東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は蓮子。


秘封倶楽部
蓮子の恋華想


 

 某大学、キャンパスの中庭ーー

 

 白い雲が穏やかに流れ、天候に恵まれた昼間。宇佐見蓮子はベンチに座って、親友であるマエリベリー・ハーン(メリー)が来るのを()()()()()

 

「メリー遅いな〜、相談したいことがあるってのに〜……」

 

 メリーはまだかな〜と空を仰ぎ見る蓮子。するとすぐ側から何かがドサッと落ちるような音がした。

 蓮子がその音の方に視線を移すと、そこにはメリーが立っていた。メリーの足元には彼女が持ち歩いているカバンが落ちており、先程の落下音はその物のせいだと分かる。

 

「れ、れれれれ、れれれれれ……」

「どうしたのメリー、そんなに驚いて?」

 

 メリーは蓮子のことを指差し、この世の物とは違う物を見たかのように慌てふためいて『れ』と連呼していた。

 蓮子はそれが面白くて思わず笑い声をあげるが、メリーはそれどころではない。

 

「蓮子が私より先にいるなんてあり得ない! これはドッペルゲンガー!? それとも幻影を見せる何か!?」

「あ、あの〜、メリーさ〜ん?」

「きぃぃぃやぁぁぁ! 喋ったぁぁぁぁ!」

「そりゃあ喋るっしょ……」

「悪霊退散悪霊退散悪霊退散! 神様仏様イエス様ブッタ様太陽神様! 信仰してませんがどうかお助けををををを!」

「あ、なんかそれ早口言葉にしたらめっちゃウケると思う♪」

 

 その後もああだこうだわめいてしまったメリー。蓮子がやっとメリーを落ち着かせることに成功したのは一時間後だった。

 

 ーー

 

「はぁ……蓮子が私より先にいるなんてことなかったからすっごくびっくりしたぁ〜……」

「それはそうとさ〜……メリー……」

「なぁに?」

「なんでいつもの帽子の上に英和辞書なんて乗っけてるの?」

「天変地異の前触れかもしれないでしょ!? 空から槍が降ってきたらどうするの!? 槍じゃなくても大粒の雹とか!」

「流石の私も傷つくよ!?」

 

 蓮子にそう言われたメリーは渋々頭に乗せていた英和辞書をカバンに仕舞う。蓮子は「失礼しちゃうな〜」とご立腹だが、それと同時にいつもメリーを待たせているのが申し訳なく思うのだった。

 

「それで? メールにあった相談したいことって?」

「あ、そうなの! メリーにしか相談出来ないことなの!」

 

 やっと本題に入った二人。しかし親友のメリーには、蓮子がどんな相談をするのか大方見当がついていた。

 蓮子は最近、大学の陸上部に所属する同い年の青年と恋仲になった。蓮子が自身の研究のために陸上部が練習しているグラウンドに侵入し、その際に蓮子へ注意したのがその青年だった。

しかし、蓮子が理由を話すと青年は快く研究に協力。融通が利くので蓮子も青年を気に入り、グラウンドに通ううちに青年の練習風景を見て、そんな青年に惚れた。そらからメリーに助言してもらいつつ、ものにした恋人なのだ。

 

 だからサークル外で蓮子が自分に相談するなんて事柄はこうしたことだけなので、メリーは蓮子の相談事の内容はお見通しーー

 

「部活で疲れた彼にマッサージしたいんだけど、エッチなマッサージもした方がいいかな!?」

 

 ーーではなかった。

 メリーは予想の斜め上の相談に思わず、口に含んだペットボトルのお茶を噴き出す。

 

「うわぁ、汚っ!?」

「げほっげほっ……けほっ……なんて相談なのよ!!」

 

 メリーは口元を拭きつつ、蓮子にそう怒鳴ると蓮子は「だって〜……」とメリーから目を逸らした。

 

「こんな相談、メリーにしか出来なくて……」

「私でもそんな相談に答えられないわよ!」

「えぇ〜!? メリー、私より乙女乙女してるじゃん! これまでも相談乗ってくれてたじゃん!」

「それとこれとは別よ! 第一、私はそんな経験ないんだから!」

 

 二人の声がこだまし、周りの学生達も二人の方へ視線を向ける。それに気が付いた二人は愛想笑いを浮かべてその場を誤魔化した。

 

「だ、大体、蓮子の方があの人のこと詳しいんだから、自分で考えてよ」

「考えたよ? だからこうして相談してるんじゃん」

「だ、だからって……え、えええ……」

「エッチなマッサージ?」

「まで、する必要はないとおもおも、思うのよ……」

「いやぁ、彼も男だからさ〜、彼女としては一肌脱いでやろうかと……」

「物理的に脱いじゃ駄目でしょ……もっとこう、お料理作ってあげるとか」

「無理。暗黒物質になる」

「……お食事に連れて行ってあげるとか」

「無理。お金ない」

「…………デートに誘うとか」

「無理。昨日彼から誘われた」

「……………………」

 

 ああ言えばこう言う蓮子にメリーは何も提案出来なくなった。

 

「は〜……やっぱ、エッチなマッサージをーー」

「だからなんでそうなるのよ!? 蓮子は欲求不満なの、発情期なの!?」

「え、人間って年がら年中発情してる生き物だよ? だからいつ何時ーー」

 

 科学者的な解説を始めてしまった蓮子。メリーはまた始まったと思い、遠い空を見る。

 するとメリーの中にふと案が浮かんだ。

 

「ねぇ、蓮子。今度のデートってどこに行くか決まってるの?」

「決まってないけど?」

「なら、お家デートにしたら? 二人でまったり過ごすの! それならあの人も安らぐんじゃない?」

 

 メリーの提案に蓮子は目を輝かせた。蓮子は透かさず青年へその旨を伝え、今度のデートは青年の住むアパートでお家デートすることとなった。

 

 デート当日ーー

 

 青年のアパートの部屋にいつも通りにやってきた蓮子。青年の部屋は男の部屋にしては、それとも男だからか、物が少なく、必要最低限の物しかない。

 蓮子は青年があぐらを掻いた足のところに座り、青年にもたれる。

 

「本当にお家デートなんかでいいの? 俺の部屋って特に面白い物ないけど……」

「あなたは普段から部活部活で休みの方が少ないでしょう? 貴重な休みなんだからまったりしようよ♡」

「でも……」

「私とまったりするの、いや?」

 

 蓮子の少し寂しそうな声と服の袖を掴む手を見た青年は、優しく蓮子の頭を撫でたあとで「そんなことないよ」と返す。

 すると蓮子は自身を撫でる手を取って、自分の胸の方で抱きかかえ「それで良し♡」とだけ返した。

 

「ねぇ……♡」

「ん? どうかした?」

「二人きりだしさ……いつもと違うことしない?♡」

「例えばどんなーー」

 

 青年が言葉を言い切る前に蓮子は青年を押し倒し、青年の上に覆いかぶさる。蓮子の唐突な行動に青年は驚いたものの、ちゃんと蓮子を抱きとめた。

 

「沢山、キスしよ♡」

「……キス?」

「うん♡ キスにはリラックス効果があるし……あなたも私も気持ち良くなるでしょう?♡」

「最初は細菌の交換とか言ってたのにね♪」

「今も思ってるよ? でもそれ以外も分かったし、今はした方がいいという結論を出してるわ。文句ある?」

「文句はないよ……俺はどんな蓮子ちゃんも好き、だから」

「自分で言って照れないでよ……私まで恥ずかしくなるでしょ」

 

 互いに頬を染める。青年が蓮子に謝ろうとすると、それより先に蓮子の唇が青年の唇を塞いだ。

 ちゅっ、ちゅっと優しく青年の唇をつばまむ蓮子。その手は青年の胸元をギュッと握り、青年が逃げられないようにしている。

 

「んはぁ……えへへ♡ 我慢出来なくて、私からしちゃった♡」

「蓮子ちゃん……」

「ねぇ、今度はあなたからしてほしいな♡」

 

 蓮子はそう言ってキスのおねだりをすると、青年は「勿論」と答えて蓮子の顎をクイッと自分の方へ向ける。

 

「大好きだよ、蓮子ちゃん」

「私も♡ 私もあなたが大好き♡」

「んっ……ちゅっ、んんっ……」

「ぁ……んっ……ちゅちゅ〜っ♡ はむっ♡ もっろ♡ ぁむっ、ちゅぷっ……しゅき……っ……らいしゅきぃ♡ んんっ、ちゅっ♡」

 

 その日のお家デートは一日中キスしていたと言っても過言ではない程、二人でキスしてばかりだった。優しいのから激しいのまで色んなキスをし、色んな場所へキスをした。

 

 ーー

 

「ってな感じで、た〜くさんキスしちゃった〜♡」

「そ、そう……わざわざ報告までしなくていいのよ?」

「え、提案者に報告するのは当然でしょう?」

「き、気持ちだけでいいのよ……私の身ももたないから」

 

 こうしてメリーはまた違う悩みが蓮子によってもたらされるのだったーー。




宇佐見蓮子編終わりです!

蓮子らしくまっすぐに。そして一途に書きました!

お粗末様でした♪

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