島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ 作:伊吹恋
どうしてこうなった?
「ねえ、起きて。オッキだよキミ」
誰かの声と共に身体を揺さぶられ意識を夢から現実に引きずり戻されるのは髪を横におさげの様に髪を括って寝間着用のジャージを着たプロボクサー島村一樹。
彼が目を覚めると部屋は自分の部屋ではなく、誰かの部屋。一樹は下半身に違和感を覚えながら声をかけてきた人物を視界に入れるために顔を横に動かす。
そこにいたのは赤いコスチュームに身を纏い背中には二本の刀を差し、腰辺りには銃弾を括りつけたベルトを身に着けた変質者がいた。
「…アンタ誰だ無責任ヒーロー」
「AHAHAHA、そのセリフを知ってるってことはキミ俺ちゃんを知ってるだろ。お話タイムだぞ~」
「…ここどこだよ…誰がこのジャージ着せた?」
「俺ちゃん」
「何で上半身来てて下は何も履いてねえんだよ」
「キミのヘビー級のパンチが俺ちゃんに牙をむいたから」
「意味わからんわ」
話が通じないであろう赤いコスチュームを着た無責任ヒーローに構ってられないと判断しベットから降りようとしたが…何故か下半身は動かせずテープでぐるぐる巻きにされていた。
「…オイ何だよこれ」
「だから言ったでしょ。お話タイムだって…聞き終われば斬り離してあげる」
「オイ字が違うだろうが。俺の上半身と下半身を切り離すとかは無しだぞ!」
「オイオイオイオイ!俺ちゃんがそんな野蛮なことすると思ってんのかよ」
「してるだろうが!…あっでもお前は映画だとされる側だったな」
「あっ!テメ!言っちゃいけねえことさらっと言いやがったな!」
「どうでもいいからこれ外せこのファッ…」
「あ~ちょちょちょちょ!いいかいこの話はお子様向けにも作られてるんだ。だからダメだよFの付く言葉はオマ〇〇(ピー)オチ〇〇(ピー)白ワインは一杯まで」
赤いコスチュームの男は手に何やらリモコンのような小さなものを手に持っている。一樹は黙ったまま男と手に持っているリモコンを二三度見て口を開く。
「…それ自分でやってんのか?」
「ああ」
「変じゃねえかだって(ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)やめろこの野郎(怒)」
「……ゴメン」
オチはない
本編スタート
一樹の過去の終止符を打ち込んで数日が経った。店は無事に元に戻り、無事に元の日常を取り戻した。
だが、一樹は色々な事があり過ぎて疲れている。一樹一人の人間だ。どれだけ頑丈な身体を持って、世話を焼くのが好きな人間でもストレスは溜まっていく。しかも現在一樹は一般人に暴力を振るったということからボクシングジムの出入りを禁止されていた。
そんな一樹は何時も6時には寝床から目を覚まし、ロードワーク行い仕事の準備をするのだが…この日は10時まで起きなかった。
「ふぁぁ〜…寝みぃ…」
ボサボサになった髪の毛をわしゃわしゃとかきながら階段を下り綺麗になった厨房の冷蔵庫からミネラルウォーターをとってキャップを開けるとそのまま一気に飲む。
その姿は休日を楽しむ中年サラリーマン。一樹はまだ覚醒仕切ってない意識の中、ミネラルウォーターを冷蔵庫の中に戻す。
「ハァ…」
数日の出来事がきっかけなのか、一樹の身体は重く、だるかった。別に熱がある訳じゃないが、それでも一樹は疲れていた。
アイドル達も疲れているであろう一樹気遣い数日合わないようにしている。りあむも何時もこの喫茶店にいるわけじゃない。仮にも彼女もアイドルだ。だから仕事のオファーは積極的に受けるようにしていた。というか一樹に1度相談した上で受けている。
そんなみんなが気を使ってくれたのは凄く嬉しい。この数日ぐっすり眠り、ぐっすりと身体の疲れを癒そうとした。だがどうだろうか、なぜだか凄く身体がだるい。
「…ハァ…本でも読むか…」
一樹は自分の部屋から本を取り、コーヒーを啜りながらその本を読みふける。
カチッ…カチッ…一階の店から聞こえるのは時計の針の音のみ、一樹は伊達メガネを掛けて『魔法剣士ゲラルト』の本を読み続ける。
「はぁ…何度見てもこの本はいいなぁ…」
彼のお気に入りの本はこの本。後に『ウィッチャー』と言われる本だ。
「確か、これゲーム出てるんだったよな…買ってやってみるか…」
この本の大のファンである一樹は心の中でスペックの高いPCを買うことを心に誓い、本を閉じる。
「…もうこんな時間か」
時計に視線を向けると既に時計の針は16:00を指している。相当な長く本に没頭していたらしい。
「…メシ作るか…」
りあむも時期に戻る。一樹は厨房に立ち、エプロンを付けて包丁を握る。
「やっぱり何かしてる方が性に合ってんのかな?」
包丁をリズミカルに音を鳴らしている一樹の顔は笑っていた。
一時間後には食事が完成し、さらに仕事が終了したりあむが卯月、みく、末央、幸子、文香と合流したらしく、みんなで夕食をすることにした。今日の夕食は唐揚げとサラダとみそ汁。唐揚げはりあむたちが帰ってから揚げているためアツアツにできている。外はカラッと揚がった衣で噛んだ瞬間、中は火が通っているが肉は柔らかく肉汁が口の中にあふれてくる。
「おいしぃ~!」
勿論みんなは絶賛。唐揚げは山の様に作っていた唐揚げはみるみる皿から無くなっていき、ついに無くなる。
更には釜の中にあった八合ほどあった米はスッカラカンである。
「いやぁ~お兄さんは料理はおいしいし家事はできるし、しまむーが羨ましいよぉ~」
「えへへっ私にはもったいないお兄ちゃんです!」
「それはこっちのセリフだ」
マグカップについだコーヒーを全員に配り終え、一樹は机に座りコーヒーを飲む。
「俺からしてみれば出来のいい妹だ。俺には勿体ないほどだ」
「ですが、お兄さんは面倒見がいいというか、本当にみんなのお兄さんって感じがしますよね」
「…まあ、な」
コーヒーを一口飲み、マグカップをゆっくりと机の上に置いた。
「愛情ってものがどういうものなのかって言われると俺はよくわかってない。俺自身が愛情を受けたことなかったからな。だから、俺は人に愛情を与える側になりたかった…これじゃあ理由になってないかな?とにかく、俺は愛情っていうものを与えたいと考えたんだ。良くあるだろ。愛情を与えて貰えなかったから、道を踏み外す人間がいるって。俺は一時期足を踏み外したからこそ、愛情を与えて真っ当な人生を歩んで欲しいだけさ」
電子タバコを口に咥えて煙を吹かし、一樹は伊達メガネを取り外し机の上に置いた。
一樹の過去に何があったかは全員が知ってる。実の母親に捨てられ、そして実の母親に裏切られた。それでも一樹がねじ曲がらず真っ直ぐ道を歩めたのは島村家とボクシング出会いが大きいだろう。だからこそ、ここにいる全員は一樹の考えを理解した。
「でも、お兄さんってなんだかお母さんって感じもあるよね。なんだろう…母性というか」
「まあ、昔からそんなこと言われることもあったな…」
「確かにお兄ちゃんはママって感じもします。昔お兄ちゃんに耳かきを頼んだ時は、安心して眠っちゃったんです!」
「ば…お前…!」
卯月の口から出た耳かきというワードに恋する乙女たちはピクっと動いた。
耳かき。耳垢を取るための耳掃除。耳垢取るという行為自体は何の意味もないのだが、耳かきをする一番の理由は『気持ちがいい』という快感を得るための行為である。
昔は母親にして貰った事があるが、中高生辺りから母親に頼みづらくなり自分で耳かきする人間が大半だ。
「この前もしてもらって時、私お兄ちゃんの膝枕のまま寝ちゃってて」
そしてここで爆弾発言を恥ずかしがりもせず投下する卯月に対し、一樹は「あ〜…」と頭を抱えた状態になる。
「「「お兄さん!」」」
恋する乙女たちは身を乗り出し一樹に迫った。
「は、ハイッ!?」
「「「私にも(みくにも)(ボクにも)是非、耳かきを!」」」
「oh......」
一樹は困惑してしまった。
取り敢えず、という形でまずは食器類を片付けている。一樹。厨房では一樹と未央が隣で一緒に食器を洗ってくれている。
厨房から見える少女たちは互いに可愛らしく睨み合いながら下を向き紙とペンを動かしている。
「何やってんだあれ…」
「あみだくじだって。誰が最初にするか決めるための」
「卯月め…余計なことを…」
全ての皿を洗い終わった一樹は手拭いで手に着いた水滴を取り、隣で皿に着いた水滴を拭き終わった皿を食器入れ棚に戻し、エプロンを外しカウンターに戻り電子タバコを取り出し中にあるカプセルを取り出しそのカプセルに液体を入れる。
「で、誰が最初なんだ?」
電子タバコを起動させて口を付けて煙を吸い上げる。
「はい!可愛いボクが最初です!」
~次回予告~
耳かきをしてもらうアイドルたち。しかし、彼女たちは予想もしない!このあとどうなってしまうのか!?
そして、ついに京介の二回目の試合が決まる!
次回!Round.24「その男、身体は鋼!心は母性!」
一樹「ネタみたいな次回予告だなオイ」