島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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…あれ?これ龍が如くだったっけ?




Round.21

~一樹side~

 

俺のせいだ…!俺の不注意でりあむに危険な目に合わせてしまったッ!全ては俺の身から出た錆。俺は走った。自分の店に戻りりあむの姿が本当にないか確かめるために。

 

戻ってみると、喫茶店は前の姿をしていなかった。蹴破られたであろうドアや割れた窓ガラスや皿のガラス。椅子やテーブルは無残に壊されていて木の木片が部屋の床に落ちている。

だが俺はそんなことどうでもよかった。りあむに与えた部屋を開けてみるとそこにはりあむの姿はなかった。

 

絶望という闇が俺の心を蝕み出した。

 

全ては俺のせいだ…あの女が現れた時すぐに決断を出さなかった俺のせいでこんな結果を出せなかった。冷徹になれなかった俺の落ち度だ!

 

俺の心はあの時迷っていた。今の家族が俺にとって本当の家族だ。

俺のぽっかり空いた心の隙間を埋めてくれた大切な恩人であり、大切な存在。だが俺はあの女の口車に心で俺の安っぽい情が俺の心を迷わせた。

 

『このまま肉親を見殺しにできるのか?』

 

などという感情を捨てきれなかった。

 

結果断るという答えを導き出した俺だったが、それでも、あの時、あの瞬間に答えを出すべきだったんだ!

そうすれば結果は変わっていただろう…。

りあむにとっての俺は恐らく良き理解者であろう。彼女の手首のリストカットをしたという事実、認めてほしい、存在を証明したいという昔の俺に似た境遇ゆえに彼女は全てを吐き出し、俺を慕ってくれていた。

 

だが結果としてどうだ?

 

彼女を守るためにこの店において置いた結果がこれだ。

怖い思いをさせた上に危険な目にもあった。彼女を見守り導くはずだったのに結果として俺の足かせのようなことになっている。

 

俺を慕っている彼女のことだ…俺の足を引っ張り申し訳ないと考えているだろう。だがそれは俺も同じこと。

 

俺は彼女に合わせる顔がない…正直今の状態ではどうしようにもできないのは明白だ。

 

俺は通帳を取り出して残高を確認する。

 

これまでのファイトマネーや俳優出演料、この店の売り上げや予算などを全部総合して置いている自分自身の蓄え分の通帳の中に入っている金は合計3000万。

これがなくなれば文字通り俺は一文無しの上に店を畳むことになるだろう…だがりあむの安全のためなら俺はそれでもかまわないと思っている。しかしこの金を持って行っても約束の金にはなっていない。あと2000万必要なのだ。

 

警察に言えばりあむの安全は保障されない。かといってこのことを他の誰かに言った瞬間周りはパニックに陥り尚且つ警察の耳にも入りそうだ。

迂闊な行動ができない。俺は頭を抱えて悩んだ。常連客がこの店の惨事を知れば必ず警察が駆け付ける。その上俺は居れば必ず事情聴取にも入ることになる。今こんな状況でそんなことになるのは時間的に惜しい。

 

俺は通帳や貴重品などを荷物入れに入れて店を出ることにした。

 

逃げるわけじゃない。りあむを置いていくつもりもさらさらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は急いでこの場から逃げるように走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一樹が帰らなくなり既に二日経った。当然店は警察に通報されており警察により卯月たちは事情聴取を受けることになった。

346プロダクション内の緊張も高まっていた。一樹の店は謎の襲撃を受け、りあむと一樹も行方不明だ。誰もが心配と不安に駆られた。

 

外では曇り切った空から雨が降り、雷が鳴っていた。そんな状況の中、静まり返ったプロダクション内。中には職員でさえこのことで手が回らない状態になっていた。

 

「大丈夫かな?お兄さん…」

 

末央の一言を聴き、皆はさらに顔を暗くさせてしまう。不安だ。心配だ。恐怖すら感じる。

 

一番信頼して頼りのみんなの兄がいなくなる。それは歳儚い少女たちの心には大きな不安しか残らない。

 

雨は強さを増していく。それは、今の少女たちの心境を現すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、ある人気のないところに一軒の事務所が立っていた。

 

そこに雨に打たれながらそのビルを見上げるフードを被った青年の姿があった。

青年は握りこぶしを固め、その事務所に入るために歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

「待ってろりあむ…すぐに助ける…」

 

フードが風で靡き、青年の素顔をあらわにした。

 

前までのやさしい顔をした母性にあふれている一樹の姿はそこにはなく、唯々眼前の守るものの為に鋭く冷徹な目つき、殺意や憎しみを満たしたどす黒い犯罪者のような顔をした、一樹の姿がそこにあった。

 

一樹は意を決し、建物のドアノブに手を置き、ゆっくりと開いた。

 

扉を開くと数人のガラの悪い男どもが立っている。そして一樹に視線が集まり目の前まで歩いてくる。

 

「…どちらさんでしょうか?」

 

ドスの聞いた声で男は一樹に問いかける。普通の常人ならここで逃げ出すだろう。だが今の一樹にはそんなものは通用しない。一樹は男たちをにらみながら言葉を口にしていく。

 

「…下っ端には用はない…上のモン出せ…」

 

「…んだと?」

 

その言葉を聴き三人ほどの男あたちが一樹を取り囲むように立った。

 

「…痛い目にあいたくねえなら回れ右してさっさと帰れや。最後のチャンスだ」

 

「そうか…チャンスをくれるのか、だが俺はやさしくねえからな。一度しか言わなかったぞ…」

 

バチィン!!

 

一樹の目の前の男の顔にはいつの間にか拳が突き刺さっていた。

 

「あ…りぇ…?」

 

殴られた本人でさえ気づかなかった高速に繰り出された左ジャブ。だがその拳は固く、力強く握られていた。

 

殴られた男はそのまま後ろに倒れこみ、鼻から鼻血をダラダラたらしながら気絶した。

 

「て、テメー!」

 

職員の一人が倒されたことにより他の職員は拳を構えだす。

だが一樹はそんなことを気にせず、ただ眼前の敵をにらみ続けた。

 

「こ、こんなことしてただじゃ済まされねえぞ!テメープロのボクサーだろ!?こんなことしたら資格剥奪だぞ!?」

 

「それがどうした…目の前で大切なもん守れずに何が兄貴だ…何がプロボクサーだ…栄光の為に守れるものが守れねえんなら、俺ぁ資格なんてどうでもいい…社会復帰できなくても、自分の名前を捨てることになっても構わねえ…」

 

「な、なんだコイツ…!狂ってやがる…!」

 

「かかってこいや…テメーら全員皆殺しだ…!」

 

狂気にかられた男の拳が赤く染まり、外では雷鳴が轟く。

 




~次回予告~

事務所に殴り込みをかけた一樹。りあむを助けるべくその拳を喜んで血に染める。
その先に待つのもの一体何なのか?

守るものとはなんなのか?

次回Round.22「守るもの」

次回をお楽しみに!

ボックス!!

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