島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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熊本弁ムズいっス…


Round.26

女子寮にて料理人として寮に泊まることになった俺は全員の食事を作り終わり、自分の分の食事を取りながらテレビを眺めていた。他のアイドル達と食事をしながらボクサーが一緒にいるとはなんともシュールな光景だろうか…なんて思ってたらテレビはスポーツニュースに変わった。

 

「ん?」

 

テレビに映ったのはボクシングのニュースらしい。そこに映っていた映像には、俺がいた。

 

『見てください!島村選手の左だけのジャブだけで選手はよろめいています。彼は昔その驚異的破壊力の腕力が売りでした。一ボクシングファンとして、彼がリングに凱旋して頂いて本当にうれしく思います』

 

…テレビに映った俺の姿を見てアイドル達が一斉に俺の方を見だした…何か…恥ずかしいな…。

 

だが、前回の試合の映像では飽き足らず、テレビでは昔の俺の試合を流し出した。

 

『彼の特徴はピーカブースタイルで守りを固めて相手の懐に入り攻撃をするという物です。そのスタイルで彼は日本王者に輝き世界に旅立ちました』

 

オイ!いい加減にしてくれ!昔のことを掘り出すなよ!!

あ~!映像の俺が打たれちまった!違うだろう!そこはダッキングして踏み込めよ!!ちっげえよそこはガードだよ俺!!

 

※ボクサーあるある

自分の試合を見てると自分にダメ出しをする事がある。

 

 

 

 

 

初日の女子寮での料理は上手くいった。作っていった唐揚げはあっという間に売り切れてしまい全員分の食器には何も残らなかった。料理人冥利に尽きるとはこの事なのだろう。

さて、状況は変わって現在は夜の21:00。洗い物も終わり一通りのやることを終えた俺は簡易的に作ってもらった練習場にて練習を再開させた。今回試合が決まったのは京介だけじゃない。俺の試合も決まった。

 

試合相手は真島公正。フェザー級第3位の男だ。成績は13戦10勝2敗1引き分けの選手。復帰した俺への挑戦それはつまり俺を嚙ませにしてチャンピオンにアピールする。凱旋した元日本チャンプを倒したぞと…だが逆を言うとこれはチャンスだ。確かに相手は強いだろう。ここまで上り詰め成績を見ても強いことがわかる。だが俺がこの試合に勝てば俺は日本順位が一気に上がる。

試合は3か月後と控えているため油断はならない。

情報は会長が集めてくれてビデオを何回も見た。今回はスタミナもある強い選手だ。この前みたいには成らないだろう。だから俺は手を抜かない。練習をこなして最高のコンディションにするまでだ。

 

イメージしろ。俺の思う最高のボクサーのイメージを。

 

「シッ!シシッ!」

 

頭を動かしすぐにジャブを打つ。左に頭を動かしてからすぐに腕を動かす。

足を動かせ!ハードパンチャーの弱点は距離だ。足を使え!ピーカブースタイルのままダッキングを行い拳を動かす。

 

次第に俺の額には微量の汗が溜まりだしてきた。

 

やっぱりボクシングは良い。嫌なことや余計なことを考えないで済む。一時期引退していた際もボクシング忘れられず身体を動かしたり、鍛えてたりしていた。

 

こうして考えてみると俺は引退しようが、現役だろうが、根っからのボクサーってことか…。

 

「ふぅ…」

 

10分程のウォーミングアップを兼ねたシャドウを3セット程したところで俺の身体は温まりだす。

 

…そういえば、この前の試合はS(mash)ingがうまく行かなかったよな…ちょっとおさらいもかねてやってみっか。

 

俺は手にグローブを付け、サンドバッグの前に立ち拳を構えて頭を振る。

 

「ふっ」

 

足に力を入れて中腰状態で半時計回りに身体を回し、右のスマッシュをサンドバッグに叩き込んだ!

 

ドゴォォォォォ!!

 

サンドバッグは大きく跳ね上がった。しかし、それは俺の思っている完成形のものではない。当たったのはサンドバッグの下あたり。つまりまたもやこれはただのリバーブローだ。これじゃあ技の完成とは言えない。

 

俺のピーカブースタイル自体が低い姿勢を取って構えるスタイル。世界に飛び出した際もこのピーカブー一本で上り詰めたが…俺に足りないのはその後だ。

俺には決め手の技がなかった。基本的なボクシングの技は殆ど覚えている。だが、自分の得意としている技を持っているのと無いのとでは全く違うだろう。

俺は京介のような鋭いカウンターは打てないし、かの伝説のボクサー『ジャック・デンプシー』の大技『デンプシーロール』が使えるわけじゃない。

俺の武器はこの重い拳が俺の唯一の武器だ。だが、それは俺の弱点でもあった。言わば重い拳とは破壊力は凶器だが、逆に言えばディフェンスを強化して守りに徹すれば俺の武器は鈍らになりかねない。

このS(mash)ingを極めれば戦略の幅が大きく変わるはずだ。

 

その為にも、ダッシュ力を鍛える他ない。

 

よし、ロードワークに行くか…

 

ジャージの上着を羽織り、部屋を後にしようと扉のノブに手を伸ばした時、ドアが勝手に開いた。

 

「…?」

 

「あっ」

 

そこに居たのは、ゴスロリ風の衣装に身を包み、左右のツインテールにカール(…でいいんだよな?)をかけている少女が目の前にいた。

蘭子ちゃんだ。

 

「…何やってんだ蘭子ちゃん」

 

 

 

 

 

 

ロードワークは俺にとって欠かせない週間だ。毎朝早く必ずして更に時間が空いてる時は走っている。ロードに出ていると悩みや考え事をしなくて済むのが俺としては良い点だ。

普段誰かと走る事自体は珍しいものでもない。俺は京介や他の奴らとロードするのは好きだ。だが、出来れば1人で何も考えずに走りたいってのが本音だ。

 

「で、なんで着いてきたんだ?」

 

走っている俺の横を自転車に乗って追いかけてきている蘭子ちゃんを見ながら言う。いつものゴスロリ風の衣装ではなくジャージだ。

この子はちょいと分かりにくい言葉を並べることがあるが、半年以上付き合いがあれば俺も少しは慣れてくる。

だが本音を言えばちゃんとした言葉で話してほしい。

 

中二病なんて、俺は患ったことねえし…。

 

「我が苦悩を聖拳を持つ者に語りたくてな…(実は相談に乗っていただきたくて…)」

 

聖拳を持つ者って…ボクシングの事か?

 

「相談ねえ…君らの相談を俺のようなボクシング脳の俺に分かるのかね…?」

 

走っている足を止めて拳を構えてシャドウを開始する。頭を振りもう一度拳を突き出す。

 

「まあ、話してみてくれよ。力になれるかもしれん」

 

とりあえず話をするために近くの公園のベンチに座り、缶コーヒーを二本買い一本を蘭子ちゃんに渡した。

トップルに指をかけて蓋を開けてコーヒーを飲み、横に缶を置く。

 

「んで、相談ってのは?」

 

「…」

 

蘭子ちゃんは何やら言いにくそうにしている。もじもじと手に持っている缶コーヒーをいじっている。

なんだか顔も赤くなってきている気がする…。

 

「じ、実は…」

 

おっ普通の口調になったぞ?

 

「…私の言葉が分からないって声が多くて…でも…私…これが好きでやってるんですが…でも皆が皆理解してくれる人が少なくて…どうしたらいいのかなって…」

 

何か、この手の相談どっかで聞いたなぁ…夏だったか?

彼女の口調は俺も時々分からなくなることも多い。だが、交流があると自然と頭が覚えていった。だが彼女の言葉を理解できない人もいるのも事実。彼女もそれなりにメディアに出ているアイドルだ。だが、ファンになる人と言うのはテレビだけを見たからファンになったという人もいれば歌などを聞いてファンになったという人もいるはずだ。いい歌を聞かせてもらったファンになろう。テレビを見たが彼女の言っている中二病の台詞がわかりにくい…正直俺も分からないところもあるから共感してしまうところはある。

だが…

 

「いいんじゃねえか?そのまんまで」

 

俺はあっけらかんとそう答えた。

 

「俺は正直蘭子ちゃんの言葉が時々分からなくなることもあるが、何が言いたいのかわかるよ。でもそれでいいんじゃないか?アイドルってのは自分の個性を出してこそだ。仮面をかぶって本当の自分を隠してまで自分に嘘をつくのは…楽しくないんじゃないか?アイドルもボクサーと同じだ…選手生命ってのは短いものだ…その短い選手生命の中で楽しめるかどうか…なんじゃねえか?」

 

コーヒーを再び口に含み飲み込んで再び口を開く。

 

「俺は正直君のような中学生活をしたことないからわからない。恥ずかしいと思う過去はあった。だけど人生にそんな過去を持ってた方が面白いと俺は思うよ。一種の思い出さ。黒歴史?いいじゃねえか。その過去を含めて自分だ。俺も昔の櫻田一樹があってこその島村一樹だ。いいんだよ。どんな道を進もうがそれは自分の選んだ道だ…俺は…いや…ここはこういう台詞で言ってみるか」

 

空になった缶コーヒーの缶をゴミ箱に捨てて俺は拳を上にあげた。そして思いついた台詞を口にする。

 

「我は今度こそこの聖拳で栄光の(ロード)を掴もう!そして世界を我が手にし、我は世界の(チャンピオン)となろうぞ!!……合ってたかな?」

 

俺が台詞を言い終わると蘭子ちゃんは俺のことを顔を赤くしながら見ていた。

 

なんだ?俺の台詞何か恥ずかしい所があったのかな?

 

だが蘭子ちゃんはすぐに立ち上がりその紅い瞳を輝かせポーズを取る。

 

「聖拳を持つ者の話し、実に充実した時間だった!今宵は礼を言おう!来る決闘を楽しみにしておるぞ!(お兄さんに話をして本当に良かったです!ありがとうございます!次の試合頑張って下さいね!)」

 

「お、おう!絶対勝って国内ランキング3位を取って見せるぞ!」

 

なにはともあれ蘭子ちゃんの悩みはこれで解消…できたのかな?蘭子ちゃんも俺のことを応援してくれてるんだ。それにこたえるためにも、練習あるのみだ。

 

 

「だああああああああららららららああああああああああ!!!」

 

土手道を全速力で走り抜ける。スタミナの限界を超えるために心臓を傷めつけ、ロードを終わらせてサンドバッグを叩いて叩いて叩きまくる。俺の練習が気になって見にきていたアイドル達もいたが、それにも目もくれず練習を続ける。

りあむに頼み俺の腹にバスケットボールと叩きつけてもらいボディの耐久力向上のための練習をし、一本のロープを丁度頭ぐらいの高さに張りウィービングをしながら前に進む。

 

やってやるぜ…待ってろや!フェザー級第3位!

 

そして、最新の情報も届く。

それは俺が女子寮で調理をしていた時だった。

 

「…何だよ…これ」

 

そのビデオの内容は最近の試合映像。だが、その中身は今まで俺が見てきた選手の戦い方じゃない。俺の頬から汗が一雫伝い、地面に落ちていく。

 

試合開始まであと3ヶ月。




〜次回予告〜

京介と一樹の試合が決まり気合いを入れる2人。しかし一樹の試合相手の本来のスタイルを見た一樹はその対策を考えるが、打開策が出てこない状態に…果たしてどうするのか!?

次回 Round.27『作戦』

次回もお楽しみに! ボックス!!

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