人里ーー
よく晴れた昼。人里の外れにある小さな小屋。
「とうちゃ〜く♪」
その小屋の前に降り立ったのは変な珍しいティーシャツ姿の女神・へカーティア。
地獄の女神である彼女が何故地上の女神となってまでこちらに来ているのかと言うと、
「愛しい愛しいダーリン♡ お昼よん♡ 愛しい愛しいへカちゃんがお迎えに来たわよ〜ん♡」
愛する人をデートに誘うためである。
へカーティアは地上に恋人が出来た。それは半人半神の男で、天界より捨てられし青年『ルシア』。
幼き頃より穢れた半神として蔑まれたルシアは天界から追放され、幻想郷へやってきた。人里の外れに住み、生まれ持って身についていた知恵や力で人々を陰ながら守ってきた者。
そんなルシアとへカーティアが出会ったのは数ヶ月前のこと。
地上に興味を持ったへカーティアが地上を散策していると、慣れぬ地上の空気に当てられ弱り果て、倒れ込んでしまった。
そこに妖怪退治から戻る途中のルシアに発見され、手厚く看病され、その際に互いに色んな話をした。
そしていつの間にか意気投合……と言うよりは波長が合うとか馬が合うと言った方がいいだろう。
それからへカーティアは度々ルシアの元へ訪れるようになり、今ではこの有り様。
更に困ったことに、
『ちょっと地上の私! 私のダーリンに馴れ馴れしくしないでよ!』
『そうよ! そもそも、今回は月の私がダーリンとイチャイチャする番だったはずでしょ!』
どのへカーティアもルシアに首ったけなのだ。
実際にルシアが助けた時のへカーティアは青い髪で地上のへカーティア。しかし身体はそうでも思考は全部共通なので、それぞれがルシアに惚れている状態。
簡単に言えば、へカーティアは一つの身体で三人の人格おり、その三人がルシアと懇ろなのだ。
「あの……ケンカは止してください……」
「あ、ダーリン♡ これはケンカじゃないわ♡ 誰が正妻か決めてるだけよん♪ ま、最初にダーリンと出会った地上の私が正妻だけどね♡」
『はぁ? 初めてダーリンに告白したのは月の私よ!?』
『なら初めてダーリンとキス、更にはその先をした地獄の私が正妻でしょ!?』
脳内で言い争うそれぞれのへカーティア。ルシアは神の血が混じっているのでそれぞれの会話も聞こえているため、何とも居たたまれない感じになってしまう。
ただいつまで経っても言い争いは止まらない。ルシアは「あ、あの!」と強く発言すると、へカーティアはどうしたの……と言うようにルシアの方を向いた。
「ぼ、僕はどのへカーティアさんも、その……好きです。なのでケンカしないでください……好きな人がケンカしてるのは、嫌なんです」
「ダーリン……♡」
『ダーリン……♡』
『ダーリン……♡』
ルシアの言葉にどのへカーティアも胸を貫かれ、愛おしさが込み上げてくる。
「ちゃんと、愛します。どのへカーティアさんも平等に……必ず」
「ありがとう♡ 私、ダーリンと出会えて幸せよ♡ ずっとずっといつまでも愛し続けるわ♡」
『私もよ、ダーリンだけ♡』
『ダーリンがいれば何も要らないわ♡』
地上に続き、月や地獄のへカーティアもそれぞれルシアにメロメロ状態。
やっと事態が収まると、へカーティアはルシアを小屋から連れ出してとある所へ向かった。
夢の世界ーー
へカーティアがルシアを連れてきたのは夢の世界。
何故、夢の世界に連れてきたのかというと、
「さぁ、これでそれぞれの私が独立したわ♡」
「心置きなくダーリンとラブラブ出来るわ♡」
「夢の世界って本当に便利よね〜♡」
夢の世界では夢であるが故にそれぞれのへカーティアが独立出来る。
これはへカーティアがこの世界の主であるドレミーから聞き出した裏技で、三人同時にルシアとイチャイチャする場合はこの裏技を使うのだ。
ただちゃんと実体があるので何とも摩訶不思議である……いや、気にしたら負けなのかもしれない。
「また来たんですか……毎回毎回お熱いですね〜」
そこにドレミーがふよふよと飛んでやってきた。
四人はドレミーに気づくと、それぞれ挨拶を交わす。
「あら、ドレちゃん♪ お邪魔してるわよん♪」
「勝手にやってるわよん♪」
「いつも通りお散歩させてねん♪」
「お、お邪魔してます、ドレミーさん」
えぇ、本当にお邪魔ですよ……と言いたいドレミーだが、それを言ったら消し炭、その炭すら残してもらえないのでただ会釈を返すドレミー。
「ラブラブするのは結構ですが、ケンカだけは止めてくださいね。あなた方がケンカしたらいくら夢の世界と言えど崩壊しますので……」
「大丈夫! ダーリンの前でそんなはしたないことしないわ!」
地獄のへカーティアがそう言うと、他のへカーティア達もコクコクと首を縦に振る。
「…………まぁ、ケンカしたら恋人さんに愛想尽かされちゃうかもですしね。出来るだけ平和に過ごしてください」
そう言い残すとドレミーはまたふよふよと飛んで行った。
ドレミーを見送ると、へカーティア達はルシアの右に地上、左に地獄、背中に月とフォーメーションを展開して、夢の世界を仲良く散歩することにした。
ーー
夢の世界を散策して暫く経つと、ルシアのお腹が小さく鳴った。へカーティア達はそれを聞くと適当な場所(ドレミーに怒られない所)に移動。
「ふふ、ダーリンは半分人間だからすぐにお腹空いちゃうのね♡」
「ごめんね、気づくのが遅くなっちゃって♡」
「ちゃんとダーリンのお弁当作って来たからね♡」
するとルシアが少しバツが悪そうに頭を掻いた。へカーティア達がそんなルシアに小首を傾げていると、ルシアが小屋を出た時からずっと肩に下げていたカバンの中身を三人に見せる。
そのカバンの中にはお重が入っていた。へカーティア達がそれに驚いていると、ルシアが照れくさそうにしながら口を開く。
「今日はサプライズで僕がご馳走しようと思って……ごめんなさい、変に気を回してしまって」
謝るルシアだったが、へカーティア達はそんな言葉は耳に入ってない。何故ならルシアの心遣いが嬉しくてそれどころではなかったからだ。
へカーティア達はもう辛抱堪らんとばかりにルシアに抱きついた。ルシアはへカーティア達に埋もれる。
「ダーリン♡ 大好き♡」
「もっともっとダーリンが好きになっちゃった♡」
「女神をこんなに籠絡させて悪い人♡」
「ろ、籠絡なんて……僕はただーー」
皆さんに日頃のお礼をしたかった……そう続けようとしたルシアだったが、それは叶わなった。
何故なら、
「はむ……ん……ちゅっ……んっ、ちゅ〜っ……♡」
地獄のへカーティアに唇を奪われたからだ。
「んはぁ……ふふ、もう言葉は要らないわ♡」
「へカーティアさーー」
「次は私の番♡ ん〜……ちゅっ♡」
次は月のへカーティアに唇を奪われ、ルシアはまたも言葉を遮られる。
地獄のへカーティアはねっとりと情熱的なキスなのに対し、月のへカーティアのキスは愛を貪るような激しいキス。それが終わると、
「最後は私♡ ちゅっ、んっ……ぁむ♡」
地上のへカーティアによる甘く優しいキスの弾幕。
それはまさに夢の世界だった。
「はぁはぁ……へカーティアさん」
「はぁはぁ……っ……ダーリン♡」
「もう我慢出来なくなっちゃった♡」
「ご飯の前に私達を食べてほしいな♡」
完全にスイッチが入ってしまったいけない女神達。
ルシアは理性を奮い立たせ、へカーティア達に対して首を横に振る。
「ダーリンの
「へ、へカーティアさんが触ってるからです!」
「だって欲しいんだもん♡」
「ダーリン、頂戴♡ ダーリンの素敵な弾幕を私達の中にぶちまけて♡」
ぷちっ……っとルシアの理性が切れた。その次の瞬間、ルシアはへカーティア達が望むがままへカーティア達を愛した。それはもう激しく……。
ーー
「ダーリン♡ もっとぉ〜♡」
「ダーリン、次は私にぃ〜♡」
「もっとダーリンの愛がほしい〜♡」
「全員、平等に沢山愛します!」
『ダ〜リ〜ン♡』
「あ〜、争ってはいないけど、これはこれで迷惑ですね〜……」
激しく愛し合う神々とその半神にドレミーはそう嘆きつつ、その空間だけを遮断し、他の夢に影響が及ばないように励むのだったーー。
へカーティア・ラピスラズリ編終わりです!
三人同時にしちゃいましたがご了承を。
あとは蓮子とメリーで終わりですので、最後までお付き合いしてくださると幸いです!
お粗末様でした☆