命蓮寺ーー
純白の雪化粧をし、更に幻想的表情を見せる幻想郷。
牡丹雪が一晩中降り続け、それが止んだのは昼を過ぎてからだった。
「やぁっ♪」
「うわっ、やったな〜! えい♪」
雪が止んでからは庭でぬえとこいしが雪玉の弾幕ごっこをし、
「てりゃぁ♪」
「甘〜い!」
「傘でガードした!?」
「お〜……!」
こちらもこちらで、水蜜と響子、こころがいつも墓地にやってくる小傘を巻き込んでの雪玉弾幕ごっこ。
「ふぉっふぉっふぉ♪ 皆して元気じゃのぅ♪」
「ふふ、そうですね♪」
「私は寒くてあんなにはしゃげません……」
「あなたは寒がりだからね〜」
そんなみんなを縁側の間で火鉢を囲んで眺めている年長者……お姉さん組。
マミゾウは愉快に笑って煙管を吹かし、聖は炭の燃えカスを拾い、寅丸は毛布に包まり、一輪は茶を淹れている。
「寅も所詮は猫と同じということかの」
「なんとでも言ってください。寒いものは寒いんです」
「座禅中は平気なんですけどね〜」
「座禅中は集中してますからね」
「あはは……」
キリッとした顔で立派な意見を返す寅丸に一輪は苦笑いを浮かべた。だが毛布に包まった今のままでは威厳も何にもないので、そのせいか聖もマミゾウも感心するどころか思わずクスッと笑ってしまった。
すると寅丸は悔しかったのか、ムスッとした顔になり「いいですよ、どうせ私は猫ですよ」と言ってふて寝し、畳に「の」の字を書き始めた。
「毘沙門天代理がこれしきのことで不貞腐れるでない」
マミゾウが笑って寅丸に言うと、寅丸は「不貞腐れてません〜」とまるでもんちを起こしている子どものように返す。
「後で好物のどら焼きを買いますから、機嫌を直してください」
聖の言葉に寅丸はピクンと肩を揺らし、チラッと聖の方を見た。
「それは
寅丸が聖にそう訊ねると、聖はニッコリと笑って「はい」と答える。それを見た寅丸は「なら仕方ありませんね」と言って起き上がった。
獺屋とは数年前に人里に出来た焼き菓子屋で、寅丸はそこのどら焼きが大好物なのだ。他にもたい焼き、クリーム饅頭、一口カステーラといった物があり、味が良く値段も手頃なのでなかなかの評判である。
「お主は本当にあのどら焼きが好きじゃのぅ」
「だって美味しいですから♪ 特にあのかすたぁどくりぃむと餡が一緒になったあのどら焼きは革命的です!」
力説する寅丸にマミゾウは「そ、そうか」と押され気味に返したが、次に浮かべた表情はどこか嬉しそうな、幸せに溢れた顔だった。
「ふふふ、やはり慕う方が褒められると嬉しいですか?」
聖がマミゾウにそう言うと、マミゾウは「うむ♡」と顔を緩める。
マミゾウには心から慕う者……すなわち恋人がおり、その恋人は今話題に上がっている獺屋の店主だ。
そしてその獺屋の店主は外からやってきた妖怪『
元は四国の獺達をまとめる長だったが、人と関わることが無くなり、その存在が忘れられてきたため数年前に仲間達と幻想郷入りして、その仲間達と焼き菓子屋を開業した。
人里の者達は最初は気味悪がって寄り付こうとすらしなかったが、昔の好であり人里でも人望があるマミゾウの宣伝によって店は繁盛。
そんなマミゾウに前々からほの字だった店主は幻想郷に来たのをきっかけに種族の壁を越えて猛アタック。今ではマミゾウも心から慕う相思相愛カップルとなり、人里で有名なカップルなのだ。
「ちは〜、獺屋で〜す♪」
すると門の所に温厚そうな愛嬌ある顔つきの青年がやってきた。この青年が獺屋の店主でみんなからは『かわさん』・『うそやん』などと呼ばれて親しまれている。
その証拠に青年の頭には先端が丸みを帯びている小さな耳がちょんと生えており、長く側偏した立派な尻尾が見えている。
獺が来たことでみんな揃って遊ぶ手を止め、獺の手を引いて寺の中へ上がらせる。
「道が悪い中ご足労頂いて、ありがとうございます」
聖が獺にそう礼を述べると、獺は「いえいえ、自分のためでもありますから♪」と返した。
獺は定期的にこうして寺へ出張販売にきている……というのは建前で、本当はマミゾウに会いたいから店主本人が直々にやってきているのだ。
「雪が積もっておるのに良う来たのぅ、かわちゃん♡」
「俺はマミちゃんのことを考えればいつだって熱いからな♪」
「歯が浮くようなこと言うでない♡」
口ではそう言いながらもマミゾウの顔はニヤニヤのデレデレである。
「ねぇねぇ、今日のお菓子は〜?」
そこにお菓子を待ち望むこいしが声をかけると、獺は「お〜、ごめんごめん」と言って背負っていた荷を下ろした。
「今日はいつもと趣向を変えてね……ほら♪」
荷を解くと、壺二つと一斗缶が現れた。
こいし達はそれを見て小首を傾げるが、獺が一斗缶の蓋を取ると、中には焼き立てのどら焼きの皮が湯気を立てている。
「こっちの壺は餡で、もう一つはかすたぁどくりぃむだよ♪ 好きに盛り付けが出来て一個五十円だ♪」
獺が手を開いて見せて五十円の「五」をアピールすると、こいし達は目を輝かせ、即座に聖の方を見た。
聖はそれを見て小さく笑い、みんなに「いいですよ♪」と声をかけるとみんなしてどら焼きのトッピング作業に入る。
「カスタードクリームオンリー♪」
「温かくて美味しい〜♪」
「このボリュームと美味しさで五十円っていいよね〜♪」
「モキュモキュ……♪」
こいし、ぬえ、こころ、小傘はカスタードクリーム派、
「私はやっぱり小倉だな〜」
「この甘さ控えめの餡がいいのよね♪」
「あむあむ♪」
水蜜と一輪、響子は小倉派、
「後でナズーリンにも食べさせてあげましょう♪」
混合派の寅丸と、みんなして思い思いにどら焼きをトッピングして食べ、笑顔が溢れた。
それを獺はニコニコと嬉しそうに眺める。
「かわちゃ〜ん♡ 儂のことも見てほしいぞい♡」
そんな獺の背中に抱きつきて甘えるマミゾウ。獺はそんなマミゾウに「お〜♪」と返してマミゾウの頬を優しく撫でる。
「マミちゃんはどら焼き食べないのかい?」
「儂はお前さんとこうしてる方が満たされるからのぅ♡」
そう言うとマミゾウはスリスリと獺の頬に自分の頬を押し当てた。傍から見れば同じ場に居るのが申し訳なくなってくるような状況だが、みんなはもう慣れているのでマミゾウ達のやり取りを見ながらどら焼きを頬張っている。
「相変わらず仲睦まじいですね♪」
「どら焼きの甘さもなくなってしまいますね♪」
聖と寅丸は二人を微笑まし気に眺め、茶をすすった。
「二人共ラブラブ〜♪」
「マミゾウのあんな顔って普段は見られないよね」
「あれが恋する表情か……」
「驚いてないけど、ご馳走様って感じだね〜」
「二人共ニコニコですね〜♪」
こいし、ぬえ、こころ、小傘、響子は楽し気に二人を見ている。
「雪が溶けちゃうね〜」
「あんなに密着して……」
水蜜と一輪は季節外れの暑さを感じつつ、二人の邪魔をしないよう静かにどら焼きを頬張っていた。
みんなに注目される中、マミゾウと獺はそんなことお構い無しに二人だけの世界。
「マミちゃんは今日も綺麗な目をしてるね……吸い込まれそうだ」
「お主の目はギラギラしておるのぅ♡」
「今すぐにでも奪い去りたいからね♪」
「かっかっか♡ 夜に儂が行くまで我慢しろい♡」
「分かってるさ♪」
「今夜も寝かさんぞい♡ 覚悟しとくことじゃ♡」
「そう言っていつも俺に負かされるのはどこの狸さんかな〜?♪」
「かわちゃんのいけず〜♡」
まさにキャッキャうふふのイチャコラ状態で、それを目の当たりにするみんなは慣れていても口の中がジャリジャリするのだったーー。
二ッ岩マミゾウ編終わりです!
何かと大人っぽいマミゾウでも恋人とは静かにイチャイチャする。的な感じにしました♪
お粗末様でした☆