東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

72 / 109
恋人は響子。


神霊廟
響子の恋華想


 

 命蓮寺ーー

 

 清々しい朝を迎えた幻想郷。

 そして寺の庭では、山彦である幽谷響子が日課の掃き掃除をしていた。

 

「おはようございます、響子さん」

 

 そんな響子に寺の住職の聖白蓮が声をかけると、響子は大声で「おはようございま〜す!」と返した。

 

「はい……今日も掃き掃除ありがとうございます」

 

 聖はそう言って響子の頭を優しく撫でる。

 

「えへへ……私の日課ですから♪」

「ふふ、そうですか。でも無理はしないでくださいね」

 

 聖の心遣いに響子はまた元気よく返事をすると、聖はまた響子の頭を一撫でするのだった。

 すると、

 

「おはようございます。聖様、響子ちゃん」

 

 一人の男がバケツと雑巾を持ってやってきた。

 この男は数年前に出家して命蓮寺へ入門した青年であり、真面目で礼儀正しく、誰に対しても優しい好青年。

 

「おはようございます、今日もよろしくお願い致します」

 

 聖の言葉に青年は手を合わせ、恭しく頭を下げる。

 青年は寺の門を拭くのが日課で毎朝こうして門へ掃除をしにやってくるのだ。

 

「お兄さんおはようございま〜す!♡ 今日も私はお兄さんのことが大好きです!♡」

「お、おはよう、響子ちゃん」

「貴方からは言ってあげないのですか?」

「聖様っ!?」

「ふふ、冗談です♪ ではお邪魔虫は退散しますね〜♪」

 

 聖はそう言うとクスクスと笑いながら本堂へ向かった。

 そんな聖に響子は「またあとで〜♪」と変わらず返したが、青年の方は顔を真っ赤にしたまま手を合わせ、聖の背中に一礼をすることがやっとだった。

 

「じゃ、じゃあ、掃除しようか?」

「は〜い!♡ 大好きなお兄さんと今日も仲良くお掃除しま〜す!♡」

「響子ちゃんっ!」

「えへへ〜♡」

 

 こうして二人は仲良く掃除を開始した。

 

 言わなくても分かるだろうがこの二人は恋人同士。

 そしてこの関係になって半年となるまだまだ幸せ絶頂期である。

 

 青年が寺にやってきてから、青年は門の掃除、響子は寺の掃き掃除と何かと顔を合わせることが多く、響子の大声にも青年は笑って返し、襲われ(子犬が戯れ付いてくる感じ)ても優しく構ってくれていたので、響子はいつしか青年に恋心を抱くようになった。

 

 そこで響子は寺に居候している二ッ岩マミゾウにこのことを相談した。

 響子の相談を聞いたマミゾウは愉快そうに笑った。

何故なら青年も響子のことで自分に相談をしていたからだ。

 それを聞いた響子はすぐさま青年の元へ行き、大声で告白をした。青年は驚いたが、すぐにその顔ははにかみ、青年からもちゃんとその告白に応え、今のような恋仲となった。

 寺のみんなは二人が付き合うことを祝福し、中でも聖は人と妖怪のカップル誕生に喜び、二人は人と妖怪の架け橋的な存在となったのだった。

 

「おやおや、今日も夫婦で精が出るね〜♪」

「毎日毎日あっちっちだね〜♪」

「仏様が冷やかしに来ちまうな〜♪」

 

 朝早くから墓参りに来た人々は毎回こんなヤジを飛ばしてくる。

 付き合う前までは笑って流していた青年や響子だったが、今となっては響子だけ違った。

 

「はい! 私達ラブラブなので!」

「毎日幸せです!」

「ラブラブなので誰が冷やかしに来ても負けません!」

 

 山彦の性なのか、そのヤジ一つ一つに返事をしていくのだ。

 対する人々は当初こそは驚いたが今ではすっかりと慣れたようで、今はこれが人々と響子の挨拶と化している。因みにこのやり取り中、青年は顔を真っ赤にしながら門をひたすら掃除してやり過ごしているが、耐えきれない時はフリーズ……つまり固まってしまう。

 今日は人数も少なかったのでフリーズまでには至らなかった。

 

「皆さんに嗚呼やって声をかけられると嬉しいですね、お兄さん!♡」

 

 人々を見送った響子が耳や尻尾をパタパタさせて大喜びなのに対し、

 

「そ、そうだね……」

 

 青年は頭から湯気を出す程赤くなっていた。

 

 ーー

 

 日課を終えた二人は、今度は寺の厨に入り、寺のみんなの朝餉を用意していた。

 毎回の朝餉は青年が入門してからは基本的にこの二人が担当していて、野菜・山菜・野草・海草類を主にした素材でそれぞれ煮物や汁物、お浸し、浅漬けにして調理する。

 

「お兄さん、味見してください!♡」

「…………うん、いい味だよ♪」

 

 青年が笑顔で言うと響子は「やった〜!♡」と大喜び。

 

「おはようございます、二人共」

「おふぁお〜……」

 

 そこへ寅丸と水蜜が現れた。

 

「おはようございます、寅丸様、村紗さん」

「おはようございま〜す!」

 

 青年と響子が挨拶を返すと、寅丸は水を汲み、水蜜は牛乳瓶を一本取った。

 

「今朝もお二人並んで仲睦まじいですね♪」

「はい、ラブラブですから! ね?♡」

「あはは……」

 

 水を飲みつつ寅丸が言うと、二人は相変わらずの反応を見せる。

 

「お陰で今朝も牛乳が甘いよ〜」

「朝の糖分摂取は大切ですからね!」

「ははは……」

 

 水蜜の言葉にも同様だった。

 

「み、皆さん、そろそろ朝の座禅が始まりますから、早く行きましょう!」

 

 少々強引に青年が話題を切り替えると、寅丸と水蜜はニヤニヤと笑いながら本堂に向かい、青年と響子は火の元のしっかり確認をしてから向かった。

 

 

 ーー

 

 朝の座禅が終われば、その後はみんな揃って朝食となる。

 中でもぬえは青年と響子が作った朝食を前に待ちきれないと言うような目で、早く早くと聖の服の袖を引っ張っていた。

 

「ふふふ、では皆さん。手を合わせてください」

 

 聖の声にみんなは一斉に手を合わせる。それを確認した聖は一言二言と教えを説いてから「頂きます」と言った。

 するとみんなも声を合わせて「頂きます」をし、賑やかな朝食が始まる。

 

「この煮物、好き〜♪」

「今日の煮物はお兄さんが作ったんです!♡」

「ぬえちゃんの口に合って良かったよ」

 

 ぬえは青年が作った煮物をヒョイパクヒョイパクと笑顔で口に運んでいる。

 それを見た青年は良かった……と思いながら自分は響子が作った味噌汁を口に含んだ。

 すると響子は両手を胸の前でギュッと握り、青年の顔色を伺った。

 

「ん……味見した時から思ってたけど、あっさりしてて美味しい」

 

 その感想を聞いた途端、響子は顔が蕩けたかのように締まりがなくなり、デレデレニヤニヤとだらしない顔になる。

勿論、耳や尻尾もピコピコブンブンで気分は最高潮のようだ。

 

「相変わらずね、響子は」

「はっはっは♪ 良いではないか、一輪よ……恋する乙女は何事にも嗚呼なるのじゃからなぁ♪」

 

 一輪が苦笑いを浮かべてつぶやくと、その隣に座しているマミゾウは豪快に笑って返した。

 一方、二人を眺めているのは一輪とマミゾウだけでなく、聖は微笑みを浮かべ、寅丸とぬえはニヤニヤと眺め、水蜜は無言で一心不乱に辛子蓮根をもぐむしゃしている。

 

「はい、お兄〜さんっ♡ あ〜ん♡」

「ちょ、ちょっと響子ちゃん!?」

「食べてくれないんですか〜?」

 

 響子は大きな瞳をウルウルさせ、青年に食べてと訴えかけるも、青年はグッと堪えて「み、みんなの前だから……」と響子をたしなめる。

 

「なんじゃなんじゃ〜、肝が小さいのぅ」

「食べてあげなよ〜♪ 旦那さんでしょ〜?♪」

 

 外野であるマミゾウとぬえが透かさずヤジを飛ばす。

 青年は頭の天辺まで赤く染まり、聖や寅丸の方へ助けてください……とアイコンタクトを飛ばした。

 

「仲睦まじいことは良いことです。これくらいなら私は構いません」

「最愛の方に食べさせてもらえるだなんて、理想的ではないですか♪」

 

 しかし二人の仏スマイルの慈悲無き教えが返ってきた。

 

「お兄さ〜ん……」

「わ、分かったよ……」

 

 神にも仏にも見放された青年が渋々頷くと、響子はまた太陽の如く表情を明るくさせ、青年が開けた口にお浸しを入れる。

 

「美味しいですか〜!?♡」

「…………美味しいです」

「えへへ、まだまだありますよ〜♡」

「これで終わりじゃないのか!?」

「ダメなんですか〜?」

「…………分かった」

「〜♪♡」

 

 その後も青年は自分の膳に乗った物が無くなるまで食べさせてもらい、自分からも響子に食べさせてあげるのだった。

 青年は心から恥ずかしかったが、対する響子はキラキラ笑顔だったそうなーー。




幽谷響子編終わりです!

響子は元気いっぱいなので、元気いっぱいに好意をぶつけてくれる感じに書きました!

お粗末様でした☆

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。