。
「まぁ、強くなろうとしてるのならそれでいいと思うが…強さを間違った方向に使わないことだな。」
「間違った方向?」
俺がこれを言うのか。どんな笑い話だよ。
「月並みなこと言うけど、人を傷つける為じゃなく護るために使う、みたいな?」
「そっか…そうだよね。」
納得したような言葉だが、どこか不満気な声色だ。どうやら求めていた答えとは違ったらしい。
まぁ、彼女はお燐にも「鳥頭」と揶揄される程に記憶力がない。この質問の真意は知らないが、そう深く考える必要は無いだろう。
「そろそろあがるから、脱衣所から出て行ってくれるか?」
「なんで?」
「裸を見られたくないから。」
「そっか。それじゃあ、またね。」
引き戸が閉まる音が脱衣所から聞こえる。俺は温泉から出て、脱衣所に向かいながら軽いストレッチを行う。
次の日、お空の姿が見当たらなかった。
まぁ、良くあることだ。お燐が死体集めを趣味とするように、元々地獄烏は地獄の罪人の肉や皮を食らっていたらしい。その為、癖でよく旧地獄の方に足を向かわせることが多い。今日もそんな理由で不在なのだろう。
「今日は日曜だから、仕事はお休みだね。」
隣で朝ご飯を食べているお燐が嬉しそうに話しかけてきた。
「でも、死体集めのために結局旧地獄に行くんだろ?最近マグマの熱が謎に上がりやすいし、それも見に行くか?」
「ふふふーん。」
「…なんだその笑みは?」
いかにも何か企みがあるような様子に、思わず苦笑いをしてしまう。コイツが何か企んでいる時は大体俺が巻き込まれる。今回は、何に巻き込まれるんだ。
「気になる?」
「気にならん。」
「気になれ。」
面倒だな。
「じゃあ気になるよ。教えてくれ。」
「へぇ?気になるんだぁ!?」
「やっぱいいや。」
「ごめんなさい聞いてくださいお願いします。」
ここまで来ると面白いな。
「それで?どうしたんだ?」
「いやぁ…そのね?なんて言うか…」
何を言い淀んでいるんだ。自分のおさげを細い指で弄りながらモゴモゴと口ごもっていく。話を聞いて欲しいのか聞いて欲しくないのか、ハッキリしてくれ。
「その…今日さ、一緒にお出かけしない?」
「…なにを企んでるんだ?」
「何も無いわよ!私をなんだと思ってるのさ!」
にわかには信じ難いが…本当にただ出かけるだけなのか?それに、なぜ俺が付き添わないとならないんだ?いや、行きたくない訳では無いが、他にも誘える人は居ただろうに。
「その疑心の眼差しやめて。行くの?行かないの?」
「別にいいけど…」
「ほんと?」
「うん。」
承諾すると小さくガッツポーズをした。なんだか、やっぱり何か企んでるんじゃ…じゃなかったら荷物持ちに使われるのか?有り得るな。
とはいえ、折角の休日だ。ショッピングや誰かと食事に出かけるのも悪くは無い。
「それじゃあ、早速出かけよう!」
「まず飯を食え。」
「あ、はい。」
忙しないな。
後書きですが、現在多忙である為今まで書いていた後書きを書かないという方針になりました。復活の予定はありません。悪しからず。