真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王 作:ゴーレム参式
時刻は夕方の五時半頃。
落ちていく夕陽に照らされたビル群が影に染まり、町全体を怪しい魔都へと変える。
と、そんな詩人なことを考えながらルリはコーヒーを啜った。
「こうやって夕暮れの新宿を観ながらコーヒーを飲むのも、なかなか乙なものです…」
「…あのさぁ、黄昏てるとこ悪いけどアタシたちこんなことしてていいの?」
ルリと静花がいるのは新宿にあるオープンカフェ。
二人は呑気にブレイクタイプをしていた。
「誘拐された人たちの居場所がまだ分からないにお茶なんて飲んで…それに流されて付いてきたけど、北郷さんひとりにして大丈夫なの? やっぱ、こっちはこっちで別行動したほうが・・・」
「そう心配しなくていいですよ。あの程度の半端モノなら一刀ひとりでなんとかできます。それに、一般人がどうこう動いても足手まといしかなりませんので貴方は大人しくまってればいいんですよ」
「ヴゥ、そこまで言わなくても…」
事実を言われ、不機嫌ながらルリをみつめる静花。
ルリは優雅にカップを口に着け彼女を見据えながら言う。
「まぁ、後手に回っていたのは事実ですし、ここいらで攻めに転じるべきでしょうね」
「攻めるって、どう攻めるのよ? 相手の居場所もわからないのに…?」
「ふぅ…そろそろ来る頃ですね」
コーヒーを啜った後、カップを皿に置き一息。
ミステリアスな余裕を漏らすルリに、静花は「もう、手を打ってるの?」と期待を抱くが―――
「お待たせしました。特性ケーキの四種盛りです♪」
「まってました……!」
「だぁ~!?」
店員がトレーに乗せたケーキに、ウキウキするルリに、静花は椅子からずり落ちてしまう。
「ケーキ食ってる場合じゃないのに~」
さきほどのシリアスが霧散してしまい、呆れてツッコム気も失せてしまった。
静花が椅子に座ろうとしたその時――
『見つけたぞ糞邪神!!!』
謎の声と共に上空から黒い物体が高速で急降下。
しかも、ケーキを食べるルリに直撃コースでだ。
あぶない!
静花が叫ぼうとした瞬間、ルリはケーキを乗せていたトレーで黒い物体を叩き落とした。
『べっぶし!?』
「デザート食べてる最中に突っ込んでこないでください。KYですがアナタは」
『やかましい!? こっちが必死になって東京中を探し回ってるいうのに何呑気にカフェ~などしおって! 仕事せんか!』
『してるじゃないですか。(ケーキを食べながら)パシリをまつという仕事を』
『誰がパシリじゃ!? ご主人様といい、アンタといい、烏使いが荒すぎんぞ!!』
硬いアスファルトに叩きつけられた黒い物体がルリの足元で叫ぶ。
黒い物体は烏だった。しかし、都会で見かける烏よりも二回りも大きい。ワタリガラスという烏の一種だ。
しかも、人の声で叫んでいる。その光景に静花が目を疑っていると机に上に別の烏が翼を羽ばたきながら降りてきた。
『フギン、落ち着くんです。変に突くと逆に返り討ちにされますよ』
降りてワタリガラスは怒鳴るワタリガラスを宥める。
喋る烏が二羽になったことに、静花は目を疑いながら、頭が痛くなった。
「今度はしゃべる烏って…もうなにがなんのか…」
『ン? 誰ですかこの娘は?』
『オイ、邪神様。なに一般人巻き込んでおるのだ? ややしくなってしまうぞ』
「現代進行中で堂々としゃべってる烏に言われたくありませんよ」
チラッと、ルリが周りを見た渡すと、周囲の人たちがこちらを覗いていた。
ワタリガラスが襲ってきた、しかも二羽とも喋っているとなると注目されるのはあたりまえか。
この場を治めるため、ルリはムニンにアイコンタクトをして・・・
「お気になさらず。これらはただのドローンです。しかも人口機能付きでテストプレイをしているんです」
『ハイ、ワタシタチ喋ルドローン。烏ノ形シテイル最新鋭ノドローンデス』
『イヤ、ムニンよ。さすがに無理があるぞ…』
「あたしもそう思う…」
露骨といわんばかりの言い訳に、一羽とひとりがツッコムも――
「「「「さいきんのドローンてすげぇぇ~…!!」」」」
『「納得したぁぁ!?」』
「日本の科学技術は世界一…ですからね」
『カァ~』
納得する周囲の人々に、人間て単純だな、とルリは嘲笑した。
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「では、改めて自己紹介しましょう。こちらは草薙静花さん。なんやかんやで私たちと協力してくれる子です」
「えぇ~と、なんやかんやで北郷さんたちと協力することになった草薙静花です」
テーブルの上にいる二羽のワタリガラスに静花は小さく一礼する。
鳥に挨拶するの変であるが。
「んで、この喋る烏たちは…私たちのパシリです」
『オイ!』
『正しい紹介を望みます、ルリ…ッ!』
「…やってることはパシリなので間違ってはいないと思いますがまぁいいでしょう。簡潔に説明しますと、この烏はフギンとムニンといいまして調査と索敵を得意とする一刀の使い魔的な神獣です」
「………」
「どうしましたか?」
「……どっちがフギンで、どっちがムニン??」
「あっ、そっちですか。まぁ、どうせパシリ役なんで個体名は覚えなくていいです。名称ならパシリ一号、二号でいいです」
『『オイ!!』』
ケーキを四つ食べ終えたルリはフォークを皿に乗せ、フギンとムニンを見据える。
「それで、アナタたちがここに来たということは相手側の居場所が見つかった・・・そうですね」
『もちろんだ。ちゃんと裏を調べ直して事件の黒幕が何をしているのかこの眼で確認した』
『今の時間なら儀式の準備に取り掛かっているのでしょう。準備の様子からにしておそらく逢魔時に始めるつもりです』
「…なるほど。よりにもよってその時刻を狙うとは相手も考えたものですね」
「逢魔時?」
『六時のことです。この世とあの世の境界が緩くなる時間帯なので、神話や物語の悪魔や魔物が顕現しやすくなるんです』
「へぇ~…って! 六時ってあともうちょっとじゃないの!?」
静花は椅子から立ち上がると、フギンの首を握りしめた。
「どこよッ、その黒幕の居場所は!? 教えなさい! 早く!!」
『ちょっ、苦しい!? 首しまるッ!?』
「誘拐された人たちの命がかかってんの! さっさと吐け!!」
「落ち着いてください静花さん。そいつを絞めても話が進みませんよ」
ハッ!? とフギンの首から手を放す。
フギンは机に落ち、倒れ伏す。
『ぜぇぜぇ…あっ…あち…です』
呼吸困難になりながら、震えた片翼である当方を指す。
羽の先にあったのはカフェから五十m離れたビル群の一角…その最上階であった。
「………ルリさん」
「言っときますが、狙ってここに来たわけなありませんので」
しかし、犯人の場所が近くだと分かっただけで儲けである。誘拐された青年少年は生贄にされるため、おそらくあのビルの最上階にいるは妥当だろう。
静花はさっそく、この後どうするかルリに相談しようとした。
そのとき―――
ドッカァァァァンンン!!!
粉塵爆発したかのように、ビルの最上階が突如として爆破した。
「ば、爆発したァァァァ!?!?」
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時間をすこし巻き戻そう。
ビルの最上階のオフィスにて、男は部屋の中央に佇み、周りを見渡す。あるのは壁と円状に並べられた17つの台座に、台座の上で眠る17人の生贄たち。
「では、始めよう。真の魔王の出迎えを……!」
男は腕を宙を横一線に振る。すると、オフィスは爆破されたのように吹き飛んだ。しかし、男と生贄たちには余波が無く、壁と天井だけが破壊された。
瓦解したオフィスは、野外となるも、頭上に天井に組み込まれていた黄金の輪だけだ残され、宙に浮いていた。
「クワルナフの光輪よ。この世のあの世の境に灯る光を集めよ!」
黄金の輪は光を発し、高速で回転。光輪となり、光の粒子をまき散らしながら、不思議な『力』によって並行地平線で赤く光る夕陽の光を中央に集める。
すると、輪の中心にて、夕陽の光りで空気が熱しられて、煌びやかな火が灯った。
「回れ、周れ、廻れ、我らの象徴を高ぶらせろ光輪よ! その火こそこの世の元素のひとつ! その火こそ神々の証! その聖なる火こそ我らが敵であり光であり、悪であり、善であり、神話である!」
光輪の回転速度が増していき、光速へと達する。
同時に、光速で廻る光輪の運動エネルギーを吸収しているのか、中央の火も猛々しく燃えて上がらせる。
燦々と燃える聖なる火が、夕暮れの暗闇を赤く照らしていく。
「祝ってくれ、我らの象徴よ! 我らの物語の始まりを! 善悪二元論を決める我らの終末を!!」
男は願うかのように、また、宣戦するかのように、天上に燃える『火』に誓いを立てる。
「今ここに暗黒竜の招来を執り行う!!」
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一方、新宿近くの道路では巨大生物が横断していた。
両肩に蛇を生やす、半人半蛇の魔人『ザッハーク』である。
ザッハークは下半身の蛇の尻尾を引き摺りながら、両手を前足にして硬いアスファルトの上を歩いていた。
道中、逃げた者たちが乗り捨てた車や家、ビルを踏みつけ、乗り越え、破壊し、一直線に歩き続ける。
通った道は瓦礫が散らばれ、まるで都市の獣道のようであった。
その獣道にて、スーツ姿のエージェント二人が、一心不乱に新宿に向かうザッハークの背中をみつめた。
「いや~まさか、神獣が日本の街道を堂々と歩く日が来ようとは……人生何が起こるか分かりませんねぇ及川君」
「甘粕はん。現実逃避してないで仕事しれません? ってか、こんなもんで誤魔化せるんですかねぇ?」
正史編纂委員会の職員『甘粕冬馬』がのほほんと嗤う。
その隣でプラカードを肩に乗せる及川の姿もあった。なお、プラカードには『映画の撮影中』と書かれていた。
「苦肉の策なので無理がありすぎますが、今の私たちができることはこれしかありませんよ」
幸いにも避難誘導が完了し、今のところけが人は出ていない。
また、(無理があるが)映画の撮影ということで、世間は一様納得している状態であった。
…人間という生物はどこまで単純なのだろうか、及川が疑問に思った。
「はぁ~今夜はデートやんのに、なんでこんな事件を起こるんや…」
正史編纂委員会の威信にかかわる事件の最中、及川は今夜のデートのことを考え、脳裏に悪友の姿を浮かばせた。
(だいたいカズピーの奴、こんなとき何してるんやねん!? まつろわぬ神が出たらカンピオーネの出番やろうが!)
この場に居ない悪友に八つ当たりをしていると、新宿地から爆発音が聞こえてきた。
ザッハークが目指す場所…新宿のビル群の一角の最上階。100m以上離れた地点でも視覚でき、最上階の上空に巨大な光輪と火が浮かんでいた。
光輪の中央で燃え上がる火が大きくなるにつれ、悪質な重圧感を発する。その感覚に、野次馬たちは気分が悪くなり、その場でうずくまった。怪力乱神の事件でそれなりに耐性がついている正史編纂委員会の職員でも、気を抜けば意識が朦朧となる。
同時に、影のような立体が町中に数多く出現する。
「あぁ~これは残業決定のようですね…」
「勘弁して―な~!?」
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光輪と燃えがある火。
その下のビルを中心に、多くの怪物たちが出現し、新宿はパニックとなる。
怪物の特徴として黒一色で、それぞれサイズと輪郭が違う。屈強な戦士と思わせるシルエットに、戦士よりも二倍ほど大きい悪魔のような羽と角を生やすシルエット、そして、手に平サイズで妖精を思わせるシルエットの三種類。
まるでゾンビのように解粒は町中を徘徊し、意識が朦朧としている野次馬たちに襲い掛かろうとしていた。
『カァ―!!』
ムニンとフギンは高速で飛び交い怪物の頭を嘴で突き、翼でかく乱させる。
その隙に、ルリが膝を一般人に声をかける。
「動けますか」
「はい、なんとか…でもこれって…」
「貴方の頭では理解できないことなので気にしなくていいです。それよりもここから離れることをお勧めします」
動ける人は動けない人を連れていってください、と命令すると、人々は動けずにいる人たちを連れて逃げていく。
その後を影の化け物たちが追うも、二羽の神烏が行く手を阻む。
また、ルリも小柄な体型に対して武芸者顔負けの体術で影の怪物たちを押し倒していく。すると、怪物たちはあっけなく霧散した。
『邪神、こいつらは…!?』
「どうやら余計なものまで降臨してしまったようですね」
前方にあるビルの最上階。壁と天井が壊れ屋上となっている場所を見据えながら呟く。
「おそらくまつろわぬ神の招来で召喚される神と関係をもつ者たち…気配からして配下の者たちでしょう。ただでさえ世界の境界が曖昧となる時間帯。儀式の余波で無条件に招来したってところでしょう。もっとも、完全に顕現できず、影だけが現世に降臨。シャドーサーヴァンドのようなものですね」
説明しながら影の怪物たちを斃していくも、次から次へ、怪物たちは増え続けていく。
『冗談ではないぞ…ここまで派手に動くとなると正史編纂委員会だけでなく他のカンピオーネも動くぞ!?』
『そうなったら東京が魔界になります。ルリ、ここか時空の守護者としてなんとかしてください…!?』
「いえ、そんなこと言われても…制限を掛けられている私にはどうしようもできませんよ。ただでさえ、こうして肉体を使って直線的に関わるのだって、ほんとギリギリなんですから…ッ!」
ルリのドロップキックが影の怪物の胴体を貫通させた。
権威を振るえば眼前の影の群など一瞬で滅することができるが、今のルリにはその力を振るうことができない。
むしろ、存在自体が現世に関与することが禁止されている。最低でも私生活か、もしくは一刀を代行として間接的に関与することしか出いないのである。なぜ、そのような制約が課せられているのかのちのち語るとして。
「静花さん。念のため言っときますが、一刀が忠告した通り勝手な行動しないで彼らと共に避難をして―――」
チラッと、カフェで隠れている静花を一瞥する。
しかし、そこに静花の姿がなかった。
「……あれ?」
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草薙静花は影の怪物に見つからないよう隠れながら進む。
そのとき、静花の脳裏に一刀とルリの言葉が浮かんだ。
―――同行を許す。でも危険になったら安全なところに非難すること。それが条件だ。
―――一般人がどうこう動いても足手まといしかなりませんので貴方は大人しくまってればいいんですよ。
「……ごめん二人とも」
静花は静かに一刀たちに謝罪する。
それど、少女は魔城と化すビルへと向う。
後を考えず、今をどうするか。
たとえ竜の鬚を撫で虎の尾を踏む行為であっても、チャンスがあるなら決して逃がすな。
後先考えず、今を行動する。
正史において、兄が兄なら妹は妹であった。
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一方、現代進行形で一番仕事をしなくてはいけない魔王というと…
「はぁ~油断した~」
そこはコンクリートと鉄筋、展示品が残骸の山の上で一刀は溜息を吐く。
「まさか、戦う前に館が崩壊して生き埋めにされるなんて…」
思い出すのはザッハークに挑もうとしたときのこと。
眼前の怪獣に接近しようと地面を蹴った瞬間、床が抜け博物館の地下駐車場まで転落。そのまま博物館の崩壊に巻き込まれ生き埋めにされたのだ。
その時、最後に見たのはザッハークが興味を失ったように立ち去る姿であった。
「後で、ルリに小言いわれそう…」
深く溜息を吐く一刀。
かっこよく勝負を挑もうとして、うっかりミスで自爆した挙句、数分間生き埋めにされたなどかっこ悪すぎる。
このことが相棒に知られれば『金欠魔術師みたくドジを踏むとは、バカですね。アホですね。いえ、もとからバカでしたから当たり前ですか。半端者も呆れてどっかにいくのも無理もありませんね。ほんと一刀はバカばっかです』と見下した目で暴言を吐かれるに違いない。
そんなことされたら俺…ちょっとゾクゾクしてしまう!!
「――っと、変な事考えてないで仕事しますか」
目的を思い出し、一刀は〝ミーミルの瞳〟を起動させた。
――『
「頼む」
ムギンからの記録をミーミルの瞳からダウンロードし、視界にディスプレイとして情報を表示させた。
流すように閲覧していると、草薙静花がどっかに消えたということも記されていた。
「やっぱりそーなったか…」
ひとりで納得したかのように頷く。
むしろ、予想道理なので、ヤレヤレな感じだ。
――『提案。草薙静花の行動パターンを把握し、計画の修正をしますか?』
「いいや、
――『承認。東京内に展開されている敵性エネミーのパターンを把握しだい取り掛かります』
そう告げると一刀の視界に幾つもの式と図面が表示される。
「んじゃ、草薙ちゃんが無茶する前にこっちも動くか…」
瓦礫の山から立ち上がり、背伸びをする。
その背後にはいつのまにか
まるで、主君からの命令を待つ戦士のように、その場から微動もせず立ち続けていた。
「――久々の
その言葉は、戦士たち一同はコクリと頷き怪しく笑みを零す。
天魔王、
彼の反撃がついに始まった。
前回登場したアプサラスについて。
黒幕により招来された水の精。
その正体はティローッタマー、ウルヴァシー、メナカ―、ラムバーのアプサラスたちを一柱の『アプサラス』として降臨した魔女神。
水の精のため水を操る事はもちろん、聖人だけでなく修羅や羅刹王すら虜にしたアプサラスのためその魅力は男性のカンピオーネでさえ虜にするほど魔性である(草薙護堂でも抗うことは難しいほどの美貌と魅力をもつ)。
ザッハークの復活ですぐに退場したが、その実力は今だ不明。
容姿は魔物娘図鑑に掲載されているアプサラス