東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は雷鼓。


雷鼓の恋華想

 

 人里ーー

 

 日が落ち、人々が家で寛ぐ頃、人里の外れではとある催し物が開かれていた。

 それは、

 

「おら〜! 声出せ〜!」

『わぁぁぁぁっ!』

 

 堀川雷鼓と九十九姉妹の和楽器で構成された『九十九with雷鼓』と、

 

「こっちももっと盛り上げるよ〜♪」

『いえぇぇぇぇっ!』

 

 プリズムリバー三姉妹の『プリズムリバー洋楽団』、

 

「高らかに歌いましょ〜♪」

『ぎゃーてー、ぎゃーてー、はらぎゃてー、はらそーぎゃーてー!』

 

 ミスティア・ローレライと幽谷響子からなる『鳥獣伎楽』による合同ライヴだ。

 これは月一で定期的に行われているイベントで、娯楽の少ない幻想郷住人からすればかなりの大イベント。

 音楽を愛する雷鼓達にとっても多くの人々に自分達の音楽を披露出来るということもあり、みんないつも以上に観客を煽り、盛り上げる。

 過去のイベントでは八意永琳(横笛)や蓬莱山輝夜(琴)、わかさぎ姫(歌)、秦こころ(能楽)などなど、有名人達もゲストとして登場したほど。

 今回は都合で実現しなかったが、今後は十六夜咲夜(ヴァイオリン)や紅美鈴(二胡)。西行寺幽々子(舞い)、魂魄妖夢(三味線)をゲストに呼ぶ予定がある。

 

 ライヴも最高潮に達し、最後の演目が終わると、会場は一つになっていた。

 

「愛してるぜ〜!♪」

 

 雷鼓の言葉に観客は大声援を送り、此度のライヴも大盛況のうちに幕を下ろすのだった。

 

 ーー

 

 観客達を見送った雷鼓達は、演奏会場の裏にある楽屋代わりの小屋に戻ると、小屋の前には黒と白のストライプ柄のジャケット、ジレベスト、パンツに身を包む青年が雷鼓達を出迎えた。

 この青年の名は「律 奏(りつ かなで)」と言い、打出の小槌によって音叉という楽器の音を合わせる道具が付喪神化した者。

 奏はこのイベントの企画者で、他にも出演交渉や会場管理、そして本職である楽器の調律をするやり手の付喪神。

 

 そして、

 

「奏〜♡ 疲れた〜♡ 癒やせ〜♡」

「はい、沢山癒やして差し上げます♪」

 

 雷鼓の恋人である。

 

 雷鼓の演奏に惚れた奏が雷鼓に告白したのがきっかけで、今では幻想郷で知らぬ者はいないほど有名なカップル。

 奏は飛び込んできた雷鼓を優しく抱きとめると用意したタオルで雷鼓の汗を優しく丁寧に拭いてやった。

 

「相変わらずお熱いわね〜」

「ライヴの時より熱いかもね〜♪」

 

 弁々の言葉に八橋がニヤニヤしながら返すと、他の面々も八橋と同じようなことを口にしつつ小屋の中へ入っていく。

 中には奏が用意したタオルや飲み物、更には軽い食べ物まである。

 

「ん〜、沢山歌ったから汗掻いちゃった〜」

 

 ミスティアはそう言って汗を拭くと、響子や九十九姉妹も「私も〜」と言いつつそれぞれ汗を拭う。

 

「ライヴのあとの冷たいお茶は美味しい♪」

「うん、とっても美味しいよね〜♪」

「ん、美味しい」

 

 その一方でプリズムリバー三姉妹は奏が冷やしておいたお茶を堪能していた。三人はポルターガイストなので汗とは無縁なのだ。

 

 するとそこに奏が雷鼓に抱きつかれたままやってきた。

 

「皆さん、今回のイベントも大成功でした。ありがとうございました。来月もよろしくお願いします」

 

 奏はそう言って丁寧に頭を下げると、みんな一斉に返事をし、笑みを返す。

 

「奏さんはこれから雷鼓さんと家に帰ってセッション(意味深)?」

「あはは、雷鼓さんも疲れてますから、セッション(普通)なんてしませんよ♪」

 

 八橋の意味深な言葉にも奏は平然と答え、自分の背中に抱きつく雷鼓の頭を軽く撫でた。

 

「奏さんは雷鼓さんとセッションすることあるんですね!」

「やっぱり激しいんですか?」

 

 無邪気に言う響子に対し、ミスティアはムフフなことを若干想像しつつ訊ねる。

 

「セッションする時はそうだね……雷鼓さんってかなりアップテンポだから、それに合わせるとどうしても、ね」

 

 苦笑いを浮かべながら返すと、響子はフムフムと頷き、ミスティアの方はカァ〜っと顔を赤くさせた。念のためだが、あくまでセッションの話である。

 

「奏は私についてくるのがやっとだからね〜♡ 私がリードしてやんないとダメなのよ、奏ってば♡」

 

 雷鼓にそう言われた奏は「私は元々叩かれてなんぼの道具なので」と返すが、雷鼓は「それは私も同じ♡」と返し、また奏にギュッと抱きつく。

 

「雷鼓さんは叩く側になったけど、奏さんはみんなを奏でる側になったわよね♪」

「言われてみればそうだね♪」

「似てるけど役割が違う。でもその少し違いが二人にとってはいいことなのかもしれないわね」

 

 プリズムリバー三姉妹はそう言って仲睦まじい雷鼓と奏を微笑ましく眺めるのだった。

 

 それからみんなそれぞれの住処に戻って行き、奏は後片付けを終えてから、左腕にしがみつく雷鼓と共に借家へ帰ることにした。

 因みに雷鼓は奏の借家に居候しているため、二人は傍から見れば夫婦同然である。

 

「な〜な〜、奏〜♡」

「はい、何でしょうか?」

「私、今日も沢山、奏に愛を込めて演奏したんだよ?♡」

「はい、十分伝わってきましたよ♪」

「へへ、そうだろそうだろ?♡」

 

 奏に褒められる雷鼓はいつもの豪快な姐さんというイメージではなく、ブンブンに尻尾を振る子犬のような印象で、奏の腕にスリスリと頬擦りしていた。

 そんな雷鼓が可愛くて、愛しくて、奏は雷鼓の頭を軽く叩くように撫でる。

 すると雷鼓は「えへ〜♡」と甘えた声を出し、顔を蕩けさせるのだった。

 

 ーー

 

 借家に着くと雷鼓はすぐに土間へ行き、奏は明日のスケジュールを確認する。

 

(明日は午前中、寺子屋で音叉を使ったセラピーの実演。午後からは紅魔館でレミリアさんを交えた咲夜さん達との打ち合わせか……)

 

 明日もそれなりに予定があり、それぞれの準備をする奏。

 そうしている内に雷鼓が土間から酒の入った徳利を持って居間へと戻ってきた。

 

「今お風呂を沸かしますから、お酒はその後にしませんか?」

「言われなくてもそのつもりさ♪ ただ準備しとくだけ♪」

「そう言って沸かしている内に飲んでしまわれたことが多々ありますが?」

「うぅ〜……今日は平気だよ〜。今回は私も一緒についてくし、それなら安心だろう?」

 

 疑いの目を向ける奏に雷鼓がそう返すと、奏は「それでしたら良いでしょう」と頷き、二人して風呂を沸かしに行く。

 

 ーー

 

 風呂が沸くと先に雷鼓が入り、今度は奏が入って火を消し、ようやく二人だけでの酒盛りが始まった。

 

「んっ、んっ……んっ……ふぅ。ふふっ♡」

「少しペースが早くありませんか?」

 

 奏はそう言いつつも雷鼓の盃に酒を注ぐ。

 

「ライブが成功したんだ、今日くらいガッツリ飲みたいじゃない?♡」

「ははは、雷鼓さんらしいですね♪」

「ふふっ、それに……私が酔えば、奏が私を襲いやすいだろう?♡」

 

 普段の雷鼓からは想像の出来ない妖艶な流し目に、奏は内心ドキッとしてしまう。

奏自身、下心は無かったのだが、雷鼓のどこか艶っぽい声と目つき。更にはまだ乾ききっていない湿った髪や少しはだけた胸元がそれを際立たせる。

 

「酔わせてどうこうなんてしませんよ……そもそも今日の雷鼓さんはお疲れなのですから、そんなことしません」

「え〜、男なら襲ってよ〜♡ オーケーサイン出してるんだぞ〜?♡ 据え膳だぞ〜?♡」

「なんとでも言ってください、私は雷鼓さんの身を案じているんですから」

「ちぇ……いつも私のお尻叩いて私が鳴くのを楽しんでるくせに……」

「それは雷鼓さんがお願いするからです! 私は好きな人を叩く趣味などありません!」

「奏は私とハードなセッションするの嫌……なの?」

 

 酔いのせいもあるのか、そう訊いてくる雷鼓の瞳はいつにも増して潤んでいて、吸い込まれそうだった。

 そんな瞳を前に奏は思わずたじろいでしまうが、雷鼓は奏に構わず身を寄せる。

 雷鼓はまっすぐに奏の目を見つめ「嫌なら振り払いなよ……♡」とささやいた。奏がそう出来ないのを見越しての言葉だ。

 

「た、叩くのは嫌ですが、雷鼓さんと交ーー」

「んっ♡」

 

 交わるのは好き……そう伝えようとした奏だったが、言い終える前に雷鼓に口を塞がれてしまった。

 互いの舌と唾液が絡まる音、口端からもれる吐息。

 うっとりした雷鼓の表情としっとりと潤う唇は、まるで媚薬のように奏の神経を麻痺させる。

 

「んぅ……ちゅ、ふぅ……へへ、元気になってるよ、奏の♡」

「雷鼓さん……」

「遠慮することないよ……私は奏の女で、その女から誘ってるんだからさ♡」

「雷鼓、さん」

「大好きな奏の逞しいバチで、私のことを響かせて♡」

 

 耳元で甘くささやかれ、しまいには耳を舐められらた奏は、辛抱堪らずに雷鼓を押し倒し、雷鼓と真夜中のラブセッションを開始するのだったーー。




堀川雷鼓編終わりです!

ガツガツ、そして大人の色っぽさを出したお話にしました!

お粗末様でした♪

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