東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人ははたて。


ダブルスポイラー
はたての恋華想


 

 妖怪の山ーー

 

 本日も天候に恵まれた幻想郷。

 そんな晴天の元、姫海堂はたては自分の家にこもって、念写した写真を元に自分の新聞である『花果子念報』のトップ記事を考えていた。

 

「この写真は一面……あぁ、でもこっちの写真を一面にした方が映えるかな〜」

 

 はたては二枚の写真を見比べて悩んでいた。

 一つは寺子屋の子どもたちが里で奉仕活動をした時の集合写真。そしてもう一つはさとり達、地底組が『おいでませ。地底温泉郷』と書かれた横断幕を持っている写真だ。

 どちらも一面を張るのに十分な写真であり、どちらとも人里の住人にとっては嬉しいニュースであるため、どうするのか腕の見せどころでもある。

 

 するとはたての家のドアがガチャりと開く音がした。

 それが聞こえたはたてはすぐさま玄関へ向かい、

 

「おかえり〜♡ ダ〜リン♡」

 

 と甘えた声で玄関に立つ人物へ抱きついた。

 

「あやや〜……はたては恋人の前だとこんなにもにゃんにゃんしてるのですね〜」

「…………何であんたが何も言わずにひとん家に入ってきてるのよ!」

 

 その人物が最愛の人ではなく、文だと分かったはたては抱きついたまま文の体を締め上げる。

 

「あやややや! ギブ! ギブですはたて!」

 

 はたての肩を高速タップした文。はたては仕方なく腕を解くと、文は腰を押さえてその場に座り込んでしまった。

 

「ちょっとしたジョークじゃないですか〜……イタタ……」

「親しき仲にも礼儀ありってね。今後はいきなりノックも無しに入らないでよね」

 

 ニッコリと笑ってはたてが注意すると、文は苦笑いを浮かべて「はい」とだけ返した。

 

「それで、何の用よ? 私、今作業中だから中には入れらんないわよ?」

「長居はしませんよ。私だってこれから原稿まとめなきゃいけませんから。手短に」

「ん、それで?」

「彼からの伝言です。『博麗神社で萃香さんに捕まったから帰るのは遅くなる』だそうです」

「またか〜……分かったわ。伝言ありがと」

「いえいえ♪ では私は帰りますが、ダーリンさんが帰ってくるまで頑張ってくださいね〜♪」

 

 文が帰り際にニヤニヤ顔でそう言うと、はたては「はいはい」と少し顔を赤らめて文を見送った。

 

 はたてには数年前から同棲している恋人がいる。

 同じ鴉天狗であるがはたてや文みたいに新聞記者をしている訳ではなく、普段は風景写真を気ままに撮るカメラマンをしている。

 数十年前、はたては彼が撮影した写真を念写した際にその写真に惚れ込み、直接会いに行ったことが二人の出会いだった。

 それから意気投合した二人は付き合い始め、一緒に暮らすようになり、今では彼がはたてのために写真を撮り、それをはたてが念写して新聞に使うという感じで、仕事でもプライベートでも掛け替えの無いパートナーなのだ。

 

(ていうか、鬼に捕まったなら迎えに行かなきゃいけない感じかしら……きっと飲まされてるだろうし)

 

 そう考えたはたては、ちゃっちゃと新聞の原稿をまとめ、博麗神社へ最愛の人を迎えに行くのだった。

 

 

 博麗神社ーー

 

 急いで仕事を終わらせ、急ピッチで神社へと降り立ったはたてだったが、その場で凍りついてしまった。

 

 何故なら、

 

「おい、天狗〜♪ 私を抱っこ出来るなんて幸せだぞ〜?♪」

「いやぁ、あははは……」

 

 愛する人が鬼とは言え、他の女をあぐらを掻いた脚の隙間に座らせているからだ。

 

 はたては両手をグッと握り締め、更には歯も食いしばり、物凄いオーラをまとってその場へ乗り込む。

 

「失礼します!」

「は、はたて……」

「お〜、女房のご登場か〜♪ どうした〜?♪」

 

 上機嫌に酔っ払っている萃香は呑気な質問をするが、はたてはそれどころではない。

 文張りのスピードで二人を引き剥がすと、はたては彼を守るように抱きしめ、萃香を睨んだ。

 

「お〜? 嫉妬か〜? いやぁ、悪い悪い♪」

「悪いと思うならはじめからしないでよ! ダーリンは私のなんだから!」

「お〜、いい気迫だね〜♪ 昔の血が騒ぐよ♪」

 

 立ち上がった萃香はそう言うと、妖しく笑って両肩をコキコキと鳴らす。

 その目は楽しそうだが、まとっているオーラは凄まじく、地鳴りまでしている

 

「さぁ、かかってkーー」

「何しとんじゃあぁぁぁ!」

 

 萃香の言葉を遮り、その萃香をワンパンKOしたのは博麗霊夢だった。

 

「人が妖怪退治で空けてる時に何してんのよ!」

「…………」

 

 伸びている萃香の胸ぐらを掴んで「聞いてるの?」「ああん?」と正に鬼巫女霊夢がご降臨されている。

 

「あんたらどうせ萃香に無理やり連れて来られたんでしょう?」

 

 眼光鋭くそう訊ねられた二人は恐怖でお互いに抱き合い、「そ、そうです!」と体を震わせて答えた。

 

「なら帰りなさい。私はこれから萃香に用事があるから♪」

「は、はい、失礼します! ほら、ダーリン!」

「あ、うん……お邪魔しました〜!」

 

 二人がその場を去った後、博麗神社の方から凄まじい叫び声が聞こえてきたが、二人は振り返ってはならない……と自分に言い聞かせて心の中で萃香に合掌しつつ帰宅するのだった。

 

 ーー

 

 帰宅すると、はたてはすぐに彼の服を脱がし、彼の体を入念に濡れタオルで拭いた。萃香が横取りしようとしていないのは分かっているが、やはり他の女と密着していたのが気になったのだ。

 

(全く、萃香さんったら……)

 

 萃香の顔を思い浮かべるとフラストレーションが溜まるので、はたてはもうこれ以上は考えないように努めた。

 

「ごめんね、はたて」

「ううん……断れないんだから仕方ないわよ」

「でも……」

「ふふ、そうやってすぐ私のことを気遣うんだから……被害者はダーリンでしょ?」

「…………」

「確かにあの光景を見て、私も思わず頭に血が上っちゃったけどね……私のダーリンなのに〜って」

 

 彼の胸元を優しく拭きながらはたてが照れくさそうに話していると、彼の方も「俺も……」と口を開いた。

 

「俺も……この場所ははたての場所なのにって思ってた……ちゃんと言ったんだけど、余計に居座られちゃって」

「ふふふ……言っても聞いてくれないでしょ、酔ってたから尚更♪」

「本当にああなるとは思わなかったから参ったよ……」

「お疲れ様♪」

 

 体を入念に拭き終えると、はたては甲斐甲斐しくも彼に新しい服を着せてあげた。

 

「何から何までありがとう♪」

「これくらい気にしないで♡」

 

 笑顔で言い合った後、二人はそのまま軽く互いの唇を重ねる。

 

「ちゅっ、ん……えへへ、おかえり♡ ダーリン♡」

「ただいま、はたて♪」

「そういえば、ご飯はどうする? 食べれる?」

「あぁ、今回はお酌してた時間の方が多かったからな。あんまり飲んでないから食べられるよ」

「良かった……それじゃ今作るわね♡」

「あ、でも夜も遅いから軽めのでいいぞ?」

「あはは、了解♡ 居間で待ってて♡」

 

 はたての言葉に彼は笑顔で頷き、言われた通り居間に向かった。それを見送ったはたては台所に入り、簡単にお豆腐のお味噌汁とおにぎり、そしてカブの漬物を用意して、居間へ向かうのだった。

 

「本当に簡単な物だけど、作ってきたわよ♡」

「ありがとう、明日の朝は俺が作るからな♪」

「うん♡ 期待してる♡」

 

 彼に笑顔で言葉を返したはたては、料理をちゃぶ台に乗せると今度は彼のあぐらの隙間に座った。

 

「ん〜♡ 落ち着く〜♡」

「俺も落ち着くよ……この重みがしっくりくる♪」

「遠回しに重いって言ってる?」

 

 ニッコリとどす黒い笑みをはたてが浮かべると、彼は愉快そうに笑って「そういう意味じゃないよ♪」と返す。

 そして、

 

「これが俺の幸せの重さだからな♪ この重みがないとダメなんだよ、俺♪」

 

 とサラッと凄い言葉を発した。

 それを間近で聞いたはたては嬉しさのあまり顔を紅潮させた上に羽もパタパタさせてしまった。

 

「羽にご飯付いちゃうぞ?」

「その時はダーリンが責任とってね♡ ダーリンが私を喜ばせるからこうなってるんだから〜♡」

「あはは、分かったよ、お姫様♪」

「〜♡」

 

 こうして二人はラブラブいちゃいちゃしながら晩御飯を食べさせ合い、その後もラブラブいちゃいちゃするのだったーー。




姫海堂はたて編終わりです!

今回はシンプルにバカップルにしました!

お粗末様でした〜♪

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