島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

45 / 46
し…仕事で死ぬ…
前回の次回予告はタイトル詐欺です…というかネタに詰まってこうなってしまいました…


Round.30

島村一樹 日本フェザー級プロボクサーである彼は先日試合を終えて見事勝利。結果は日本フェザー級3位を得た。そして試合が終わり数日。精密検査を行い身体に別状が見られなかった一樹は家で安静にすることをジムに言い渡された。

現在一樹は顔に絆創膏やらを付けた状態で自分の部屋のベットで安静にしていた。

 

試合が終わった日は決まって深い眠りに入ってしまう一樹にとってはいつもの事であるのだが、それを心配している者たちもいる。それは義妹である卯月や居候のりあむ、更にはみく、蘭子までもが一樹の見舞いに来ていた。

 

「お兄ちゃん…」

 

静かに寝息を立てている一樹の額にあるタオルを取り水に浸して水滴を絞り再び一樹の額にタオルを置く。

 

心配した表情で一樹を見守る中、一樹の部屋のドアが開く。

 

「弟くん、ごはんどうする?」

 

そこに現れたのはエプロン姿の音々。後ろでは同じくシスター服のままエプロンを付けたシアの二人。手には小さな土鍋が置かれたお盆がある。

 

「あらら、まだ寝ちゃってるのか…」

 

「お兄ちゃん、大抵試合が終わったらこんなふうに寝ちゃうんです。今日は一日起きないかも…」

 

「うふふっ眠って体力を回復させるあたり熊さんみたいね」

 

などと笑いながら言っている音々はお盆を机の上に置いて一樹に近づく。

 

「ボクシングかぁ…昔の弟くんからは考えられないなぁ…昔は喧嘩ばっかしてたこの子が、前は日本チャンピオンにまでなってたなんて…」

 

「…お姉さんはお兄さんのこと知らなかったんですか?」

 

「そうなのよ!弟くんったらいきなり施設を出て行ってそれから十年近く音沙汰無しよ!時々手紙は来てたけどまさかここまで大きくなってるなんて思わなかった!昔はとにかくパワフルだったの。話せば長くなるけど、昔は大きな走り屋集団100人近くの相手に一人で立ち向かうほど喧嘩ばかりだったの」

 

「それなんて雨〇兄弟?」

 

「末央、一人だから兄弟じゃないよ」

 

「じゃあポジション的にしまむーが雨宮〇斗ポジ?」

 

「えぇっ!?私ですかぁ!?」

 

「ボケ続けたら収集付かないから、末央少し黙ってて」

 

「まあ、この子の場合は、力を持て余してたというか、腕力があったというか……でも、優しかった…外では大暴れしても、施設内で暴力を振るうことは一切なかったし、困ってる子がいれば率先して助けてあげたりしてたの。変に暴言を吐いたりもしなかった。今と変わりない心は優しい子だったわ」

 

一樹の過去を知る卯月たちからしたらそれは知らなかった事ではあったが、今の一樹の姿を見ていたら納得のいく姿ではあった。根はやさしく、困っていたらすぐに助けに来てくれる頼れる兄。昔も今も変わりないその現状に卯月たちは何故か心から安堵していた。

 

「あっ、タオルズレてる」

 

一樹の額に当ててるタオルのズレを直し、そのままどさくさに紛れに頭を撫でる音々。

 

「ッ〜〜!」

 

その姿を見た瞬間、卯月の心はズキッと何かが引っかかるような感情襲われた。そうその感情を卯月は知ってる。『これは嫉妬だ』と。

それは後ろにいる蘭子とみくも同じだ。先日の卯月が行った一樹へのキスは2人の心を大きく抉るように頭に残っていた。そのモヤモヤは何時しか出遅れているや、卯月に1歩先に行かれたと思わせられた。義理とは言え兄妹なのにというツッコミは思い浮かばず。

だがりあむとここにいない幸子や文香だけはその真実を知らずにいた。だからか、殺気とは違うものの明らかに不機嫌になっている二人を見て怯えているは、りあむが知らなくてもいい事を知っていないからだ。

 

「あっそういえば荷物にアルバムがあって昔の弟くんの写真があったハズよ!見たい人!」

 

「「はいはいはいはいはい!!!」」

 

恋する乙女達の蘭子とみくは直ぐに手を挙げて立ち上がる。正直そも勢いに音々は若干引き気味だったが、直ぐに「わかったわ」と言い自分の部屋からアルバムを取りに戻った。

りあむと卯月も正直にいえばすぐにでも昔の一樹の写真を見たいと思っている。だけどここで2人のようにはしゃいでははしたないのでは?と思いつつあった。

 

でも本心を言うと『ムチャクチャ見たい』である。

 

義妹の卯月ですら少年時代つまりは島村家の人間になってから前の一樹を知らない。だからこそ見たい衝動に駆られているのだ。

 

そんな中でりあむだけは

 

「(お兄さん、後で絶対怒るだろうなぁ…)」

 

という確信に満ちた思いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

「…ん?」

 

寝ぼけた意識の中、一樹は前の試合の怪我による痛みに耐えながら体をベットから起こし、部屋の掛け時計に視線を向ける。既に時刻は午後19時。どうやら一日中寝続けたようだった。

欠伸をし、目を擦りながら半覚醒状態のままベットから立ち上がり、階段を下りて食堂に向かう。

 

冷蔵庫の前に立ちミネラルウォーターの入ったペットボトルを手に取り冷蔵庫を閉めると、目の前に見知った人物達が店の一角に集まっていた。

 

「それでねーーー」

 

「そ、そんなことがーーー」

 

遠すぎて声までは聞こえにくいが、義妹と義姉とそのお友達たち。仲良くおしゃべりしているあたり、卯月は音々たちと打ち解けたのであろう、そう思い笑みをこぼしながら水をコップに入れて、口の中に入れる。一息着いてペットボトルを冷蔵庫の中に戻していると

 

「この写真の弟くんなんてね!」

 

「ん?」

 

一樹の身体はビクッと反応した。

 

ーーーシャシン?

 

さっきまで浮かべていた笑みは段々と苦虫をかみ潰したかのように苦笑じみたものに変わっていき…。

音々達の元に向かう。

 

テーブルにhそれぞれの飲み物が入ったカップと、その中心には…

 

 

若かりし頃の一樹の写真が大量に置かれていた。

 

 

「ーーーーー」

 

 

言葉にならないなんとも言えないものが一樹に襲いかかる。

例えるなら、寝ている時に突然羽音が聞こえ、顔に固いものが当たったので電気をつけて見てみるとその正体がゴキブリだったようななんとも言えない驚き。

写真に写っているどう見てもアウトロー感が半端ない少年の写真。そしてそれを身近の人間に見られた喫茶店の主人。

 

「お前らーーーー」

 

一樹の髪はまるで下から風が送られているようにゆらゆらと動き、その写真を見ている人間たちに声を掛けた頃には金色の煌めきと共に逆立った。

 

「ナニヲシテイルンダァ〜」

 

ドスの効いた低音ボイスと共にキュピッキュピッという足音と共に話で盛り上がっている少女たちの元に近寄る一樹。

そしてその声を聞きビクッと身体を震わせた少女たち。首からキリキリと軋むような音を出しながらゆっくりと一樹の方向を向くと、そこには白目を見せて黄金に輝くオーラを纏った(ように見える)一樹がいた。

 

「で、伝説のスーパーボクシング人…!?」

 

「音々姉様、ツッコミを入れるより逃げる方が先決かと」

 

「そうみたいだねシアちゃん!みんな、逃げよう!!」

 

「「「行動早ッ!?」」」

 

「逃がすかァァ!ひつきぼしの鳳凰の握りこぶしの奥深い意義の天翔の十字の鳳!!」

 

「社友者!?お、弟くん落ち着いて!!」

 

「出来ぬぅ!!!!!」

 

ガッシャアアアアン!!!!!と何かがぶっ飛んだような音が店から聞こえ、その日から、1週間程店の営業は休みになった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。