真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王   作:ゴーレム参式

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 皆様、おしさしぶりです。
 年が過ぎるほど遅音信不通になってしまい申し訳ありません。
 仕事が忙しくと、ダブル東方卓を一気観してたので遅れてしまいました。
 マジ、サーセンm(;。_。)m

 2017年度、投稿を続けるよう努力していきますのでこれからも読んでください。お願いします。

PS:近々、銀魂のssを書いていこうかなーとおもいますので投稿することがあれば是非、読んでいただきたいなーと思います。


水の踊り手と双蛇の悪王

 時刻は午後の四時過ぎ。

 横浜市にある某博物館。

 そこでは古代ペルシア展という展示会が開催され、館内には大勢の入館者たちで賑わっていた。

 館内には古代ペルシアにまつわる工芸品から遺物、調査資料など展示され、老若男女問わずその珍しさに楽しげな様子であった。

 その人混みの中に、一刀たちの姿もあった。

 

「へぇー、展示名からしてつまんなそうかと思ったけど、観に来る人って結構いるわねー」

「古代ペルシアはイランの古名で、その歴史と浪漫はギリシャや北欧にだってまけません。とくに、イスラム神話の代表であるゾロアスター教は最近において有名な神話で、アンリマユをはじめとする神々はラノベなどの作品で多く取り扱っています(問題児とかカードゲームとか)」

「ふーん…あんまし神話とか興味ないからゼウスとかアマテラスとかそういう有名な神様しか知らなけど、こうして他の神話もみるとけっこう面白そう」

「神様はもちろんのこと英雄の伝承もおもしろいぞ」

 

 そう言って、一刀はホールの中心に鎮座する弓を構えた像に指をさした。

 

「こいつはアーラシュ。日本ではマイナーだけど、英雄として劣らない勇者だ。弓に長け、その腕は百発百中。しかも自分の命を代償に戦争を終わらせたのが有名だな」

「まさに勇者の鏡ね。んじゃ、このレリーフに彫られたウルスナグラっていうのは?」

「そいつは勝利と戦闘を司る神。名前は『障害を打ち破る者』の意味で十の姿に変身して邪悪なる者を斃しつねに勝利する常勝無敗の神格だ」

 

 数多い展示品を一刀が解説しながら見回る三人。

 その間、男たちの視線が彼に突き刺さる。

 まぁ、右に外見がクールビューティーなルリに、左には可愛い静花という両手に花状態なので、(非リア充の歴史好きな)野郎たちが嫉妬するのは無理もない。

 尚、妬みの原因である一刀はという哀れ男たちの眼差しをスルーしながらデート気分で(片方は違うが)少女二人を連れ回す。

 ……事件の捜査を忘れてないかこの種馬?

 

「それにしても北郷さんって意外と博識? 一見出た何処勝負のアホだと思ったんだけど・・・」

「失礼な。これでも博士号が取れる…ほどじゃないけど頭は回るほうだぞ。それに神様と戦う際、その神様の知識を知っておけばなにかと有利だしな。ある程度の博学はおさめてるつもりだ。それと、分からないこととかあったらお兄さんに任せなさい。中学生にも分かりやすく教えてあげるよ」

「・・・なんか子供扱いしてるみたいで腹立つ・・・」

 

 と、そっぽ向く静花。

 反抗期なお年頃の少女に、一刀は無邪気な笑顔で静花の頭を撫でる一刀。

 自然に撫でられた静花は頬を赤くしながら彼の顔を見上げる。

 

(お兄ちゃんが素直だったらこんな風になるのかな…?)

 

 一瞬、一刀を実兄と被せる。

 年、容姿ではなく、女をその気にさせる性格と軽さがどことなく似ていた。けれど、どこか違う。それがどう違うのかうまく表せないが本質のベクトルが別物だと静花は内心結論した。

 例えるなら、オープンスケベとむっつりスケベの違い程。

 

「ところでさー、あたしたこんな呑気に博物館見学してていいの? 流されて来たけど、本当に事件の手掛かりが掴めんの?」

「ん? あぁ。その事なんだけど・・・実は館内を回っていたときに予言の魔王について大体検討がついてるんだこれが」

「へっ!? そうなの?」

「うん、もしも黒幕がイスライム神話に関係するなら、予言の魔王はあいつしかいない。まぁ、そいつがどう予言の内容と関りがあるのか関連性がいまんところ欠けているんだよこれがぁ~」

 

 両腕を組みながら考え、一刀は唸る。

 逆算で答えが出ているが方程式が繋がらない。

 問題と答えの繋ぐ空白が分かればおのずと方程式(全貌)完成(解明)するんだけど・・・。

 一刀が頭を悩ます中、静花が向こうで人盛りができていることに気づく。

 

「なにかしら?」

「珍しいモノでもあるのですかねぇ。いってみましょう」

 

 

===========================

 

 

 

 それは一本の槍槌だった。

 

 石突きから刀身の付け根まで約3メートルもある複雑な彫刻が刻まれた象牙彫らしき柄。

 

 石突きにはペルシア絨毯をちぎったような長い切れ端が伸びており、館内の空調機の風で旗みたくバタバタと泳いでいる。

 

 柄と槍頭の間には牛の頭蓋骨を模した装飾らしき金鎚が加えられ、鈍器の部分である牛の頭蓋骨から並行に延びる双角が鋭利な鶴嘴となっている。

 

 そして、その牛の頭蓋骨から突き通すのは肉厚の堅牢な刀身。

 

 斬り穿つというより叩き斬る用途なのか柄と牛の頭蓋骨から延びるソレは剣先にかけて横幅が広がり、まっすぐに延びている。その長さは柄のという長刀。もはや斬馬刀といわしめるほどの大剣であった。

 

 そんな槍槌に誰もが興味津々に鑑賞していた。

 そう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ミイラのケツに突き刺さったままの槍槌を。

 

 

 

 

「「どうツッコめばいいッ!?」」

「ぷっ、おもしろい即身仏ですね」

 

 ナニコレ珍妙な物体に一刀と静花はツッコミ、ルリは口に手を当てて吹いた。

 

「北郷さん。なんなのアレ? そりゃー博物館の展示会だから特別にミイラも展示しているだと思うし、古代ペルシアにミイラがあるのかあえて聞かないでおくけど、こ、このいかにもふざけている様にみえてどこかあわれで無残な状態のミイラは? つーか、どうしておしりに槍が刺さってんのこいつ?? ネタなの? 古代ペルシアの命を懸けたジョーク?」

「笑いの為にミイラになるなんて命張りすぎだろ!? 死後の世界まで笑いの道を究める気かっ!」

 

 そもそも巨大なモンスターを狩るための武器みたいな槍がなんである!?

 つうかなんでそんなモノでリアル串刺し刑にされてるんだこのミイラは!?

 まさかあの護国の鬼将の仕業か!? 

 

 外面、周りに入館者たちいるため冷静にしている一刀だが、内心では滅茶苦茶動揺していた。その脳裏にはかの月の聖杯戦争に参加した吸血鬼の姿が浮かぶが、それはあり得ないと自身に言い聞かせる。

 そのとき、ルリが推察を立てる。

 

「あれじゃないですか? 浮気がバレて彼女に土下座で謝るも許してもらえず尻に槍を刺されたままそのままミイラ化された哀れな男の末路的な」

「いやいや!? 槍がケツに刺されたままミイラにされるってどんだけ!? どれだけ女を叉をかけたのよ!! むしろどうやってこの状態でミイラにした!?」

「……生き埋め?」

「それはそれで怖いわ…!?」

 

 横で静花とルリのコントをしている。

 そんな二人を無視して、一刀は乱れた心を落ち着かせ、槍からミイラのほうを視線を映す。

 ミイラはまるで座るこむように倒れこみ、首を横に向けこちらを睨むかのような状態で、風化したように乾燥している。

 まるで誰かを恨んでいるようだが、それがそれなので無様でしかない。

 また、このミイラが上級階級化王族のモノであることが分かる。服装も小汚いがどこかアラビアの王様みたいな服を着ており、高級な装飾品も身に着けている。

 そして、大事なことが一つあった。

 

 

 ――ミイラのサイズが異常にデカい。

 

 

 タイヤサイズはあるだろう鬼のような形相。

 座った状態でも3メートルほどの体積。直立すればせいぜい十メートルはあるはずだろう…。

 …あれ、このミイラ、ほんとうに人間?

 世界には長身な人はいるがこれはデカすぎでしょう。

 まさか、まつろわぬ神? 竜骨?

 

 思考をグルグルを回しながら考察する一刀。

 そして、「いっそのこと〝ミーミルの瞳〟を使うか」と権能を起動しかけたとき、背後から声を掛けられる。

 

「おや、随分とソレに注目していますね」

 

 三人が振り返ると、そこには小太りしたスーツ姿の中年男性がいた。

 

「あなたは?」

「失礼。私はこの博物館の館長をやっている者です」

 

 男性は軽くお辞儀をし、首にぶら下げた証明書をみせる。

 たしかに、証明書には博物館の館長と書かれている。

 

「いかがでしょうか。今回の展示は? 我が博物館において大きい展示会なのですが楽しんでもらえてますかね」

「はい、俺もこんな貴重な資料が見れるんなて、もう見所満載で何度も来たいくらいですよ」

「あたしも。あんまり歴史とか興味なかったけどこうして間近で観ると結構面白いわ」

「(いちよう)左におなじく」

「あっははは、それはよかった。現地より収集したかいがあります」

 

 館長は満足そうな顔で笑い、目の前のミイラを見据える。

 

「とある森林地を開拓したときに深い地層から掘り出されたものでして。ゾロアスター教は風葬がメインなので、こうしたミイラは希少で珍しいんですよ」

「でしょうね。尻に槍が刺さったミイラなんて、ファラオもびっくりして笑うわよ」

「ねぶた祭りに出しても違和感ありませんしねコレ」

「ファラ…王…嗤う…ねぶた祭り…」

 

 

 

 一刀の想像。

 

 

 わっしょい! わっしょい!! わっしょい!!!

 

『ファハハハハハ!! 優悦、優悦!』

『もっとも王を楽しませろ愚民どもよ!』

 

 脳裏に巨大なねぶたを乗った英雄王と太陽王の生き生きとした姿が安易にイメージできた。

 あの唯我独尊王様コンビなら眼前のミイラを気に入るだろう。弄り斃す意味で。

 と、一刀が変な想像してる間、ルリが館長に質問する。

 

「それにしても、よくこんな貴重な資料が展示できましたね。日本に運ぶにもいろいろと手間があったでしょう」

「いえいえ。実のところ、通常の準備時間にくらべてスムーズにいったんですよ」

「と、いいますと?」

「実はこのミイラ。もともとイランの財団が所持していたんですが、いざ交渉すると相手方がすんなりと寄託してくれまして…。しかもその財団の会長がわざわざ今回の展示会に積極的に協力してくれたので、こうして展示会が無事に開くことができたんですよ」

(イランの財団?)

 

 一刀は館長の言葉に耳を傾ける。

 ーー怪しい。もしかすればこれは有力な情報かと思い、さらに質問しようとした。

 が、その時、館内の空気が変わったことに一刀はすぐさま知覚した。

 

「(これは…!?)草薙ちゃんッ」

「なに――むっご!?」

 

 咄嗟に静花を押さえつけるように抱きしめ、顔面を自身の胸もとで押さえつけた。

 その刹那、館長をはじめ周囲にいた入館者たちがバタバタと倒れ伏す。

 

「微かに神力が感じる」

 

 カンピオーネの本能か、修羅場を潜りぬけてきた戦士の経験か、空中になにかが散布されていることに気がつく。自分は個人結界《月衣》を纏っているので大丈夫だが、念のためルリに忠告する。

 

「ルリ気を付けろ! 館内になにかが漂ってる! 息をしないほうがいい――」

『シューゴーシュー~(なんですか?)』ガスマスク装着

「あっ、何でもありません…」

 

 いつの間にウイルス駆除でもするのですかというガスマスクをすっぽり被るルリ。

 そもそも人間ではないから、心配は最初っからしてなかったけど、すこし心配して損した感だった。

 そん中、一刀の胸で静花が手を叩いて悶えていた。強く抑えられ呼吸困難になっているのだろう。

 引き離そうと力を入れているが、ただの一般人である彼女が呼吸したら館長たちと同じになるかもしれないため、防護用の魔術を使用した。

 

「風よ、少女を護り生かせ」

 

 瞬間、静花の身体に爽やかな風が帯びる。

 唱えたのは風の加護を与えるルーン魔術。

 呪力で精製した風を防護服として纏い、また、精製した風で酸素ボンベの代用とする魔術である。これならば、空気感染された場所でも呼吸はできる。

 一刀が静花から手を放すと、静花は「ぷは!?」と顔を胸から離れ深呼吸をする。

 

「ゼェゼェ…いきなりなにすんのさぁッ!?」

「悪い。とっさだったから(ミーミル、館内の状況を教えろ)」

 

 空気汚染の可能性があるにも関わらず呼吸を整える静花。

 どうやら、ルーン魔術は正常に機能しているようだ。

 怪獣みたく吠えているから大丈夫だろう。

 少女の身を安心しつつ、一刀は〝ミーミルの瞳〟に質問する。

 途端、視界からディスプレイが表示された。

 

―――『解。現在館内はマスター、ルリ、草薙静花を除き全員が意識不明。おそらく敵性に能力により眠らされていると推測します』

 

(そいつらはどこにいる?)

 

――『敵性勢力確認。前方より接近。視覚できます』

 

 

 

「あらあら。全員眠らせたつもりだったのに眠らない子もいるわ。どうしてなのかしらぁ?」

 

 

 その時、館内に女性らしき声が響いた。

 一刀はその声の主を探すと、彼女は正面の出入り口から現れる

 まるで千夜物語に出てきそうな踊り子のような女性で、思春期の男子十人中十人が股間を抑えるほど妖艶な四肢をしていた。

 その姿に静花は「痴女…?」と邪険に呟くが、ルリは無表情で、一刀とは真剣な表情で女性に見据えていた。

 

「一刀…」

「あぁ。間違いない…あれは…」

 

 ごくりとつばを飲み込む一刀に静花も緊張が走る。もしや、彼が言っていたまつろわぬ神というものではないのかと不安をよぎらせ――

 

「ポロリッ、もしくはエロイベントの予感!!」

「ズドーン!?」

「…まぁ、その展開は読めてましたが」

 

 拳を力強く握りしめ目を輝かせる種馬が一名いた。

 静花は盛大にずっこけ、ガスマスクを外したルリは呆れた目つきで肩をすくめた。

 

「どうしてそこで煩悩に走っちゃうのさー!? 今、そんなこと言ってる場合じゃないでしょうに…!」

「いや~だって~推定バスト100センチオーバーであんなエロエロな恰好してるんだもん~。乳揺れとかポロリとかラッキースケベとかエロいことを期待しちゃうのはしかたないじゃん? だって俺、男の子だもん」

「男の子だもんじゃないでしょうが!? 返せ! さっきまでの私の緊張と不安を返せ変態!?」

「草薙さん、落ち着いてください。あと、煩悩モードの一刀は何言っても無駄ですので諦めてください…」

 

 そうそうルリの言う通り。煩悩全壊の俺はもはや色欲魔人そのものなので常識を唱えても無駄なのだ。久々の爆乳美女を目の前にして、今の俺の脳裏にはあの薄手のブラをどう自然的に取るか、どういやらしくセクハラをするのかでいっぱい。この暴走は止まることをしらず。

 …なのでいい加減胸倉を掴んで揺らすのをやめてくれましぇん?

 酔うそうです。ウエってなりそうだから。もういやらしいことをやめるからおねげぇしましゅ!?

 

「ちょっと~茶番してるとこ悪いけど私をほっとかないで~寂しくてしんじゃうわよ~」

 

 あ、忘れてた。

 茶番でスルーしてしまった謎の魅惑の踊り子に三人は目を向けた。

 ミックスされかけた脳を通常思考に戻し、目の前でのほほんと微笑む女性を推察する。容姿、佇まい、そして、膨大な呪力と神秘を漏れ出している。彼女が人ではなく、まつろわぬ神ということは間違いない。

 そして、この周りの現状を作ったのも彼女が原因であることも。

 

「館内にいる人たちが倒れたのはあんたの仕業か…?」

「えぇ、私よ」

 

 すこし、言葉を尖らせて質問すると、女性は微笑んだまま肯定した。

 左右の手を円状に振ると、その軌跡に水の帯が出来上がる。すると、帯は途端に霧散した。

 

「この建物内の空気は私が生み出した水が混ざっていてね。もちろん毒じゃないから身体には害はないわ」

 

 もっとも…。

 女性が言いかけると、倒れていた館長や職員、入館者たちがゆらりと立ち上がる。

 全員、虚ろな眼つきで一刀たちを囲む。

 

「私の体液を取り込んだ彼らはもう私の虜。私無しには生きられない操り人形となる」

 

 女性は妖艶にそして残酷に笑う。

 その笑みに恐怖を感じた静花は一刀の後ろに回った。

 一刀は眼光を鋭くし、女性を睨むつける。

 

「いい目ね。その眼つき好きよ。ねぇ、貴方の名前はなにかしら?」

「…北郷一刀」

「いい名前ね。特別に私の名前もおしえてあげ―――」

「いや、答えなくてもいい」

 

 〝ミーミルの瞳〟から表示されたり女性を情報を元に一刀は述べる。

 

「不老不死の霊薬精製のため神々が提案した乳海攪拌。その過程で生まれた水の精もしくは海の精であり、『水の中で動くもの、雲の海に生きる者』の意味をもつ、神々の踊り子『アプサラス』。でも、あんたはただのアプサラスじゃない。その美しい美貌で王や聖仙だけでなく阿修羅や羅刹すら虜にしてきた魅惑の魔女…。ティローッタマー、ウルヴァシー、メナカ―、ラムバー。この4柱のアプサラスたちの神格を1柱のアプサラスとして一括りに統括した聖霊…それが君だ! 魔女神アプサラス!!」

「……うっふふふ、ご明察~」

 

 一瞬だけ驚いた表情を見せた女性――アプサラスは、柔らかげな微笑みでパチパチと拍手した。

 

「私の真名を見抜くどころか正体すら看破するなんてすごいわぁ。それができるのは神かもしくはカンピオーネしかいないはずなのに…。もしかして、あなたカンピオーネかしら…?」

「あまり自分でカンピオーネて自称してないけど。まぁ、肯定としておいてくれ」

 

 と、謙虚に微笑み返す一刀。

 まぁ、賢人議会公式のカンピオーネじゃないけど、欲望のまま神すら殺すだからロクデナシだから自覚はあるけど。

 

「わざわざ女神さまがこんな所で何しに来た? まさか、俺たちと同じように博物館を見学に来たのか?」

「人間の文化なんて興味ないわ。目的はそこにあるアレよ」

 

 アプサラスが指をさしたのは、尻に槍槌が刺さった巨大なミイラだった。

 

「へっ? この面白ミイラ?」

「えぇ。それを持ち帰ることが私のお使い。ほんとはつまらない仕事で退屈になるかと思ったけど、こーんなところでカンピオーネに会えるなんてありがたいわ~♪」

 

 と、アプサラスは熱を帯びた眼差しで一刀を見詰める。その視線はまさに獲物を狙う豹のような眼差しだ。

 …はぁ、またこのパターンかぁ。

 この同じ展開に一刀は嘆息し、横にいるルリと静花を一瞥した。

 

「ルリ、悪いけど草薙ちゃんを安全なところまで避難させといてくれ。俺はこいつらの相手をする」

「仕方ありませんね」

「でも、北郷さんはどうすんのよ」

「俺か…俺は…」

 

 アプサラスを見据えながら、思考回路を便利屋からカンピオーネに切り替える。

 

「神話に背き災いを振りまく神を対処するのがカンピオーネの役目だ。ここで逃げるわけにはいかない」

「…わかった」

 

 さきほどのノリのいいお兄さんから歴戦の戦士の顔つきに変わった一刀に、静花は素直に頷いた。

 神やカンピオーネといった非日常の住人達の常識を、さきほどまで平穏な日常で生きてきた自分が数時間で理解するほど柔軟ではない。

 しかし、今すべきことは彼女はわかっている。

 無力な自分ができることは、彼の邪魔にならないこと。それが草薙静花は今できる行動だ。

 そう自分に言い聞かせた静花は一刀の袖を掴み、顔をあげた。

 

「でも、無理しないでね」

 

 心配げな表情をする静花。

 不安げな視線を一刀に向けると、一刀は数秒の無言の後、柔らかげな微笑みをみせた。

 仏のような優しげな笑みに、静花はすこしだけ戸惑うが暖かな手の温もりに安心感を得る。

 

「――ルリ」

「はい、それではご武運を。親愛なる我が契約者(マイ・ロード)

 

 上品に一礼し、静花の肩を触った瞬間、二人の少女は一瞬で消えた。

 おそらく博物館から遠く離れた場所まで転移したのだろう。長年の相棒を信じ、一刀は和らげな微笑のまま、しかし、その笑顔の下では鋭い戦士の顔つきのまま、眼前で興味深く見据える魔女神に視線を送る。

 

「あら、あの銀髪の娘…人間ではないわねぇ、何者なのかしら?」

「秘密。教えて欲しがったらあとでベットで教えてあげるよ」

「うっふふ、別にいいわ。貴方を虜にして後で聞き出すから♪」

 

 周囲を囲んでいた館長たちが一斉に襲い掛かる。

 〝ミーミルの瞳〟の検査で館内にいる入館者や学芸員、警備員やらが魔性の精霊の操り人形になっていることが判明する。

 そのため、出入り口から館内にいた者たちが津波のように押し寄せてくる。

 

「ミーミルッ! 館内に無茶をしちゃいけない人はいるかッ…!?」

 

――『解。現在、館内に居るモノには老人または持病や妊婦などあなたが気にする人はおりません。全員、すこしのショックなら耐えられます』

 

「よっし! 絡めて拘束せよ、エーテルの糸よ」

 

 すかさず、聖句を短く唱えた。

 無数の手が魔王の身体に触れようとしたとき、館長たち全員の動きが停止する。

 まるで目に見えない縄で拘束さているように、人々はその四肢を動かせず呻いていた。

 彼らはアトラク=ナチャの権能で創った肉眼ではとらえることはできない原子サイズの魔糸で縛られているのだ。

 蜘蛛の糸よりも細いミクロサイズの青黒い糸だが、その強度は神獣が暴れてもけっして千切れないほど頑丈。技量が高ければ高いほど、その精度と応用が高くなるが、今回は彼らを全員縛るくらいで十分。

 

――『展開された蜘蛛の巣により全敵性の拘束を確認完了。対象類は全員動きを制限されました』

 

「OK.すこし手荒いけど我慢してくれ…流れろ、小さき電閃」

 

 一刀が手を上げた瞬間、手から伸びる糸より雷電が帯びる。スタンガンより少し高めの電圧。それが電流となって一刀の手から館内に展開された糸に伝わり、その糸で縛られた操り人形たちに流れた。

 

「「「「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!?!?」」」」」」」」」

 

 館長たち全員が悲鳴に似た声を上げ、ぐったりとする。痙攣するが襲い来る様子はない。糸で縛られているため、糸に垂れ下がった操り人形のような状態だ。

 

「んでもって転送」

 

 続けて蜘蛛の糸に縛られた人たち全員を空間転移で飛ばす。

 送った先は正史編纂委員会傘下の病院なら大丈夫だろう。

 及川、事情とか後処理は任せたぞ。

 

「優しいわね貴方。普通、貧弱な人間なんて殺す魔王のくせに」

「他の同族はともかく、無駄な殺生はしない主義なんでね。それにこの程度で暴力を振るうほど俺は小物じゃない」

「うふふ、ならその暴力どの程度のものなのか見てみましょうか」

 

 アプサラスの周囲から数十もの魔法陣が出現し、そこから斧や大剣、鈍器など凶悪なイメージをあたえる武具を装備した三種類の怪物たちが現れた。

 その中には一刀が倒した別のグールと似たものが居た。別の個体だろう。

 

「完全武装したグールに加えてゴブリンにレッドキャップ…どうみてもアンタの眷属じゃないな」

「えぇ、この子たちは借り物。私を呼び出した奴が私の監視と護衛のために付けたの」

 

 こんな醜いのじゃなくて美しくて可愛い子たちのほうがよかったんだけど。と、不満げに語った。

 

「……呼び出したといったな。アンタは従属神、もしくは同盟神なのか?」

「立場的には同盟神…かしら。でも、この仕事を終えればまつろわぬ神として自由になれるから、雇われ神ってところね」

「俺としては、アルバイト感覚で降臨しないでほしいんだけど…」

 

 戦闘狂の狼ジジィならウェルカムだろうが、平穏を望む人類にとってはトラブルの種はご遠慮してほしいものだ。

 賢人議会とか正史編纂委員会が頭痛のあまり脳血栓になってしまう。

 

「あのさー念のために提案するけど、このミイラを差し出せば俺と戦わずに済む? もともと誘拐事件の調査と解決が目的だから君と戦う理由な無いんだけど…」

「それは無理ね。契約には障害となるものは即排除するようにいわれているし。それに不倶戴天であるカンピオーネと対面した時点で私たちは取る選択はただひとつ。殺し合いだけよ」

「はぁ、物騒極まりないな。俺たちって」

 

 一刀は長く溜息を吐き出す。

 戦馬鹿の神じゃないのに、どうしてこう神様はバトル前提でことを進めようとするんだろうか。

 いや、古代の神話は物騒なことが日常茶飯事だから、こんな強引な話し合いでしかできないのかもしれない。

 

「もっとも、貴方けっこう私好みだから勝利した暁には私のものにしたいしぃ♪」

「それが本音か」

 

 別にその理由でも俺としてはOKなんですが。

 エロエロ女神に可愛がられるのはある意味男冥利に尽きるし。

 

「と、いうわけでみんな、やっちゃえぇ~♪」

『『『『『ウォォォォォォ(肉塊になりやがれぇぇぇえええ)!』』』』』

 

 女神さまの合図とともに、醜悪な悪鬼たちが一斉に襲い掛かる。

 それに対し、一刀は手早く巨大十字架の重火器『パニッシャー』を召喚した。

 その巨大な鋼鉄の塊を片腕で構えると、パニッシャーの砲身が変形。

 銃口を怪物たちに向け―――

 

 ダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!

 

 乱射される弾丸の嵐。

 悪の妖精たちの血肉が飛び、無残な肉塊と化す。

 それでも悪鬼たちは鬼気迫る勢いで前進する。それも、背後にいる魔女神に弾丸が当たらぬよう自らを盾にして盲信にこちらを喰らいつこうと無謀に突っ込んでくる。

 おそらく、さきほどの入館者たちのように操られているのだろう。

 また、その魔性の精霊様というと彼らの背後で「ファイト~!」と無邪気に応援している。むろん、こちらから攻める動きも、彼らを助ける身振りもしていない。

 完全に彼らを捨て石にしてるよあの女神様。

 そんな主人をもったグールたちに同情する一刀だが、あえて顔にださず冷徹に眼前に殺意丸出しの兵士たちを殲滅していく。

 

『『『グォォォォォ!!』』』

 

 そんな濃い弾幕をすり抜け、耐え抜いた三体のグールが一刀の居合に入り、その身を犠牲にしてパニッシャーの銃身と一刀を抑え込む。

 その隙に、斧をもった四体のゴブリンと、大鎌をもった二体のレッドキャップがグールごと一刀を斬殺しようと分厚い刃を振り下ろす。

 されど、一刀はすかさず反対の手にパールのようなものを召喚し、身体を捻り膂力任せにグールたちを振りほどく。

 

「―――チェリォォォオオオオオ!!!」

 

 ドドドドドドドドッドドドドドドドッドドドッドドドドッド!!!!

 

 グッシャ! ?

 

 グッチィ!!?

 

 ヤジロベーのように、その場で回転。

 一息で片手でパニッシャーを乱射し、もう片方でパールのようなもので悪鬼たちの躯体を殴り殺す。

 されど、一刀の攻撃はやめない。

 パールのようなものをブーメランのように投擲し、飛びかかってきたレッドキャップの頭を抉り潰す。

 近づいてきたゴブリンには、パニッシャーの銃身で叩き潰す。

 銃火器を構えたグールたちには、手元に召喚した冒涜的な手榴弾を投擲して爆死させる。

 

 その姿はまさに鬼の所業。悪鬼を食い殺す羅刹がそこにいた。

 

 それも、その場から離れないよう背後のミイラを守る立ち回りで。

 

「あらあら、頑張るわねぇ」

 

 アプサラスはのほほんと、その光景を眺めた。

 そして、戦闘がはじまってきっちり三分後。

 悪鬼の小隊は羅刹王の手によって肉片が飛び散る血の池地獄の一部にされた。

 

 その真っ赤な血が溜まった床の上には、返り血を浴びながら疲れを見せない一刀と、ニコニコと微笑んでいるが何かを考えながら一刀を凝視するアプサラスの二人しかない。

 

(ふーん、出方と体力消耗のために捨て石にしたけど無駄になったわねぇ。あの子、まだ力を隠しているみたい…)

 

 今だ完全魅了の呪力を空気中に散布している。しかし、カンピオーネの呪力類に対す耐性に加え、魔術に似た障壁の鎧により、その効果は完全に無効化されてしまっていた。

 権能らしきものを出していたが、まだ本気を出してない。アプサラスは気づいていた。

 

「…うっふふふふ…」

 

 顔に影が差し、妖艶の笑みを零す。

 

 良い…とても良いわぁ。

 

 女を欲する性欲に素直なのに、あえて凛として対応する気高い精神。

 

 獣のように荒々しくも、無慈悲に敵を殺す戦士の冷徹さ。

 

 そして、阿修羅も羅刹も聖人すら虜にする妖美な魔女神にも屈しない不屈の魂。

 

 攻略できないほど、やりがいがあるってもの。

 

 アプサラスの魂は震え、魔女神としてのプライドが赤く燃える。

 

「貴方は絶対、私のものにしてみせる…!」

 

 卑しい手振りで両手を広るとその場で一回転し、ステップを踏む。

 すると、アプサラスの周囲にいくつもの水の帯が螺旋状に展開された。

 

「見せてあげる。水の魔性アプサラスの戦い方をね…!」

 

 怪しく、そして、美醜に一刀を見据える。

 来るか、と一刀を身構えた。

 

 

 

 

 

 そのとき異変が起こった。

 

「…あれ?」

 

 突如として、アプサラスが呆けた。

 さきほどまで余裕の笑みを振りまいていた彼女が表情を変えたのは、今起きている不可思議な現象が原因だった。

 展開した水の帯が、途端に霧散し、水蒸気となって一刀の頭上を通り過ぎ、鎮座しているミイラの身体へ吸い込まれていく。

 その光景に一刀も目を丸く。そして、すぐさま驚愕の顔をする。

 足元に転ぶグールたちの肉片が、その血の水たまりが、水路のようにミイラの口へと流れていく。

 

 その現象に驚く魔王と魔女神。

 

 骨まで乾燥し切ったミイラの体躯から、ドクンと心臓の鼓動が鳴った。

 

―――血ダ…生温カイ…美味シイ精霊タチノ鮮血…!!

 

 脳裏に響く、飢餓から解放されたような王の美味の声。

 しかし、その声はまだ満足しておらず、強欲に血肉と精霊の水を貪りつづける。

 

―――オォォォ、水ノ精ノ清水ガ……我ガ渇イタ喉ヲ潤ス…アァアァ~生キ返ル…生キ返ルゾ…!!

 

 皮と骨となっていた体躯が変化する。

 乾燥した肌に潤いが戻り、血流が流れ、筋肉が膨らむ。

 錆びついた歯車のように、筋肉と関節が軋む音がギシギシと聞こえる。

 

―――モットダ…モッド我ニ世界ノ命ヲ…森羅万象普く生命ノ生気ヲ寄越セェェェェェ!!!!

 

 元のサイズよりも二回りも膨らみ、筋肉質な肉体へと還元されていく。

 しかし、変化はそれだけななかった。

 強引に動き出すミイラは四肢で床を踏みつけると、両肩が以上に膨らむ。

 また、下半身のほうも変化が現れ、両足がねじる様に合わさり、うどんのように伸びる。最後には館内を埋めつくほどの長く紫の鱗に包まれた龍の尻尾らしきモノへと変わった。

 下半身が変異したため突き刺さっていた鎚槍が抜け、床下に転がり落ちた。

 それと同時に、異形に膨れ上がった肩の皮膚を突き破って何かが飛び出した。

 それは赤と青の双蛇だった。

 電車と同等の太く長い巨大な大蛇が対となって博物館の天井を突き破った。

 

――――シャァァァアアアアアア!!!!

 

 大蛇の下半身、肩に二匹の大蛇。

 王の威厳と、禍々しい邪気を放つ()()()()()()()が天高く吠えた。

 

「あらぁ~、さすがにこれは手に負えないわね…」

 

 その圧倒的な威圧感に、アプサラスは危険を感じると、半人半蛇の怪獣はギロリッとアプサラスに視線を向け、飢えた獣のごとくその剛腕を振り下ろす。

 

「セイヤァッ!!」

 

 その剛腕を、果てとの如く駆け付けた一刀がパニッシャーで殴り飛ばした。

 腕を弾き飛ばさた衝撃で半人半蛇の怪獣は体勢を崩し、博物館の壁を壊しながら倒れ伏す。

 

「あなた…なんで私を…」

 

 先ほどまで敵同士だったはずなのに、一刀の行動に疑問を抱くと…

 

「いやだって…女の子がピンチのときに助けるのは当たり前のことだろ?」

「……フフッ、おかしな人」

 

 無頓着な答えに、アプサラスは嘆息交じりに艶笑した。

 

 

 

―――グォォォォォ!?!?

 

 半人半蛇の怪獣は唸り声を出しながら態勢を立て直し始める。

 

「う~ん。助けてくれてありがたいんだけど、私は逃げるわね。あんなのと戦うのは御免こうむるから」

「べつにいいって。こんな状況じゃぁしかたないし。俺としてはそのままどっかに隠居してほしいけど」

「あら、だったら次に会ったときに勝負で決めましょう! 貴方が勝ったら貴方に従う。私が勝ったら私のも。それでいいかしら?」

 

 その提案に一刀は数秒ほど間を開けて言う。

 

「……まぁいいか。どちらにしろいずれ戦うのがカンピオーネと神の運命だし。それでいいよ」

「約束よ。この契約が果たすまで死んだらダメなんだからね♪」

 

 そう言い残し一刀にウィンクしたアプサラスは身を霧へと顕身させ、崩壊寸前の博物館から即座に離脱した。

 今にも崩れそうな館内に残った一刀はというと半人半蛇の怪獣の尻から落ちた槍を回収した。

 その丁度に、視界より〝ミーミルの瞳〟よる怪物に関する情報が表示された。

 

『報告。対象は敵性の死骸より物質とエネルギーを吸収。また、アプサラスが放出した水属性を元素として身体を再構築、一時的に起動したもよう。また―――』

 

 賢者の言葉と同様な確証ある結果にらギリッと歯を食い縛る。 

 そして、自身に対し怒り、嘆き、そして呆れて嘆息した。

 

「はぁぁ、やっぱ後回しにしたのが軽卒だったか…」

 

 眼前の怪獣のおかげで、欠けていたピースがぴったり揃い、事件の全貌が見えた。

 しかし、それは後の祭りでもあった。

 態勢を立て直した半人半蛇の怪獣は自身を見上げている一刀を三つの頭で見下ろす。眉間にしわを寄せ、吊り上がった白目で睨みつけ威嚇する。その顔は憤怒する悪鬼そのものだった。

 まるで今にも飛びかかりそうなネコ科の動物のようだ。蛇が生えたおっさんだけど。

 

「肉体だけ復活しても、精神と魂は不完全かぁ。理性のある獣より厄介そうだ…」

 

 パニッシャーと槍を月衣に仕舞い、空いた右手にもう一本のパールのようなものを召喚。

 二本のパールのようなものを構え、眼前の怪物――まつろわぬ神に向かって叫んだ。

 

 

「来い……――邪悪なる悪の王…〝ザッハーク〟!!」

 

――――ガァァアアアアアアアアアア!!!!

 

 ペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ』にて、悪逆非道を繰り返した悪王『ザッハーク』。

 獣のような咆哮を木霊させる大蛇の王は、その凶悪な巨躯で羅刹王に襲い掛かる。

 

 

 

============================

 

 

「うむ、どうやらうまくいったようだ」

 

 テレビ画面を見ながらアプサラスを呼び出した男は満足げに髭をいじる。

 テレビには横浜で巨大生物が出現し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様子が中継されていた。

 

 まさか仮死状態になっていたザッハークが上手いこと目覚めさせた上、邪魔者まで足止めできるとは…。

 

 計画が順調すぎて逆に不安になるも、男はテレビに映る邪悪な怪物を見るたび嬉しさのあまりつい醜悪な笑みを零した。

 

「あとは…」

 

 男は視線をテレビから部屋の中央に視線を移す。

 

 そこには部屋の中心を囲むように17台の台座が置かれ、その上には青年や少年が横たわっていた。

 むろん、死んではいない。新鮮な生贄のため、魔術で眠らされていた。

 

「それにしても、我ながら考えたものだ。保険としてセットだった槍と竜骨を分けてこの地に運ぶという奇策。おかげで、人間の組織やカンピオーネからこの槍を奪われずに済んだ」

 

 眠らされている生贄たちの頭上には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が浮かんでいた。

 

「これで儀式に必要な触媒は整った。後は悪王がこちらに着くまで儀式の準備をしなくては」

 

 計画はまだ完了してない。かの王が夕方六時に、こちらに来るまでが正念場だ。

 

 それまで奢るな。あのしぶとい魔王がいるかぎり、安心ができない。

 

 この地に主君が足を付けるまで気を抜くな。奢ることも許すな。

 

 機械装置のように工程を進めろ。

 

 五百年の時をかけて計画を水の泡にするものか。

 

 自身にそう言い聞かせながら、男は鎚槍の矛先にある黄金の輪の天井に手を伸ばした。

 

「まもなく、()()()()()()()()()()()()()()()。そのときこそ、愚か王たちが謳歌する時代に幕を下ろすことができる」

 

 

 

 魔王(カンピオーネ)を殺すのは最後の王ではない。

 

 背徳者(カンピオーネ)を葬るのは真なる大魔王ただひとり!!

 

 

  男、否、――■■■■■は決意を固めながら最終段階に移行するため最後の大仕事を取り掛かった。

 

 




 今回登場したアプサラスについては次項、紹介します。

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