島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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嫉妬して顔を膨らませる卯月ちゃんとか可愛すぎでしょ?


Round.28

2日後。

 

「オララララララララララァァァァァァ!!!!!」

 

346プロ内里中ジムでサンドバッグを打っている一樹。

一樹の連打でサンドバッグはこれまでに見た事ないほど揺れていた。それは見ている人間に迫力を与える程だった。

 

「うへぇ、一樹さん気合い乗ってますねぇ、何かあったのかな?」

 

縄跳びを使い練習している京介がそう口にすると会長の里中が口を開いて京介の質問に答え出した。

 

「いい事ならまだ良かったんじゃがな」

 

「えっ、どういうことです?」

 

「数日前のことじゃ」

 

 

 

 

 

 

おいおい冗談じゃねえぞ、

俺はいきなり聞かされたとんでもない爆弾発言に汗が頬を伝いそのまま地面に落ちた。

 

嫁候補だと…俺の知らない所でそんなの勝手に決められてたのか…?

なんだそれは…

 

なんじゃそりゃあああ!!!!

 

こいつら何なんだ!ほら見てみろ!島村一家総出で困惑な顔つきだよ!驚いた表情で固まってるよ!

 

「待てぇぇい!待て待て待てぇぇい!」

 

俺は席から立ち上がり2人の腕を振りほどく。

 

「聞いてねえぞそんな話!なんだ嫁候補って!俺はまだ結婚なんぞしねえぞ!絶対!三十路手前までは俺は絶対結婚しねえ!」

 

「何言ってるの弟くん。お姉ちゃんもう婚姻届の準備してるんだよ?後は弟くんの名前と印を押してくれるだけでOK♪」

 

「私と兄様は神のお導きで結ばれる運命なのです。ですので私も婚姻届の準備はしています。後は兄様が選ぶだけです」

 

「ふざけんな!俺はシアとも音姉とも結婚しねえよ!俺にだって選ぶ権利があるんだ!」

 

「だからこうやって選ぶ権利を与えてるじゃない。私かシアどちらかに♪」

 

「兄様、より取りグリーンとはこのことです。これも神が私たちに与えてくれた道なのです」

 

oh.コノ人達、人ノ話シ聞カナイネー

ココココ、この子たちは何を言っているのでしょう。私には到底理解できません…。

 

それは選ぶ権利じゃなくて、選択肢というのではないだろうか?←少し考えました。

 

…確かに2人とも俺には勿体ないほどの美人ではある。音姉は面倒見が良くて、ちょっと抜けてるけど家事もこなせる。しかも料理は一級品で俺でも敵わないであろう腕前を持っている。まさに良妻賢母という言葉が似合う人だ。…ブラコン気味なところを除けば…。

ん?その言葉ブーメランだって?何のことだ?

 

シアも美少女の部類に入る程可愛くてスタイル抜群だ。…確かに12の時点でEカップとか自分で言ってた気がするが今はそれ以上に育った。顔立ちが幼い分りあむと良い勝負ができるんじゃないか?…神様スキーな所とブラコン気味なところを除けば…。

ん?さっきの後者の言葉ブーメランだって?何のことだ?

 

「お、お兄ちゃん…」

 

卯月が今にも泣き出しそうに俺を見ている。

ヤダ…ウチの義妹泣き顔もカワイイじゃない…じゃなくて!

 

俺が結婚する=島村じゃなくなる=他人になると思ってるぞあれ!もう会えないんですか!?と言葉に発せられてないが問いかけられてる気がするよ!

 

「う、卯月落ち着け!俺はまだ結婚しねえから!お前を見捨ててどっか行かねえから安心して!お願い!」

 

「…でも、前は一人で何も言わず姿を消そうとしました…」

 

「うぅ!!!」

 

な、なんと…意外なところからカウンターが飛んできた…!

それを言われたら何も言い返せねえじゃねえか!

 

「いや…違うんだ卯月…いや…違わないけど違うというか…」

 

結局言い返せなかった。

 

「うぅぅぅ~…」

 

頬を膨らませて涙目で俺を睨む卯月。ヤダ…カワイイ…じゃなくて!

卯月ちゃんご立腹!?何に対してのご立腹!?わからねえ!!

 

「あっそれと弟くん。弟くんってお店出してるんだよね?」

 

「…それがどうしたんだよ…まさか、そこで働かせろって言うんじゃねえだろうな」

 

「ううん。確かに働かせてほしいのもあるけどもう一つ頼みがあるんだ」

 

…嫌な予感がする。

 

「弟くんのお店に住まわせて♡」

 

そういってシアと音姉の片手には大きなボストンバッグがあった。

 

「勿論、もう合鍵も作ってるよ♡」

 

俺は何処ぞの秦国大将軍のような燃え尽きた笑顔になり、突っ立った。

私に拒否権はないんですか…?

 

というかどうやって合鍵作った…?

 

 

 

 

 

 

「それ以降、孤児院の娘たちは一樹と離れないと聞く耳を持たず、奴の店に居候になったらしいわい。しかも妹に至ってはこの二日間一樹と会ってないらしい」

 

「えっ!あの卯月が!?一日合わなかっただけで学校で「お兄ちゃん成分が足りません…」とかなんとか言うあの卯月が!?そ、そうなんですか…よく見ると一樹さん涙流してますね…」

 

「嗚呼、苦悩の涙じゃ。暫くそっとしておこう」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!(泣)」

 

この日、一樹はサンドバッグを叩き続けた。

 

その頃の卯月はというと、

 

「お兄ちゃんが…お兄ちゃんが…」

 

レッスン中であったが上の空だった。それはトレーナーも心配するほどレッスンに身が入ってなかったらしい。

 

「…どうしたんだ?島村は…?」

 

「さ、さあ…?」

 

下を向いてブツブツと何かを念じているようにしか見えないその光景に末央と凛も心配そうだが、この二人は薄々感づいている。

 

「「(ああ、お兄さん絡みなんだろうなぁ…)」」

 

違うところで互いに想いは同じなくせに面倒くさい兄妹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、月日は過ぎ去り、一樹の試合の日がやってきた。

この日まで約数か月、一樹と卯月はあまり会っていない。というか卯月が気まずいのかわからないが避けられていたことから、一樹の心身は試合前だというのにボロボロだった。減量は今まで以上に軽くパス。それは卯月と会えないというより、単に避けられているという事実が一樹にとってとてつもなく精神ダメージを与えた。

コンディションは万全ではなかった…。

 

そんな中で卯月たちは一樹の試合会場に既に来ていた。ついでに今回は京介が皆を会場までの案内役を買って出た。これまでの一樹の姿を見てきた京介は必ず卯月が必要になり、卯月がいれば一樹は力を取り戻すと踏んだからだ。しかし、まだ気まずさが残っているのか、卯月は会えませんと申し訳なさそうに言った。

 

「あ~もうめんどくせえ!!卯月!ちょいこい!」

 

「えっ!ちょっ…!京介君!?」

 

と強引に卯月の手を取り会場外まで連れ出す京介。とりあえず外で缶ジュースを二本買って一本を卯月に渡す。

 

「ホレ」

 

「あ、ありがとう…ございます…」

 

「…話は大体会長から聞いたから概ね想像はつくんだけどさ…卯月と一樹さん、今日まで一回も会ってないらしいじゃねえか。一樹さん寂しがってんぞ…」

 

「で、…でも…」

 

「お前が何をそんなに悩んでるのか知らねえけど、一樹さんの言葉は本心だろ?ならそれを素直に受け止めるべきなんじゃねえか?」

 

「…」

 

卯月は黙って持っている缶ジュースに視点を合わせる。手のひらで缶ジュースを転がし、まだ決心も何もついていないという状態だ。

そんな中で卯月は勇気を振り絞るように力なく言葉を発した。

 

「わ、私が…初めてだと思ったから…」

 

「ん?何だって?」

 

京介は耳を近づけてもう一度卯月の言葉を聞こうとする。

そして次は京介にも聞こえるように少し大きな声を出す。

 

「私、初めてだったんです。お兄ちゃんが出来て、お兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんに大事にしてもらったのが…」

 

「…???」

 

卯月の言葉が理解できず思わず首を小さくかしげる卯月。

 

「でも、実際はそうじゃなかったんです…お兄ちゃんは私より前に、義妹がいて、兄妹みたいな存在がいて、優しくしていて…私、みっともない嫉妬をしてしまったんです。お兄ちゃんにとって、一番じゃなかった…二番…いや三番目だったんだなって…それがショックで…お兄ちゃんに当たっちゃったんです…」

 

この時、京介は理解できた。卯月の抱えているものを。大好きな人には自分が一番でいてほしい。大好きだからこそ一番がいい。それがそうじゃなかった。過去に一樹が音々とアレクシアとどう接していたのかはわからないが、二人の反応を見る限りは友好的な関係だった。義理とは言え、その事実をいきなり叩きつけられて卯月の心にひびが入ってしまった。

 

「みっともないですよね…こんなことで嫉妬して…私…お兄ちゃんに嫌われちゃった…」

 

今にも泣きそうな顔をしている卯月。次第に瞳はウルウルと揺れ、涙をためて、それが頬を伝った。

 

「…俺から言わせてみたら、お前らみたいな兄妹羨ましいと思うけどな…」

 

「えっ…?」

 

「正直俺って、一人っ子だから兄妹とかよくわかんねえ。だけど一樹さんから聞く卯月の話は、いつも笑顔で、自慢げに話しているよ。時々ムカつく時あるけど…」

 

と最後だけ聞こえない程小さな声を出す。

 

「一樹さんにとって、卯月は自慢なんじゃないか?じゃないと、あんな笑顔で妹のことで一時間も話せる人いないと思うぞ」

 

「い、一時間…?」

 

そんなに?という顔で困惑する卯月。

京介はポケットから出したハンカチで卯月の涙を拭く。

 

「一樹さんにとってお前は、大好きな妹で、

 

 

 

世界一愛してる妹なんじゃないか?」

 

 

 

その言葉にハッと、顔を上げた。卯月の目から止めどなく涙が流れ始めた。

 

「そっか…私…お兄ちゃんに愛されてたんですね…!」

 

「ほら、もう試合始まるぞ。応援しようぜ。大丈夫さ!一樹さんがお前を嫌うなんて絶っっっっっっっ対ありえないから。卯月…試合の後で一緒に激励に行こう。そして、一緒に謝って、お前は兄貴に一杯甘えろ!それでこそお前だ。島村卯月!」

 

持っているハンカチを卯月に差し出し、ニカッと笑って見せる京介を見て、卯月は再び輝かしいほどの笑顔を見せて

 

「はいっ!」

 

大きな声で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

やべえ…やべえ…やべえ…!

 

なぁんであの二人(シアと音々)試合見に来てんだよ!しかも目立つ一番見えやすい場所にいるんじゃねえよ!

恥ずかしいだろうが!!

 

こっちはオメエらのせいで卯月は変に俺を避けるし、コンディション狂ってんだよこっち!!

 

既に俺と相手選手がリングに上がり、紹介が済んだ。そこまではよかったのだが、会場に入るなり

 

『弟く~ん!がんばってー!』

 

って大声だすんじゃねえよ!

 

やべえ、こんな試合何度もした経験あんのに何故か緊張してきた…!

 

どうしよう…。

 

「何緊張しとんのじゃ。ビシッとしろビシッと!」

 

んなこと言われたって…!

 

『お~と~う~と~くぅ~ん!!』

 

大声で手を振ってるあのアホ姉を何とかしてくれ!

 

落ち着けぇ…落ち着けぇ…クールになれ俺…こんなの、日本チャンプ初防衛線に比べれば屁でもねえ…

結局真島の対抗策も思いつかずここまで来てしまったが…俺はこの数か月頑張った!

 

ほとんど記憶がないけど頑張ったんだ!

 

身体の耐久は前より鍛えた。足腰も毎日走りこんで日本チャンプを獲得した頃に戻ってるはず。

 

『セコンドアウト!!』

 

えっ!もう!?もう少し待ってくんねえか!?まだ心の準備が…

 

『Round1、ファイト!』

 

カァァァン!!

 

あっ…終わった…




次回予告
ついに始まったフェザー級三位との闘い!
本調子でない一樹はどうやって真島の攻撃を防げるのか!?

次回Round.29「義兄妹の絆」

次回もお楽しみに!

ファイト!

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