島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~   作:伊吹恋

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今回は仕事場で色々していたら書く時間が無く、遅くなりました。誠に申し訳ございません。そしてこの回も水着回では無いです。誠にスンマソン!

友人「惨たらしく絶命しろ!」


Round13

一樹と京介のスパーが再び始まろうとしていた。京介の爆発力を引き出す為に一樹はそのためにスパーで証明すると言い出した。

一樹はリングの上で身体の状態を確認する為にシャドウをする。一方京介は武内をセコンドに準備を進める。

 

「木崎さん、島村さんは古典的なハードパンチャーです。そして弱点があります。それは間合いです」

 

ハードパンチャーの弱点。それは距離だ。いくら力が強く、そして強烈な一撃を持っていても距離が縮まなければパンチは当たらないし、力も引き出せない。ジャストミートな間合いを取れてはじめてハードパンチャーのパンチは成立する。

 

「打ち終わりには必ず身体ごと移動してください。足を活かすんです。」

 

「わかりました...正直、それだけで適うとは思わないですが、やってみます」

 

勝てるわけない。それは誰が見ても明らかだ。だがここで全てを終わらせてしまえばこの先勝てるわけない。京介は敢えて挑戦した。それが自分の成長に繋がるなら尚更だ。

 

「ほれほれ、そろそろ作戦会議は終わったか?こっちはいつでもいいぜ」

 

一樹は準備万端という感じでシャドーを軽く見せるがその軽いジャブは一発が重いと思わせるようにブォン!ブォン!と音を立てる。1発でも受ければ意識が遠のくであろう。それを見せられ恐怖が体の底から湧き上がる。やがてそれはコップにつがれた水のように徐々に溢れ出す。

 

「やっぱ叶う気がしねえ〜…!!」

 

「落ち着いてください木崎さん!」

 

情けなく涙をダラダラ流しながら前に腹部に受けた拳を思い出す。あの時の京介はあの一撃でマットに伏した。何とか立ち上がったものの、朦朧とした意識の中で破れかぶれの一撃を一樹に放っただけだ。しかもその攻撃も防がれている。

 

やがて京介の足はガクガクと震え始めた。

 

「…何か後輩君ネジ巻人形みたいに足が震え出したよ?」

 

そんな中で一樹はお構い無しと言った感じにジャブを放つ。満面の笑みで。

 

「あっはは〜!」

 

そう、悪意はないのだろう。誰もがそう思う程の笑顔にも関わらず、力が元に戻りつつある実感に喜んでいるのか、それとも久々の試合に心踊らせているのか、次第に一樹以外の人間の顔から笑顔が苦笑いに変わる。

 

「どっちでも碌でもないにゃ…」

 

「そだねー」

 

苦笑いしているみくに興味が無さそうに隣で携帯ゲーム機をいじりながら答える杏。

 

「でもあれだよ、後輩君も勝てる見込みはあるじゃん?」

 

「「「えっ?」」」

 

「ほら、カウンターだよ」

 

皆は思い出す。初試合のあの時京介が放ったカウンターを放った事を。相手選手に向かって放ち、相手選手を吹っ飛ばしたあの威力のある一撃を。誰もがそれを確認し、驚いた事を思い出す。

 

「あのパンチがあれば、流石のお兄さんも驚くんじゃないかな?」

 

「そっか!確かにそうだよ!確かに勝機は無くても、あの一撃があればお兄さんの顔色が変わるはずだよ!」

 

杏の言葉にCPメンバーの全員が同意する。

それと同時にカァァン!!とゴングが鳴る。

 

一樹はお得意のピーカブースタイルでジリジリと京介との距離を縮めていく。だが一方の京介は足がまだガクガクと震えていた。正しく、トラウマが蘇ってしまったのだ。

 

「後輩くん!動いて!」

 

「木崎さん!足を動かして!!」

 

武内の言葉によりはっと我に返る京介。そこを狙ったように一樹はダッシュにより距離を縮まった。グローブ越しの大きな拳が京介の目の前に現れる。

 

「ッ!!」

 

「後輩くん!!」

 

「ダメ、当たっちゃう!!」

 

ブゥン!!

 

「ッ!?」

 

顔を捉えた拳が後ろに振り切っていた。

 

「えっ?」

 

その場にいた全員が驚いた。何故ならば

 

 

京介は一樹の拳を紙一重で避けていた。

 

 

咄嗟の事で頭を横に傾けて避けたのかそれは京介自身も分からないがチャンスなのは変わりなかった。

 

一樹の動きが止まった今なら。

そう思った瞬間、京介の足に力が入った。地面についている足から思いっきり力を入れ、ショートアッパーの形をとり一樹の顎に目掛けて拳を飛ばした。

 

ドゴォォン!!

 

鈍器かなにかで殴ったような音と共にマウスピースが宙に浮いた。いや、浮いたのはマウスピースだけじゃない(・・・・・・・・・・・・)。一樹の身体が小さくだが浮いていた。

 

「ぐ……ほ……」

 

バタンとマットに一樹の身体が叩きつけられる。大の字に倒れた一樹を全員が見る。

 

セコンドの武内も口を開けて汗を流す。

 

倒した。一樹を京介が倒した。誰から見てもそう見えたいや、事実だ。京介が一樹からダウンを取った。しかもオープニングヒットで。

 

何が起こったのか、殴ってから頭の中が真っ白になる京介。

 

少し時間が経つと一樹はムクっと上半身だけ起こし頭を振る。

 

「レフェリー兼セコンド、カウントは?」

 

「えっ、あ」

 

武内は状況を理解出来ないままカウントを取ろうと腕をあげるがその前に一樹の手によりその動きは静止された。

 

「いやいや、カウントはやっぱいいわ。とりあえず今のはどう考えても10秒以上経ってた。1戦目は俺の負けでいい。それにしてもいきなりガゼルパンチとは驚いた…」

 

立ち上がろうしている一樹だが、その足はガクガクに震えていた。そしてそのままバランスを崩すようにロープにもたれ掛かった。

 

「ちっ」

 

舌打ちをしてロープを掴み何とか身体を支える。

 

「京介、何か分かったことがあるか?」

 

「は、はい…あの時、俺は一樹さんのパンチをかわしたとき、何か手を打とうと考えてました。でもカウンターをするにもあれじゃあ威力も出せないから、咄嗟にガゼルパンチを…」

 

「そういう事だ。咄嗟の事に人間は動けないものだ。いい例が戦争だ。兵士は生死のやり取りをしている兵士は一瞬でも気を緩ませれば相手に撃ち殺される戦場の中互いの隙を狙い続ける。今回も同じことだ。俺はあそこでお前が避けるとは思ってもいなかった。俺に隙が生まれそこを突きお前は瞬時にガゼルパンチで俺を倒した。それはお前が瞬時に理解をする状況判断、さらにあの場面で何が効果的な攻撃になるか理解する洞察力がある。俺のようにパワーだけで相手をねじ伏せる戦い方じゃない。俺が剛の拳なら、お前は柔の拳というとこか…これは別にお前だけに言える事じゃない。アイドルもそうだ。ダンスを練習通りするのは確かに必要だ。だがアイドルは公の場に出るもの、ライブ舞台に立てばそこで客に対し何をすれば楽しく、客を喜ばせることが出来るかが問われる。別にウィンクなり投げキッスなりすればそれでも客は喜ぶものさ、大事なのは、何処でどうするか、アドリブ力が試される。頭の中に色んなシチュエーションを組み込み、それを頭の引き出しに入れておけばいいんだ。いいか、これは全員に言うことだ。努力は必ず報われる裏切られることは決してない」

 

そこまで話すと一樹は足の具合を確認する。小さくジャンプをし、身体を動かす。ダメージは抜けてないが足は治ったようだ。地面に落ちてるマウスピースを手に取り再びそれを口に含む。

 

「それを踏まえ、俺はこれから一切の気の緩みを無くす。試合だと思って思いっきり来い…」

 

既に構えに入ると、一樹は頭を振り出す。その目には一切の迷いもない真っ直ぐとした闘志の炎が宿っていた。

 

「は、はい!」

 

京介は拳を固め決意を新たに固める。だが決して慢心しない。何故ならば目の前にいるのは憧れの先輩でも、ましてや元日本チャンピオンでもない。一人のボクサーなのだから。

 

「ぷ、プロデューサー!」

 

「は、はい」

 

「ゴングですよプロデューサー!」

 

「あ、はい!」

 

カァァン!!

 

ゴングと同時に動いたのは、一樹だった。リングから一時的に降りていた人間とは思えないダッシュ力で京介との距離を縮めにくる。

 

「は、早い!」

 

「お兄さん本気でやる気だよ!」

 

だが京介も動き出す。距離を縮めに来る一樹に対し、京介の取った行動は、横に身体を移動させて距離を取る。

 

「ッ!」

 

横から飛んでくる拳を一樹は丁寧にブロックする。グローブ同士がぶつかり合い、パンパン!と小気味いい音を立てる。距離を取ろうと詰め寄るが一樹より京介の行動が早い。打ち終わりに必ず身体を移動させ一樹に距離を取らせないようにする。

 

「後輩くんすごい!お兄さんが手出し出来ないなんて!」

 

「いけー!そこだー!」

 

「行ける行ける!」

 

応援が大きくなっていく中で、京介のリズムになっていき京介の手数も増えていく。

 

「フッ!!」

 

一瞬の隙を突き一樹のフックが襲いかかる。紙一重でそのフックを避けるが、その一撃は風圧でよろめきそうなくらい強力な一撃だった。

 

「す、すごい!風が切れるような音がしたよ!?」

 

誰もが驚く一樹のパワー、それは京介も同じだった。身体に受けたことがあるからこそ、一樹の一撃は凶器のように感じる。

 

「くっ!」

 

踏ん張って反撃に移ろうとした時、京介の背中に何か当たる感触がする。

 

「えっ?」

 

「木崎さん!ロープを背負ってはいけない!!」

 

武内が叫んでももう遅かった。ロープを背負ったことにより京介の逃げ道は無くなった。そこを突き、一樹が一気に京介との距離を縮めた。目の前には闘志に燃える見覚えのある男の顔があった。

 

 

バジィンバジィン!!

 

一樹の剛拳が京介が放った拳とは大きく違う力の入った音がグローブに発せられる。しかもグローブ越しにも関わらず腕が痺れるくらい痛みが走る。明らかに力差が誰にでもわかるような音が聞こえる。

 

「ふっ!!!!」

 

ガシィィィン!!

 

一樹の左がガード越しの京介の拳が跳ね上がり、カードを崩された。まずいと思った所でもう遅い。既に振り子のように揺れている一樹のリズムは止まることはない。容赦の無い本気の右拳が京介に襲いかかった。

 

その時、京介の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたころ、京介の目の前にはヘットギアを取った一樹の姿があった。手には空のバケツが握られている。

 

「惜しかったな。筋はいいがまだまだだ」

 

その状態だけ見て分かった。また負けたのだと。

 

「…また負けましたか」

 

ムクっと起き上がり一樹に問う。一樹は当たり前のように「ああ」と言葉を返した。

 

「うち終わりに足を使い必ず身体ごと移動、更に相手の死角に回り込もうとする所まではいい。だがお前は俺がゆっくりとお前の行く場所を予測して身体を動かして誘導させていることに気づいていなかった。まあ、これはキャリアの差って所かな」

 

手に持っているバケツを地面に置くとリングから降りて口を開く。

 

「だがお前のパンチも効いたぞ」

 

一樹は腕をあげて京介に打たれた箇所を見せる。腕はボロボロになっていた。

 

「一樹さん、それ…」

 

「ったく、痛くて包丁を持つのも一苦労だっつうの。お前、夕飯作るの手伝えよ。拒否権はねえからな」

 

時計で時刻を確認すると既に5時を回っていた。既にその間にいたアイドル達も居ない。

 

「まあ、お前の成長が見れてそんなに悪い気がしねえ。精進しろよ京介」

 

「は、はい!(自分が恥ずかしいな。こんな形じゃないと自分に対して自信が付かないなんて。一樹さんは全てに置いて俺とは違うんだな。ボクシングも、人間性も…だからこそ目標に出来る。いつか俺も、一樹さんと同じ目線でボクシングに挑みたい。そしていつか、一樹さんに再戦したい!)」

 

人間は努力無しでは成長はない。この日京介は新たな目標を胸に秘め、この合宿に挑む覚悟を固めた。

そして同様に一樹はそれに見合うボクサーとして再び世界を目指すことを覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

夕食を済ませ、自由時間を満喫しているアイドル達とボクサー2人とプロデューサーは麻雀を打っていた。

 

「ロン。リーチ一発平和タンヤオドラ1満貫」

 

「なん…だと…?」

 

対面にいる京介が一樹が牌を捨てた瞬間、それで上がる。一樹の点棒は先程の京介の満貫でスッカラカン状態だ。

 

「お兄さん、麻雀弱いの?」

 

「あはは、お兄ちゃんは賭け事全般がダメで…」

 

「それでもダメすぎない?」

 

「全く上がってなかったにゃ」

 

麻雀卓に項垂れる一樹の姿を見て、CPメンバーは「珍しい物が見れたなー」と思いながら苦笑いをしていた。

項垂れている一樹の腕が上がり、人差し指を立たせ口を開く。

 

「も、もう一度…!」

 

夜はまだ長くなりそうだった。




お、俺は…何回固有結界を受ければいいんだ…!?あと、何回受けることになるんだ!?お、俺に、俺に、


俺に刃物を近づけるなあぁぁぁぁーーーッ!!!!!



ボックス!!

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