島村家の元フェザー級日本チャンピオン~challenge again~ 作:伊吹恋
いつものように俺は朝早くにロードワークをする。
「はぁ、はぁ」
いつもの同じ土手で走る。いつもと違う歩幅でゆっくり走る。まだ時間は五時過ぎ、辺りは薄暗くまだ人は歩く姿は少ない。そんな中で俺の正面から小さな影が見える。
・・・?なんか手を振ってるぞ?
「おはようございまーす!!いや~今日も良い天気ですね!!」
俺の前に一度止まり俺の前で挨拶をする。元気なポニーテールの女の子。俺も一度止まり「おはよう」と言い再び走り出す。だが少女は俺の後を付けてくる。
・・・何なんだコイツ
「こんな朝早くから走り込みって、お兄さんもしかしてアスリートですか!?」
みたいな感じで話しかけてくる。未央とは違った意味でパッションな奴だ。
「まあ、アスリートというか・・・元アスリートというか・・・」
「元ですか!?お兄さんは何をしてたんですか!?」
・・・何なんだこの子は。ダメだ。話をしていると集中できねえ。
俺はその子から遠ざかるため全速力を出す。朝早くから走る元気っ子でも、流石にこのスピードを追いつけるわけ...
「お兄さんはマラソン選手か何かですか!?」
あったわ。
つうかこの子足早えーッ!!どんだけ元気なんだ。
今日の朝のロードワーク、ずっとこの子は付いてきていた。だが俺はその子の質問を無視していた。しかしこの子は別れるまでずっと話しかけていた。
ホント何だったんだあの子・・・。
今日は店を休みにして買い物に出ていた。最近は店店で休みにしてなかったからな。たまにはこうして息抜きをするのも必要だ。
俺は今古本屋で料理関係の本を探していた。たまにこうして本を探して自分の興味のある本を読むこともある。昔はボクシングに関する本を見ていたが今は大体は料理関係か有名な小説を見ることもある。
・・・たまにはファンタジー系の小説にするか。確か前に『ハワード・フィリップス・ラヴクラフト』という作者の本が面白いと聞いたな。未央からだが・・・。
ふと俺は横に目をやるとそこに一人の女性が本に手を伸ばしていた。しかし、その女性は身長が足りないせいで本に手が届かずにいた。俺はすぐにその女性の所に歩き、本を取りその女性に差し出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます・・・」
女性の長い前髪から綺麗な青い瞳をのぞかせる。
物静かそうな感じの女性はゆっくりお辞儀をする。
「いやいや、礼を言われるほどじゃないさ。じゃあ」
俺もその横にある本を取り見てみる。その表紙にはネクロノミコンという題名が書かれていた。その本の分厚さと言ったらもう、一昔前の俺なら目眩を起こしそうだ。
俺はその本を片手に会計を済ませどの場を立ち去った。
それにしても、あの子何処かで見たような...どこだっけ?確か雑誌か何かで...ダメだ思い出せない。まあ他人の空似なんてよくある話だ。もう考えずメシでも食いに行くか。
近くのカフェで軽い食事を取り先程購入した本を見る。内容は...まあ独特というかなんと言うか、まあ面白いと思うが。
「はぁ...」
まだ序盤しか見てないが読んでると目が疲れるな。
俺は本をしまいコーヒーを飲む。深みのある味だ。うちでもこんな味を出せたらいいのにな。
そんなことを思ってたらさっきの女性が店から出ていくのが見える。あまり離れてない所だから良く見える。すると、女性に二人程の男が近づいていた。男は名刺を彼女に渡すが女性は首を横に振る。それを見ると男は彼女の手を取り無理矢理引っ張って行った。
マズイことになったな...
男に手を掴まれた女性は人気のない路地裏まで引っ張られた
「は、離してください...!」
「まあまあいいから、痛いのは最初だけ、あとは楽しいだけだから」
男の顔はまさに欲望に染まったどす黒い笑顔をしていた。
女性は何とか抵抗しようとするが、流石に男の力に抵抗も虚しくズルズルと誰1人来そうもないところまで連れてこまれてしまった。
男は女性を壁に抵抗できないように両腕を抑える
「おい、服を脱がせろ」
腕を押さえている男はもう一人のガタイのいい男が女性の服に手を伸ばす。
女性は瞳から涙を流し瞳を閉じる。
「あのー」
そこに現れたのは先程カフェにいた一樹だった。一樹はポリポリと頭をかく。
「お取り込み中のところ申し訳ないんだが、俺そっちの道に用があってさ、通してくんないかな」
と一樹は申し訳なさそうに言う。
「あ?通りたければ通りな。好きにしろよ」
「ああわかった」
一樹はカツカツと歩いていき素通りする。それを見て女性も絶望する。
男達は続きをするように女性の服に手を伸ばす。
「あ、そうだ」
一樹は女性の服を持った男の手を掴んだ。
「忘れ物をしてた」
ドゴォ!!
硬いものを叩きつけられたような音と共に男の身体が宙に浮いて吹っ飛んだ。
「な、えっ?」
「ゴミ掃除をするのをな」
拳にまだ殴った感触が残っている。久しぶりに味わう痛みだ。俺は自分の荷物を置いて拳を構える。男は彼女の手を離し動揺が隠せないでいた。その隙に彼女は俺の後ろに隠れる。
「な、何なんだよこれ。何なんだお前はぁー!」
「元ボクサーだ。教えることはそれだけだ」
「痛えな...」
さっきのガタイのいい男が立ち上がる。10カウント内に立ち上がるか。ガッツだけはあるらしい。
「元ボクサー...?そいつぁ面白い」
ガタイのいい男は首をボキボキと骨を鳴らし、拳を構える。すると隣にいた男が調子に乗るように笑い出す。
「元ボクサーだか何だか知らんが、こいつはプロのライセンスを持った正真正銘のプロボクサーだ!お前、死んだな」
男は頭を左右にウィービングをし出す。
確かにプロボクサーと言うだけはある。フォームが綺麗だ。だがそれまでだ。
パァン!
放った左ジャブがボクサーの男の左右に振っている顔に命中する。それを見て男は動きを止めて立ち止まる。
そうだろう。何故だという顔をするだろう。しかしそれは当然。何故なら、どんなに綺麗な構えだろうがどれだけウィービングしようが俺にはそれが遅く見えるからだ。すかさずワンツー!
バシバシッ!
拳が綺麗に相手の顔に命中し相手は蹌踉めく。
「ふっ!!」
絶好のチャンスを目の前にして俺は身体を相手の懐に頭を低くした体制で入り込み、下から相手の顎に目掛けて拳を突き上げた。
ゴシャッ!!!
その音はもはや殴った音ではなく鈍器か何かで思いっきり相手を殴りつけるような音が響いた。男の身体は地面から足が離れ浮いて地面に倒れ込んだ。
「ふぅ・・・」
思いっきり殴った拳は硬い顎を思いっきり殴ったことにより激痛が走る。俺はもう一人の男を睨み付ける。もう一人の男はもうガタイの良い男が気絶していることにより戦意喪失。さっきまでのデカい態度が嘘のように男は腰を抜かしている。
「ま、待ってくれ!俺達はただのアイドルスカウトマンで、その子ならアイドルの素質があると思って・・・!」
「アイドルスカウトマンがこんな人気の無い場所で女性の手を押さえつけているもんか・・・いいからそこのクズもって帰れ。二度とこの街に現れんな。今度お前らを見かけたら・・・今度はこの程度じゃ済まんぞ・・・」
「ひ、ひぃぃー!!」
男は情けない声を上げて逃げていく。
さて、用事も済んだし俺も退散としますか。
「あの・・・待ってください」
女性の声により俺は歩みを止めてしまう。
「あ、ありがとうございました。おかげで私は・・・」
「いやいや、目障りなゴミを処理しただけだ・・・礼を言われるようなことはしてないさ・・・」
「なら、せめてお名前だけでも・・・」
「島村一樹だ」
俺はそれだけを言葉にしてその場を去る。
『用事があるはずの道を通らず。』
というわけで第二話です。
今回出てきたアイドルはパッションの元気っ子と読書が好きなクールの少女です。
次回もお楽しみに!それでは、ボックス!!