東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は霊夢。


ルナティック
霊夢の恋華想


 

 博麗神社ーー

 

 平和な時が流れる幻想郷。

 そして今宵は雲ひとつない満月。それも大きく見える月夜だ。

 

 霊夢はお社の隣にある自分の住居の縁側に座り、誰かを待っていた。

 しきりに髪をいじり、足もそわそわと落ち着きがない。

 

 するとそこに何者かが現れる。

 霊夢は気配に気が付き、バッと立ち上がるが、

 

「今宵は外の世界で言うスーパームーンね、霊夢〜♪」

 

 その正体は待ち人ではあらず、紫だった。

 霊夢は紫だと分かった途端、不機嫌そうに「何か用?」と訊ねる。

 

「どうしてるかな〜と思ってね〜♪」

「本当に神出鬼没ね……様子を見に来たなら、もう分かったでしょ? 早く帰りなさいよ。私、これから大切な用事があるのよ」

「そう邪険にすることないでしょ〜? 小さい頃はよく一緒にお月見してたのに〜」

 

 紫はそう言うと霊夢の背後に回り、霊夢を抱きしめた。霊夢はウザそうにしながらも「はいはい」と返して頭を掻く。

 

「もういいでしょう? 本当にもう行ってよ。彼が来ちゃう」

「むぅ〜、恋は人を変えるって言うけど、霊夢は変わり過ぎよ〜」

「何とでも言いなさいよ」

 

 そう言うと霊夢はフンッと鼻を鳴らし、紫から顔を背ける。

 今の霊夢には大切な人間の恋人がいる。その恋人は人里に住んでいる若き木彫り職人の青年。先祖代々博麗を信仰しており、青年と霊夢は幼馴染み。そして今では霊夢の掛け替えのない存在なのだ。

 そんな青年と今宵は月見の約束をしているので、霊夢にとって紫はお呼びでない。紫はそんな霊夢が面白くて霊夢の膨れた頬をツンツンと突く。

 

「ま、博麗の巫女としての務めさえ蔑ろにしなければ、私は何も言わないわ」

「巫女としての務めは果たすわ。それが私の存在意義だもの」

 

 はっきりと紫に言い返す霊夢。そんな霊夢を紫は頼もしく思い、小さく笑みをこぼした。

 

「私は今の幻想郷が好きなの。それを破壊する者が現れたなら、全力で退治するわ」

「そう……それは頼もしいことだわ♪」

「でもねーー」

「?」

「ーー彼のことはそれ以上に愛してる」

「…………ご馳走様」

 

 霊夢の覚悟ある言葉に紫はそれ以上は何も言わなかった……と言うよりは言えなかった。それは霊夢の真剣さがピリピリと伝わってきたから。

 

 するとそこに霊夢の待ち人が現れた。霊夢は青年の姿を見つけるやいなや、紫から離れて青年の腕にギュッと抱きつく。

 そんな霊夢に青年は「遅くなってごめん」と言いながら、霊夢の髪を優しく手で梳いた。

 

「いいわよ、紫で暇潰せたから♡」

「私は暇潰しだったの!?」

「紫が勝手に来たんでしょ?」

「酷い! 酷いわ霊夢!」

 

 紫は嘘泣きをしつつ、青年の肩にすがりつく。

 霊夢はそんな紫を容赦なく叩いて青年から離れさせた。

 

「暴力巫女〜!」

「彼は私のなの! 紫のじゃないの!」

 

 霊夢はそう言って青年を守るように抱きしめ、紫から遠ざける。紫はそんな霊夢に「あぁ、霊夢もこんな顔もするようになったのか」としみじみ思ってしまった。

 

「ふふふ、ごめんなさい♪ それじゃあ、お邪魔虫はそろそろ退散するわね♪」

「早く帰りなさい!」

「はいはい♪ じゃあね、霊夢、恋人くん」

 

 すると紫は二人に手を振ってスキマの中へと消えていった。

 

「ったく、紫ったら……」

「まあまあ、紫さんだって霊夢が心配なんだよ」

「それは分かってるけど……いつも様子を見に来るタイミングがおかしいのよ」

「はは、そうむくれるなよ」

 

 青年が優しく言って霊夢の頭をワシワシと撫でてやると、霊夢は「ん〜♡」と幸せそうな声をあげたので、もう機嫌は直ったようだ。

 

 それから二人は縁側へ移り、月見酒と洒落込むのだった。

 

 ーー

 

 縁側に座り、月を肴に酒を飲む霊夢達。

 青年の肩に霊夢は頭を乗せ、幸せそうに足をパタつかせる。

 

「〜♪ 〜〜♪ 〜♪ 〜〜〜♪」

 

 霊夢は鼻歌も交じり気分も最高の様子。

 

「今日はご機嫌だね、霊夢♪」

「当然でしょ♡ 大好きなあなたと月見してるんだから♡」

 

 霊夢の満面の笑みと言葉に青年は胸が高鳴り、頬に火照りを感じた。青年はそれを誤魔化すように霊夢から目を逸らし、盃を仰ぐ。

 そんな照れ隠しをする青年に霊夢は愛おしさが込み上げ、青年の赤くなった頬をペロッと一舐めした。

 

「うわぁ、な、なんだよ、霊夢?」

「あなたが可愛かったから、舐めちゃった♡」

「舐めちゃったって可愛く言われてもな……」

「えへへ♡ さっきの私、可愛かった?♡」

 

 霊夢の問いに、青年は更に顔を赤くするだけで答えなかった。そんな青年に霊夢は「ねぇねぇ♡ 可愛かった?♡」としつこく訊てくる。

 

「か、可愛かったよ……いつも可愛いけど」

「んふふ♡ ありがと♡」

 

 そう言って霊夢は青年の腕にギュッと抱きつき、そのまま腕に顔を擦り付けた。

 そんな霊夢がまた可愛くて、青年は霊夢の頭に自身の頭を乗せ、霊夢と同じく自分の顔を擦り付ける。

 

「ん〜♡ あなたとこうしてるのが一番幸せ♡」

「俺もだよ……ずっとこうしていたいくらいだ」

「ずっとこうしてればいいじゃない♡ 私は望むところよ?♡」

「…………腹が減っても?」

「その時は二人でご飯作ればいいの♡」

「はは、そっか」

 

 青年は霊夢らしい答えに笑い、霊夢のおでこに小さく口づけをした。

 

「ん……もぉ、いきなりなんだからぁ♡」

「唇の方が良かった?」

「お月見なのに、私達がお月様に見られちゃうじゃない♡」

「それもそっか」

 

 青年が霊夢にそう返すと霊夢は「うん♡」と言って、青年と目を逸らして青年の腰に手を回して顔を伏せてしまう。

 青年はそんな霊夢に目を合わせてほしくて、霊夢に「こっち向いて」と言うように頭をポフポフ叩いた。

 すると霊夢はそれに応えるようにチラリとだけ、青年の顔を見る。霊夢の上目遣いと赤く染まった頬が実に愛らしくて、青年は思わず胸がときめいた。

 そんな青年の心境を知らぬ霊夢は更に追い打ちをかける。

 

「…………お月見様に見られない、奥の部屋でならしてもいいよ?♡ ちゅう……♡」

 

 狙って言ったのかと思うくらい、霊夢の言葉と仕草は青年の胸を貫いた。その言葉に青年は霊夢を抱きしめる。

 

「な、なぁに、急に?♡」

「霊夢が可愛いから……」

「い、今そんなこと言うの、反則じゃない?♡」

「反則なもんか!」

 

 すると青年は自分の胸の鼓動を聞かせるように、霊夢の耳を自身の胸にあてた。

 

「聞こえるだろ?」

「うん……聞こえてるよ、あなたの鼓動♡ トクントクンって♡」

「霊夢のせいでこんな風になってるんだからな?」

 

 照れながら青年が告白すると、霊夢は「えへへ♡」とはにかむ。そんな霊夢に「笑うなよ」と言う意味で青年は霊夢の頭を人差し指でグリグリすると、霊夢は謝りながらその手を取った。

 霊夢は取った手をそっと自分の胸にあてる。

 

「私も一緒だよ♡ あなたのせいで……あなたの姿を見た時から、ずっとこんなに胸が高鳴ってるの♡」

「霊夢……」

「こんなに大好きで、こんなに近くにいるのに、まだあなたのことが欲しいって思ってる自分がいるの♡」

「…………」

「こんな欲張りな私……嫌い?」

「そんなことない……俺だって同じこと思ってる」

 

 青年はそう言うと霊夢の腰に手を回し、優しく包み込むようにまた霊夢を抱きしめる。

 

「こうして抱きしめても、もっともっと自分の方へ霊夢を近付けたくなる……それくらい俺は霊夢のことが好きなんだ」

「なら、一つになっちゃおうか?♡」

「え?」

 

 霊夢に押し倒されるように崩される青年。戸惑う青年を霊夢は艶めいた表情で舌なめずりをしながら、見下ろしていた。その姿は月に照らされ、まさに幻想的な光景だった。

 

「私達、そろそろそういう仲になってもいい頃だと思うのよね♡」

「そういう仲って……」

「私のこと、欲しくない?♡」

「…………欲しい」

「じゃあ、貰って♡」

「霊夢!」

 

 こうして二人は月に見えない奥の部屋へと姿を消し、互いを深く求め合い、朝を迎えるのだったーー。




博麗霊夢ルナティック編、終わりです!

常にデレデ霊夢にしました♪
あんな風に迫られたら、もうね?

お粗末様でした!

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