島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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Round.16

ついに始まった島村一樹復帰戦。フェザー級の中でも注目されているこのタイトル。京介の時とは違い観客は満席。しかも大人気中であるシンデレラプロジェクトのアイドルたちが一樹のためのサプライズとはいえモニターを使った生応援。これにはボクシングファンだけでなく、アイドルファンまでもが注目する一戦となっていた。

そんな中で一樹は未だに感動に身を打たれ早くも涙でKOされていた。

 

一樹「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!お前ら大好きだこのやろおおおおお!!!」

 

ロープに足を乗せまるでプロレスラーの様にモニターに向かって拳を突き上げる。既に試合なんてどうでもいいくらいに。

 

京介「一樹さん落ち着いて!!」

 

そんな一樹を宥めるために京介が一樹の身体を抑えるが力いっぱい腕を振り出した一樹に振り回されていく京介。

既に入場している選手が哀れである。

 

 

 

アナウンサー『赤コーナー125ポンド二分の一、里中ジム所属、島村一樹!!』

 

わああああああ!!!

 

名前を呼ばれるタイミングで腕を上げる一樹に歓声が上がる。流石は元日本チャンピオンだけありその人気は絶大だ。これは元からなのか、それとも卯月のおかげなのかはわからないが、この歓声は間違いなく一樹に向けられているものであるのには違いない。

 

アナウンサー「青コーナー125ポンド丁度、佐倉ジム所属、有田雅彦!」

 

わああああああ!!

キャー!ステキー!

 

有田と呼ばれる選手が呼ばれると観客のほとんどは女性が歓声を上げた。金髪の髪に前髪をオールバックにし、女性観客に投げキッスをするような形をとる。それにまた女性観客たちはキャー!と黄色い歓声を送る。

 

有田雅彦

スピード重視のアウトボクサーであり、数多くの手数を打ち、相手のリズムを乱すことが得意の選手。ランキングでは最下位だが、彼自身そのアイドル的顔立ちと凛々しい姿で主に女性から人気の自称アイドルボクサーだ。

こういうタイプは一樹が一番嫌いな男であることは違いない。ボクシングでチャラチャラ着飾り尚且つ女性を侍らかせていそうなその雰囲気は一樹にとっては怒りの起爆剤でしかなかった。

 

後ろにまとめた髪が肩にかかっていたのを軽く振り払い、「ふん」と鼻で笑う一樹。

 

一樹「(見せてやるよ若造…ボクシングっていうのはお前みたいな奴が踏み込んでいい世界じゃないってことをなぁ…)」

 

レフェリー「ボックス!」

 

試合開始のゴングと共に静かな怒りを心の中に燃やしながら一樹はリング中心まで歩き、片腕を前に出し拳を突き出す。挨拶だ。

 

一樹「(どんな相手だろうが礼儀は尽くす。それが俺のやり方だ)」

 

どれだけ相手がムカつくキザな相手だとしても礼儀は決して怠らない。スポーツをする以上はスポーツマンシップに乗っ取り競技する。それがプロボクサーとしての一樹の流儀だった。

だが、それを全て守る者が居ないのも事実だった。

 

パァン!

 

一樹「ッ!?」

 

京介「なっ…!」

 

一樹が前に出した拳は、有田の拳により払われた。それを開戦の合図と言わんばかりに雅彦はジャブを繰り出す。

 

ブン!

 

風を切るような音を放ちながら拳が一樹の顔に目がけて降ってくる。が、これを一樹はかわす。紙一重と言える避け方をすると右拳を固く握りしめる。

それに警戒をしたように雅彦はバックステップで距離を取った。

 

京介「(あの有田ってやろう…即座に一樹さんから離れるとは鋭い…)」

 

 

 

 

 

未央「ああ!お兄さんの拳が弾かれた!」

 

ライブ映像を送った後に卯月たちは小さなモバイルテレビで一樹の試合を見ていた。雅彦がバックステップで後ろに下がって武内が口を開いた。

 

武内「あの選手…危機察知能力に長けてるみたいですね…」

 

かな子「どういう意味ですか?」

 

武内「有田選手は先程ジャブを放ち、島村さんがそれを避けました。そして島村さんが反撃しようとした時、有田選手は後ろにバックステップをして距離を取ったのです」

 

杏「つまり、お兄さんが攻撃することを読んで避けたわけだ」

 

武内「はい。島村さんは古典的なパワー型ハードパンチャーですから攻撃には警戒する必要がありますので」

 

卯月は真剣な眼差しでテレビを見続け、生唾を喉に通した。

 

卯月「だ、大丈夫です…!お兄ちゃんはどんな時でも勝ってきました!」

 

 

 

 

 

距離を取りファイティングポーズを取り直しステップを踏む有田。拳を固く握り直しピーカブースタイルで頭を振る一樹。

 

実況者「さあ始まりました!フェザー級島村一樹復帰戦!先ほどの試合開始の挨拶に有田は拒否して先制攻撃を行うも島村これを冷静に避ける!緊張が伝わる中でどちらが動き出す!?」

 

静かな静寂の時が会場を包み込む。どちらが動くか分からない緊張の瞬間。京介もその場を見ていて生唾を喉に通し、額から汗が一滴滴り落ちる。

キュッ!

動いたのは有田だった。アウトボクサー特有の足で一樹の横に回り込み拳が伸びる。

 

一樹「フッ…」

 

しかしその拳を一樹は首を動かし避ける。だがそれを皮切りに有田の攻撃が開始される。足を使いジャブを連打、連打、連打。

 

実況者「おおっと!有田が動き猛攻を繰り出す!多彩のジャブの連打が島村を襲う!」

 

観客の歓声が上がるが、1番歓声が上がってるのは女性だ。有田の鮮やかな動きに黄色い声援はより大きくなる。

 

だが、一樹もタダで当てられる訳ではなく、上半身を動かしその多彩の拳をひとつずつ丁寧に避けていく。

 

京介「(相手はアウトボクサー…本来一樹さんみたいにガンガン前に出るボクサーはアウトボクサーにとってやりやすい部類の相手…だが、一樹さんは世界ランキング一位の座に座った人間だしかも、状況は確実に一樹さんが優勢(・・)だ。)」

 

そう京介は確実に一樹の方が優勢であると思っている。その証拠に

 

有田の攻撃に対し一樹はその場から1歩も動いてなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)

動かしているのは上半身だけで下半身は動かしていない。それ以前に一樹の表情は冷静だった。いや、寧ろ冷酷と言っていいほど冷たい表情をしている。

対して有田の表情は段々険しくなっていく。拳がまるで当たらない、一樹の崩れない表情に動きが有田に大きなプレッシャーを与えているのだ。そしてそういう焦りに焦った人間の行動は単純になっていく。拳は少しずつ力任せな拳になる。

 

有田「ッ!」

 

足を使い左にスウェイそして一樹の視界外入りそこから拳を突き立てる。しかし、一樹も直ぐに有田の方向に向かい拳を避けたのだ。

 

京介「マジかよ…あれを避けるのか…」

 

そしてついに一樹は動き出した。

一樹は即座にジャブ二発を仕掛ける。

 

パパン!

有田のガードによりジャブ二発は防がれる…が

 

有田「ッ…!」

 

元々一撃一撃に破壊力のある一樹のジャブはダメージがガード越しにも伝わる。腕には鈍い痛みが走り、有田の顔がゆがみ、体のバランスを崩す。そこに一樹の追い込みが襲う。

 

一樹「シシッ!」

 

ジャブ、ジャブ

 

一樹「シッ、シシッ!」

 

ジャブ、ジャブ、ジャブ、

 

ガードで防ぐものの、ダメージは確実に蓄積していく。やがて腕が重くなったのか、有田の腕がどんどん震えだし、更に下に下がっていく。

だが一樹の進撃はまだまだ止まらない。次第に一樹のジャブは形を変えていく。

 

京介「ジャブが…ストレートに…!」

 

ただのジャブは次第に腕が伸びていき、拳が固くなり左のストレートに変わっていく。

 

一樹「(悪く思うなよ有田…お前はリングを舞台か何かだと間違ってるんだろう…だがなぁ、プロのボクシングはそんな甘いもんじゃあねえぞ!)」

 

下から拳が放たれガードが完全にはがれた有田の腹に左のリバーブローが突き刺さる。

 

有田「あっ…ああっ…!」

 

有田の身体がくの字に折れて崩れる。

 

だがまだ一樹の攻撃は終わらない。

 

リバーブローを放った体制から半時計回りに身体を回し、一回転。そこから右の拳を有田の腹に向かって放った!

 

ドゴォ!!

 

鍛え上げている筋肉の身体を貫通せんが如くの一撃の衝撃は一樹の拳に伝わる。

有田の身体は少しの間硬直したかのように動くことなくなり、そのままゆっくりと横へ糸の切れた人形のように倒れた。

 

京介「(あれは…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

数か月前

 

まだ一樹たちが合宿をしていた時の際だった。

卯月は夜みんなが寝静まった時間に一人でステップの練習をしていた。

それは何度も何度も同じ動きをして、最後に半時計回りに身体を回し、正面を向き右腕を上にあげた。

 

一樹「卯月。あんまり根詰めると倒れるぞ」

 

そんな姿を見て一樹は卯月に水の入ったコップを差し出し声をかける。

 

卯月「あ、ありがとうございますお兄ちゃん!すいません。心配かけちゃったみたいで」

 

一樹「それ今度のライブの練習か?」

 

コップを渡すと卯月はその水を飲み、一樹は卯月の隣に座り電子タバコ(チェリー味)を懐から出して吸い始める。

 

卯月「はい、なんだかしっくり来なくて…合宿中にマスターしておこうと…」

 

一樹「んで、こんな時間まで練習か…」

 

時計を見ると既に日付は変わっている時間になっている。

 

卯月「えへへっお兄ちゃんを見習おうと思いまして」

 

一樹「…確かに昔は遅い時間まで練習してたな…やっぱり、お前は俺の妹ということだな」

 

卯月「血は争えないってやつですね」

 

一樹「繋がってねえが、長い時間一緒にいるとこうなるんだろうな…」

 

口から甘い匂いの煙を出しながら一樹は卯月の頭をやさしく撫でる。

 

一樹「微力ながら俺も付き合おう…」

 

その日に一樹と卯月は納得行くまで練習していた。時折一樹も卯月と同じような動きをしていたとか。

 

卯月「お兄ちゃん。タバコじゃないのに何故それを吸うんですか?」

 

一樹「雰囲気てきな?」

 

次の日に一樹は京介に「俺新しい技会得したよ」と伝えていた。

 

京介「で、技名とかあるんですか?」

 

一樹「…卯月のソロソングの曲名はなんだったか?」

 

京介「…s(mile)ingですか?」

 

一樹「そうそれだ。俺の技に名前を付けるとしたら…S(mash)ingだ」

 

京介「…スマッシュですか?」

 

一樹「ただのスマッシュじゃねえ。俺独自の編み出した技だ。まあリスクも高いだろうがな」

 

 

 

 

 

 

 

京介はその高リスクの技を目の当たりにした。怯んだ相手の隙を突き回転を加え振り子の原理を使い勢いを上げ下から突き上げる技スマッシュを加える。それは破壊力自体がある一樹の拳をさらに強力な一撃に変える技だった。

 

 

京介「(今の技…確かに高リスクなだけあって破壊力は強力だ…間違いない…島村一樹は今完全復活を果たした!)」

 

カーンカーンカーン!!

 

実況者「ここで試合終了のゴングだァァ!!!」

 

ゴングの音と共に歓声が一気に会場を包み込む。今世界に羽ばたいた元日本王者が凱旋した瞬間だった。

 

一樹「(狙いが甘かったか…回転してスマッシュを決めるつもりが腹に拳がいっちまった…まだまだ改善の余地ありだな)」

 

そんな歓声の中で一樹は自分の先程の試合の反省をしている。実は今回の技は試しで練習していた訳ではなかった。それは一樹が復帰と共にこの技を完成させる為にプレッシャーを自ら負った。しかし結果はご覧の通り試合に勝ちはしたが失敗に終わった。

スマッシュとは実際には右足を前に踏み出し右拳を下から上に突き上げ顔面を捉える技。一般的にはアッパーに似ているが単純にただのアッパーより威力はある。だが今回の試合に至っては回転を加える際に姿勢を低い状態で回転して相手の身体が視線外になっている状態で拳を突き上げた。姿勢が低すぎて距離感が掴めず出した拳はあろう事か腹に命中した。これはスマッシュでなく威力の増したボディーブローに近い。

 

一樹「…(まあ、ともあれ…勝ちは勝ちだ)」

 

拳を上え突き上げガッツポーズ。これは新たな始まりに過ぎない。しかし、一樹は久しぶりの勝利の美酒に酔いしれた。

 

 

島村一樹復帰戦 フェザー級

 

1R 2分18秒 KO

 

島村一樹 勝利




次回予告

S(mash)ingの改善を考えさらに一樹は更なる特訓が始まる。だが試合が終わった事により一樹は外傷はなかったが1週間の休暇を言い渡される。
暇な時間の中で一樹は346プロダクションに何故か入ることになる!

島村家のフェザー級元日本チャンピオン
Raundo17「アイドル事務所」

次回をお楽しみに。ボックス!!

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