島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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二か月も遅れてしまうとは…穴があったら、入りたいっ!!!

申し訳ございませんでした……


Round.31

恐れ、不安、焦り。

マイナスな感情とは時に人の調子を狂わせて不調をきたすことがある。だが、ある一部の人間はそれをバネにひたむきになったりする事がある。

一樹は後者で、京介は前者だ。

一樹じゃプレッシャーが強ければ強いほど力を付けようと努力を惜しまない。長年の経験や練習で培われた事を総動員させ、初心に戻りながらひたむきに打ち込む。

対して京介はアマプロのボクサー。試合に対する大きなプレッシャーという物を経験したことは無い。それは若さゆえ、とも言えるであろう。

 

京介の次の相手はサウスポーのボクサー。はっきり言ってしまえば未体験の相手と戦うというのはあまりにも大きなプレッシャーを感じてしまった。

従って彼は体調を崩し熱を出してしまった。まだ試合までは3ヶ月ほど余裕があるが、その3ヶ月の内の数日を無駄にしてしまうという事実だけでも京介の負担になってしまうのだ。

 

「(こんな大事な時期に風邪引くなんて…我ながら情けねえ…)」

 

アマとはいえプロはプロ。体調管理も万全にしてこそのプロボクサーだ。そんなプロである自分が風邪を引くという事態に自分をただただ情けないと頭を悩ませる。とにかく早く休んで治さなくては…そう思いながら京介はベットに入り込み、目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

『お前、ムカつくんだよ』

 

俺は昔から何かしらトラブルを抱えることが多かった。それは昔の俺が後ろ向きの性格だったからかもしれない。弱く、暗い性格が仇になりそういう存在はいじめの対象にされる。

そんな俺はこれ以上トラブルを抱えたくない一心で常に作り笑いをして、その場をごまかしていた。

学校の帰りに不良に殴られるなんて日常茶飯事。でも親には心配させたくなく、黙っていた。

苦しむのは俺だけが済めばいい…そう思っていた。

 

『やめろ。男が数人で一人をボコって楽しいのか?』

 

そこに現れたのは、今や俺の憧れにして、追いかける存在である一樹さんだった。

一樹さんはゆっくりと不良たちに近づき、俺の服を掴んだ手を掴み、俺を放してくれた。

 

『全く、骨は折れてねえな…痣が出来た程度か』

 

俺の顔や体を触りながらそう言う一樹さん。だが、突然の一樹さんの登場は不良にとっては、不愉快極まりなかったらしく、すぐに絡んできた。

 

『んだ、オッサン!邪魔すんな』

 

『オッサン…まだ19歳なんだが、俺って老けて見えるのか…?』

 

不良の一言に軽くショックを受けた一樹さんは肩をカクンと落としてしまうが、すぐに立ち上がりポジティブなことを言い出した。

 

『いや、よくよく考えれば、大人に見えるともとらえられるわけだな…!』

 

不良の挑発にも乗る様子もなく、一樹さんの目は輝いて見えた。長い髪を後ろで一本まとめにし、風に揺られるその艶やかな髪から花のような香りが鼻につく。まるで女性のようだった。

 

『んだ、このオッサン、女みたいな匂いがするぜ!髪も長くしやがってよ!』

 

『…ん?まだいたのか。お前らも、こいつを殴って暇をつぶす時間があるなら勉強か、何か趣味に打ち込めよ。今のままじゃあ、ただ虚しいだけだと思うぜ』

 

その一言は、不良たちの挑発には丁度良かったのであろう、不良たちは一樹さんに向かって拳を振りかざしながら走ってきた。

 

『んだとコラー!!』

 

不良の一人が一樹さんに拳を振るったが、それが当たることは無かった。一樹さんの軽やかな足で不良たちの攻撃が空を切ったのだ。

 

『あれ?』

 

『ふぁ~…』

 

不良の後ろに立ち、あくびをして目を指で擦る一樹さん。

 

『テメーッ!』

 

あきらめまいと不良は再び一樹さんに殴りかかった。しかし、どれだけ拳を振りかざそうと、一樹さんに拳が当たることは無かった。ヒョイヒョイと攻撃を避わしていき、時間が過ぎていく。不良が息を切らしていると、一樹さんは拳を固く握り、顔のしわを寄せ、まるで般若のような恐ろしい顔で

 

『シッ!!!』

 

不良の鼻先スレスレで止めた。今思えば、あのまま殴り抜いたらあの不良は大けが間違いなしだっただろう。

不良は攻撃が当たらなかったが、一樹さんのその凄まじい破壊力を誇る拳の気迫にやられ、腰を抜かした。

 

鬼のような形相だった一樹さんはへたり込んだ不良を見てすぐに笑顔になった。

 

『わりぃわりぃ、脅すつもりはなかったんだがな!』

 

『ぁ…ひ…』

 

言葉を無くした不良はまだへたり込んだままだ。そんな不良に一樹さんは肩に手を置いた。

 

『…俺の髪が女見たいだのなんだの言ってたが…弱いモンいじめをして寄ってたかって攻撃するのは、男でもなんでもねえぜ…世間一般でそういうのをなんて言うか教えてやる……

 

 

 

クソ野郎だ』

 

 

 

その時、俺は強さという物を知った。強く、そして凛としたその姿に、俺は憧れを抱いてしまった。

それを知った時点で、俺が一樹さんを追いかけるには十分すぎる理由だった。

 

俺はそれから一樹さんを追った。

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

目を開けるとそこはいつもの俺の部屋の天井が視界に入った。体を起こし時計を見ると既に夕方の4時ぐらいになっている。

 

「…もうこんな時間か…」

 

コンコンと部屋の出入口のドアからノックの音がする。

 

「どうぞ…ん?(あれ?確か今日は親父もお袋も仕事で明日帰るんじゃあ…)」

 

ガチャりとドアが開かれ人が俺の部屋に入る。その人物は両手に土鍋を乗せたトレーを持ち、エプロン姿の。

 

一樹さんだった。

 

「うん予想通り」

 

「ん?何が?」

 

俺の言葉に一樹さんは首を傾げている姿が、なんだかおもしろく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

『ボクシングを教えてください!』

 

俺は一樹さんに憧れからボクシングが好きになり、一樹さんの後を追い、弟子入りを志願した。だが、一樹さんはそんな俺に対し、

 

『駄目だ』

 

そうやっていつも俺を突き離そうとした。

 

『どうして!?』

 

『…お前、この前の奴らにやられて悔しくなかったか?』

 

『っ…それは…』

 

『お前の身体を少し見たが、痣があったな。毎日かはわからんが、頻繁に殴られてるだろ?』

 

『…』

 

俺は黙り込んでしまい、下を向いてしまう。

 

『半端な強さを求めようとしてるならやめとけ』

 

それだけを言い残し、一樹さんは走り去ってしまう。俺はその姿を、黙って見るしかなかった。

俺はその日から自主練を決行した。あの人を追いかけるためには、まず自分を変えてあの不良どもを倒したら認めてもらえると思った。

 

毎日走り込み、拳を鍛え、ボクシング資料や、雑誌、ビデオを見て我流でボクシングを学んだ。

 

その成果があってか、俺は不良どもをあっさりと倒してしまった。学校の校舎裏で三人を完膚なきまでに殴り潰した。鼻を折り、鼻血をダラダラたらし俺を恐怖の表情で見ている不良どもの眼が俺を映しこんでいる。

 

『た、頼む!今までのことは謝る!この通りだ!ちょっと遊び心だったんだって!』

 

あの時の俺は、よく覚えてないが、嗤っていたんだろうな。

 

最後のとどめを刺そうと拳を高く振りかぶった時、俺の拳は誰かの手により止められた。

 

『…』

 

そこにいたのは、鬼の形相で立っていた一樹さんだった。

俺の手を持って放そうとしない一樹さんは不良たちの方を向き口を開いた。

 

『オイ、ガキども…変にちょっかい出したらこんな風にしっぺ返しが来る。以後は自分の身の振り方を考えて学生生活をしろ。その鼻はその教訓だと思うんだな。今までお前らがコイツにやってきたことに比べれば安いもんだろ…なぁ?』

 

ドスの聞いた威圧的な言い方に不良たちは『は、はいぃぃぃぃ!!』と一目散に逃げていく。

だがそんなことどうでもよかった。何故一樹さんが俺の学校を知っててここにいるのかということしか頭になかった。だが、そんな考えは次の一樹さんの行動で全て消された。

 

『さて、次はお前だ』

 

胸倉を引っ張られ、壁に叩きつけられる感触が俺の身体に走った。背中の痛みより俺の視界に入った激怒の表情の一樹さんの顔に意識が向く。

 

『一部始終は見させてもらった。俺は言ったはずだよな…半端な強さを求めるのはやめろって…どこで見たのかわからんが、ボクシングの技をこんなくだらない喧嘩の為に使いやがって…!』

 

『…っぃ…!』

 

『俺がお前にボクシングを教えなかった理由を教えてやるよ。それはこんなふうに仕返しを考えてると思ったからだ!お前の技は全て半端だ!スピードも、力も、技も、何もかも半端だ!それを手にした大体の人間は強くなったと勘違いしやがる!今のままで自分が変わったと思ってるのか?とんでもねえ!もっと質悪いモンだ!!』

 

一樹さんの怒号がなり止むと、一樹さんは俺の胸倉を掴んだ手を放した。

 

『ボクシングを教えてほしいんなら、俺はお前に一切教えん。他を当たれ…』

 

冷たく言い放たなれる言葉は俺の心に突き刺さり、目頭が熱くなり、ついに俺の心にたまっていたものが爆発した気がした。

 

『じゃあどうすればよかったんですかぁぁ!!毎日毎日あんな日を送って、力もない俺が一体、どうやっていけばよかったんですか!!一樹選手は強いですもんね!そんな日々を送ったことは無いでしょうね!………『強さ』って…何なんですか……強いって……一体どんなものなんですかッ……!!どんな気持ちなんですか…!』

 

涙が頬を伝い、次々と地面に落ちていく。止めることも出来ず、ただ下を向くしかできない。

 

『…今のお前みたいに強さを人に振りかざすのは強さじゃねえよ…そして、強さっていうのは俺が全てじゃない…自分で考えていくもんだ…だがそうだな、その強さを知るためにボクシングを始めるなら、俺は教えてやってもいい…』

 

ペラッと俺の足元に何かが落ちた。名刺のような小さな紙。涙で視界がぼやけてよく見えず、それを手に取り、それをみる。

 

『里中ジム 会長里中茂』と紙に書かれていた。

 

『ボクシングを教えるのは俺じゃねえからな、会長に直接言ってみろよ』

 

後ろを向いたままヒラヒラと手を振る一樹さん。日の光に一樹さんの姿が消えると、女生徒らしき声が聞こえた。

 

『お兄ちゃんどうしたんですか?いきなり飛び出すからびっくりしました』

 

『悪いな卯月、さあ帰るぞ!』

 

『はいっ!』

 

後で聞いたが、卯月と俺は同じ小学校、中学校だったらしい。あの時、一樹さんは卯月を迎えに来てて、たまたま俺を見かけたらしいのだ。その事実を俺はつい最近聞かされた。

縁とはどこで繋がってるのかわからないと、俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと昔のことを思い出し、俺は一樹さんが入れてくれたココアを飲みながら微笑んだ。

 

「んだよ、気味悪いな」

 

「その返しは流石に辛辣では?」

 

「おっ、尊敬する先輩に向かってその態度とは、お前もデカくなったなぁぁ~」

 

まるでいたずらっ子の様に悪い笑みを見せる一樹さん。俺はそんな一樹さんをジト目で見続ける。

 

「……いや、何かすまん」

 

「ぷっハハ!」

 

流石に耐えれなくなったのか、素直に謝りだす一樹さんに吹いてしまう。

まだまだ学ぶことが多い。でも、その学ぶことは逆に嬉しいと思う。やることが増えることは俺にとって苦ではない。それは、俺が本当の強さを見つけ出すはじめの一歩なんだから。

 

「一樹さん」

 

「ん?」

 

「俺は、強くなりましたか?」

 

その問いに一樹さんは驚いた表情をした。そして少し間を開け、微笑んだ。

 

「ああ、ボクシングだけじゃなく、心もな」

 

その問いが俺にとってどれだけ嬉しかった。俺は今ちゃんと笑えているのだろう。昔と比べると明るくて、強くなったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばどうやって家に入ったんですか?」

 

「お前のご両親から依頼されたんだ」

 

「まだ続いてるんですか家事フェザー級チャンピオン…」

 

「うるせっ!」

 

「あれですかね、今流行りで言うところの、『全集中家事の呼吸』ってやつですか」

 

「お前それ色んな所を敵に回すぞ」

 

 

 

 

 

 

おまけコーナー

 

さあはじまりました色んなキャラクターのお悩みを島村一樹に相談しようのコーナー!

 

「始まんな、終われ」

 

今日のゲストはこの方です。

 

「聞けよ」

 

垂れ幕が上がり、入ってきたのは黒い服に白と先端部分を赤い炎のような模様が入った羽織を付け、腰に刀を差した人物。

 

「うむっ!」

 

「大正時代に帰れ」

 

「よもやっ!」

 

「いや、『よもや』じゃなく…」

 

「実は最近弟の千寿郎の様子がおかしくてだな!」

 

「……詳しく」

 

一樹はシスコンである。兄弟姉妹の問題の会話に敏感だ。シスコン、ブラコンは惹かれ合うのだ。

 

「前は部屋に入っても『兄上!』と駆け寄ってくれたのだが、最近はそれが減って、部屋に入ると『部屋に入る際は声をかけてください!』と怒られてしまってな!」

 

「……………………

 

 

 

 

 

 

思春期だからじゃね?」

 

 

終わり




唐突の鬼滅ネタをぶっこむぅ~!

今回は京介の過去編でした。

今回からタイトルに追加で『challenge again』と入れました。
意味は『再挑戦』です。

あと、おまけコーナーは不定期でやっていきます。今回のキャラクターは『鬼滅の刃』から『煉獄杏寿郎』さんです。

この小説デレマスだろうがいい加減にしろという方々、許して☆

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