東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は針妙丸。

※針妙丸の大きさは20センチくらいの設定です。


針妙丸の恋華想

 

 博麗神社ーー

 

 ポカポカ陽気が心地良い昼過ぎ、今日も穏やかな幻想郷はのんびりと時が過ぎている。

 しかし、その平穏を引き裂く少女の悲鳴が博麗神社でこだましていた。

 

「れ〜い〜む〜! す〜い〜か〜! た〜す〜け〜て〜!」

『にゃ〜ん♪』

 

 博麗霊夢が保護している少名針妙丸が猫の姿になって遊びに来た火焔猫燐と橙に追われていたのだ。

 二人は少しの本能と遊び心で針妙丸を追っているが、追われる針妙丸にとっては恐怖であることこの上ない。

 針妙丸が追われていても霊夢はいつものことなので助けに行こうとはせず、干した洗濯物を確認していて、萃香に至っては昨晩遅くまで飲んでいたせいもあり、まだ夢の中。

 

「うわぁぁぁん! だ〜れ〜か〜!」

 

 夢中で逃げる針妙丸。しかし走り疲れた針妙丸はバランスを崩して転んでしまう。

 

「にゃ〜♪」

「ふみゃ〜ん♪」

 

 ジリジリと詰め寄るお燐と橙。逃げようにももう足に力が入らない針妙丸。

 

 もうダメだ、お終いだ。私はこれからこの猫達のおもちゃにされて、散々弄ばれて、ボロ雑巾のように捨てられるんだ……そう過度な妄想した針妙丸はそっと瞼を閉じる。

 

 そしてお燐と橙が針妙丸へ飛び掛かるが、

 

「ほい、そこまで♪」

 

 という言葉と共にお燐と橙より一回り大きな白猫が針妙丸の前に現れ、立派な二股の尻尾で二匹の顔をペシッと叩いた。

 

「はっくん♡」

 

 この猫は博麗神社の裏に広がる森の中に住んでいる妖怪「猫又」で、お燐や橙よりも数百歳以上も年上の大先輩。名前は「沙白(しゃはく)」と言い、周りからは「ハクさん」と言う呼び名で親しまれている。

 因みに沙白は神社の縁側で日向ぼっこするのが好きで度々訪れているのだ。

 沙白にたしなめられた二匹はポンッと人の姿になると、苦笑いを浮かべた。

 

「えへへ、ごめんよ〜、ハクさん。つい本能が……」

「橙もごめんなさいです……」

 

 自分に謝る二人に対し、沙白は「謝る相手が違うだろう?」と諭すように返すと、二人は揃って針妙丸へ頭を下げる。

 

「針ちゃん、二人もこう言ってるし、今回は許しやってくんねぇか? 行き過ぎた遊びはしねぇようにさせっからよ」

 

 沙白はそう言って針妙丸に頼むと、

 

「はっくんがそう言うならいいよ♡」

 

 と針妙丸はすんなり二人を許してやるのだった。

 

 もう気付いているかもしれないが、針妙丸と沙白は恋仲関係にある。

 針妙丸は今回のように襲われているのをよく沙白に助けられ、それが積み重なり恋に落ち、今に至るのだ。

 

「お燐ちゃんも橙ちゃんも、もう嫌がってる相手に悪ノリしちゃぁいけねぇぞ? せめて手遊びくれぇにしとけ」

 

 注意する沙白に針妙丸が「手遊び?」と言って小首を傾げると、沙白は「前脚でこう……ちょいちょいっと♪」と返して針妙丸が被っているお椀の蓋を前脚で軽く突く。

 

「きゃあ♡ もぉ、止めてよぅ♡」

「なっはっは、これくらいなら多目に見てやってくれ♪」

「はっくんなら許すよ〜♡」

「いや、二人の方を多目に見てやってくれよ♪」

「えぇ〜、どうしようかな〜?♡」

「そう意地悪言いなさんな♪ うりうり♪」

「きゃん♡ 突いちゃダメぇ〜♡」

 

 実践しただけでこの激甘空間。そんな激甘空間にお燐は口の中をジャリジャリさせ、橙はどこか目を輝かせている。

 

「あんたら本当にバカップルね」

 

 すると乾いた洗濯物を持って霊夢が戻ってきた。

 そんな霊夢に対し、針妙丸は「あ、裏切り者だ」と先ほど助けてくれなかったことへの恨みある言葉をかける。

 

「助ける必要ないからよ。そもそも二人があなたを追いかけるのは遊びなんだから」

「でもすっごくすっごく怖いんだよ!?」

「飛ぶなりなんなりすればいいじゃない」

「二人だって飛べるし、すばしっこいから攻撃も当たらないの!」

「それはあなたが弱いからでしょ」

「私は六ボスだよ!?」

「知ってるわよ、そんなこと」

 

 針妙丸の言葉を霊夢は涼しい顔をして躱していく。次第に針妙丸はふくれっ面になり、親に助けを求める子どもように沙白の前脚に抱きついた。

 

「はっく〜ん! 霊夢が〜! 霊夢がいじめる〜!」

「お〜、よしよし」

 

 沙白は針妙丸をもう片方の前脚で優しく包み込むと、針妙丸はすぐに機嫌を直してだらしない顔になる。

 霊夢はそれを見ると苦笑いを浮かべ、未だに起きてこない萃香を叩き起こしに向かうのだった。

 

 ーー

 

 針妙丸と沙白、そしてお燐と橙は陽のあたる縁側に寝そべりまったりと時を過ごす。

 

「ねぇねぇ、ハクさん」

「ん、なんだい橙ちゃん?」

「ハクさんは針妙丸さんを追いかけたくならないんですか?」

「橙ちゃん達とは年季が違うからな〜。追いかけたくはならねぇな。別の意味では追いかけてるが」

 

 沙白の言葉にお燐や橙は「別の意味?」と返しつつ首を傾げた。

 すると沙白は小さく笑って口を開く。

 

「おいらは針ちゃんをいつも追いかけているのさ。心底好いた相手だからなぁ」

 

 そう言った沙白は自分の腹を枕代わりして眠る針妙丸の顔を優しく見つめ、尻尾を器用に使って針妙丸の頬を撫でた。

 そんな沙白に橙はまたも瞳を輝かせ、お燐は「うっぷ」と何やら吐きそうなのを堪えるのだった。

 

「あんた達〜、萃香も起きたから私達はお昼にするけど、あなた達もまだなら食べる?」

 

 すると居間に戻ってきた霊夢がみんなに声をかける。

 

「食べます♪」

「ご馳走になりま〜す♪」

「ゴチになります、霊夢さん」

 

 お燐達の返事に霊夢は「ん」とだけ返すと、土間へと向かい、橙は「藍様に教わったのでお手伝いします♪」と言って霊夢の背中を追った。

 

「針ちゃん、針ちゃん……起きてくれ、針ちゃん」

 

 霊夢と橙が土間へ行くと、沙白は前脚で針妙丸の肩をポンポンと叩いて針妙丸を起こす。針妙丸は寝ぼけ眼を擦りつつ起きると、沙白の前脚にギュッと抱きついて「おはよ〜♡」と挨拶する。

 

「おう、おはよ♪ 針ちゃん、すまねぇが人の姿になるから離れてくんねぇか?」

「ん、分かった〜♪」

 

 針妙丸が少し離れると、沙白は「よっ」と声をあげた。するとボンッと煙が上がり、一人の青年が煙の中からの紺色の長着姿で、肩まである綺麗な白髪を靡かせつつ現れる。

 これが沙白の人の姿で針妙丸はそれを見るとふよふよと飛んで沙白の肩に乗った。

 

「もふもふはっくんじゃなくて、人型はっくんだ〜♡」

「あはは、でも髪は猫毛だけどなぁ♪」

「うん、人型でも頭はもふもふ〜♪」

 

 針妙丸はそう言って沙白の襟足を触ると、沙白はくすぐったそうにしつつも針妙丸の好きにさせた。

 

「お〜い、白猫と火車〜。暇ならこっち手伝ってくれ〜」

 

 萃香に呼ばれた二人は返事をして萃香の方の手伝いをし、こうして少し遅めのお昼御飯となった。

 

 ーー

 

「………………」

「お〜〜〜〜!」

 

 いざお昼御飯になると、お燐は固まり、橙は目をしいたけにする。

 何故なら、

 

「はい、針ちゃん、あ〜ん♪」

「あ〜……はむっ、ん〜♡」

 

 目の前で激甘空間がブワッと砂糖を撒き散らしているからだ。

 その一方で霊夢や萃香は気にする素振りもなく、黙々と食事をしている。

 

「お姉さん達、よくこの砂糖弾幕の中で平然としていられるねぇ……」

「私はもう慣れちゃったよ、毎回こんな感じだし……」

「レミリアと咲夜みたいなもんだし、別にどうってことないじゃない」

 

 お燐の言葉に対し、萃香は苦笑いを浮かべ、霊夢はクールに返す。

 

「はっくんにもあ〜ん♡」

「はむっ♪」

「あん♡ 私の手まで食べちゃダ〜メ♡」

「ちっこいからつい食べちまったよ♪」

「もぉ、はっくんのイジワル〜♡」

 

 霊夢達を気にすることなく、針妙丸達は変わらずのキャッキャうふふ状態。

 

「お、お姉さん、お茶ちょうだい……くそにっがいやつ……」

「はいはい」

「化け猫の方はよく平気だな〜」

「だって見てて楽しいもん♪」

 

「はっくん♡ はっくん♡」

「針ちゃん♪ 針ちゃん♪」

 

 その後も二人のシュガーワールドは拡大し、お燐はとうとう耐えきれず盛大に砂糖を吐き、霊夢と萃香に介抱され、橙はずっと針妙丸達を眺めていたそうなーー。




少名針妙丸編終わりです!

針妙丸のお話はバカップルにしました!

お粗末様でした♪

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