島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ 作:伊吹恋
「生き残りたいんなら、銃は撃てるように安全装置を外しな。次に俺を狙うときにも、腐った死体どもを倒す時も」
ボウガンを背負った男は少女に優しく言い放ち、そのままバイクに跨り走り出す。
そのシーンが終わると監督のOKサインが言い渡される。
「はいーカットー!お疲れ様ー!」
一樹が次の試合の目安が決まるまでのドラマ撮影は5話目の放送分を撮り終わった。撮影が終わると一樹は汗を流していた額にタオルで拭い、ジャケットを脱いだ。
「一樹さん、お疲れ様です」
「ええ、お疲れ様です」
疲れ果てた一樹は水が入ったペットボトルの蓋を開けて中身の水を飲み干し、「ふう」と一息入れる。
俳優になってからか、とんとん拍子に事が進み過ぎたこともあり、生活リズムの変化に追いつけない一樹にとってはストレスが溜まらないといえばうそになる。今ではその鬱憤をサンドバッグに叩きつけるのが日課になっていき、パンチの力が少しだが上がったのは言うまでもないだろう。
だが人間は面白いことに慣れてしまえばそれは日課になっていき、今まで嫌だった俳優業にも無意識的に力が入っていた。
始めたころはその俳優としてのレッスンを受けていたのだが、トレーナーからは「ほぼ教えることがない」とか言われてしまい才能が無いのか?と無意識に落ち込んだこともあった。本当は才能がありすぎて教えることがないという意味合いだったのだが、それを変なように受け取った一樹はコンビニでエナジードリンクの『MONSTER』を買いすぎトレーナーから『モンスターハンター』とかおかしなあだ名をつけられたりもしていた。
だが今ではこうしてボクシングと俳優を両立させることに成功。だが本業はボクシングなのでそろそろ俳優業は一時的に休息をもらうことになっている。
「これでボクシングに専念できるな…」
と言ってもボクシングジムは346プロダクションに移転しているので移動時間には困らない挙句、喫茶店も近くに移転することになったため、時間短縮にはうれしい条件を付けられている。俳優業をしてから喫茶店の売り上げも大きく跳ね上がったのも事実だ。
「お疲れ雅です」
一樹の前にエナドリをテーブルに置いて話しかける女性。千川ちひろ。
彼女はこの346プロダクションの事務員で、武内Pのアシスタントだ。
「ちひろさんお疲れです」
「だいぶお疲れのようですね」
「まあ、そうッスね…」
「これからジムの方に行かれるのですよね」
「はい…次の試合もそろそろ決まるようですし、会長からそろそろ報告があるかと…」
「プロボクサーですか…卯月ちゃんはすごいお兄さんをお持ちですね」
「俺はそんな…ただ、俺は卯月にとって恥ずかしくない兄でいたいだけなんですよ。世間からの評価とかじゃなく、卯月が誇れる立派な兄に…」
「そういえば、島村さんは卯月ちゃんと義理の兄弟と聞きましたが、出会いのエピソードなんかはどんな感じだったんですか?」
「ふぇ?」
変な声を出してしまう一樹にちひろは興味津々という顔で一樹を見ている。
一樹は首筋に手を当てながら、目を閉じ、当時の出来事を思い出しながら口を開く。
「そう…スね…話は長くなりますけど…俺と卯月の出会い…ボクシングをして出会いました。あれはもう十年くらい前かな…」
~十年前~
当時島村一樹は島村の姓ではなく『櫻田一樹』という名前だった。櫻田一樹に親はいなかった。親は一樹が5歳の頃に一樹を置いてどこかに出て行ってしまっていた。小さなマンションに一人取り残された一樹は当時5歳と物事も何も考えられない年頃だった。当時のマンションの大家さんの話によると、母親はいつも派手な服を身にまとい街に繰り出しては見知らない男を部屋に入れるのを見た。そして朝にはその見知らない男が出ていくのも見ているとか…
そうなると一樹の扱いは誰にでも想像ができる。コブ付きの女性の家に男が入り何も思わないことはない。大方一樹を押し入れやらに押し込んでいたのは想像がつく。珍しく外に出る一樹の顔には殴られたような痣もあった。虐待を受けていたのだ。そしていよいよ本格的に一樹が邪魔になった一樹の母親は一樹を捨てて家を出ていった。
何時間経とうと、何日経とうと母親の帰りを待つ一樹。だが現実は悲惨にも一樹の母親は帰ることはなかった。不憫に思った大家は一樹を孤児院に入れることにした。
だが、一樹は孤児院の人間に心を開くことは無かった。いつも一人で誰とも遊ぼうとも会話をしようともしなかった。彼が小学校に入ったころには荒れに荒れ果てていた。小学5年生の頃には暴力的行為を行うようになっており、父親の顔は知らず母親から愛情を受けずに育った一樹は荒んだ少年時代を進んでいた。髪は現在の様に整われたポニーテールではなく、ずさんに伸ばしオールバックの姿。服装も制服をだらけた様に着こなし、チンピラ風の服装だった。
そんな彼がボクシングと出会ったの中学校に入ってすぐだった。
彼は中学校の番長的なポジを獲得していた。
ある日、路地でケンカをしていた。一樹は相手を拳でぶちのめし、再起不能状態の所胸倉を掴んでとどめの一撃を与えようとしていたところをある男に止められた。
「やめろ…」
「…」
年齢的には40代後半の男性。だが彼の瞳には老いを感じさせない熱意の塊のようなものが宿り、体もスーツ越しにわかるほど鍛えているということがわかるほど筋肉がついている。そう、彼こそ『里中ジム会長 里中重蔵』だった。
「んだよ、関係ねえ奴はすっこんでな…」
「そうはいかんな。男子たるものケンカもするのはいいが、もう相手が立ち上がれないところに追い打ちを仕掛けるような奴を見過ごせん」
「んだと…」
一樹は胸倉を掴んでいる学生を離し、里中と正面たち睨みつける。だが、里中は動揺しているような様子はなく、まっすぐ一樹を見つめていた。
「すっこんでな…ジジィ。俺は今機嫌が悪い…これ以上邪魔すんなら…コロスぞ…」
「ハッ、小童の脅しになんか屈するほど老いちゃいねえよ」
その言葉がカンに触ったのだろう。一樹は拳を里中に向けてはなった。だが、その拳は簡単に片手で止められた。
「ッ…!」
そして目にも止まらない速さで繰り出された里中のもう片方の拳は一樹の目の前で止まった。
これが一樹が見た最初のボクシングのワザ…『ジャブ』だった。
「どうだ、こんな老い耄れでもお前の拳を止めて反撃することもできるんだ…しかしお前の拳も実に重いな。力任せとは言え、片腕で止めたとき骨の髄まで響くこの感じ…おめえ、良いモン持ってんじゃねえか」
掴んだ拳をそのまま撫でるように触る里中の手を振り払う一樹の額には汗が溜まっていた。その汗は次第に頬を撫で、滴り落ちる。
「……」
「ケンカばかりも良いが、その有り余ったエネルギーを別の手に使うのはどうだ?」
里中はスーツの内側に手を入れてそこから一枚の小さな紙を差し出す。そこには里中ボクシングジム会長と書かれた名刺があった。
「…アンタがボクシングジムの…会長?」
「ああ、こう見えて昔はプロだったんだよ。私は」
「…プロボクサー…」
「興味があったら連絡しろ…それと、拳を使うときは守るものの為に使うものだ。一方的な暴力のためじゃなく、守りたいものの為に使え。なんでもいい。家族のためでも、自分のためでも、金のためでも栄光のためでもいい。お前の手のひらはただわけわからず血に染めてるにすぎないぞ」
手をひらひらと振りながらその場を立ち去る里中の背中をただ静かに見つめる一樹。手渡された名刺をくしゃくしゃと丸めてポケットに手を突っ込んだ。
「テメーに俺の何がわかんだ…」
文字通り孤立無援。誰からも助けを受けたことのない一樹にとって、愛情を知らない一樹にとって初めて説教をしてくれた人が里中会長。里中の言葉は一樹の心に重い錨を海に投げ入れた様にずっしりとのしかかった。
転機が訪れたのは夏休みに入った時だった。
いつも一人の一樹。誰ともつるまず。ただ一人で街をプラプラプラプラしていた時、ふとコンビニに張っているポスターを見た。
『ボクシングフェザー級試合』そこには名前と里中ジム所属と書かれていた。試合は8月14日。興味が出たのか、気まぐれか、一樹はその試合を見に行くことにした。
試合当日、里中ジムの選手は劣勢だった。相手のフットワークに翻弄され打たれ続け満身創痍状態。
だが、最終ラウンドに入っても里中ジムの選手の闘志は消えてなかった。燃え盛るような決意。絶対勝つという闘志は燃えてなかった。最終ラウンド、相手は満身創痍の選手にとどめと言わんばかりに右ストレートを真正面に放った。だが、里中ジムの選手はそれを逆手に利用。クロスカウンターを相手に打ち込んだ。
相手選手はダウン。動こうともしていない。レフェリーが状態を見るが手を大きく上げて振った。試合終了の合図。見事里中ジムの選手は圧倒的劣勢の中で勝ったのだ。その時、一樹の目には涙が流れていた。
「…俺も…あんな風になれんのかな…」
一樹はくしゃくしゃにした名刺をポケットから出した。
次の日、一樹はずさんに伸ばしていた髪をハサミで切り短く整え里中ジムに向かった。
一樹はこの時、ジムの門を通った。そして彼は孤児院を出てジムに泊まり込みで通った。もちろん学校にもちゃんと行き里中会長の条件として勉学もちゃんと学び高校受験をちゃんと受けるように整えた。
そしてジムに通い一年が経過した時だった。
「お前、親はいないんだよな」
「昔に捨てられたからな…」
「そこでお前に相談なんだが…養子になる気はないか?」
「…は?」
「私が引き受けるんじゃないぞ。私の友人で島村という人間がいてな。彼に相談したら快くお前を引き受けたいというておった。どうだ?島村一樹として生きる気はないか?」
当然一樹は迷った。今の姓を捨てて違う姓を受けて生きる。だが一樹にとって櫻田とはタダの呪いに等しい名前。この名前でプロとしてデビューすれば永遠とこの名前が付きまとう。それだけは一樹は嫌だった。
「合わせてくれ会長…島村さんに」
島村家に呼ばれた一樹。一年前までチンピラの様に来ていた制服をちゃんとした姿で着こなし、髪も整えた姿で島村家のインターホンを押した。
「はぁ~い!」
女性の声が家の中から聞こえ、ガチャリと開いた。そこから現れたのは島村家の母のちに一樹の義理の母になる女性だった。
「あら、いらっしゃい!話は里中会長から聞いてるわ。ささ、中に入って」
一樹が来ると島村夫妻は快く迎えた。笑顔で見ず知らずの少年を歓迎してくれた。
「……」
そして島村母の後ろに隠れるように一樹を見ている少女。一樹は警戒されないように小さく手を少女に向かって振ってみると、少女も手を振り返してくれた。そして一樹の前にてくてく歩き、少女はペコリと一礼した。
「しまむらうづきです!よろしくおねがいします!」
「さ…」
一樹は自分の名前を口にしようとしたが、それを躊躇する。櫻田の名前をこの少女に教えたくない。自分の穢れた名前をこの無垢な穢れを知らない少女に教えたくない。そう思った一樹の口から申し出を受ける決意を固めた。
「島村一樹です。よろしくお願いします」
食事の準備をしていたらしく、一樹も食事の席に座った。
「さあ、食べなさい。島村家特性のカレーライスよ」
「い、いただきます…」
スプーンにカレーをすくい口に含んだ。初めて食べた誰かの愛情のある手料理。孤児院でも、飲食店でも食べたことない料理を口にした一樹はか細いほどの小さな声で
「美味い……」
小さくつぶやいた。そして瞳から流れる涙。愛情を受けたことない一樹にとってその愛情に包まれたカレーは心から『美味い』という言葉を吐き出した。
涙を拭いそのカレーを一心不乱で食べた。恥ずかしい、プライドなんてものをすべてかなぐり捨てて一樹は大粒の涙を流し続けた。
「おにいちゃん、どこかいたいの?かなしいの?」
卯月は一樹に尋ねる。一樹は涙を流し続ける卯月を見つめ、つい思わず抱きしめた。
「ああ……痛い……嬉しい気持ちが溢れて痛い……でも悲しくないんだ…嬉しすぎて…暖かで……」
表現しきれない嬉しさが一樹を包んだ。生まれて初めて与えられた愛情は一樹の心を生き返らせた。
「一樹君。うちの家に来なさい。部屋ももう用意してるわ」
「……はい……俺は今日から、島村一樹として生きていきます」
~現在~
「荒れてた俺を更正してくれたボクシング…それをきっかけに与えてくれた家族…俺にとってボクシングは人生をかけてもいい程のことで、恩人みたいなものなんです。卯月と出会い、義父さん、義母さんには感謝しきれないんです」
「…人に歴史ありとはこのことですね。聞いてて感動しました」
目元にうっすらと涙をためているちひろは指でその涙を拭いながら言う。
「もう昔の話ですよ。でもあの時のことは昨日の様に思い出します。櫻田一樹は死んで、島村一樹として生きている」
「その頃なんですか?お料理するようになったのも」
「ええ、義母さんのカレーを食べたら勇気ややる気が出るんです。俺もそんな料理を作りたいと思って、料理を勉強し始めました。後にボクシングを引退したら喫茶店を出したいという夢も持ってましたから、一時的に引退した時は第二の夢を叶えたんですよ。他のアイドル達には内緒にしてくださいね。俺の過去の話なんて誰かに聞かせられるような大層なものじゃないんですから」
「あはは…それはもう遅いかと…」
ちひろが一樹の後ろを指さす。一樹は気になりその指さす自分の後ろを見ると、そこにはCPメンバーとドラマ撮影メンバーがこちらを見ていた。
一樹はビクゥッと身体を震わせると「ハァ…」とため息をついた。
「どこから聞いてた」
「ごめんお兄さん…最初から最後まで聞いちゃった…」
申し訳なさそうに凛が答えるとみな薄っすら目元が赤くなっている。どうやらよほど感動したらしい。
「まあ、知って困ることじゃない…単に俺の過去の話が嫌だっただけさ…」
「でも、救われてよかったです」
卯月の言葉に一樹はすぐに訂正の言葉を口にした。
「何言ってんだ。俺はお前に救われたんだぞ。お前に出会い、お前と言葉を交わし、俺は島村として生きていくことを選んだんだ。言ったろう。櫻田一樹は死んだ。そして島村一樹を生み出してくれたのは紛れもないお前や義母さんや義父さんだ。感謝してもしきれないぐらいな。それに、お前らにも感謝してるぞ」
一樹の言葉を聞き、その場のアイドルたちはなんのことだというような顔をしている。
「ボクシングを引退してた俺は抜け殻だった。そんな俺を救ってくれたのは卯月を含めたCPメンバー…それにお前らアイドルたちが俺の闘志を呼び覚ましてくれた。お前たちの言葉がなければ俺は今もこうしてボクシングなんてやってなかったし、こんな風にドラマの撮影なんてこともしてなかったんだ…嫌々だったとは言え結構楽しいんだぜこの生活。小さなきっかけだったのかもしれない。だけど、俺にとっては大きなことだったんだ。だから言わせてくれ。『ありがとう』」
立ち上がり正面向かって頭を下げる一樹。それほど彼女たちの存在は一樹にとって大きすぎた。彼女たちの声が心に届き、ボクシングを再びさせてくれた。一樹にとって返せないほどの恩がこのアイドルたちにできたのだ。一樹はこのことを生涯忘れることは決してない。彼女たちは一樹にとって仲間であり信頼できる友人と化した。
そんな一樹からの信頼を受け取ったアイドルたちは一堂に照れ臭くしている。だが、卯月だけは違った。
「お兄ちゃん!」
卯月は一樹に飛びつく。一樹もそれを受け止め、卯月の髪をやさしく撫でる。
「何があっても、どんなことがあっても一緒です!」
「嗚呼、俺もお前らと離れるつもりはないよ…俺は島村一樹だ。誇れるようなことはない。俺はただただ前を見つめ正しいと思ったことをする…それが俺の、お前らに対する恩返しだ」
「「「おにいさああん!!!」」」
ついに感極まったアイドルたちは一斉に一樹に飛び込んだ。
「Oh…そんなにイッペンには受け止め切れな――――――」
そこで一樹の意識はブラックアウトした。最後に感じたのはドタドタドタという音と何やら柔らかいものが顔や腕や足やらに当たった感触のみ、だった。だが嫌な感覚はなく、一樹はただただ「幸せだなぁ」と思うことにした。
勿論ジムを休んだのは言うまでもなく、一樹は喫茶店に帰り営業準備をしていた。
時間は進み深夜11時。店じまいの支度をして食器を片付けていた頃、店の入り口からカランカランとベルの音が耳に入る。一樹はこんな深夜から客とは珍しいと思いながらカウンターに姿を現す。
「すいませんね。もう店じまいなんですよ…って…お前…」
「久しぶりだな…一樹」
「咲耶…」
そこにいたのは橘咲耶。アイドル橘ありすの実兄である。彼もプロのボクサー。今では日本フェザー級の現チャンピオンである。
彼は一樹と共に高みを目指した者同士。一樹と試合したことがあり、その時は最終ラウンドまで行き僅か一点差で一樹が勝利した。お互いライバルと言える存在だ。
「お前が来るなんて珍しいな…」
「…繁盛してるようだな…ドラマのおかげか?」
「言うな。俺も受けるつもりはなかったんだ。だが周りの勢いに飲まれた…俺の不甲斐なさが招いた結果だ…」
「わかってるよ…お前はそういう人間だ。どちらも両立させてるんなら俺は文句は言わんさ」
「そうかい…何か飲むか…積もる話もあるだろう…」
「ああ…」
一樹はビールが入った瓶を二つほど出し、二つのコップにビールを注ぎ、互いに乾杯する。
「お前とこうやって飲むのも何年ぶりだ?」
「2年ぐらい前じゃないか?お前の店で飲んだ…」
「そうか…」
「…」
「…」
会話が続かず二人は黙々とつまみを食べながらビールを飲む。
互いに気まずいような雰囲気が漂う中、口を開いたのは一樹からだった。
「妹の方はどうだ?ちゃんとしてるか?」
「ああ、相変わらずって感じだ…お前の方はどうだよ…」
「こっちも同じようなもんだ。お兄ちゃんお兄ちゃんって付いてくる。いつになれば兄離れできるのやら…」
「うちもそうだ…兄さま兄さまって言ってな…」
「「ハァ…」」
変なところで共感を持つシスコンブラザーズは深いため息を漏らしながらビールを飲み干す。
「そういえば、お前最近変わったことなかったか?」
「ドラマに出て俳優になった」
「違うそうじゃない」
一樹のボケを華麗にさばいた咲耶は少し身を乗り出し一樹に問いかける。
「この前お前を探してるって人間が現れた。一応知らないと答えたが…お前恨まれるようなことしたのか?」
「昔だったら思い当たる節はある。だが今はわからないな」
「そうか…なんかよくわからん男と女の二人組だ。男は中肉中背の小金持ちって感じの男だった。女は分厚い化粧をしてて派手だった…気を付けろ…それを伝えに来たんだ」
「そうか…助かったよ。気を付けるようにする…」
「そうしてくれ…勘定頼むわ」
咲耶が席を立ち、財布に手を伸ばしたが、一樹は手を前に出してその行動を制止させた。
「情報料として受け取れ。俺のおごりだ…それともう少し居ろよ。今からメシ作る。何も食ってねえだろ」
「…そうか、ならもう少し居よう」
ライバルと再会を果たし、二人の男は食事をして互いにくだらない話をする。それはひと時と言えど楽しい時間ではあった。
忍び寄る影の存在に気付かず……。
~次回予告~
京介の第二試合が決まり京介はトレーニングに励む。一樹も負けずと奮闘する中、一樹の元にある人物が現れる。その人物は一樹にとって切っても切れない人物だった!
次回Round.20「家族の絆」
次回をお楽しみに!
ボックス!!