真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王   作:ゴーレム参式

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 久々の投稿、遅れてしまい申し訳ありません。

 今回で原作に突入しますが、オリジナル要素も加えれるのでご了承ください。
 なお、本作はグダグダ描写のためそれが嫌な人は『戻れ』をお勧めします


第二章『戦姫上陸』
コロッセオとバームクーヘン


 ギリシャのとある地方の荒野。

 何の前触れもなく、突如として天空に渦が出来上がり、その中心に魔力が収束。一本の赤く光る柱となって荒野の大地に突き刺す。

 その後、光は収縮し、最後には粒子なって霧散し、荒野には“少女”が立っていた。

 

「まつろわぬ神の身ね…。はじめての感覚だけど悪くない。むしろ神に嫌われたオレにぴったりだわ」

 

 両手を握りしめ、現世での肉体を確かめる。

 荒野の大地に生温かな風が吹く。

 彼女のガラスのような深紅の髪を靡かせる風。その風から懐かしい気配が感じられた。

 

「……くっくく、そう。貴様もまつろわぬ神になったのね堕ちた女王」

 

 少女は嗤う。

 最愛の人を見つけたように、

 宿敵と再会できる期待に、

 心の底から喜びと闘志と狂気が真っ赤に燃やして。

 

「ちょうどいい。まつろわぬ神となったオレの最初の獲物は貴様にしてあげる…!」

 

 瞬間、荒野のかまいたちのような風が吹き荒れ、大地より赤い流星が飛び立った。

 偶然にも異変に気付き、駆け付けた魔術師はこう告げた。

 

 その星、まさに地上を駆け抜け戦乱の世を告げる神威なり。

 

 戦神のように猛々しく荒々し嘲笑う災禍の横顔。

 

 されど、女神のように美しく凛々しい女傑の微笑みであった。

 

 

 同時刻、日本の地にて降り立った女神は気づく。

 

「この気配…よもや、あやつまで降臨したか」

 

 神話時代から続く腐れ縁…その本人がこちらに近づくことに女神は嘆息を漏らす。

 

「今の妾ではあやつの相手は手に余る…。早く、妾の蛇を取り戻さなくては」

 

 過去の栄華を取り戻すため女神は、蛇を求める。

 

====================

 

 便利屋『いえっさ』の事務所。

 ここ最近、大きな依頼が来ず一刀は暇を持て余し、椅子にもたれながらジャンプを読んでいた。

 事務所の中央のソファーにはルリが据わっており、壁掛けのテレビから流れるニュースをみていた。

 

『はい、こちらローマのコロッセオの前位にいます。見てください。あの世界遺産が無残に破壊されたた姿を。コロッセオが崩壊して数日。現在も修復作業が続いていますがいまだ完全な状態にいたっておりません。政府の調べによりますと、コロッセオ崩壊の当日、コロッセオ中心に地震が確認され、その影響で瓦解したといわれておりますが、巷では過激派テロリストによるものだと騒ぎ立てており、政府内には犯行声明が出されたという噂もあり――』

 

「物騒な世の中ですねー」

「そうねぇ。あたしのお兄ちゃんもその日ローマにいってたけど、ケガしなくてよかったわ」

 

 ルリの小言に続くように、新メンバーである静花が盆にお茶を乗せ、ルリと一刀の順にお茶を差し出した。

 

「静花、君に兄さんいるのか?」

「言ってなかったけ? 高1の兄なの。最近やたら海外に足を運んでいるのよ。たぶんだけど、女がらみだと思うわ」

「おや、一刀と同じですね」

「いやいや、さすがの俺でも女の尻を追いかけて外国にまで飛ばないって」

「では、胸でしたら?」

「天国から地獄までbyおっぱいハンター」

「あほいってないの」バシッ

「あっだ!?」

 

 さらっとアホなこと言う一刀。

 そんな彼の頭を静花はおボンで叩いた。

 

「私のお兄ちゃんはそこまで変態じゃないわよ…たぶんだけど」

「たぶんですか。お兄さん、妹の信頼されてませんね」

「信頼してるわよ。ただ、何か隠してるぽいなのよねぇ。アタシの部活の先輩といつの間にか知り合いになっていたし」

「それ、思春期をこじれせて、その先輩と一発やっちゃったーみたいなオチじゃないんですか」

「あるわけないでしょう! お兄ちゃんにかぎってそんなこと―――あぁーでも、ウチの家系ならそれはあるかもしれない」

「唐突に肯定しましたね」

「静花の家って特殊な一族なのか? まさか殺人衝動が――」

「なわいよ。どこの殺人鬼一家よそれ。普通の家系よ。ふ・つ・うの」

 

 自分たちは普通だと強く言う静花。

 目の前の非常識に対しての認識からだろう。

 

「草薙家の男ってなにかしらトラブルに巻き込むというか起こすのよ。しかもそれに乗じて、良い所を独り占めするという質の悪い癖がね」

「それ、明らかに普通の一族じゃないじゃん。なにその保険金狙いで自分家に火をつけるはた迷惑な一家は」

「ワイドショーやドラマのネタやモチーフにされてもおかしくありませんね。もちろん、最後にはロクでもない死に方をする自己中で屑野郎が主人公としてですが」

「うっぐ!?」

 

 草薙家の男たちの波乱万丈な歴史を思い出し、自嘲する静花。

 だが、兄に対する不安とルリの毒舌というダブルパンチに困惑の渦に抜けれなくなってしまうのであった。

 ふと、一刀がニュースから流れる瓦解したコロッセオを一瞥し、

 

「にしても世界遺産を壊すなんてひどいことするなぁ。壊した人の顔が見てみたいもんだよ」

 

 

==================

 

 

「どうしたんですか護堂さん!? 急にうずくまるなんて!」

「いやぁ、なんかものすごく申し訳ないことをしたことに追及されたあげく、さらい毒を吐かれたような気がして……」

「毒ですか! もしやまつろわぬ神かほかのカンピオーネからの観えない攻撃!? あぁ、そんなに落ち込まないっでください! コロッセオのことはちゃんと反省したのがわかりましたから! いえ、私に謝られても…⁉」

 

 

==================

 

 

 

 ピッポ―ン!

 

「依頼人ですかね」

「アタシがでるわ」

 

 事務所のチャイムが鳴り、困惑の袋小路から立ち直った静花が行こうとする。

 ドアを開こうと手を伸ばすと、ドアが勝手に開き、扉からスーツ姿の男性が誰が入ってきた。

 

「あっ!?」

「おっと、失礼」

 

 勝手に人が入り込んだため、ぶつかってしまい尻もちをついてしまう静花。

 男性は静花に手を伸ばし、立たせる。

 

「すいません。おどろかしてしまって。えぇーこちらが便利屋いえっさで間違いありませんか?」

「あ、はい、そうですがあなたは?」

「わたくし、正史編纂委員会の者でして。北郷さんにご依頼の方を頼みにまいりました」

 

 男性――甘粕冬馬は胡散臭い笑みをこぼし、眼鏡越しに事務机にいる一刀を見据えた。

 

 

 

 

「こうして面と向かって話すのは初めてですね。わたくし甘粕と申します。及川くんの上司をやっています」

「あぁ、どうも。北郷一刀です。それで及川の上司が何の用で?」

 

 一刀と甘粕はソファーに座り込み、対面する。

 

「えぇ、実は今回あなた依頼のほうをお願いを。あと、これ手土産です。バームクーヘン専門のバームクーヘン。せっかくなの塊で買ってきました」

「それがご丁寧にありがとうございます」

 

 甘粕から差し出された土産の箱を、一刀を差し置いてルリが丁寧な口調で受けった。若干、彼女のツインテールがピコピコ動いていたが微笑ましいので心の中に仕舞っておくことにした一刀であった。

 

「静花、悪いけど席外しててくれない。オカルト系の依頼みたいだから」

「言われなくても聞きたくないわよ。ルリさんいっしょに食べましょ」

「もちろんです」

 

 二人は別の部屋へと移動した。

 静花が退室したこと見届けた一刀は再度、甘粕と向かい合う。

 

「でも、どうして上司の方がウチに? あんたらとの依頼はいつも眼鏡――及川に仲介してもらってるはずだろ?」

「それなんですが、彼はただいまイギリスの方へ出張に行ってましてね。その代わりです」

「出張?」

「ほら、四月ごろに起きた事件。黒幕である神祖らしき人物が諸点にしてた例のビルのことで」

「あー邪竜行進事件のことか」

 

 ――邪竜行進事件。

 突如として横浜の博物館から現れた半人半蛇の巨大なまつろわぬ神が顕現し、横浜から新宿に向かって一直線に横断、新宿到着後にまつろわぬ神が唐突に消滅した事件である。

 調査により出現したまつろわぬ神はペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ』に登場する王『ザッハーク』と判明。ペルシアの神格が日本の地に顕現したのは、ザッハークと関連を持つ神祖が関わっていることが発覚した。

 神祖はイランの財団の会長として身を隠し、その財力と権力を用いて、竜骨したザッハークを日本に持ち込み、ザッハーク復活のため高層ビルひとつを独自の工房へと作り替え、事件当日まで正史編纂委員会を欺いてきた。

 また、神祖は同時刻、とある失踪事件の犯人であり、事件の全貌からして誘拐した子供をザッハークを完全に復活させる生贄だと容易に想像できる。

 しかし、誘拐事件の調査で正史編纂委員会が派遣した民間組織によって儀式は阻止され、不完全に顕現したザッハークは自然消滅。事件は災害の爪痕を残しつつも、死傷者ゼロという奇跡で無事に解決した。

 

 ――のが正史編纂委員会の検討である。

 事件の当人であった一刀はあえて報告書に人類悪などのことは付け加えてはいない。でなければ、自身がカンピオーネであることと、ある意味でまつろわぬ神以上の存在を世間にバラしてしまう。そうなったらいらない混乱が起き…あとあと面倒である。

 

「その調査で、ビルに神具とか魔導書とかそんなものがゴロゴロ出てきましてですね。ある程度、調べ終わった後、それら全てを黒王子に献上することになったんです。それで、彼には荷物の運送と受け取りをお願いしたのですが、あちらで手続きがてこずってるらしくて当分は戻ってこれそうにないので、彼の上司である私がアナタに依頼をすることになったんですよ」

「あぁ、そういうこと。どうりで、最近顔出さないわけだ」

 

 振り返って思えば、悪友が事務所に来なかったことに納得する。

 一週間に一度は必ず顔を出し、一刀とルリの間に混ざり合い、男二人で飲みに行くのが日常であった。

 そんな悪友が顔を出さないことに初めは不思議だと思っていたが、別の依頼が度々あったため彼のことはすっかり忘れていた。

 それはさておき、

 

「でもいいのか? 神祖の私物を黒王子なんかに渡して? 自分たちのシマにまぎれたものなんだろ?」

「たしかに、ウチのシマで起きた事件の証拠物件ですが、置いておくといろいろと面倒な種になりますしね。ただでさえ、海外から密輸されたの当然ですので、そうなると国際問題に発展しそうで…」

「なるほど。たしかにありゆる」

 

 一刀は腕を組んで頷く。

 現在、正史編纂委員会の信頼は著しく下がっていた。

 なにしろ、相手は神祖にしろ自分たちの庭で堂々と居座り、まつろわぬ神の降臨を許しあまつさえ事件当日まで気づかなかったという汚点を残してしまったのだ。

 そればかりか、ただの失踪事件だと思われていた事件が実は誘拐事件で神祖がその黒幕だったというオチである。おかげで世界中の結社から笑いもの――なことはなかったが哀れな目で同情されたのはいうほどでもない。

 これには正史編纂委員会の上層部は赤恥をかき、協力者である媛巫女たちは神祖をまつろわぬ神の復活を見抜けなかったことにプライドがずたずたにされショックで一時期寝込んでしまったという。

 

「なので政府と対等以上であるカンピオーネの方…とくに黒王子に我々が押収したものを引き取ってもらうことに決定しました。だいたい、うちに置いとくとしても我々にはそれを研究・保管する施設も資金もありませんし。むしろ魔王やまつろわぬ神による被害対策のために余裕がないんですよこれがまた。それに、あの方は王であると同時に真正な研究者でありますから、我々の厄介の種は彼にとっては金銀財宝そのもの。喜んで受け取ってくれるはずです。しかも、黒王子とイギリス政府に貸しもできて一石二鳥。いやぁ、黒王子さまさまですよ」

「そ、それは、よかったですねぇ~」

 

 あっはははと笑う甘粕に、苦笑気味に口を引きずる一刀。

 毎度毎度強盗まがいに盗みまくる知人がまさかの漁夫の利が得られるとは――本人も思っていない展開だろう。

 今頃、「寄付か…そういう手もあるな」とあくどいことを考えてるに違いない、と一刀は想像する。

 

「で、本題に入りますが今回の依頼は日本に誕生した新たなカンピオーネ。彼によって持ち運ばれた神具のことです」

「………話を続けてくれ」

 

 甘粕から聞かされた話を三行でまとめると、

 

――(正史編纂委員会公式の)日本初のカンピオーネが神具を日本に持ち込んだ。

 

――その神具を狙ってまつろわぬ神が日本に向かっている。

 

――そのまつろわぬ神が世界の終わりである『星なき夜』をもたらす神である。

 

 簡潔にすれば世界の危機であった。

 

「ようするにカンピオーネがもってきた神具をどうにかして、アリスの予言を阻止してほしい。そういうことでいいのか?」

「要約すればそんな感じです。この場合、トラブルを運んできた当人に任せるのが筋なのですが、相手は魔王。どう転んでも災厄になることまちがいありません」

「まぁ~そうなるだろうなぁ~」←災厄の魔王

「そこで正史編纂委員会が認めた貴方の腕前を見込んでの依頼です。どうか、カンピオーネがボカをする前に、神具の封印とまつろわぬ神上陸の阻止、そして、予言防止のほうなにとぞおねがいします」

 

 真剣な表情で深々と頭を下げる甘粕。

 そんなお願いに、一刀は嘆息して言う。

 

「お得意様のためだ。こちらも一肌脱ぐよ」

「ありがとうございます。達成時には通常の20倍の依頼金で口座に振り込んでおきますので。あと手当てもつけときますね」

「気前良いですね」

「えぇ、なにせこんな危険な依頼を引き受けてくれるのですからこれくらいしないと。そうそう、これが新たな王に関する資料です」

 

 カバンから取り出した紙の束を一刀に渡す。

 一刀は資料を捲る。

 

「ふーん草薙護堂って言うんだ…ん? 草薙?」

 

 後輩であるカンピオーネの名前に目が止まった。

 

(…いや、まさかそんなテンプレなんて…)

 

 同性ということもある。

 たとえ、家族構成が同じで、その妹が同名であったとしてもだ。

 

「あのー甘粕さん。この草薙護堂って奴は――」

 

 念のため聞こうとするが資料を渡した本人は目を離した間に既にいなかった。

 残されたのは机の上に置かれた一枚の紙のみ。

 そこに書かれていたのは――

 

『神具は原因であるカンピオーネが持っています。神具についてはカンピオーネの監視という名目で付き添っている媛巫女さんの霊視でわかるでしょう。おそらく、彼女が務める武蔵神社に二人っきりでいると思われますのでそちらに合流してください。PS:余計な詮索は労力の無駄ですので仕事ほうだけ専念してください』

「いつのまに!? 忍者かあの人!?」

『ps:忍者と呼ばれるのは好きじゃないのであしからず』

「ツッコミの先読みまで…あの人、只者じゃない…!?」

 

 鮮やかな回答拒否に一刀は戦慄するのであった。

 恐るべし、正史編纂委員会のエージェント!?

 

「って、アホなことやってる場合じゃないか」

 

 ことの発端である同族は武蔵野神社というところにいるらしい。

 そこから移動するまえに挨拶と情報交換をする必要があるので、すぐに行動に移した。

 

――『返答。疑問の回答において草薙護堂は草薙静花の――』

「ミーミル、答えなくていいよ」

 

 真面目な相棒に応えつつ、伊藤はコート掛けに掛けていた仕事服である白いコートを羽織る。

 そして、事務所の玄関を開けようとすると、

 

「一刀さん仕事?」

 

 後ろを振り返ると静花が立っていた。手にはお盆があり、紅茶とフォーク、そして切り分けられたバームクーヘンが載せられていた。

 話が終わったと見計らって、一刀の分を持ってきたのだろう。気が利く娘である。

 

「あぁ、ちょっとばかし文京区にね」

「そこ、アタシん家の近くじゃない! またオカルト的な事件でも起きるわけ!?」

「う~ん、正直に言えばそうなるかも」

 

 はっきりしない答えを言い出す一刀。

 なにせ、トラブルメーカーであるカンピオーネが動く事件だ。被害がでることは前提だ。

 

「どうする? 巻き込まれたくなかったら一晩ここに泊まる手もあるけど」

「ん~…たしかに、ここにいればオカルトから身を守れるけどお兄ちゃんたち残して安全なところにいるのはちょっとねぇ~。それに、お兄ちゃんが帰るまで夕飯の支度もしないといけないし」

 

 兄と夕食のことで頭を悩ます静花。

 しかし、その兄がオカルト事件の中心人物であることをこの妹はしらない。

 複雑な家庭になったしまった静花に、一刀は愁傷様とばかと同情するのであった。

 と、一刀を無視して家庭と安全を反芻して考える静花に、

 

「でしたらウチで夕飯作って、事件が終わってからその兄の分のご飯をもち帰ればよろしいのでは? そうすれば危険な目にも極力避けれて、夕飯も用意できて一石二鳥ですよ」モグモグ

 

 どこからともかく現れ、一刀のバームクーヘンを頬張りながらルリが提案した。

 

「ちょっ、それ俺のおやつ!?」

「もぐもぐ、ごっくん。安心してください。もう残っていたバームクーヘン私がきっちり食べたので一刀は仕事に専念できます。よかったですね」

「どこがだ!?」

 

 バームクーヘンを横取りされ、青筋を立てる一刀。

 けれど食いしん坊邪神は無視して一刀の紅茶を飲む始末であった。

 

「はぁ、とりあえず、仕事は早めに片付けておくから、それまでウチでゆっくりしていってくれ」

「…そう。そんじゃお言葉に甘えてもらうわ。はやく仕事を片付けておいてね」

 

 一刀のことを信用し、空になったお盆をもって台所へ立ち去る静花。

 それを見計らいルリが小言で一刀に呟く。

 

「引き留めるのも限度がありますので、できるだけ早めに片付けておいてください。いっぺんに問題を解こうとするあとあと面倒くさいので」

「ご忠告どうも。――あと、バームクーヘン美味しかったですか?」

「美味でした。生地は固めで歯ごたえが良く、外の砂糖も甘すぎずレモンの風味もあって食べ応えもある一品でした」

「そうですか、満悦な笑みが可愛らしいですねちくしょ~」

 

 泣きべそを浮かべながら一刀は事務所を後にするのであった。

 

 

====================

 

 

 

 一方、便利屋「いえっさ」から逃げた甘粕は浅草の繁華街を歩いていた。

 

「ふぅ、あれが及川君と上層部のお墨付きの協力者ですか。なるほど、たしかに頼り甲斐のある人です」

 

 正史編纂委員会じきじきの協力者だ。彼に依頼するため一刀に関する情報も事前を頭に入れている。

 九州出身で家庭は古くから続く古武術の道場の息子。

 東京の高校に進学し卒業後、一時期、実家に戻り道場で修業し海外へと旅に出た。

 その道のりは不明だが魔術やまつろわぬ神などの裏の世界に足を踏み入れたことは分かっており、そのスキルと経験値は聖騎士並みであり、多くの事件を解決させた。

 さらに、道中では魔術結社のトップからカンピオーネと顔見知りで中には親友関係という経歴からして飛んでもない人生を歩んだ人物であることが想像できる。甘粕もその一人である。

 しかし、一度会ってみれば想像とは違っていた。一見、ただの青年しか観えず、頼まれたら断れないただの甘い人…そんな印象であった。

 しかし、今振り返ってみれば違和感があった。甘い人であるにもかかわらす眼は先を見据えてように純粋で、また、底はほうは全く見えずなぜだか彼に頼ってしまう…そんなカリスマ性が彼にはあった。

 おそらく彼に任せればいい。それですべてが解決する。そんな安心感が覚えてしまう。

 

「にしても、王の妹がこちら側に堂々と踏み込んでいるとは。情報通りだとしてもこれは少々複雑ですね」

 

 正史編纂委員会において草薙静花はただの一般人。まつろわぬ神の被害者――その一人にすぎなかった。

 だが今やどうだろうか。日本、ましてや世界の最高人物の一人――の血縁者となっている。

 ましてや、その兄が王になった翌日にまつろわぬ神によって日常から非日常に落とされるなど皮肉のほかはない。

 もしも、このことが王に知られればどれほどの修羅場が待ち構えているのであろうか。

 そう考えるだけで、爆笑と胃痛でおかしくなる。

 

「世界は広く、世間は狭い。果たしてこれは偶然か、それとも運命か。神のみぞ知るところですかね。その神を殺す王がこの問題の発端なのですがね」

 

 ハハハハハ、と自嘲しながら甘粕は人混みの中へと消えていった。

 




次回、原作主人公と邂逅――かも?

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