真・カンピオーネ無双 天の御使いと呼ばれた魔王 作:ゴーレム参式
夜の新宿に吹く風にあたりながら、その者はいた。
とあるビルの一角の屋上。全身をフードで隠し、性別が判明できないよう顔を隠したその者――便利上としてフードマンと命名しよう。フードマンはただ視線の先にあるビルの最上階の窓を見据えていた。
否、正確に言えばその場所全体を観望してるほうがただしいだろう。
そして、一言も発せなかったフードマンは、男か女かわからない無機質な声を発した。
「……観察終了。情報を送信。作業終了後、当機は本部に帰還します」
「はい。では、
「――ッ!?」
フードマンが後ろ振り向くと、虚空に純白の五芒星の魔法陣がフードマンを囲むように瞬時に展開。その陣より銀色の鎖が放出され、フードマンの四肢と胴体をがんじがらめに拘束した。
「たわいもありませんね。せっかくここに来るためだけに
ビルの陰から、コツコツと床のタオルを歩きながら誰かが近づく。
月光より照らされた白銀のツインテールを揺らし、月夜の闇すらも拒むような黄色の衣を纏った少女。
北郷一刀の相棒―――ルリであった。
「―――時空の守護者を確認。状況を追求します」
「この状況からして質問するのはこちらのほうなのでありません?」
無表情で冷徹に言い返し、陣から伸びる鎖を操作して、フードマンを上へと持ち上げる。
そして、フードマンの顔を覗こうとルリが見上げるも、フードを深くかぶっているためか、それとも何ならの力を使用してるためなのか、フードマンの顔は黒一色の闇に包まれ拝見することはできず、嘆息の息を吐き、鎖に縛ったまま彼?を地面に叩きつけた。
「…・・・・・・・・・・・・」
「最初に言っときますが、逃げることは無理だと考えてください。貴方を縛っているのはフェンリルを拘束したグレイプニルを世界の狭間に巣を作るアトラク=ナクアの糸で強化した特別製。神どころか世界まるごと吊り上げることができるほど強度をもっています。もっとも、その程度の体たらくでは抜け出すこともできませんけど」
「………・・・・・・・・」
フードマンの一言もしゃべらず、ただ首だけを動かし、こちらを見下ろすルリを見上げる。
そもそも黒いのっぺらぼうな仮面をかぶったような顔のため表情は読み取れないが、その闇から感じられる意思だけはルリには見抜いていた。
「どうしてここにいるか、みたいな視線ですね。当たり前です。だってその視線が私の知覚に反応したのですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そもそもこの一日の間、街でおかしな視線を感じていました。なにかを観察してるような視線です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「最初は興味本位でした。しかし、いざ索敵したら、なぜかあなたの存在が確認できませんでした。それも東京どころか、星全体、ましてやアストラス界から不死の領域すらも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さすがの私も気になったのですこしばかり並行世界に触覚を広げましたがこちらの世界を傍観する存在は確認できませんでした。もっとも、これは私の興味本位なので私たちに害がなければほっといていましたよ。えぇ、今回の事件に関りがなければですがね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そもそも、事件ははっきりいって出来すぎてました。神殺しの誕生と並行しての
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おそらく、あの魔神にこの儀式や新しいカンピオーネが誕生したことを教えたのは貴方なのではありませんか? たとえ宇宙誕生から未来までの知識がある不死と生の境界で暮らす神でも、不確定な未来を見通すことなどできません。まぁ、未来からの干渉がなければですが。あのトラブルジジィとか牛女とか風来坊聖女とか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごっほん。話を戻しましょう。私がどれだけ
視線をフードマンから右斜めにあるビルの最上階を移動させルリ。彼女の視力ではその最上階にいる者さえ見通すことはできるだろう。
「現代から数十年前の…1999年代のこの
その最上階の窓には優雅にワインを飲みながら高価なスーツを身に纏う人間時のイブリースの姿があった。
そう、彼女たちがいるのは1999年。今から数十年の前の過去である。
その証拠に、街の風貌がすこしばかり古く、東京タワーと変わる日本の象徴のスカイツリーが建設されていなかった。
フードマンは観測してた。確定された未来を場面を記録するためだけに過去から透視して、だ。
視線をまたフードマンに移し、ルリは冷淡な声でつぶやく。
「教えてもらいましょうか。なぜ、人類悪を復活させたのか。なぜこのような世界の意に反した行為をしたのか。そして、
「……………………」
「もちろ、返答次第では時空の守護者として処理しますので覚悟してください」
鎖で外衣ごとフードマンを強く締め上げ脅すルリ。
そして、口を閉ざしていたフードマンは、艶かしい女性の声で言う。
「―――
「っ!? 貴方、それをどこで!?」
氷のようなポーカーフェイスであったルリの顔に動揺の色が浮かんだ。
先ほどの丁寧な口調を捨て去り、フードマンを問い詰めようとするが、フードマンの身体が突如として青色の炎に包まれ、その外衣ごと存在が一瞬で灰燼と化す。
そして、どこからさきほどの女性の声が、笑みを含ませたような声色で夜空に響き渡る。
『今回は貴方の相棒のせいでプランが壊れたけど結果的にアレが我らが求めしモノでないことが検証できた。その上、あのイレギュラーのおかげでいいデータも取れたし、なにより〝かの者〟の誕生を遅らせることもできた。どちらにしろ我々の損害がなくメリットもあった。まさに万々歳。逆に君の相棒に感謝を述べたいくらいだわ』
「待ちなさい! まだ話は終わってはいませんよ!」
知覚を広げ、探索するも声の主の所在がつかめず、ルリはただ闇雲に夜空にむけて叫ぶ。
しかし、声の主には反応がなく最後には――、
『でも、
その言葉を最後に女性の声が聞こえなくなり、夜の新宿が車や歩行者たちの騒音で満ちる。
ビルの屋上でぽつりと立つルリは先ほど灰燼の塊になったフードマンに目をやる。その灰は都会の風にのり、サラサラと散っていった。
「自滅処置ですか。用意がいいことで…」
両腕を組み、落ち着きながら深いため息を吐く。
ちらっと、いまだにガラス窓の向こうで、街を眺めている魔神を見据えた。
どうやらこちらの様子に気づいてはいないようで呑気にワインを飲んでいた。
「……まったく、これだから箱入りバカは嫌いです。
苛立ちを呆れを足したような声色で呟き、黒幕に利用されたことを知らない魔神に憐れみを浮かべるルリ。
そして、すぐさま興味なくしたように顔を背け――
「まぁ、いいでしょう。この世界は神様が考えるほどあまりにも残酷に造られているのですから。今は甘美な夢に浸っていればいいです」
どうぞ、叶わぬ夢をいつまでも。
今の彼には届かない皮肉を残し、ルリはビルの屋上から飛び降りた。
されど、少女の姿は新宿の街になかった。
なにせ、彼女はもうとっくにこの
次回は悪王の魔神編の最終編です。
その次が原作に突入する予定です。
では、次回に。