紅魔館ーー
紅魔館は今日もいつも通り平和な昼下がりを迎えていた。
そして今日も暇を持て余す紅魔館の主・レミリアは大図書館を管理する親友であるパチュリーと雑談をしていた。
「でさ〜、フランったらね〜ーー」
「あの子も今は自由なのだから、仕方ないわ」
レミリアは最近遊んでばかりいる妹のフランドールについて小言をこぼしていた。レミリア自身、フランが日々を楽しんでいるのは好意的に捉えてはいるが、つい過保護になってしまいがち。なのでこうしてパチュリーに愚痴をこぼしているのだ。
パチュリーとしてはそんな親友のお話も快く聞き、時にはレミリアの行き過ぎた指導を注意したりしている。
そしてずっと喋っていたレミリアがふと口を閉ざし、パチュリーの顔を凝視した。
そんなレミリアにパチュリーが小首を傾げると、レミリアがニッコリと微笑んだ。
「貴女、本当に変わったわね♪」
「どういう意味? 私としては何も変わっていないのだけれど?」
「いいえ、パチェ、貴女は変わったわ。その証拠に……」
そう言ってレミリアはパチュリーにサッと机に置いてあった鏡をかざし、
「とても表情が明るくなったもの♪」
と言った。
するとパチュリーは「そうかしら?」と鏡に映る自分の顔をじーっと眺めた。
「お話のところ失礼致します。パチュリー様、古書店の方がお見えです。小悪魔が先に行って対応していますので、パチュリー様も行かれるのでしたら、お向かいください」
音も無く現れた咲夜にパチュリーは、
「えぇ、分かったわ♪ レミィ、悪いけど私はこれで失礼するわね♪」
と満面の笑みを浮かべてふわふわと飛んでその場を後にした。
「あ〜あ〜、あんなにお花咲き乱れさせちゃって……あれが動かない大図書館だなんてね〜、うふふ」
「恋は人を嗚呼も変えてしまわれるのかと思うと凄いと思いますわ」
「私も今後を考えて誰かとお付き合いしようかしら?」
「そんな! お嬢様はまだまだ大丈夫です! 寧ろお嬢様に見合う男性などこの世に存在しませんわ!」
「わ、分かったからそんなに興奮しないの……」
レミリアのほんの冗談にクワッと目を開いて抗議する咲夜。そんな咲夜にレミリアは苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
門前ーー
「これが今回持って来た書物のリストです」
台車に多くの書物を持って来たこの青年は、パチュリーの恋人である。
人里で古書店を営んでおり、店には魔導書から何から集まってくる。その噂を友人のアリスから聞いたパチュリーは時々自ら赴き、その都度大量に書物を購入していた。そしていつの間にか意気投合し、彼からの告白で数ヶ月前から付き合うことになったのだ。
パチュリーが持つ転移魔法を使えば人里からわざわざ紅魔館まで来なくても良いのだが、会える口実として本の配達は二人の暗黙のルールとなっている。
「……はい、いつもありがとうございます♪」
「いえいえ、あの人のためですから」
「お熱いですね〜♪」
「いやぁ……あはは♪」
美鈴と小悪魔にからかわれつつ、彼は台車を押して門をくぐると、
「あ……」
「いらっしゃい♡」
パチュリーが待ち構えていて、二人は思わず見つめ合った。
そんな二人を見て、美鈴はさっさと門を閉め、小悪魔はピュ〜っと大図書館へ戻った。
「今日もお届けに来ました。パチュリーさん」
「えぇ、ありがとう♡」
そしてパチュリーは彼の左腕にピトッとくっつき、二人はゆっくりと大図書館へ向かって歩き出すのだった。
紅魔館内・廊下ーー
「喘息の方は大丈夫ですか?」
「えぇ、落ち着いてるわ♡」
「毎回こうして迎えに来てくれてますが、歩いて大丈夫なんですか?」
「平気よ♪ それに少しは動かないとね♪」
二人でそんな話をしていると、
「あ〜! パチュリーとパチュリーの旦那さんだ♪」
ボールを持ったフランが現れた。その後ろにはチルノや大妖精、ルーミアも居ることから、おそらくこれから遊びに行くのだろう。
「だ、旦那さんだなんて、みんなの前でなんてこと言うのフラン!?」
「えぇ〜? でも、お付き合いしてるんでしょ〜?」
「ずっと付き合ってたら結婚するって慧音先生言ってたぞ!」
「この前、文の新聞にも結婚間近って書いてあったのだ〜♪」
「人里ではお二人の話題で持ちきりですよ♪」
(あんのマスゴミ烏〜〜〜!)
人里でそんなことになっているのかと顔を真っ赤にしてワナワナするパチュリーだったが、対する彼の方は照れくさそうに笑って頭をポリポリと掻いていた。
「パチュリーはフランのお友達なんだから、幸せにしないと怒るからね!」
「結婚式挙げるならあたい達も呼んでよね!」
「沢山美味しいもの食べさせてほしいのだ〜♪」
「応援してます!」
「だ、だから私達はまだそんなーー」
「はい、精一杯彼女を愛します」
「っ!?」
否定しようにも彼が言い放った言葉にパチュリーは思考停止してしまった。
それからフラン達は『頑張れ〜♪』と励まし、外へと走っていった。
「フランちゃん、日傘持ってなかったけど大丈夫なのかな?」
「…………咲夜がなんとかするでしょ……」
彼の言葉に半ば放心状態で返すパチュリー。彼はそんなパチュリーを気にしつつ、大図書館へ向かってまた歩き出した。
ーー。
大図書館へ着いたパチュリーは悶々としながら彼が持って来た書物を確認していた。
『はい、精一杯彼女を愛します』
パチュリーの頭の中では先程の彼の言葉が何回も何回も駆け巡っていた。
(あれはどういう意味で言った言葉なのかしら……)
「…………ーさん?」
(そもそもお付き合いはしてるけど、けけけけ、結婚なんて……)
「……リーさん?」
(でででででも、『愛します』ってのはやっぱり……♡)
「パチュリーさん!」
「むきゅっ!?」
彼に力強く名前を呼ばれたパチュリーは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
それを見た彼はまたクスクスと笑ってパチュリーを見つめた。パチュリーはそれに文句を言おうとしたが、先程の彼からの言葉がまだ忘れられず、彼の顔を正面から見ることが出来なかった。
「ばか♡」
「すみません、ふふ」
「ふんっ」
それから古書の確認を終え、パチュリーは小悪魔にそれらを倉庫へ仕舞うよう指示を出すと、彼の服の袖を引っ張って自分の机の側に置いてあるソファーへ強引に連れ行った。
彼をソファーへ座らせると、パチュリーは顔を伏せ、黙ったまま彼の左隣に腰を下ろした。しかしそれでもパチュリーは彼の左腕にギュ〜ッとしがみつき、頭も彼の肩に預けていた。
「さっきフランちゃん達に言ったこと、怒ってますか?」
「…………」
(嬉しいに決まってるじゃない!♡)
「怒らせてしまったのら謝ります」
「…………」
(どうして謝るのよ! 私は嬉しかったのに! むきゅ〜!)
「でもあの言葉を訂正するつもりはありません」
「え」
すると彼はパチュリーの手を強く握りしめた。
「お付き合いを始めてまだ三ヶ月ですが、私はパチュリーさん、貴女と結婚したいと思ってます」
「な……な……」
彼からの唐突のプロポーズにパチュリーは狼狽し、口をパクパクさせる。
パチュリーがそんな風に言葉を詰まらせていると、彼は少し強引にパチュリーの顎をクイッと自分の方へと持ってきた。
彼の真剣で力強い黒い瞳に、パチュリーは目が離せなかった。
そして、
「貴女のために、私のこの残りの生涯を捧げます。私が生きている間で構いません。貴女の長い生涯のほんの少しの間だけ、私を貴女の隣に居させてください」
更に言葉を紡いだ彼は、パチュリーの唇にソッと自分の唇を重ねた。
重ねてから少しして唇を離し、彼がパチュリーの表情を伺うと、パチュリーは目を見開いた状態で硬直していた。
「パチュリーさん?」
「…………」
「パチュリーさ〜ん?」
するとパチュリーはハッと我に返り、その直後に顔を真っ赤にした。
「お返事はいつでも構いません。しかし、出来れば私が生きている内に、お返事を頂けると嬉しいです」
笑顔でそう言って立ち上がろうとする彼を、パチュリーはグッと服を引っ張って止めた。
「パチュリーさん?」
「勝手なこと言って、勝手に帰らないでよ……」
「す、すみません……」
「貴方の生涯を私にくれるのでしょう?」
「はい」
「なら、一秒も無駄にしないで。これから貴方は死ぬまで私の隣に居ること、返事は?」
「はい」
「ん、じゃあ今のが答えだから♡」
そう言うとパチュリーは彼の胸にムギュッと顔を埋めた。
「あ、でもお店のこととかあるので、もう少し時間をもらってもいいですか?」
「むきゅ〜! ムードが台無しじゃない!」
「いやぁ、こうもすぐにお返事をもらえるとは思ってなくてですね〜」
「むきゅむきゅ! いいからとにかく今日は私から離れちゃダメ!♡」
「はい、分かりました♪」
「ふんっ、ばか♡」
その後、パチュリーは魔法を駆使して彼の店を丸ごと大図書館へ転移させ、二人は紅魔館で盛大な結婚式を挙げるのだったーー。
パチュリー・ノーレッジ編終わりです!
こんな風にデレるパチュリーも可愛いと思ったので、今回はこう書きました♪
お粗末様でした☆