島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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今回はオリジナルキャラが2人ほど出てきます。
あとはアンケートで答えていただいたアイドルと最近アンケートにした真島のボクシングスタイルを決定しました。


Round.27

真島の試合ビデオを見た俺はその内容に唖然としている。

 

読めない。

 

真島の次の手が読めない。

 

映像の中の真島は相手選手の拳をグネグネと身体をくねらせるように変則的な動きで避けていた。姿勢が低くパンチを打てる状態じゃないと思っていたら横からパンチが飛んで来てテンプルに当たる。

相手選手はその一撃が効いたらしく、倒れてしまった…。

相手選手はそれから起き上がることも無く、試合が終了になった。

 

これは、俺の知ってるボクシングじゃない。これは教科書にも載ってないボクシングだ。

 

「な、何あれ…」

 

隣で見ているりあむが問い掛けてくるが、俺が聞きたいぐらいだ…。

あんなの聞いたことも今まで見たこともないぞ…完全に上記を逸脱したスタイルだ。こんなのじゃあ真島の次の手が読めない。

今まで見てきた真島のスタイルはオーソドックス系のボクシングに近かったのだからな。手数を常に出し相手に手を出す隙を与えないボクシングだった筈だ。それが何だよあのスタイルは…いきなりあんな低い位置からパンチが飛んできたんだぞ!信じれん!

 

「…りあむ…俺が見てるの…ボクシングの試合だよな?総合格闘のビデオじゃねえよなぁ…?」

 

「ボクに聞かれても困るんだけど…」

 

「ですよね」

 

俺は見ている物が信じきれず自信が無くなってしまいりあむに質問を質問で返す形をとってしまった。

 

流石にりあむに質問するのはお門違いだったなぁ…。

 

……………うん、今日はもう考えないようにしよう。

頭が痛くなってきた……。

 

 

 

 

 

次の日

 

何度見ても信じれん…打開策が見つからん…

 

「あああああああ!!!!!ちくしょう!!!!!何なんだあのボクシングわあああああ!!!!」

 

ついに俺の頭の熱がオーバーヒートしてしまい髪をわしゃわしゃとかきあげ髪の毛を乱してしまう。

今まで戦った相手で1番悩んでんぞこっちは!!オメーは良いよなぁ!参考資料がいっぱいあってよォ!!こっちはお前のヘンテコボクシングの資料ひとつで悩み切ってるわぁ!!

 

と映像に八つ当たり混じりの事を思いながら再びビデオ映像を目にする…。

 

「なんや、悩んではるなぁ~お兄さん」

 

「ん?」

 

俺の横にいつの間にか近づいていた少女を見るとそこには着物姿のまさに大和撫子という言葉が1番似合いそうな小柄な女の子がいた。

 

「ああ、紗枝ちゃんか…」

 

俺は掛けている伊達メガネを外しそれをテーブルの上に置いてマグカップを手にして中に入っているコーヒーを飲み干した。

 

「確か…お兄さんはぼくさーやったなぁ。今のはお次のお相手さんどすか?」

 

「まあ、そんなとこかな…」

 

俺はパソコンのマウスを動かし再生ボタンを押して画面に視線を戻す。

だが、何度見ても解決策が生まれるわけでもなく、俺は再び頭を抱えてしまう。

 

「なんやぁ、激しく動くお相手さんどすなぁ…相当の体力がないといかんのちゃいますぅ?」

 

紗枝ちゃんは興味があるのか俺の顔の真横に顔を置き画面をのぞき込んでいる。

 

「ああ、スタミナは相当あるだろうな。だが、俺の悩みはそこじゃないんだ。こんだけ激しく動かれると的が定まらない上にパンチが当たらん」

 

「なるほどなぁ~…ほなら、お兄さんは動きを最小限に押さえなあかんなぁ」

 

…ん?何だ…今何か引っかかった気がしたが…

だが紗枝ちゃんの言う通りだ。この選手との勝負はスタミナがどれだけ持つかによる。こうなればダウンを無理に取るのでなく、確実に判定を狙う方が1番いいのかもしれない。

いや、そもそもこれだけの動きをする男に確実にダメージを与えて判定に持ち込めるのか?下手すれば俺が一方的に殴られて判定負け、もしくはKO負けするかもしれねえ。

 

これがジレンマという奴なのか?ここまでやりにくい男も珍しい…。

 

「いや、ここまで素早かったら判定には持ち込めねえ。リスクがデカすぎるのも一つだが、相手の参考資料が少ない以上KOを取るしかねえ!」

 

机の上に置いたパソコンを閉じて立ち上がり、髪を後ろにまとめ直しポニーテールにする。

 

そろそろ食事を作る時間だ。

 

「さてと…真島対策も考えなきゃいけねえが、依頼も済ますか…紗枝ちゃん、今日の晩飯何食べたい?」

 

横にいる紗枝ちゃんに今日の献立を尋ねると紗枝ちゃんは首を傾げると口を開いた。

 

「うちが決めてもええのですか?」

 

「毎日毎日自分で考えるのは正直面倒くさいし、ちょっとした気まぐれさ、紗枝ちゃんのリクエストを聞くよ」

 

「それじゃあ、お蕎麦でお願いしますぅ」

 

「うし!んじゃあ今日は蕎麦だな。暖かいのがいいかな?それとも冷たいざる蕎麦かな?」

 

ボクシングでいつまでも悩んでてもしょうがない。こういう時は気分転換しておくのが1番だ。

一通り紗枝ちゃんと献立の事を話をしていると、俺のズボンのポケットに入れているスマホから着信音が流れる。あの有名なボクシング漫画のアニメオープニングの第3弾の主題歌だ。

 

あれいいんだよなぁ。歌が無いのになんか胸にグッと来るものがあってしかもアニメの中にもちゃんとBGMとして出てくる。あれを聞いてると燃えるんだよなぁ。

そんな音楽を流しているスマホのディスプレイに映っていたのは武内さんの名前だった。

 

俺はすぐにスマホ画面をタップして通話に出る。

 

「はい」

 

「島村さん!今どこですか!?」

 

…なんだ?珍しく取り乱してるな…。

 

「女子寮にいますけど…」

 

「そこから離れてください!今すぐに!」

 

ガタン!!

 

ん?なんだ?今の音…

なんか…怖いんだけど…武内さんの声は聞こえなくなるしさっきの音といい…

 

怖いんだけど…

 

「…あのぉ…武内さぁん…?」

 

『お〜と〜う〜と〜く〜ぅ〜ん』

 

ピッ

 

俺は即座にスマホの通話終了ボタンを押した。そして俺の額には大量の汗が流れ出した。

 

「サーテ、食材ヲ買イニ行カナキャ〜」

 

「お兄さん、片言になってますえ」

 

「ソンナ事ナイヨォ〜ワタシ今カラ買イ物行ッテクルヨォ〜」

 

俺はその場から逃げるように急いで女子寮の出口のドアノブに手を伸ばし、扉を開いた。

 

 

 

 

 

「逃がすと思う?弟君」

 

そこには俺の1番苦手な人が2人立っていた。

 

「……」

 

「……」

 

数秒しか経っていない筈なのにその場の空気が数分に感じた。

何でこの人がここに居るんだ…?

 

綺麗な赤く長い髪の毛にポニーテールにしてて結び目は大きなリボンをつけ化粧もあまりしていないにも関わらず綺麗な容姿をしたスレンダーな女性。そして後ろには銀髪にシスター服を身につけた小柄な少女。しかしシスター服でもその実った体つきが隠せない程彼女は魅惑的なスタイルをしていた。おっとそんな事を言ってる場合じゃないな。

 

俺は顔を背けて口を開いた。

 

「は、初めまして…私は島村卯月です!」

 

裏声を使って必死の抵抗も虚しく、俺の視界はブラックアウトした。

 

すまん…卯月!!

 

 

 

 

 

 

「初めまして。天草音々(あまくさおとね)です」

 

と赤髪の女性が挨拶をする。

 

「初めまして。アレクシアです」

 

と次はシスターの少女が挨拶する。

彼女らは俺が元々いた天草孤児院にいた子供で、音々…音姉は孤児院の天草院長の義理の娘で物心着いた時から孤児院で暮らしていたらしい。歳は俺の1つ上であり、姉的存在だ。

一方のアレクシア。俺はシアと呼んでいる。服装からマジのシスターである。歳は俺と5つほど下である。なんでもイギリスと日本人のハーフで生まれはイギリスだがすぐに日本に移住。しかし両親は不慮の事故で他界してしまい孤児院に…育ちが日本だから英語はからっきし。神様という存在を信じきっている。

俺か?俺は神様は居ると思うが信じてねえだけだ。

 

この二人は特に俺が苦手とする2人だ。なんでかって?

俺は殴られてそのまま島村家に武内さんと共に連行された。今武内さんは車の中で項垂れている。どうやら俺の元身内という理由から情報を根掘り葉掘り搾り取られたらしい。

そして目の前には困惑様子の島村一家に対し、その対面にはシアと俺と音姉という順番に椅子に座っていた。そして俺はまるで捕まったエイリアンとまでは行かんが、両腕をこの娘っ子達に自分たちの腕で抱き寄せていた。

 

やめろマジで…特にシア!胸を押し付けんじゃない!年頃の女の子がはしたない!

 

「お、お兄ちゃん…これは…」

 

やめろォ卯月!そんな悲しそうな目で俺を見るんじゃあない!俺がいたたまれなくなるだろうが!

 

「いや、なんというか…その…孤児院にいた頃の姉貴分と、妹分でありーーー」

 

「弟くんのお嫁候補です♪」

「兄様のお嫁候補です」

 

俺の声を遮りとんでもない爆弾発言を飛ばしてきた2人。島村一家の背景では雷のようなものが落ちる程の衝撃図が見えた。

 

勘弁してくれ…次の試合に集中させてくれ…。


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