島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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今回からシリアス展開!
しかもアイマスもボクシングも関係ねえ!!

りあむちゃん参戦の由来は番外編「アイドル達の出会い」その2をみてください!


Round.20

京介の次の試合が決まった。

試合は11月20日。試合相手は京介同様アウトボクサー。ジムでビデオを見た限りはアウトボクサー系の動きだった。

京介はこれを見て猛特訓。一樹もそれに釣られるように特訓に励むようになった。

 

そんな一樹だったが、久しぶりに一樹は家族団らんを楽しむために自分の店に家族を招いて貸し切り状態にした。一樹は腕によりをかけた料理を家族の元に出した。

 

「おまたせ」

 

一樹が手に持っているのは『カレーライス』だ。それは一樹がこの家族に救われるきっかけを作ってくれたといっても過言ではない義母のカレーライス。直接義母から教えてもらった一樹の一番得意とする料理。

 

「ふふっ、なんだか昔を思い出すわね」

 

義母の言葉を聞き、家族になった日のことを懐かしむ。

 

「やめてくれよ義母さん…昔のことを出すなんてさ」

 

「確かに、あの時の一樹の泣き顔は忘れられないな」

 

「義父さんまで…」

 

そんな島村夫妻のからかいを受ける一樹はカレーを一口口に入れて照れ臭そうにする。

 

「でも私はあの日は大事な記念日だと思ってます!お兄ちゃんが家族になった大切な記念日です!」

 

そう、今日はその記念日。一樹が家族になった日だった。島村一家はこの日を記念日にし、毎年こうやって集まり家族団らんする日にしているのだ。一樹と同居しているりあむは流石に家族団らんを水差したくないと店から出ている。

 

一樹にとっては特別な日なのだ。

 

初めて家族と呼べる者ができ、

 

初めて家族と温かいご飯を食べ、

 

初めて人前で泣いた日。

 

「そうだな…」

 

一樹は懐かしそうな目をして皿に乗っているカレーをじっと見つめる。

 

「(いいなぁ…心地いい…)」

 

心から温かいものが胸の中からあふれるようなこの気持ち。一樹はこの時間が何より好きだ。ボクシングをしている時間より、俳優としてドラマ撮影している時よりもだ。

 

 

 

 

 

だが時にはその幸せと呼べる時間を壊すことも人は意ともたやすく行うことができる生き物なのだ。

 

カランカラン。

貸し切り状態と書かれているはずの店のドアが開く音が響き渡った。現れたのは女性と男性の二人組。

 

男性は中背小太りの小金持ちそうなガラの悪そうな男。女性は厚い化粧で身なりを整えた中年くらいの女。無断で入ってきた二人に島村一家の視線が集まる。

 

「何だ…?」

 

「お兄ちゃん…」

 

卯月は一瞬でその二人の違和感を感じたのだろう、一樹の服をキュッと握りしめる。

一樹は明らかに堅気の人間とは思えない二人の違和感を感じ取り、家族に手を上げさせないために立ち上がりその二人の前に立った。

 

「申し訳ありません。本日は貸し切り状態でして、御用なら後日改めて伺いますが…」

 

少し睨みを聞かせて一樹は二人を威嚇する。だがこんなもので二人は動じないだろう。もし手を上げるようなことがあれば、一樹はすぐにでも拳を握る。今はプロボクサーである一樹だが家族の危機ならプロの資格剥奪なんてどうでもいい。

 

「…逞しくなったわね…一樹」

 

厚化粧の女性がしゃべると

 

「はっ?」

 

一樹は拍子抜けな返事をしてしまう。

 

「まあ、覚えてなくて当然ね…アンタはまだ幼かったもの…」

 

幼かった。その言葉を聞き一樹の思考がすぐに理解した。できれば理解したくなかった。だがしてしまった。一樹の身体に電撃が走った感覚が起きた。

 

「…まさかだが…」

 

「そうよ。お母さんよ一樹」

 

その時、一樹の足元から何かが落ちるような感覚が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の時間は夕方18:00。りあむは頃合いを見て店に戻る手はずになっている。店の中は誰もいない。りあむは一樹から渡された合鍵を使い店の中に入る。

 

「ただいま~…お兄さぁ~ん…お腹空いたぁ~…」

 

ゆらゆらと厨房付近まで近づき声を上げるりあむだったが、店からは返事が返ってこない。それどころか人の気配が感じられない。

いつもならこの時間には一樹は夕飯の支度をしているはずだったのだが、厨房には誰もいなければここ数時間調理された痕跡はあるものの、調理器具が大雑把にその場に残っていた。

いつもなら料理しながら調理器具を片す一樹にしては珍しいことだった。

 

「…お兄さん…?」

 

一樹のことも心配だが自分の空腹をどうにかしたいのも事実。りあむは冷蔵庫の中身をあさるために冷蔵庫の扉を開ける。

 

「おお…!」

 

りあむの目に入ったのはラップで包まれたおにぎりが4つほどあった。そしてそれに備え付けるように

「りあむへ

 

 少し出てくる。帰りは遅くなるからこれを食べていてくれ

 

一樹より」

 

と置手紙もあった。

 

「やっぱりお兄さんすこぉぉ~!」

 

りあむはさっそくそのおにぎりを取り一口食べる。

 

「あむっ!……ん?」

 

そのおにぎりを食べた瞬間、口の中から甘みが広がった。

 

「…塩と砂糖…間違えてる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は22:00と遅い時間に一樹はいつもロードワークをしている土手道で一人黄昏ていた。

 

あれから一樹の心は最悪だった。母と名乗る女性。だが一樹はその人物が母と名乗った瞬間理解した。本当の母なのだと。

その母から告げられた言葉「家族に戻りましょう」一樹はそのことで頭がいっぱいになっている。明日のトレーニングのこととか、ドラマのこととかそんなことはもう頭にはなかった。

その日は卯月たちを帰してからずっと考えていた。

 

勿論一樹は今の家族が大事だ。だから実の母の誘いを断る気ではある。だが一樹は感じてしまった。

 

『本当に自分のことを思い迎えに来たとしたら』

 

「(考えたくねえ!!あいつは俺を捨てたんだッ…!!情を捨て去れ…!!)」

 

だが、決定的だったのは次の言葉だった。

 

『お母さん癌になったの…もう長くないって言われたわ…だから、最後に我が子と思い出を作りたいの…お願い…家族に戻って…』

 

実の肉親が癌。そして余命まで告げられた。

片手に持っていた電子タバコからカチカチという音が鳴り、ヒビが入り始める。やがて一樹の感情をあらわにするようにプラスチック部分が壊れそこから電子タバコ専用の液が雫となり地面に落ちた。

 

「(だが…何故俺の心は迷っている…!)」

 

 

その日、一樹は家に帰らなかった。

 

次の日、あるファミレスにて一樹は朝早くからコーヒーをすすりながら目の前の女性の話を聞いていた。今回は実の母一人だけ。昨日いた小太りの男性はいない。

久しぶりの家族水入らずと気を利かせたのか、それは定かではない。

 

昨日一樹の店に現れた女性だった。

 

「…昨日のこと…考えてくれた?」

 

「俺は…今の家族が大事だ…だから俺は再び櫻田として戻る気は、無い…」

 

「…つまり、戻ってはくれないってことね」

 

「…嗚呼…俺は…『島村一樹』だ…」

 

その言葉は精いっぱいの勇気を振り絞った結果だ。確かに一樹の実の母は幼い一樹に手を上げていた。そのうえ育児放棄に近いことをし続け、一樹を捨てて家を出た。だからと言って目の前で肉親を見殺しにして孤独のまま死んでくれと言っているのだ。

だが一樹も悩んだ。悩んだうえでの結果だ。

 

酷い親だったが、死期が近い肉親である母親にこんなことを言うのは酷だ。そう思うのは、一樹に人情があり、勇気があるということだろう。

 

「……はぁ~あ…ざあんねんだあなあああ~~!!」

 

実の母はまるで挑発的にそんな声を上げた。

 

「…せっかくアンタから金を毟り取れるように穏便にしてきたつもりなんだけど…」

 

「…は?」

 

「まあ、断るならしょうがないわね。なら強硬手段に出るだけだわ」

 

母はスマホで何か操作をしている。そして一樹にスマホのモニターを見せた。

そこに映っていたのは

 

「ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

りあむッ!!」

 

 

 

 

スマホの画面には縄で縛り、タオルで口をふさがれて数人の男たちに囲まれたりあむの姿だった。

 

「テメー!!」

 

「おっと…大きな声なんて出したらお母さん指が滑ってメッセージ送っちゃうかもよぉ~?」

 

スマホの画面を見るとメール製作画面に入っている。そのメールの内容には「その子は勝手にしていいわ」とメッセージが作られている。

 

「クッ…!!」

 

「言っとくけど、警察に言ってもこの子の安全は保障しないわ」

 

急展開過ぎて頭が回らないものの、今の状況を何とか理解する。今りあむは人質に取られている。だとしたら一樹は彼女の安全為にじっとするしかない。

 

「…何が望みだ…!」

 

「そうねぇ…アタシは今お金に困っててね、現金で5000万」

 

当然そんなお金は一樹にはない。しかも現金となるとすぐに用意できるお金でもない。

 

「そんな金はねえッ…!」

 

「ウソつきな。アンタプロボクサーの上に俳優してるんでしょ?ガッポリ稼いでるでしょうが」

 

「実の息子から金を毟り取るなんて…アンタ何考えてやがる…!!」

 

「実の息子だろうが可愛いのは自分自身よ。自分が生き残ればどうでもいいわ。子供なんて、いつでも作れるわ。三国志の劉備も、自分の子供より部下の安否を心配してたでしょ?あれと同じよ。今回は私が可愛いから子供を犠牲にするだけよ…」

 

一樹は静かに怒りを湧きあがらせる。

 

「こんの…クズがっ!」

 

「なんとでもお呼び…3日間猶予を上げるわ。それまでに金を用意しなさい。できなかったら…彼女の安全は保障しないわ…ウチには未成年でも興奮する男もいるからねえ…アンタの今の家族の妹もウチの男どもに受けそうだわ!」

 

「卯月に手を出してみろ!俺は顧みねえぞ!テメーを殺してやる…!」

 

「おぉ~こわっ!そんな息子に育ってお母さん悲しいわ…。マッ、お金のことはよろしくね~ん♪」

 

一樹の母親は席から立ち手をヒラヒラと振りながら店を後にした。

 

「チクショウ!!!!」

 

テーブルに拳をぶつけるとテーブルに大きめのへこみが作られた。怒りのあまりに握りしめる拳から血がにじみ出る。

 

「りあむ…ッ!!」

 

一樹は店を後にし、走り出した。

 




~次回予告~
実の母の裏切りによりりあむを人質に取られ3日間の間に5000万を要求される。

しかし誰の救援も受けれないこの事態に、一樹はどうするのか!?

次回Round.21「乱闘」

次回をお楽しみに!

ボックス!!


因みに、今回のお話はとある方から聞かせて頂いた実話を元に作らせて頂きました。本人にも許可をとっています。

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