東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は星。


星の蓮華想

 

 命蓮寺ーー

 

 写経を終え、皆が寛ぎの時を迎えた。

 夕方に近いということもあり、人里では多くの民家で米を炊く煙が上がっている。

 

 そんな空を見上げるのは、命蓮寺の住職である聖白蓮と毘沙門天代理の寅丸星である。

 

「今日も終わりですね」

「そうですね。今日も何事もなく平和な一日でした」

 

 星の言葉に聖は穏やかな口調で返し、今度は寺の庭で遊ぶ、寺の皆のことを優しく眺める。

 ぬえは縁側でマミゾウと茶を飲みつつ何やら楽し気に会話をし、水蜜や一輪、雲山は響子と掃き掃除をしながら談笑し、こいしやこころは小傘を追いかけ回していたりと、皆が思い思いの時を過ごしていた。

 

 すると寺の門にナズーリンと一人の青年が姿を現した。

 二人は門の側にいる一輪達と挨拶を交わし、こいし達やぬえ達に手を振りつつ、真っ直ぐに聖……というよりは星の方へ向かって歩いてくる。

 それを見て聖はニッコリと笑い、一方の星はバツが悪そうな顔をしていた。

 

「宝塔……見つけてきたぞ、ご主人様?」

 

 懐から宝塔を取り出し、ニッコニコの笑みを浮かべるナズーリン。しかしその笑みは凄く冷たかった。

 

「川の中にあったよ〜」

 

 一方、ナズーリンと帰ってきた青年の方は苦笑いを浮かべている。

 

 この青年は人間の姿をしているが、その正体は龍で名前はハカ。

 数年前に幻想郷入りした龍で、水を好み、普段は幻想郷の水路を魚の姿で自由気ままに過ごしていてるのだ。

 

「も、申し訳ありませんでした……」

「失くすにしてもどうして川に落とすんだ?」

「さ、さぁ……どうしてでしょう?」

「そうだよなぁ、分からないよなぁ。この私の頭脳を持ってしても解明出来ないのだからなぁ」

 

 ナズーリンにグサグサと言葉の弾幕を浴びせられる星は、体を縮めて自分の失態を反省しながらナズーリンの言葉をジッと聞いていた。

 

「ハカが居なければどうなっていたか……次に失くすならせめて陸地にしてくれ。ご主人もハカに間抜けな所はこれ以上見せたくないだろ?」

「失くさないように心掛けます!」

 

 ナズーリンの言葉に星が真剣な眼差しで返すと、ナズーリンはため息混じりで星へ宝塔を渡した。

 

「僕はどんな星ちゃんも好きだから、気にしなくていいよ〜♪」

 

 そこでハカが星を安心させるために声をかけると、透かさずナズーリンに「ハカもご主人を甘やかすな!」と注意され、星と共に体を縮めるのだった。

 

 この二人は恋仲の関係にあり、二人の出会いは今回のように星が宝塔を川へ落としのがきっかけだった。

 落とし物をする癖があることから、人里の一部からはドジっ虎などと揶揄されている星に対し、ハカはからかうこともせず『誰にだって欠点はあるよね〜♪』と声をかけたことから、星はハカに惹かれた。

 それから度々会いに行くようになり、数ヶ月前に星からの告白で今に至る。

 

 付き合い出した当初は龍虎カップルということで、かなり人里で話題になった。中にはスピード破局するかもと賭博が成り立つくらいだった。

 しかし結果はこの通りで、今ではみんな平和の象徴的な感覚で二人を見ているそうな。

 

「(怒られちゃったね♪)」

 

 ナズーリンが二人に説教する中、ハカがこっそりと星に声をかけると、星は「そうだね♪」と言うような笑みだけを返して、二人並んでナズーリンのお言葉を大人しく聞くのだった。

 

 それから数十分後ーー

 

「いいかい? ご主人はもう少し毘沙門天様の代理としての心構えをーー」

 

 まだまだ説教モードのナズーリン。

 星は寺の廊下で正座しつつ、辛抱強く聞いているが、

 

「お兄ちゃ〜ん、今度お魚釣りに連れてって♪」

「あぁ、いいよ〜。釣りしたくなったら川へおいで」

 

 一方のハカはこいし達に囲まれてナズーリンの話は聞いてなかった……というよりも、ナズーリンの話は星に対する言葉ばかりなので、ハカが聞いていなくてもナズーリンは気にしていないというのが正しい。

 

「皆さ〜ん、もうお夕飯ですよ〜」

 

 すると寺の奥から聖がみんなに声をかけた。

 奥の部屋には水蜜と一輪が作った煮物や味噌汁が並べられている。

 

 こいし達はそれを見ると「ご飯だ〜♪」と声を弾ませ、奥の部屋へ向かう。

 

「ちゃんと手は洗ってくださいね〜?」

 

 聖がこいし達にそう言うと、こいし達は揃って「は〜い♪」と返事をし、奥の部屋を通り過ぎて、井戸へ向かった。

 

「ということですので、ナズーリン。今日はこれくらいに」

「ふむ……仕方ない」

 

 ナズーリンは聖の言葉に取り敢えずは頷いたが、その表情からはまだまだ言い足りないといった心境が伺える。

 星は「助かった……」と声をもらし、ホッと胸を撫で下ろした。

 

「大丈夫、星ちゃん?」

「あ……」

 

 するとハカは星を心配して優しく頬を撫でると、星はその頬をほんのりと赤く染めた。

 

「だ、だだ、大丈夫ですすすす」

「そう? ならいいんだけど……脚痺れてない?」

「う、うん! あれくらいの正座では痺れないよよよよ!」

「無理してない? 辛いなら抱っこするよ?」

 

 ハカはそう言って星に向かい「ほら」と両手を広げた。

 星はその甘美な誘惑に抗ったが、

 

「おいで〜♪」

「にゃ〜♡」

 

 ハカのトドメの一言で虎はただの猫になるのだった。

 

「聖、判定は?」

「…………恋人同士ですし、相手を思い遣った行動なので超許す」

 

 両手を合わせ、慈悲深い笑みを浮かべて判決を下した聖に、ナズーリンは肩をすくませて「甘いな」と苦笑いを浮かべて返した。

 それからナズーリンとハカも夕食をお呼ばれし、星はハカと見つめ合いながらラブラブな夕食を過ごし、辺りに砂糖を振り撒いたそうな。

 

 

 そしてーー

 

「ん〜♡ ハッちゃん、ハッちゃ〜ん♡」

 

 夕飯後、二人は縁側に座り、肩を寄せ合って月見をしていた。

 しかし、星に限っては月を見ているとは全く思えない。何故なら星はハカの腕に抱きつき、その腕に顔を埋めているからだ。

 

「あはは、星ちゃんは可愛いな〜♪」

「ハッちゃんの前だけだも〜ん♡」

「それは特別な気がしていいね♪」

 

 ハカはそう言うって星の頭を優しく撫でる。

 星はそれが心地良くて、思わず「にゃ〜♡」と甘えた声を出してしまった。

 すると、

 

「でもいいのかな〜。僕だけお酒なんか頂いちゃって……」

 

 ハカが少し申し訳なさそうにお酒が入った徳利を見つめた。

 すると星は「大丈夫大丈夫♪」と言って、更に言葉を続ける。

 

「聖が飲んでいいと言ったのですから、気にしなくていいですよ♪ それは奉献されたお酒で、私達じゃ精々煮物とかに使うくらいですから、飲んでもらった方がいいんです♪」

 

 笑って言う星だったが、ふと顔を逸して「村紗さんや一輪さんとかは隠れて飲んでますし……」と小声で付け加えた。

 

「星ちゃんだって蟒蛇(うわばみ)だろう?」

「…………」

 

 ハカに指摘された星はプイッとそっぽを向いて対抗するも、その時点で認めていると同じである。

 

「聖さんもみんながお酒を隠れて飲む分にはとやかく言ってないんでしょう?」

「は、はい……」

「星ちゃんは毘沙門天の代理だから、それを考えてるのは分かるよ? でも毘沙門天を祀って、その化身とまで言っていたあの上杉謙信でさえ、梅干しや塩を肴に毎晩お酒を飲んでいたんだから、それと同じでしょ?」

「で、でも……」

 

 まだ後ろめたさが残る星に、ハカは不意打ちで口づけをした。

 

「んむぅ!?♡」

 

 するとハカは星が気づかない内に、自身の口の中に含んであったお酒を星の口の中へソッと流し入れる。

 

「ん……んぐっ……ごくっ……ぷはぁ……は、ハッちゃん!」

 

 珍しく強行的なハカを星は睨みつけるが、すぐにハカが今度は星の顎をグイッと自分の方へと上げた。

 

「は、ハッちゃん?♡」

 

 ハカの綺麗で真っ直ぐな瞳の前に、星の胸は高鳴った。

 

「僕が一緒にいるから、一緒にお酒飲もう?」

 

 その優しく甘美な囁きは星の胸を更に追い打ちをかける。

 

「お酒じゃなくて、僕に酔えば……お酒を飲んだって誰も気づかないよ」

「あ……あぁ……♡」

「星ちゃん」

「ハッちゃん……♡」

 

 星はもう我慢出来なかった。その証拠に星の瞳にはハカの顔しか映しておらず、ハカから見れば星の瞳にはハートマークが浮かび上がっていたから。

 

「もう一杯、飲む?」

「の、飲みたいれしゅ♡」

「じゃあ飲ませてあげるね♪」

「は、はぃ……んんっ♡」

 

 こうして二人は月明かりに照らされ、何度も何度も人肌のお酒を飲むのだったーー。




寅丸星編終わりです!

色々と都合のいい設定にしてしまいましたが、ご了承を。
でもこんなのもいいと思ったんです(個人的に)!

お粗末様でした♪

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