東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はメリー。


メリーの恋華想

 

 京都某所の喫茶店ーー

 

 よく晴れた空模様。人々が行き交う中、喫茶店の中ではゆっくりとした時が流れる昼下がり。

 大学の授業を終え、特にやることもなくこの喫茶店で過ごす一組の女子大生達がいた。

 

「〜♪」

「…………」

 

 鼻歌交じりで珈琲を飲むのはマエリベリー・ハーン。通称メリー。そしてそんなメリーを観察しつつクリームソーダのアイスクリームを突くのが彼女の親友、宇佐見蓮子。

 

 メリーがご機嫌なのには理由がある。

 それは、

 

「お待たせしました。当店自慢のホットケーキでございます」

 

 今、隣のテーブルに品物を持ってきた男の店員の存在だ。

 

 この青年はメリー達とは別の大学に通う青年で、メリー達より二つ年上。この喫茶店の常連であるメリー達は青年と友人関係であり、こうしたアルバイトをしてるせいか青年はとても気配り上手。そして彼の素朴だが的確なアプローチでメリーが首ったけになった恋人なのだ。

 

 青年は品物を置くと「ごゆっくりどうぞ」と一礼してからそのテーブルを離れ、いつも待機する場所へと戻っていく。その際、青年はメリーが自分へ手を振っているのに気が付き、ニッコリと笑みを返して戻った。

 

「えへへ♡」

「自分でやっといて照れるっておかしくない?」

「う、うるさいわね……いいじゃない、別に」

「まあ別にいいんだけどね〜」

 

 そう言いつつもニヤニヤした視線をメリーに向ける蓮子。メリーはそれに気づかない振りをして、また珈琲をすすった。

 

「時間的にもう少しかな?」

「え? あ、うん。彼、今日は午前中から入ってたみたいだから、もう少しで上がるわよ?」

「大学が違うとこういうスケジュールも組めるから面白いわよね〜。今日はどんなデートするの?」

「今日は確か……映画行って、夕飯食べてーー」

「ホテルに行って、ホニャララして、朝になって大学へ」

「そ、そんなことしないわよ」

 

 蓮子のボケにメリーは真っ赤になりながらもちゃんとツッコミを入れる。しかしそのツッコミに蓮子は少し物足りない様子だ。

 

「え〜、夕飯食べてさよならってつまんなくない? せめて夜景見てくとか、夜の街を散歩するとか、色々あるっしょ?」

「……彼にだって予定があるの。私のわがままに付き合わせられないわよ」

「やっぱり夕飯食べてさよならってだけじゃ嫌なんだ♪」

 

 蓮子に上手く誘導されたメリー。口をへの字に曲げて怒りを表すも、蓮子はケラケラと笑って全く悪びれる素振りがない。

 

「別に中学生とか高校生じゃないんだしさ、少しくらい遅くなったっていいんじゃない? お互い一人暮らしっしょ?」

「でも……」

「メリーはもう少しがっつくべきだと思うのよね〜。いつまでも彼氏にお任せじゃ飽きられちゃうわよ?」

「…………」

「受け身受け身で来てたから難しいとは思うけどさ。ここら辺で自分を出すのも大切だと思うわけよ」

 

 メリーに諭すように言う蓮子の言葉に、メリーはふと青年の方へ視線を移した。そこにはいつもと変わりない大好きな青年が立っており、メリーはそれだけで胸の奥がトクントクンと鳴る。

 

「ま、捨てられたら私が慰めてあげるよ♪」

「もぉ、蓮子ったら……」

 

 相変わらずおちゃらける蓮子にメリーは感謝しつつ、先程の蓮子の言葉を胸に留めて置くのだった。

 

 ーー

 

 それから少しして蓮子は帰り、バイトから上がった青年はメリーと街へ繰り出した。

 

「映画何観ようか?」

「あ、あなたが観tーー」

 

 観たいものでいい……そう言おうとしたメリーは、そこで蓮子の言葉を思い出し、青年にちょっと待つよう手をかざす。

 

(受け身じゃ駄目よ、マエリベリー・ハーン! ここは私の意見を言わなきゃ!)

 

 そう決意したメリーだったが、すぐに答えは出なかった。何故なら、

 

(私、今どんな映画やってるのか知らないお……)

 

 この有様だったからだ。

 そんなメリーは「映画館に着いてから決めようよ」と無難な言葉を返し、それまで青年と肩寄せ合って映画館までの道のりを進むのだった。

 

 ーー

 

(な……な……なっ……!?)

 

 映画館に着いた二人。しかしメリーは言葉を失った。

 その理由は、

 

『ホラー映画祭! とびきりの恐怖をあなたの脳髄へ!』

 

 という最も困った状況だったから。

 

(どどどど、どうしよう! ホラー映画なんて無理! 絶対叫んで幻滅されちゃうお!)

 

「映画は今度にしようか? メリーちゃん、怖いの駄目だったでしょ?」

「う、ううん! そんなことにゃいお! 私、これが観たかったの!」

 

『幻想村の神隠し』

 

「本当に大丈夫? これかなり怖いって評判だけど?」

「だだだ大丈夫ぶぶぶ!」

 

 メリーは自分の見栄を後悔しつつ、青年とその映画を観た……観たというより、叫んでいた方が多かったのは秘密だ。

 一方の青年は上映中、ずっと左腕をメリーにキメられていたので別の意味で冷汗が滝のように流れていた。

 

 ーー

 

 映画も終わり、げっそりしたメリーを青年は優しく介抱しつつ、近くの公園へ連れ行った。当初の予定ならファミレスだったのが、流石にあんな凄い映像を観たあとでは何も喉を通らないだろうと青年が判断したからだ。

 

 適当なベンチに座り、メリーはホラー映画が終わった安心感からの脱力状態。方や青年は腕が折れなかったことへの安堵による脱力感。

二人の間には何とも言えない空気が漂っていた。 

 

『ごめん(なさい)』

 

 そしてやっと二人から出た言葉が謝罪だった。二人はそのことに驚いたが、すぐにそれが可笑しくて笑ってしまう。だって二人して同じことを口にしたのだから。

 

「うふふ、ごめんなさい……私が意地を張ったから」

「あはは、俺こそごめん……もっと下調べしてから誘うべきだった」

 

 改めて互いに謝り、笑い合う二人。映画は確かに失敗だったが、二人の仲を向上させるのには十分だった。

 

「このあとどうしよっか?」

「流石にあのあとでご飯はちょっとないよね……」

 

 メリーの問いに青年はそう返しつつ、う〜んと思案する。

 すると公園の中央広場にある噴水の水が綺麗な音楽と共に水しぶきをあげた。

 

「もうこんな時間なのね……」

「そうだね」

 

 この噴水は夜の七時になると音と共に噴き出す仕組みで、二人にとってはこれがいつものお別れの合図。

 

「ねぇ、メリーちゃん」

「?」

「ちょっと、噴水のところに行こうよ」

 

 青年はそう言ってメリーへ手を差し伸べる。メリーは少し戸惑いながらも、青年の笑みに応え、その手を握った。

 

 メリーを噴水の水しぶきが当たらないギリギリのところまで連れ出す青年。メリーはライトアップされた穏やかな噴水の光と水の音、そして大好きな青年の温もりで心が温かくなった。

 

「いつもならこれで解散してるけどさ……」

「…………?」

「今日はもう少しだけ、一緒にいない?」

 

 青年の提案にメリーは思わず「え」と声をあげて、青年の顔を見る。

 

「あ〜、その……ほら、男らしくないんだけど、ホラー映画を観たあとでちょっと心細くって、さ」

「〜〜……♡」

 

 メリーの胸はこれまでにないくらい高鳴った。青年がホラー映画が苦手だなんて聞いたこともない。ならばこの提案は青年が自分のことを考えてしてくれたことだと分かったからだ。

 

「駄目……かな?」

 

 微かに頬を染め、不安そうに訊いてくる青年。

 メリーの選択肢は一つしかない。

 

「駄目じゃないわ♡ 私も、まだあなたと一緒にいたいって……そう思ってたから♡」

 

 メリーの言葉に青年は「そっか……」と返し、メリーの肩を抱き寄せる。メリーもそれに抗うことなく青年に体を預けた。

 

「メリーちゃん……」

「なぁに?♡」

「ここを離れる前にキス、してもいいかな?」

「どうぞ♡」

 

 目と目を合わせたあとで、メリーから瞼を閉じ、青年がメリーの唇に自身の唇を重ねる。それと同時に噴水の音楽止み、それはまるで噴水が二人に気を遣ったかのような、そんな感じだった。

 その後は二人で夜のウィンドウショッピングと洒落込み、最後は青年のアパートへメリーも一緒に向かったそうなーー。




マエリベリー・ハーン編終わりです!

ちょっとしたラブコメの純愛物にしました!

お粗末様でした☆


※お知らせ※

本来ならばこれで終わりにするのですが、なんか都合良い具合に、あと二話で百話になります。
なのでキリの良い百話までの残り二話をルナティック(激甘)に書く予定です。
書くのは主人公である霊夢と魔理沙を予定しております。始まりも締めもやはり主人公がいいかと思っての選択です。

内容につきましては既に書いた霊夢、魔理沙のお話とは別で書こうと思います。
続編的な感じも考えたのですが、他のパターンの方が楽しんでもらえるかと思ったのでこうしました。

以上をここにお知らせとして残します。
ご了承お願い致します。

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