東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は鈴瑚。


鈴瑚の恋華想

 

 妖怪の山ーー

 

 穏やかに雲が流れる幻想郷。

 しかし、妖怪の山にある小さな小屋では衝撃的なことが起こっていた。

 

「鈴瑚、あんたそれマジで言ってるの!?」

「どうしたの鈴瑚ちゃん!?」

 

 鈴瑚の相方である清蘭と地上へ任務で訪れていたレイセンは鈴瑚に詰め寄っている。

 あの異変後、清蘭と鈴瑚は地上に残り、気ままな生活をしていて、レイセンは依姫等の任務ついでにちょくちょく二人の元へ遊びに来ているのだ。

 そして今日、鈴瑚がふと二人に言った。

 

『私、今日から食べる量を控える』

 

 この言葉に清蘭は勿論のことだが、レイセンも口をあんぐりと開けて驚愕した。

 何故ならあの鈴瑚が食べることを控えると言っているから。鈴瑚は食べることが好きで、地上に残ったのも色んな食べ物があるからという理由が強い。そんな鈴瑚が食べる量を抑えるなんてことは二人にとっては異変レベル、月面戦争並の一大事なのだ。

 

「ちょっと〜、私別に食べないとは言ってないよ? ただ、少し量を控えるってだけじゃん」

「いやいや! その発言が鈴瑚から出ることがおかしいのよ!」

「な、何か悩み事があるなら相談して?」

 

 鈴瑚はいつも通りだが、清蘭やレイセンから冷静さが消えるほどの言葉だった。

 すると鈴瑚は小さく息を吐いて、どこか恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「笑わないでよ?」

 

 鈴瑚が少し頬を赤くしてそう二人に確認すると、清蘭は「笑わないよ!」と力強く返し、レイセンも真剣な面持ちでコクコクと頷いた。

 

「えっと……その……あいつのためにダイエットしようかな〜、なんて思ってる次第で……」

 

 その言葉にレイセンは小首を傾げるが、清蘭の方は思わずニヤニヤしてしまった。

 清蘭の反応を見て更にレイセンは頭にはてなマークを浮かべると、清蘭がレイセンに分かりやすく説明する。

 

「鈴瑚ってば、今人里でお惣菜屋さんを営んでる優しいお兄さんとお付き合いしてるんだよ〜♪」

「えぇ!? 鈴瑚ちゃん、彼氏がいるの!?」

「いるのよ〜、それが♪ 美味しいから良く利用してたんだけど、いつの間にか鈴瑚ったらそのお兄さんにほの字で〜、この前やっとくっつけたのよ〜♪」

「おぉ〜! 恋は突然にだね!」

 

 清蘭の説明にレイセンも目を輝かせ、興味津々。鈴瑚が何も口出ししないのも、清蘭の言ってることがそのままなので、ハニカミつつ頭を掻いている。

 すると今度はレイセンが鈴瑚に食いついた。

 

「どうしてそのお兄さんのことが好きになったの!?」

「どうしてって言われても……気がついたら自然と目で追うようになってたから、何とも……」

「何とぼけてるのよ。お兄さんに色々と人里を案内され時に、その優しさと誠実さに惚れたって言ってたじゃん♪」

 

 清蘭に本当のことを暴露されると、鈴瑚の顔は果物の林檎のように真っ赤になり、レイセンは「ふぉ〜!」と興奮状態になった。

 

「おっとと、つい話題がそれちゃったわ……本題に戻すけど、何だって急にダイエットなの? お兄さんに何か言われたの? 太ったねとか」

 

 清蘭がこれまでの話題に軌道修正すると、鈴瑚は「ん〜」と悩み出す。

 

「太ったとは言われてないけど……その、見ちゃったからさ〜」

「何を見たってのよ?」

「お兄さんが私よりスラッとしてて細い女の人と親しげに話してるとこ……」

 

 鈴瑚の言葉にまたも二人に衝撃が走った。玉兎の性かもしれないが、こういった下世話な話は大好物なので、二人は思わずドロドロな痴情のもつれを想像してしまう。

 しかし互いにいけない顔をしているのに気付き、頭を振って元の顔に戻すと、レイセンが鈴瑚に訊いた。

 

「お兄さんのお姉さんとか妹さんかもしれないし、そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」

「それもそうよね。てか、あのお兄さんが二心ある人には思えないよ。あれで二心があったら正真正銘の遊び人だけど」

「あいつはそんな人間じゃないもん! フラれるとしてもちゃんと話してからフッてくれるもん!」

「私の例えが悪かったけどさ、フラれるフラれないの話は止めよう」

 

 鼻息荒く抗議する鈴瑚を清蘭がなだめると、レイセンが穏やかに笑う。それを二人が小首を傾げて眺めていると、レイセンはごめんごめんと手をやって口を開く。

 

「鈴瑚ちゃんがそこまで言う人なら、きっと大丈夫だよ♪ それに地上人って月のみんなが言うほど穢れてないって思うし♪」

 

 そう言われると、鈴瑚も清蘭もうんと頷いた。だって自分達はそう思ったからこそ、月には戻らず幻想郷に残ったのだから。

 

「んじゃ、気を取り直してお兄さんのところにでも行こうか♪」

「何でよ!?」

「だってレイセンにまだ紹介してないじゃん? それにもう昼下がりだし、そろそろ夕飯の買い物にも行こうよ」

「そ、それはそうだけど……」

「レイセンだって見たいでしょ?」

「ま、まぁ、お目通り叶うなら」

 

 その言葉に清蘭は鈴瑚に「ほらね♪」と言って返すと、鈴瑚は観念したかのように頷いて、二人と一緒に恋人のいるお惣菜屋へ向かうのだった。

 

 人里ーー

 

 お惣菜屋の前へ着くと、中から何やら騒ぎ声が店の外まで聞こえている。

 

『だから早く結婚してお父さんとお母さんを安心させてあげなさいって言ってるの!』

『うるさいな〜、いいだろ、別に。そんなの追々どうにでもなるって』

『なってないから言ってるのよ!』

 

 ギャースギャースと言い争う声がしており、なかなか中へ入り辛い空気。

 

「あの人だよ、この前、私の彼氏と親しそうに話してた人」

 

 鈴瑚がそう言うと、清蘭もレイセンも思わず修羅場を見れるかと期待してしまったが、何とかその気持ちを抑えて中の様子を伺う。

 中では今も鈴瑚の彼氏と女の人が言い争っているが、鈴瑚が言ったように確かに距離が近い感じがする。

 

 どうしようかと考えていると、鈴瑚の彼氏が自分達の存在に気がついた。

 そして気がつくと、彼氏は透かさず三人の元へ……と言うよりは鈴瑚の元へとやってくる。

 

「鈴瑚ちゃん、ナイスタイミング! ちょっとこっちに来てくれ!」

「え、あ、あのぅ!?」

 

 驚く鈴瑚をよそに彼氏の方はあれよあれよと鈴瑚を女性の前に連れ行ってしまった。

 

「この子が俺の婚約者だ!」

 

 その言葉に鈴瑚も女性も『え?』とハモってしまう。

 

「俺はこの子と結婚する! そう約束してる! だから変なお節介はいらねぇぞ!」

 

 彼氏の思わぬ言葉に鈴瑚は理解出来ずに立ち尽くしてしまった。

 すると鈴瑚は女性から「ちょっと貴女」と声をかけられる。

 

「は、はい!?」

「こいつと結婚するって本当?」

「え……あの、その……」

「ほら、そんなに凄むと彼女が怯えちまうだろ?」

「あんたは黙ってな。私はこの子と話してるんだ。で、どうなの?」

「えっと……その、私も……結婚したいって思ってましゅ……♡」

 

 最後の方は尻すぼんでしまったものの、しっかりと返事をした鈴瑚に女性はニッコリと笑みを浮かべて、鈴瑚の肩を勢い良く叩いた。

 

「そうかいそうかい♪ やっとこいつにも決まった人が出来たんだねぇ♪ こんな可愛い義妹が出来るなんてあたしゃ嬉しいよ♪」

「えと、えと……よろしくお願いします?」

「よろしくね♪ あ、あたし、こいつの姉だから、何か嫌なことされたらすぐに言うんだよ? ぶぢ回してやるからね♪」

「俺はそんなことしねぇぞ! めっちゃ鈴瑚ちゃんを愛してるからな!」

「青二才が何言ってんだい!」

 

 それからいくつか言葉を交わした後、彼氏の姉は嵐のように去っていき、鈴瑚はそこでやっと今置かれている状況を理解した。

 自分は今プロポーズされたのだと……。

 

「あ、あの、わ、私しし……」

「ごめんな、戸惑わせちまって。でも鈴瑚ちゃん。俺と結婚してほしい。君となら俺は頑張れるんだ!」

「っ……はい……結婚します♡」

 

 こうして二人は自然な流れでまるで誓いのキスをするかのように、互いの唇を重ねた。

 

「なんだか凄いところに遭遇しちゃったね」

「鈴瑚め……ベリーベリーシュガーダンゴなんてやってくれたわね……」

 

 後日、二人は晴れて夫婦になったそうなーー。




鈴瑚編終わりです!

ドタバタなプロポーズシーンを書きました!

お粗末様でした♪

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