東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は小鈴。


鈴奈庵
小鈴の恋華想


 

 幻想郷ーー

 

 降り積もった雪も解け、草の芽が出て来た今日この頃。人里でも人々の往来が増え、冬とは違った景色を映す。

 

 ここ鈴奈庵でも本格的な春に向け、本日の貸本業務を休み、店内の清掃、棚替えに力を入れており、駄目になった本はクリーニング、もう出ないとなった本は焼却と大忙し。

 

 本居小鈴は友人である稗田阿求と裏庭で、もう出ないと判断された本達を焼却処分していた。

 

「いやぁ、ごめんね〜。手伝ってもらっちゃって〜」

「ううん、気にしないで。今日は時間もあったから」

 

 阿求は本を燃しつつ小鈴に返すと、小鈴は「ありがと」と笑顔を返して、また火の中に本を入れる。

 

「これを燃したら取り敢えず燃すのはないから、火は消しちゃっていいからね♪」

「ん、了解。この次は何をするの?」

「棚替えは今お父さんとお母さんがやってるから……私達は蔵行きの本を蔵に仕舞う作業だよ♪」

 

 小鈴がそう言うと阿求は「そっか……」と少しぎこちない笑みを見せた。

 

「運ぶのはちゃんと荷台使うし、力が必要なのは持ち上げる時くらいよ……それに今回はちゃんと阿求が持てるくらいの量を渡すから心配しないで」

 

 小鈴が苦笑いを浮かべて返すと阿求はコクリと小さく頷いた。

 前に阿求はこの作業を手伝った際、小鈴が凄い量の本を一気に渡してきたのが原因で本に埋もれてしまった。阿求はその時のことをまだ根に持って気にしているので、少し神経質になっている。

 

 ーー

 

 火も消し終え、お蔵入りとなる本を荷台に積んだ小鈴達。

 二人して荷台を押すも、量が量なのでずっしりと重い。加えて荷台の車輪もガタが来ているので、なかなか安定しない。

 

「この荷台も買い換えなきゃいけないわね」

「うん、お父さんには言ってるんだけどね〜。車輪が壊れるまでは使えるって聞かなくて……」

「小鈴のお父さんらしいわね」

 

 小鈴の言葉に阿求はそう言ってクスクスと笑うが、小鈴は「ただケチなだけよ」と苦笑いを浮かべるのだった。

 

 するとそんな話をしていたからか、荷台の車輪の一つがガタンと音を立てて外れてしまった。そのせいで荷台は傾き、そこに乗せた本は大きく傾斜。

 

「本が!」

「あわわ、落ちる〜!」

 

 二人は崩れ落ちる本の山に思わず目を伏せた。

 しかしすぐに崩れ落ちる音がするはずが、何の音もしない。不思議に思った二人がそ〜っと視線を戻すと、

 

「間に合いましたね……いやぁ、良かった良かった♪」

 

 背の高い青年が本の山を手や体で支え、落ちるのを阻止していたのだ。

 

「立風さん!?」

「原稿を持って来ましたら、凄い状況だったので……間に合って良かったです♪ 取り敢えずこの本はどうしましょうか?」

「い、今風呂敷持って来ますので、しょ、少々お待ちください!」

 

 顔が真っ赤になる小鈴はそう言うと急いで店の方へ向かった。

 

 この灰色の西陣織紬の和服に身を包む青年、名は「杉 立風(すぎ たつかぜ)」と言い、若い純文学作家だ。因みにペンネームが「(はやて)」でやっている。

 そして鈴奈庵で自身の著書を製本しているため、本居家とは家族ぐるみでの付き合い。

 

「も、持ってきました!」

「はい、ありがとうございます、小鈴さん♪」

「はい〜♡」

 

 そしてこのトロットロに蕩けた顔をしている小鈴の恋人でもある。

 小鈴は最初、立風が店で製本を依頼しているのもあり、彼の書く小説の一ファンだった。しかし打ち合わせなどで度々顔を合わせ、話をする内に立風の人柄に触れ、考えに魅了され、いつの間にか彼のことを常に考えるようになった。

 それから阿求にも相談し、逢い引きにも誘い、やっとの思いで告白。立風もその告白に笑顔で応え、今では両家のご両親公認でお付き合いしている関係だ。

 

「それでは僕は原稿を届けに行きますので、これで♪」

「は、はい♡ ありがとうございました♡」

「ありがとうございました」

 

 二人は立風にお礼を言うと、彼は「お気をつけて」と二人に声をかけてから笑みを返し、その場を後にする。

 

「…………♡」

 

 それを小鈴が目にハートマークを浮かべて見送ると、阿求が「ごっほん」とわざとらしい咳をした。

 すると小鈴は赤くなった頬をポリポリと掻いて、苦笑いを浮かべる。

 

「名残惜しいのは分かるけど、まずはやるべきことをしましょうね」

「分かってるよ〜……ただ見送ってただけじゃん」

「あんなにも熱い視線をただとは言わないわよ」

「ただだけを強調しないでよ……」

「だって事実だもの♪」

 

 阿求がいたずらっぽく笑みを見せると、小鈴は「むぅ……」と何も言い返すことが出来なかった。それにクスッと笑った阿求は、小鈴の肩を軽く叩いて作業を再開するのだった。

 

 ーー

 

 荷台が壊れてしまったので、二人は風呂敷に本を包み、何回かに分けて蔵へ運んだ。しかし量も量なのでそれだけでかなりの時間を費やしてしまった。

 

「荷台って画期的な物だったのね〜……」

「流石の私も今回のは堪えた〜……」

 

 蔵の前で二人は小休憩を取っていた。小鈴も阿求も博麗の巫女や紅魔館の瀟洒メイドといったスーパー超人ではないので、休憩は必要だ。しかもこれからまた力仕事となればなおのこと。

 

「これを今度は各棚に仕舞うのか〜……」

「心を折るようなこと言わないでよ……」

 

 二人は蔵の扉横に積み上げた本の山を見て、思わず愚痴やため息が出てしまった。

 

「はぁ〜……グダグダ言ってたってどうにもならないし、やっちゃおうか」

「待って小鈴、もう少し……もう少しでいいから時間を頂戴」

 

 フンスとやる気を出す小鈴だったが、普段から力仕事をしない阿求にはまだ時間が必要のようだ。

 こればかりは仕方ないので、小鈴は一人でも先に再開しようと本を何冊か抱えようとした。

 

 すると、

 

「小鈴さん、僕もお手伝いしますよ♪」

 

 そこに立風が現れた。それもたすきがけ姿でかなりのやる気である。

 

「え、でも……♡」

 

 遠慮がちに言葉を詰まらせる小鈴だが、その表情は立風のたすきがけ姿に釘付け状態。

 

「原稿も問題なくお渡し出来まして、僕も時間が出来ましたからお気になさらず♪」

「あ、ありがとう、ございましゅ……♡」

 

 尻込みする小鈴に立風はニッコリと笑みを返すと、立風は率先して本を持ち、小鈴と共に蔵の中へ入っていいく。阿求はそれを見て、自分は邪魔をしないようにしよう……と考え、運びやすいように本を整理することにするのだった。

 

 ーー

 

「初めてお邪魔しましたが、かなりの量の書物があるのですね……」

「埃っぽくてカビ臭い所で手伝わせてごめんなさい……」

 

 立風が感心する中、小鈴は恥ずかしいやら照れくさいやらで顔を真っ赤にしている。

 

「あはは、小鈴さんは本当に奥ゆかしい方ですね♪ どこの家も蔵は埃があるものです。僕の家の蔵なんかはこんなに整理されていませんので、他所様には見せられませんからね〜」

「あ、ありがとうございます……」

「いえいえ……それで、この本はどちらに?」

「あ、それはこっちです……」

 

 それからも二人は一緒になって本を次々と仕舞っていった。

 

「これで最後になりますね……」

 

 立風はそう言うと小さく息を吐く。するとそれを見た小鈴は、申し訳なさそうに「手伝わせてごめんなさい」と改めて謝罪の言葉をかける。

 

「今日の小鈴さんは謝ったりお礼を言ったりと大忙しですね♪ お気になさらずと申したではありませんか♪」

「でも……」

「それに小鈴さんのお父様から『お前もいずれはやることだから、今の内に覚えとけ』と言われましたので♪」

「へ!?」

「おや、僕が小鈴さんの婿になるのは嫌ですか?」

「そ、そんにゃことにゃいでしゅ!♡」

「ふふ……なら良いではありませんか♪ 近い将来の予行演習です♪」

「は、はぃ……♡」

「お慕いしていますよ、小鈴さん♪」

「わ、私も!♡ 私も、立風さんがらい

しゅきれふ……♡」

 

 すると二人は沢山の本に囲まれる中、小さく口づけを交わすのだった。

 

 ーー

 

「あっま……」

 

 それを陰からバッチリ見てしまった阿求は、盛大に砂糖吐いたそうなーー。




本居小鈴編終わりです!

東方心綺楼の前に書籍の東方鈴奈庵が発表されたので、先にこちらを書きました。
小鈴は元気なトラブルメーカーって感じですが、慌てふためくしおらしい小鈴にしました!

お粗末様でした☆

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