東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は一輪。

※少し残酷な描写があります。読む際にはご注意ください。


一輪の恋華想

 

 命蓮寺ーー

 

 雨が降り出し、昼間とはまた別な景色を見せる幻想郷。

 夕方を迎えた命蓮寺の玄関では、一輪が落ち着きなくウロウロし、誰かの帰りを待っていた。

 

「もう少し落ち着いたらどうなの〜、一輪?」

「水蜜……」

 

 そんな一輪に水蜜が苦笑いを浮かべて声をかけるが、一輪はまだ心配そうに雨の降る外を見つめていた。

 

「雲山も何とか言ってやりなよ〜」

「…………」

 

 水蜜は雲山にそう言うが、雲山は腕を組んだままゆっくりと首を横に振った。

 すると、

 

「一輪は本当にあいつが好きで仕方ないんだね〜♪」

「恋する乙女よのぅ♪」

 

 とぬえとマミゾウが奥からやってきた。

 

「わ、私はただ心配しているだけで……」

 

 二人の言葉に一輪はそう言葉を返すが、その顔は赤く染まっているので、すぐに図星だとバレていた。

 

「似たようなもんじゃろうて。好きだからこそ、そうして甲斐甲斐しく帰りを待っておるのじゃろう?」

 

 したり顔でマミゾウに言われると、一輪は俯いて「うぅ〜」と唸った。

 

「一輪があいつと付き合うようになって長いけど、何だかんだ毎日毎日ラブラブだもんね〜♪」

「聖が目を光らせてるとは言え、あの熱愛っぷりだもんね〜♪」

「や、やましいことをしていないのだからいいでしょう!?」

 

 ぬえと水蜜の言葉に一輪はつい大声で返してしまい、その後ですぐに我に返って口をつぐんだ。

 

 命蓮寺には数年前に新しい仲間が入門した。

 それは若い青年でありながら、妖怪と人間の間に生まれた妖と人の血を引く者だ。

 この青年の名は『ジン』と言い、数年前に幻想郷にやってきた者だった。

 

 ジンの両親であった妖怪も人間も心優しき者達だった。

 しかし、人間と妖かし達の隔たりが大きい外の世界では、その夫婦は畏怖の対象でしかなく、その恐れに耐え切れなくなった人間達により、家族は家ごと焼き払われてしまった。

 燃え盛る炎の中、親達は必死に子どもを守った。

 家の床を壊し、床下へ穴を掘り、そこへまだ幼かった我が子を隠し、その穴を板で隠した後、自分達でその上に座り、火がそこへ行かぬようにした。

 

 火が完全に消え、救われた子どもは穴から出た後、山をねぐらにし、成長していった。

 その間、ジンは人間達へ復讐をしようとは考えなかった。何故なら両親はそんなことを望まないと知っていたから。

 そして幻想郷にやってきて、命蓮寺の思想に感銘を受け、入門。

 

 その時のお目付け役が一輪だった。

 ジンは一輪の言葉に忠実で、それでいて気遣いも出来ることから、一輪は厳しく、そして時には優しくジンを導いた。

 そうしている内に一輪とジンは互いのことを深く知り、それはいつしか恋となり、愛へと変わっていった。

 

「お、来たみたいじゃな」

 

 マミゾウがそう言って寺の門へ目配せすると、遠くから荷物を懐に抱えて走ってくるジンの姿があった。

 

「あ、ホントだ♪」

「んじゃ、一輪、私達は退散するから、ごゆっくり〜♪」

 

 ジンの姿を確認したぬえや水蜜はそう言って一輪に気を遣ってその場を後にした。

 

「どれ、儂らも退散するかの。雲山、良い嗜好品を手に入れたんじゃ、お主も一服しようぞ」

「…………」

 

 マミゾウが煙管を見せると、雲山は頷いてマミゾウと共に一輪の側を離れた。

 

「な、何よ、みんなしてこんな時だけ空気読んで……」

 

 さっきまで延々と自分をからかっていたみんながすんなり消えたことに、一輪は思わずそうつぶやいてしまった。

 それからすぐ、ジンがようやく命蓮寺の玄関へ足を踏み入れた。

 

「た、只今戻りました……はぁはぁ……」

 

 ジンは息を切らして一輪にそう言うと、一輪は微笑んで「お帰りなさい」と返し、持っていた手拭いでジンの頭や顔を甲斐甲斐しく拭いてやった。

 

「す、すみません、一輪さん……」

「そうね……持っていった傘も無いし、ずぶ濡れだし……」

 

 呆れたように言う一輪に対して、ジンは「これには」と訳を話そうとしたが、一輪の人差し指がその口を遮った。

 

「どうせ、あなたのことだから傘を持っていない人に傘を貸してあげたのでしょう?」

「……は、はい」

「その心は評価するけどね……それであなたが風邪を引いたら傘を貸してもらった人が気にしてしまうでしょう?」

「…………はい」

「あなたはいつもそう。自分のことはいつも後回しで、お人好しで……」

「うぅ……申し訳ありません」

 

 すると、

 

「でもそんなジンさんが一輪は大好きなんですよね♪」

 

 と言って背後から聖がやってきた。

 聖の登場に驚いた二人だったが、一輪の方は聖の登場よりも聖が言った言葉に狼狽しているようだった。

 

「聖様、只今戻りました。頼まれた品はこちらに……あ、ちゃんと濡れないように持って帰ってきました!」

「えぇ、ありがとうございます」

 

 聖はジンから包を受け取ると、一輪を見た。

 

「一輪」

「は、はひ」

「ジンさんが風邪を引かぬよう、早く部屋に行って暖をとらせてあげなさい」

「わ、分かりました! 今すぐ用意します!」

 

 一輪は声を上ずらせつつも、しっかりと返事をしてその場から逃げるように去っていった。

 

「あの子ったらあんなに慌てて……間違って火傷しないかしら?」

「一輪さんはしっかりしてますから、大丈夫かと」

「ならいいのですけれど……」

 

 聖はそう言って一輪を心配してはいたが、その目は楽し気だった。

 それから聖は包の中の品がちゃんと濡れず、頼んだ品も揃っていることを確認してからジンも部屋へ行くように指示した。

 ジンはうやうやしく一礼してから部屋へ向かい、聖はその背中を優しく見送ってから自分は本堂の方へ向かうのだった。

 

 ーー

 

 ジンが暖のとれる囲炉裏の部屋へ入ると、一輪はせっせと火をおこし、更には温かい茶の用意までしていた。

 

「一輪さん、ありがとうございます」

「い、いいのよ、これくらい……ジンのためだし♡」

「……」

「……♡」

 

 二人は互いに口をつぐみ、顔を赤くして、囲炉裏を囲んだ。

 

 ーー

 

「(何も話してないけど、ニコニコはしてるね〜♪)」

「(かぁ〜、じれったいのぅ!)」

「(あんなに赤いなら囲炉裏要らないんじゃない?♪)」

 

 そんな二人の様子を、マミゾウ達が隣の部屋からこっそりと覗……見守っていた。

 因みに雲山はこうしたことはしたくないのでこの場にはいない。

 

 ーー

 

「あ、あの……」

「ね、ねぇ……」

 

 一輪とジンは言葉が重なってしまい、また口をつぐんでしまった。

 

「ジ、ジンからどうぞ?」

「い、一輪さんからでいいですよ?」

 

 互いに譲り合い、全く会話が進まない。

 

 ーー

 

「(あれ、お見合い?)」

「(もう付き合って長いと言うに、初じゃのぅ)」

「(乙女一輪wwwww)」

 

 ぬえの言葉にマミゾウは若干呆れた言葉を返し、一方の水蜜は大草原を生やしていた。

 

 ーー

 

「ちょっと、こっち来なさいよ……」

「え、あ、はい……」

 

 意を決して一輪がジンに手招きすると、ジンは遠慮がちに一輪の隣へ近寄った。

 

「もっと……」

「こうですか……?」

「もっと!」

 

 ジンは結局、一輪と肩寄せ合うように座ることになった。

 

 ーー

 

「(流石一輪!)」

「(みこし入道を飼い慣らすだけのことはあるのぅ♪)」

「(ktkr!wwwww)」

 

 一輪の一挙手一投足に観客は大興奮。

 

 ーー

 

「っ!♡」

「一輪さん!?」

 

 一輪は思い切ってジンに抱きついた。

 ジンは驚いて口をパクパクさせているが、しっかりと一輪の体を抱きかかえている。

 

「こ、こうすると……あ、温かいでしょ?」

「は、はい、凄く……でもこれだと一輪さんが寒くなるのでは?」

「わ、私はあなたと違ってこれくらいで冷えないわよ……私のことはいいから、今は素直に私とこうしてなさい……♡」

「は、はい……」

「〜♡」

 

 ーー

 

「(ふぉぉぉぉぉぉ!)」

「(最初からああすれば良いものを……♪)」

「(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)」

 

 観客のボルテージが最高潮に達すると、

 

「皆さん?」

 

 とどこか冷たい声が背後からかかった。

 振り返ると、そこには絶対零度の笑みを浮かべた聖と呆れた顔をした寅丸とナズーリンの姿があった。

 それを見たマミゾウ達は一瞬にして冷めた。

 血の気が引いたの方が正しいかもしれない。

 

「覗きはいけませんと前に申しましたよね?」

「お気持ちは分かりますが、良い趣味とは言えませんよ」

「みんなはこれから罰として写経をしてもらう」

 

『いやぁぁぁぁ!』

 

 ーー

 

「何だか、隣の部屋が騒がしいような?」

「どうせまた、誰かが姐さんを怒らせたんでしょ……それより、今は私に集中しなさいよぅ♡」

「はい、一輪さん……」

 

 そう言ったジンは、一輪の体に回している手にまたギュッと力を込めると、一輪は幸せそうに笑みを浮かべ、ジンの体を温めてあげるのだったーー。




雲居一輪編終わりです!

控えめだけど、尽くしちゃう一輪にしました!

お粗末様でした〜♪

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