島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ 作:伊吹恋
「シッ!シシッ!!」
キュッキュッ シュッシュッ
風を切るような音が鳴く。いつもの習慣でしてしまうシャドウボクシング。
我ながら未練がましいというのか・・・なんとも言えない。
前に京介の言葉がいつまでも頭に残る。
・・・身体の衰えは見えない・・・か・・・。確かに京介のカウンターが擦っただけで頬が張れ気味になったからな・・・。パワーの衰えは無いんだろう。しかしスピードも技の切れも衰えているのは事実。プロの世界は過酷だ。パワーだけでのし上がれるほど甘くない。だが衰えというのは鍛え直せばまた元に戻るとは限らないし、今の歳で復帰したとしてどこまでいける?
ボクシング選手生命はあまりにも短い。さらに試合をしていけば選手生命は確実に削られていく。俺の選手生命はあとどれくらいだろうな・・・?
「シッ!!」
あのスパーから約3週間。今日は京介の初試合当日だった。正直言わせてもらうと、今の京介の精神状態は不安定かもしれない。スパーのような練習試合だったらいざ知らず、これはプロボクサーとしての初の試合だ。そのプレッシャーは凄まじい。吐き気、苛立ち、身体に押し潰されそうな感覚が襲い掛かってくる。平然としてるやつの方がおかしい。
俺も初試合は緊張で胸が苦しい日々が続いた。イライラすることも多かった為、義父さん義母さん卯月に八つ当たりをしてしまうかもと家にはあまり帰らなかったのを覚えている。
それが今では京介が体験している。俺が行って何になるのかと言いたいところだが、激励しに行くか・・・。というか・・・
「何でお前らまで居るんだ」
と俺は横に並んでいるシンデレラ達に問いかける。しかも武内さんまで・・・。
「いや~、みんなそろってこの日お仕事が早く終わってさ、それでお兄さんの後輩君を応援しようとみんなで決めて」
お前ら今度ライブがあるんじゃねえのかよ・・・。こんなところで油売ってる暇があるならレッスンをすれば良いのに・・・。
・・・と思っている時間も惜しいな。とりあえずこいつら引き連れた状態で京介の元に行くか・・・。
会場は観客で埋まってる。今日は大切な京介のプロボクサー初試合。京介は部屋の中で椅子に座りただじっと目を閉じていた。心を静かにさせ、気を落ち着かせていた。
コンコン
ノックの音と共にガチャとドアノブが周り扉が開く音がする。その音に目を開け、扉に視線を送るとそこに現れた人物は京介が良く知ってる人物がいた。
「おっす」
島村一樹。京介の先輩であり、頼れる兄貴的存在だ。
「どうもです」
「「「こんばんわ!」」」
一樹の後からシンデレラプロジェクトのメンバーも入ってくる。それを見て京介は驚いていた。なんせあの時は歓迎会だったが、今回は試合を見に来てくれたのだから。京介は内心ドキドキしていた。(主にラブライカの二人に対して)
「み、みなさんおそろいで・・・」
「何緊張してんだよ。歓迎会の時に会ってるだろうが」
「いや、それはそのぉ・・・」
あの時は一樹の店だったため遠目でシンデレラプロジェクトのメンバーを見ていたが、今回は狭い個室で間近くに居るためか、京介のドキドキは収まらない。もう初試合である緊張なんぞどうでも良くなっていた。
「頑張ってくださいね。陰ながら応援してますから!」
「キョウスケ、頑張ってくださいネ」
ラブライカ二人の応援に京介は椅子から立ち一礼する。
「はい!頑張らせて頂きます!!」
「(これはついてきて貰って正解だったかな?)」
一樹は今の京介の状態を見て「ふぅ・・・」と一息つく。
「どうやら緊張はほぐれたみたいだな」
「いや、別の意味で緊張が・・・」
「(望み薄かもしれんな・・・)」
それからは各メンバーの激励の言葉を受け、さらに緊張してるような表情を京介はしていた。
「まあ、今日は大切な新人初試合だ。お前の力を見せてくれ」
「はい。・・・一樹さん。一つ聞いて良いですか?」
「おう、俺でよければな」
「俺は今日初試合です。ですが、この緊張はこの先の試合で抜けるとは思えないんです・・・一樹さんはどうでしたか?二試合目、三試合目とかはどうでした?」
「うーん・・・・・・」
一樹は腕組みをして目を閉じて考える。
「わからん」
「「「はっ?」」」
「深く考えなかったって所かな。確かに初試合は緊張したさ。吐き気もして、苛立ちを隠していた時もあった。でもなぁ・・・いざ試合が始まって勝っちまったあの時・・・全て考えていた事がどうでも良くなった」
「お兄さん、それってどういうこと?」
一樹は天井を見つめて笑みを浮かべた。
「拍手がさ、まるで雨が降ってきたみたいに降り注いできたんだ。その時の思いはさ、『俺は勝ったんだ。みんなが祝福してくれて、喜んでくれている』って思ったんだ。その時次の試合の時どうするかなんてどうでも良くなった。確かにその時の俺の思いは思い込みかもしれん。単なる俺自身が楽になるための思い過ごしだろう。だが、あの時の喜びを知ってるからこそ、次も頑張ろうと思える。また練習に打ち込める。まあそんな感じだな」
その思いはその場にいる全員が共感できた。
「その気持ち、分かります!」
卯月が前に出て一樹に言う。
「私も、ライブが始まる前はうまく行くか凄く心配でした。でも、ファンのみなさんの声が私に勇気をくれます!その応援が私に『次も頑張ろう』って思えるようにしてくれるんです!」
「そうだね。ファンの言葉に応えたいよね」
「みくもそう思うにゃー!」
それに賛同するようにかな子とみくが言葉をつなげる。
「そうだな。ボクサーもアイドルもジャンルは違うとしても考え方は一緒だ。練習した成果を試合やライブで全力で出す。それでファンになってくれたみんなに応えたい。・・・同じ事だ・・・。だからこそだ。京介」
一樹は京介の肩に手を置いて優しい笑みを浮かべる。
「俺は全力でお前を応援する。必ず勝ってこいとは言わない負けてもかまわない。全力のお前を見せてくれ。俺はその姿に敬意を評する。それでお前をあざ笑うような奴が居よう者なら、俺は島村の性を捨て、笑った奴らをぶちのめす。だからさ、お前の全力を見せてくれ」
その言葉に京介の肩から余計な力が抜けたような感じがした。目を閉じて思い出す。これまでの練習を、一樹とのスパーを、その全てを出せばいいのだ。後は自分に対しての自信だけだった。目を開ける。さっきとは違う迷いのない目をしていた。
「ありがとうございます。一樹さん」
「(もう大丈夫だな・・・)じゃあ、観客席で見てるからな。楽しみにしてるぜ」
一樹はそれだけを言い残し、シンデレラプロジェクトメンバーを部屋から出し、自身も部屋を出た。
京介の激励を済ませた俺達はシンデレラプロジェクトメンバーを引き連れ、観客席で今か今かと待っていた。
「お兄ちゃんかっこよかったです!」
「そうだね。お兄さんのこと見直しちゃったよ」
「ロックな演説だったよ」
「そんなもんじゃねえよ。京介には勝って貰わねえとな」
「えっ?でもさっき負けてもいいって・・・」
「あれは緊張をほぐすための演説だ。アイツが負ければ・・・俺は『賭け』に負けてしまうからな・・・今回は結構な額を掛けちまったからな・・・酒の席であんなこと言うんじゃ無かったぜ・・・」
「お、お兄ちゃん・・・」
「見直して損したかも・・・」
凛の冷たい視線が俺に突き刺さる。だが全部が作り話という訳じゃ無い。仮にも京介は俺の後輩だ。だから俺はアイツの兄貴分としてアイツを応援するつもりだ。だから見せてくれ。お前の全力を・・・。
応援してくれるって事は何よりも自分に自信を付けてくれますよね。私もこの小説を作って友達から応援して貰ってるので凄く自分に自信が湧いた気がしました。
それでは次回をお楽しみに!
ボックス!!