島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ 作:伊吹恋
卯月のお昼ご飯である弁当を届けた一樹は卯月に手を引かれ346プロダクション内にあるカフェに連れてこられた。そこで一樹はコーヒーと軽く食べれるサンドイッチを注文して卯月と二人お昼のランチをしていた。
一樹は伊達メガネを取りサンドイッチを一口食べる。
「うん…!美味いなこれ」
一樹が頼んだサンドイッチはレタスにトマトとスクランブルエッグ状のタマゴを挟んだシンプルなサンドイッチ。だがそのサンドイッチには何か奥深さか何かを感じるものがあった。噛めば噛むほど甘みが出てその一口が再び食欲を掻き立てる。使ってる塩コショウが違うのか、それとも何かドレッシングのようなものを使っているのか、はたまた食材が新鮮だからか、こうして分析をしてしまうのは一樹の悪い癖なのかもしれない。だがそれを思わせるほどそのサンドイッチはおいしかった。
しかもサンドイッチは全部で4つある。男性である一樹からしたらこれ一つ注文すれば事足りてしまう。その上安い。これに尽きるであろう。この量で500円だ。学生が多いアイドル事務所だからなのだろうか?
などと考えているといつの間にか二つ目を食べてしまっていて、三つ目に手を伸ばしている。
「ここは繁盛してそうだな」
「はい!いつもは他のアイドルの方々がいて一緒にご飯食べたりお茶したりしてます!」
三つ目のサンドイッチを食べ終わりコーヒーを口に含む。
これも実に美味い。しかもこれも200円。カフェで飲むよりこちらで飲む方が安上がりなうえ下手な店よりうまい。
「そりゃあそうか…」
一樹は昨日の試合の疲れを癒すようにコーヒーを味わうために少しずつ飲む。
「お待たせしました~!こちら、当店のおすすめのデザートでーす!」
と一人のウエイトレスがパフェを二つ持ってきてくれる。一樹は伊達メガネをかけコーヒーを飲みながらそのウエイトレスの姿を視線に入れる。すると
「ブッーーー!!!」
一樹は口に含んだコーヒーを窓の外に向けて吹きだした。
そこにいたのは後ろ髪をリボンで束ねポニーテールにしており、卯月より背が低いが、出るところはちゃんと出ている小柄な少女。
「な、菜々!?」
少女も一樹の姿を見るとみるみると顔を真っ赤にして
「か、一樹先輩!?」
少女も一樹に向かって大声で名前を呼んだ。
「あれ?二人ともお知り合いなんですか?お兄ちゃん、菜々ちゃん?」
「お、お兄ちゃん…?」
「な、菜々ちゃん…?」
立ち上がり硬直していた二人に声をかける卯月の言葉に何やら引っかかる二人…
「はい、一樹お兄ちゃんです!お兄ちゃん、こちら阿部菜々ちゃん。私と同い年のアイドルです!」
「はぁ!?同い年ぃ!?」
「あれ?私おかしなこと言いましたか…?」
「バカお前!こいつ俺と高校同じ上後輩―――――」
そこまで口にした瞬間、一樹の口は何やら力強く押さえつけられた。首を30°ほど強制的に向けられ阿部菜々と名乗る少女の方に視線を向けられた。
「それ以上言うと後が怖いですよ先輩っ…!!」
掛けていた伊達メガネが地面に落ちると同時に一樹の額から冷たい汗が流れる。
抑えられた首の方向を変えようとするものの、首は万力で固定された胡桃の様に動かない。この細い腕からどこからそんなバカ力を出しているのか気になるものの、一樹の頭には恐怖が過り口が勝手に動いた。
「……ハイ……」
「???」
二人のやり取りを見て頭の上に?マークが浮かび上がる卯月だったが、真相を知ることはなかった。何故か二人のことで質問をすると一樹はお茶を濁したり、デザートを食べながら喉に数回詰まらせたりとうやむやのまま会話は終了した。
世の中には知らない方がいいこともある。それはいつの時代も変わらないようだ。
次に連れてこられたのはスタジオルーム。一樹のことを話をすると特別に許可が出たらしい。
「(なんで俺はこんなスター扱いされてんだ?)」
などと思いながらスタジオのドアを開けてみる。そこには数人のエキストラとアイドル達。何やらアイドル達はボロボロの服を着て銃のようなものを持っており、エキストラはおびただしい血まみれの服と顔には肉がえぐれているような特殊メイクをしている。
「ゾンビ物の撮影か?」
「はい、なんでしたっけ…ウォーキングヘットだったかペットだったか…」
「著作権取ってんのかそれ」
などと突っ込みを入れて一樹たちはスタジオを見る。
「はいカットー!」
と監督らしき男の人の声と共に周囲から「お疲れ様でしたー」と声が上がる。
どうやら撮影は終了したらしい。
終始何処かのドラマと似ていて一樹は顔が青ざめたり頭を抱えたりとしていたが、撮影は無事終了。
卯月に至ってはゾンビに噛まれるフレデリカを見てあわあわと言いながら涙を流していた。
「ここの人たちって怖いもの知らずなのか?」
一樹がそんな言葉を口にしていると監督らしく男が目の前まで来ていた。
「うおっ…」
いつの間にか目の前に来ていたため驚いた一樹に対して監督は一樹を頭から足のつま先までじっくりとみている。しかも無言で。その行動は一樹に警戒心を植え、尚且つ恐怖心まで与えた。
監督の人は終始無言で一樹の周りをグルグル回りながらやっと一樹の目の前で止まった。
「ティンときた!!」
「…」
「キミ、ちょっとこっちに来て」
監督の男に手を取られ裏に連れてかれる一樹。
「お、お兄ちゃん…?」
突然兄を連れていかれた卯月は不安になりつつ兄の帰りを待つ。そして程なくし、一樹は戻ってきた。
クロスボウを背負い、前髪は目が少し隠れるくらいまで後ろ髪を持ってきて肩までかかるほどの髪型にうっすら無精髭をつけてこちらも薄汚れた服を着て後ろに羽の書かれた革ジャンを着ていた。
「見てくれこれ!この子を見た瞬間ティンと来た!正に日本のノーマン・リー〇スだ!」
「誰もダリ〇役引き受けてないんだけど」
「まあまあ、そう言わないでリーちゃん」
「誰がリーちゃん?」
「早速撮影に入ろう!おっとそうだ…キミの名前は?」
人の話を聞かずに監督は再び撮影に入ろうとしている中、どうやっても終わるまで返してくれないらしい。何故か監督が持っている木の棒の先端には有刺鉄線が巻かれているように見えた。
監督にあきらめを感じた一樹はもうどうにでもなれと投げやりの心で口を開いた。
「……ダ〇ル」
そして後日
アイドルドラマ『ウォークキング・デッド SEASON3』は一話目に謎の生存者デリル・デインクソン(役:島村一樹)を迎え話題を呼んだ。
クールな眼差し、残酷な世界の中で見せる人間臭い性格。ボウガンを構え華麗にゾンビを射抜くその姿。そして素人とは思えない演技力を見せる一樹に誰もが注目した。SNS内でも
「クール過ぎる…」
「抱きしめてぇー!」
「男が惚れる男」
「〇リルじゃね?」
「そのボウガンで私を射抜いてー♡」
「声が渋くて痺れる~♡」
「最高にカッコイイ…」
「アニキいるの?」→「居ないよ」→「あれ?あっちだと確かアニキのメ〇ルっていう…」→「それ以上はいけない」
「SEASON10主役待ってるよー!」
などと男女問わず人気を獲得していった。いつの間にかバイクに乗った姿のデリルこと一樹の姿が表紙を勝ち取った週刊誌も出回るようになっていた。
勿論人気を勝ち取ってしまった一樹はその後もちょくちょく346プロダクションに呼ばれてドラマのオファーが回る。ボクシングの練習を削りたくない一樹だが例の監督は一樹の通うジムにまで顔を出しボクシングジムを346プロダクション内に建てないかという交渉にジムの会長はこれを呆気なく承諾。
346プロダクションにボクシングジムが建設された。
とんとん拍子に事が進んでいく中、一樹は胃を痛めながら建設された346プロダクション内のボクシングジムに通う。
因みに身近にアイドルたちがいるということに喜んでいた京介からは笑顔で一樹の乗った週刊誌を手に取り問いかける。
「ダ〇ル役楽しいですか?」
「楽しくねえよ!!」
こうして一樹はドラマ主演を獲得。あっという間にアイドル顔負けの俳優兼プロボクサーになった。因みに試合がある際はドラマ出演は休みにするという条件を付けた。監督は
「大丈夫!殴られた傷はメイクで何とかなるし、かえって出演の味が出るからOK!」
ということを言っていたとか…。一番なりたくないものになってしまった一樹は毎晩家に帰りなんだかよくわからない涙を流している。
因みに島村喫茶店も移転した。
「あれ?幸子ちゃんその雑誌同じのだよね?」
「ふぇっ!?えっえっ!そ、そうですね!!な、何でこんなにあるんでしょう!?」
「同じ雑誌買ったの?さっき幸子ちゃんが持ってる雑誌からレシート落ちたけど」
「いやああああああ!!!!」
アイドルにも人気らしい。
ー次回予告ー
ドラマ出演をしながら一樹はボクシングの練習を再開させる。
周りの環境が一気に変わったなか、一樹の喫茶店にとある人物が現れる!
次回「ライバル」
次回をお楽しみに!
ボックス!!