こころの恋華想
人里ーー
晴天に恵まれ、時がゆっくりと過ぎる幻想郷。
里は人間達の笑顔に溢れ、それと上手く共存する妖怪達、妖精達にも笑顔が溢れている。
そんな昼下がり、秦こころと一人の青年がとある茶屋の前に立った。
しかし二人が立つ場所、向きは茶屋の出入り口ではなく、その隣。
それは
人々は二人を不思議そうに見つつ素通りしていく。
しかしそれが何なのか分かる人々は、二人を見つけると顔をパァッと明るくさせ、二人の周りへ集まる。中にはその茶屋でお茶と団子を買う者まで居た。
するとこころが黒い着物に灰色の伊達袴姿の青年に目配せする。それを見た青年は右の腰に差してある筒からある物を取り出した。
それは黒塗りの能管で、青年は集まった人々に一礼するとしなやかな音色を奏でる。
人々はその音に魅了され、その上品な音色にうっとりと耳を傾けた。
暫くすると、音色は段々とその色を変え、今度はしっとりとしたものとなる。
するとこころがゆっくりと瞼を閉じ、両手に持つ扇子を音も無く開いた後、右手を上げ、左手を下げ、そのままの状態で静止する。
音色と合わさり、その場には静寂な時が流れる。
一つ……二つ……三つと時が過ぎ、
「……っ!」
こころが目を見開くと、笛の音色も激しく、高らかに天高く鳴り響いた。
青年も顔を赤くし、いっぱいに笛へ息を流し込み、どこまでも広く、どこまでも遠く、どこまでも高くと笛の音を奏で、その隣でこころは跳び、舞う。
人々はそれを見て、息を呑む者、歓声を上げる者と様々で二人の演技の虜だ。
クライマックスに差し掛かり、音色は青年の指や舌使いにより小気味よく転がされ、こころは扇子を指に掛けて勢いよく回す。
二人が息を合わせ、ピタリと演奏と演舞を終えると、周りからは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。
ーー
「いやはや、ありがとうございました♪ お二人のお陰で客も大入りでございます♪」
店主は二人にニッコリと笑ってお礼を述べると、二人は揃って一礼した。
「こちらはご依頼料です♪ それとおまけと言っては何ですが、うちの団子も……良かったらお二人でどうぞ♪」
「お心遣いありがとうございます♪」
「ありがとうございます」
「へい、またよろしくお願い致します♪」
こうして二人は今日の公演を終えると、二人並んでその場を後にする。
ーー
人里と迷いの竹林との中間に、二人が寝泊まりしている小屋があり、二人は座敷に上がるとふぅと小さく息を吐いた。
「今日の公演も上手くいったね、こころ」
「あぁ、上手くいった。実に最高の気分だ」
青年の言葉にそう返すこころは福の神の面を頭に付けて返す。これは喜びの意味があり、こころが嬉しいと感じてる時の面だ。青年はそれを見ると、ニッコリと笑みを浮かべ「そうだね」と返した。
この青年は数年前に降りた能管の付喪神。名前は「
彩音は人々に能楽の楽しさを教えるため、人里で毎日笛を吹いていた。そこにこころが通りかかり意気投合。今ではこころと恋人の関係であり、二人で幻想郷に能楽の楽しさを伝えている。
「彩音〜」
「ん、どうしたの?」
こころに呼ばれ、訊き返した彩音だったが、その答えはすぐに分かった。
何故ならこころは両手足を広げて自分の方を向いているからだ。これはこころが抱っこを求めいる合図である。
「…………ギュッてして♡」
彩音の瞳をジーッと見つめてこころが要求すると、彩音は「ほいよ♪」とこころの手を引いて、自分の胸にこころを優しく収めた。
するとこころの面がにこやかなおかめに変わる。これも喜びを表しているが、甘えられる喜びが強い。
「頭も撫でてほしい♡」
「お安い御用だよ♪」
「〜♪♡」
彩音がこころの髪を梳くように丁寧に撫でると、こころは嬉しそうな幸せそうな甘えた声をもらし、彩音の胸に顔をグリグリと押しつける。
それから少しすると、今度はこころがふと彩音の顔を見上げた。
「? 今度はどうした?」
「彩音の顔を見てるだけ♡」
「はは、何か照れくさいな♪」
「私は照れない♡ ずっと見ていられる♡」
顔は無表情なこころではあるが、その声色は甘く、彩音の耳を撫でる。
「でもやっぱりスリスリもしたい♡」
「好きなだけどうぞ♪」
「最初からそのつもり♡」
こころはそれからも彩音にスリスリしたり見つめたりと、彩音にこれでもかと甘えた。彩音も言った通り、こころの好きにさせ、それを優しく見ながらこころの髪をまた優しく梳いてやるのだった。
ーー
「彩音〜彩音〜」
「はいはい♪」
「あ〜……あむあむ♡」
暫く互いの体温を感じ合った二人は、今度は並んで座り、今日の公演のおまけでもらった団子を食べさせ合っていた。
中でもこころはみたらし団子を気に入ったらしく、彩音に食べせてもらう度に幸せそうな声をもらしている。
「ここのお団子は美味しいね。繁盛してないのが不思議なくらいだよ」
「だから我々や彩音で客寄せしたんだろう? 味さえ分かれば、固定客は出来るはずだ」
「それもそうだね♪ 味はいい訳だし、また食べたいと思う人もいるよね♪」
彩音が笑って返すと、こころも「うむ♡」と弾む声で返した。
すると小屋の戸を叩く音がし、彩音はその音に返事をしつつ戸の所まで行って戸を開ける。
「貴女は確か、紅魔館の……」
「こんにちは。紅魔館でメイド長をしております、十六夜咲夜と申します」
そこには咲夜が立ってた。彩音はそれに少し驚きながらも咲夜を座敷に上げ、こころは咲夜に茶を淹れる。
「番茶だが、飲むといい」
「ありがとうございます」
咲夜はお礼を述べ、こころが淹れたお茶を優雅にすすった後、姿勢を正した。
「早速、本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
彩音がそう返すと、咲夜は「では……」と前置きして、用件を述べる。
「私の主である、レミリアお嬢様があなた方の演技をご覧になりたいとのことで、今夜の晩餐に来てほしいと言伝を承っております」
用件に二人は思わず顔を見合わせた。こころに至っては驚きの意味を表す
「急なご依頼で申し訳ございません。しかし、あなた方の評判をレミリアお嬢様がお聞きになり、能楽に興味をお持ちになられましたレミリアお嬢様たってのご希望なのです」
咲夜はそう言った後に「どうか」と二人に頭を下げる。
二人はそれを見てもう一度顔を見合わせると今度はうんと頷き合い、咲夜に「喜んでお引き受けします」と声を揃えて公演の依頼を引き受けた。二人としても、西洋文化を色濃く持つ紅魔館の主に能楽を披露出来る機会が嬉しいからだ。
「急なご依頼にも関わらず、ありがとうございます。今晩はお料理もこの私が腕によりをかけてご用意させて頂きますので、よろしくお願い致します」
そう言う咲夜に二人は「楽しみにしてます」と一礼すると、咲夜はにこやかに去っていった。
咲夜が去ると、二人は早速仕事の打ち合わせを始める。
「演目はどうしようか?」
「私達が一番自信のあるものでいいのでは?」
「となると、人里でやった「
彩音がそう言うと、こころもうんと頷く。この演目は二人が考案した演目で、唄がなく、演奏と演舞を楽しんでもらう演目だ。
「…………せっかくだし、二つやっちゃおうか?♪」
「おぉ、それはいいな♪」
彩音の提案にこころも面を火男にして乗り気の様子。
「よし、決まりだ♪ 頑張ろうね!」
「勿論だ♪ じゃあいつものように、あれを頼む♪」
こころがそう言うと、彩音は「よし来た♪」と返してこころへ口づけした。これは二人が頑張れる源で、してないのとしたのとでは音もキレも段違いなのだ。
「……んはぁ♡ ん、頑張るぞ♡」
「僕も頑張るよ♪」
「……彩音♡」
「ん?」
「愛してる♡」
「僕もこころを愛してるよ♪」
こうして二人は愛のパワーを充電し、紅魔館での公演を大成功させるのだったーー。
秦こころ編終わりです!
相思相愛なラブラブカップル的な感じにしました!
お粗末様でした♪