東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は青娥。


青娥の恋華想

 

 魔法の森ーー

 

 多くの生き物が寝静まり、月明かりが届くこともない森の奥。

 そんな場所にひっそりと佇む小屋の中に、小さな蝋燭の灯りが見える。

 

「…………」

 

 その小屋には男の魔法使いが一人、湯呑を片手に魔導書を読んでいる。

 この男、名は「クレイ」と言い、黒魔術も白魔術も極めし者で若い見た目とは裏腹に百年以上を生きている。

 元は外の世界にいたが、外の世界でやれることが無くなったので数年前にこの幻想郷へやってきた。

クレイの力はあの紅魔館のパチュリー・ノーレッジも認めた程で、霊夢や紫は最初こそは異変を起こさないかとマークしていたが、本人直々に「今の生活を壊すことはない」と誓ったため、今ではすっかり幻想郷に馴染んでいる。

 

 しかしクレイは幻想郷に来て一つ変わったことがあった。

 それは、

 

「クレイ様〜♡ あなたの愛しい愛しい娘々が今宵も来ましたわ〜♡」

 

 目の前の壁をすりけてきた、この霍青娥と恋仲になったことである。

 

 青娥は邪仙ではあるがその純粋さから、クレイの極める多くの術に興味を持ち、それがきっかけでクレイの元へ訪れたのが二人の出会いだった。

 クレイは驚いたが、使いこなすかは別として教えるだけならと言うことで度々会うようになり、クレイの魔術に対する情熱や随所に見せる知性、そして純粋さに青娥は遠い遠い昔に置いてきた感情が芽生えた。

 恋心を自覚してからの青娥はあの手この手でクレイにアプローチをし、数ヶ月前にようやっと恋仲となり、今では恋人としてクレイの元を訪れるようになったのだ。

 

「いつもながら、唐突だな。拒みはしないのだからちゃんとドアから入って来い」

「こうした方があなたのすぐ目の前に来れるではありませんの♡」

 

 壁を完全にすり抜けてそんな言葉を返すと、クレイは苦笑いを浮かべる。

 

「それに何だかんだ言っても、ちゃんと決まった時間にこうして、この机の所にいてくださるではありませんか♡」

 

 青娥はクレイに抱きつきつつ、嬉しそうに言葉を続けた。

 

「…………言っても聞かないからだ」

 

 微かに頬を赤くし、照れ隠しでそっぽを向いて言うクレイに、青娥は胸がときめく。

 

「クレイ様、可愛い♡」

「それはどうも……何か飲むか?」

「クレイ様と同じ物を頂きますわ♡」

 

 青娥がそう返すと、クレイは小さく頷いて自分が飲んでいるお茶を用意し始めた。

 その間、青娥はクレイの椅子のすぐ隣にある椅子に腰掛けて大人しく待っている。

 

 クレイが茶を淹れて青娥の元へ戻ると、茶の入った湯呑を青娥の前に置いた。

 青娥はそれに礼を言ってから口に含むと、クレイが先程まで読んでいた魔導書に目を向ける。

 

「これはどんな魔導書ですの?」

「アリスから借りた人形を操る魔導書だ。自分も知らない分野だから中々に面白い。彼女自身の魔法の概念や魔法への探究心も実に興味深いしな」

「それは何よりですわね♪」

 

 魔法のことに関しては子どものように屈託のない笑みを浮かべるクレイ。青娥はそんな彼の笑顔を見るのが好きで、それを見れただけで今日の逢瀬は大満足だ。

 しかし青娥の胸にはチクチクと刺さるものがある。

 それは嫉妬心。何故なら目の前でこんなにも楽しそうに他の女の話をしている上、自分とでは絶対に彼の好きな魔法の話題はついていけないから。

 

 だから青娥は少々無理矢理だが別の話題を考えた。

 

「そう言えばですね、今度神霊廟にお越しくださらないかしら?」

「神霊廟か……俺の様な者が行ってもいいのか? 俺は魔法使いだぞ?」

「いいからお誘いしていますの……豊聡耳様も久々にお会いしたいと仰ってましたし♪」

「そう言えば、青娥と付き合う際に一度会ったきりだったからな……ならばお邪魔させてもらおう」

 

 クレイが笑顔でそう返すと、青娥は笑みを浮かべて手を叩いて「決まりですわね♡」と嬉しそうに言いう。

 

「ではその時はお迎えに参りますわ♡」

「分かった。日はいつ頃だろうか?」

「う〜ん…………明日で♡」

「随分急だな」

「善は急げと申しますでしょう?♡」

「相変わらずの行動力だな……」

「照れてしまいますわ〜♡」

 

 そんなこんなで急遽神霊廟に招待されたクレイ。そしてその夜の青娥はご機嫌なままクレイの家を後にするのだった。

 

 

 神霊廟ーー

 

 次の日の夕方、クレイは青娥に連れられ神霊廟へとやってきた。

 謁見の間に通されたクレイは、青娥と並んで正座し、神子が来るのを待っている。

 神霊廟の外観は中華風であるが中は和室が多く、色々と混ざっている感じだ。

 

「待たせてすまない」

 

 するとそこへ神子が現れ、二人の前に座った。

 

「謁見の間ではあるが、楽にしてくれて構わない。今日は急なことであったが来てくれて感謝する」

「いえ、急なことには恋人で慣れていますから。寧ろ招待してもらえて光栄です」

「随分と青娥殿が世話になっているね……そのことも重ねて礼を言わせてほしい」

 

 神子がそう言うと、青娥が透かさず「豊聡耳様」と小さく声をあげた。その顔は少し不機嫌そうで、右の頬をぷっくりと膨らませている。きっと気恥ずかしくなったのだろう。

 神子はそんな青娥に苦笑いを返し、小さく咳払いをして口を開いた。

 

「そういうことも踏まえ、今宵はささやかながら宴の席を設けた。楽しんでいってほしい」

「お心遣いありがとうございます」

「では、宴の間へ行きましょうか♡ クレイ様のために腕によりをかけてお作りしたんですよ♡」

 

 青娥がそう言うとクレイはニッコリと微笑んで「ありがとう」と言葉を返した。

 

「朝早くから仕込みも頑張っていましたからね。見ていてこちらも嬉しくなってしまうくらいに」

 

 ふふりと笑って神子が言うと、青娥は「豊聡耳様!」と珍しく顔を真っ赤にして神子へ詰め寄る。

 

「そういうことは言わないでくださいまし!」

「あんなにも彼への欲を聞かされては告げ口の一つも言いたくなります♪」

「勝手に欲をお読みにならないでください!」

「勝手に聞いてしまうくらいだだ漏れにしていたのは貴女ですよ♪」

「むぅ〜!」

 

 口の上手い青娥は敗北し、それを誤魔化すようにクレイの手を引いてズカズカと先に宴の間へ行ってしまった。

 それを神子は微笑ましく眺め、自分も二人の背中を追うのだった。

 

 ーー

 

 宴の間へ着くと、テーブルにはささやかとは程遠いくらいの料理が並べられていた。それは満漢全席と言われても過言では無いくらいである。

 

「凄い料理だな……」

「クレイ様のためについ気合が入り過ぎてしまいましたの♡」

「この量なら豊聡耳殿が言っていた通りだな」

「はぅぅ、それは忘れてくださいまし……♡」

 

 熱くなった頬を手で押さえる青娥。そんな青娥にクレイは微笑み、その頭を優しく撫でる。

 そしてその後ろに居る神子に「では宴を始めよう」と促され、宴が幕を開けた。

 

「では我の皿回し芸をご覧頂こう♪」

「皿回しじゃなくて皿割りの間違いだろ〜?♪」

「何を言うか! 落としたら芳香殿が食べる算段じゃ! 抜かりはないぞ!」

「落とすの前提かよ♪」

 

 前に立って布都と屠自古が漫才めいたことをし出し、宴は大盛り上がり。

 神子も宴は無礼講と言うことで二人のやり取りを笑って眺めている。

 

「芳香は本当に何でも食べるんだな」

「育ち盛りですからね〜♪」

「青娥ー、ご飯ー♪」

「は〜い♪」

 

 青娥は笑顔で自分とクレイの間に座る芳香にご飯を食べせている。そしてクレイも芳香の口周りについた食べカスを拭いてやっているため、それはさながら親子のような光景だった。

 

「そうしていると親子のそれと変わりませんね♪」

「おぉ! これは確かに夫婦(めおと)と相違ないですな!」

 

 神子と布都がそんな言葉をかけると、青娥は生娘のようにモジモジして俯いてしまった。

 

「こんな青娥殿は滅多に見られないですね♪」

「青娥殿! ご入籍はいつになるのじゃろうか!? 我々が目一杯盛り上げますぞ!」

「娘もいるんだし、もう入籍したんじゃないのか?♪」

「二人は私の母と父なのかー♪」

 

 みんなの言葉に青娥はどんどん顔を赤くして、終いにはクレイの背中に隠れるようにして顔を伏せる。

 

「皆さん、あんまり青娥をイジメないでやってください。ちゃんとその時にはご報告しますので」

「っ!?♡」

 

 クレイの言葉に青娥はピクンと肩を震わせた。その言葉が限りなくプロポーズに近かったからだ。

 

「く、クレイ様……♡」

 

 青娥がクレイの服をキュッと握り、震えた声でクレイの名を呼ぶと、

 

「酒の席ではなく、ちゃんとした席で正式に申し込むよ。その時までもう少し待っててほしい」

 

 と青娥の目を真っ直ぐに見つめて返した。

 すると青娥は照れながらも、ニッコリと微笑んで「お待ちしておりますわ♡」と返し、そのままクレイの頬にキスをした。

 それを見たみんなは大興奮で、細やかな宴は婚前の宴と化してしまうのだった。

 

 後日、青娥はクレイからの正式な求婚を受け入れ、二人は盛大な結婚式を挙げたそうなーー。




霍青娥編終わりです!

変化球というか、純粋な娘々にしました!
こんな青娥もありですよね?

ということで、お粗末様でした♪

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