東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はナズーリン。

※命蓮寺組のお話では戒律等の事柄には深く触れません故、いつも通り書きます。
どうかご了承を。


星蓮船
ナズーリンの恋華想


 

 命蓮寺ーー

 

 本日も穏やかに時が過ぎる幻想郷。

 ここ命蓮寺でもそれは変わらず、穏やかな昼下がりを迎えていた。

 

「じゃあ、聖にご主人。私はこれで失礼するぞ」

 

 そんな中、ナズーリンは定例集会が終わると共にそそくさと寺を後にしようとしていた。

 ナズーリンは寺の者達とは違い、普段は無縁塚の近場に住んでいる。

 ナズーリン曰く「無縁塚の地下には何かお宝が埋まっている」らしく、その近くに小屋を建てて、そこで無縁塚をダウジングしながら過ごしているからだ。

 ただ、これまでガラクタしか見つかっておらず、お宝とは縁遠い。

 

「あら、もうお帰りですか? 集会後のお茶会がありますのに……」

 

 そんなナズーリンに寺の住職である聖が残念そうに言うと、その隣にいる信仰対象の本尊毘沙門天の代理であり修行僧の寅丸が「まぁまぁ」と声をかけた。

 

「ナズーリンには今、一秒でも早くお会いしたい方が居られます故、致し方ないかと思います♪」

「よ、余計なことは言わないで頂きたいな、ご主人!」

 

 ナズーリンは急いで寅丸に言い返すが、その微かに紅潮した頬が何よりの証拠だった。

 

「あらあら……それは気付かず、ごめんなさい」

 

 聖が謝るとナズーリンは「だ、だからそんなんじゃない」と慌てて返した。

 すると聖はナズーリンの話も聞かず「あ、それでしたら」と言葉を続け、一度寺の奥へ引っ込むと、すぐにまた戻ってきた。その手には掌サイズの折り詰めを持って。

 

「これ、これからのお茶会で皆さんにお出しする物と同じお団子です。よろしければあの方とお食べください」

「え……いいのかい? 折り詰め一つ分も貰って……」

「はい。水蜜とぬえが大量に買ってきてしまいましたので……それにあの方には私達もお世話になってますからね」

「そ、そうか……ではありがたく」

(だから船長達は集会中でも畳の上で正座してたのか……)

 

 ナズーリンは聖から折り詰めを受け取ると、ちゃんとお礼を言ってから今度こそ無縁塚の方へと向かった。

 それを聖と寅丸は優しく見守りながら、ナズーリンの背中が見えなくなるまで見送るのだった。

 

 

 無縁塚付近ーー

 

 ナズーリンは自身が寝泊まりしている小屋ではなく、また別のとある小屋の前にやってくると、いそいそと自身の髪や服の埃を払っていた。

 そして深呼吸してから、その小屋へ足を踏み入れた。

 

 小屋の中に入ると、奥で大きな人影がモゾモゾと動いている。

 

「た、ただいま〜……」

「おぉ、お帰りナズーリン。早かったね〜」

 

 ナズーリンがそう声をかけると、その影はナズーリンに返して奥から出てきた。

 

 それは大きな体の青年だった。

 しかしこの青年はただ大きな青年ではなく、牛の妖怪なのだ。

 その証拠に頭の両側面からは太くて立派な牛角が生え、尻のところには体に対しては小さく細い尻尾が生えている。

 そしてナズーリンの恋人である。

 

 この青年はナズーリンが無縁塚付近に住み着いて少ししてから移り住んできた妖怪で、ナズーリンはこの青年を牛ということから最初は見下していた。

 しかしナズーリンはこの青年に多くの同胞達を野良猫などから救ってもらったことで評価を改め、話をする毎に青年へのめり込んでいった。

 そしてつい数日前に晴れて恋仲となり、今に至るのだ。

 

「……し、仕事していたのではなかったのか?」

「してたけど、丁度終わったところだったからね〜。僕はてっきりナズーリンがタイミングを見て来てくれたのかと思ってたんだけど〜?」

「ま、まぁ、私の頭脳にかかればこれくらいぞうさもないぞ……」

 

 たまたまタイミングが良かっただけだが、ナズーリンは敢えてそういうことにして、胸を張った。

 少しでも相手にいい格好したい乙女である。

 青年は「今お茶入れるね〜」と言って茶の準備に取り掛かると、ナズーリンは「すまない」と言って、自分も上がって囲炉裏の側へ座った。

 

「今日の集会はどうだった?」

「どうと言われてもなぁ……相変わらずの集会だったぞ。新しいといえば、ご主人の物を無くすことに対してどうするか話し合ったくらいだ」

「あはは、皆さん変わりないみたいだね〜♪」

「笑ってはいるがな……毎回毎回宝塔を探す私の身にもなってほしいんだが……」

「何だかんだ言いながらも、いつも探してあげてるじゃないか〜♪」

「あ、あれはご主人が泣いて頼み込むからであって……ひいては毘沙門天様のためだ……」

 

 ナズーリンはそう強調するが、本心でないことは火を見るよりも明らかだった。何故ならナズーリンの耳がピコピコと動いていたから。

 青年は気付いていたが、敢えて何も言わず、ナズーリンにお茶の入った湯呑を「どうぞ」と言って差し出した。

 

「む、すまない……おっと、忘れるところだった。聖とご主人からこれを預かってきた」

 

 そう言ってナズーリンは聖から受け取った折り詰めを青年に手渡した。

 

「わぁ……これは嬉しいですね〜♪ 中身は何だろう?♪」

「団子だそうだ。元はムラサ船長とぬえが大量に買ってきたそうだが、君には世話になってるからと聖が持たせてくれたんだ」

「なるほど……今度お線香をお渡しする時にお礼をしないといけないね」

「言葉だけでいいと思うぞ。お礼の品を渡したらまた聖がお礼の品を渡すに決まってるからな」

 

 そう言ってナズーリンは苦笑いを浮かべて茶をすすった。

 ナズーリンが言ったように、青年は命蓮寺で使う線香を作っている。最初はお香を専門に作って人里の無人販売所で売っていたのだが、ナズーリンと関わるようになって線香の生産も始め、無臭の物から花の香りがする物まで様々な種類を作っている。

 

「そうか……ならせめて美味しく頂こう」

「それがいい」

 

 そう言って互いに笑い合って折り詰めの蓋を開けると、

 

「おぉ〜」

「こ、これは……」

 

 何とも言えない光景が二人の前に現れた。

 

 折り詰めの中身は聖が言った通り団子だった。

 しかし、その団子の形が問題だった。

 

「これはハート型なんだね〜。凝ってるな〜」

 

 そう、一個一個がハートの形をした団子だった。

 青年は形や作り方にえらく感心していたが、ナズーリンはそれどころではなかった。

 何せ大好きな彼とこれからこのハート型の団子を食べるのだから、ナズーリンの心はドキドキと高鳴っていたから。

 

「す、すごい団子だな……」

 

 普段から何事にも涼しい顔をしてみせるナズーリンも、今回に限ってはどうしても心情が顔に出てしまっていて、その証拠に顔は真っ赤で、尻尾も耳もブンブン、ピコピコと大きく動いている。

 

「それじゃあ、はい……ナズーリン、あ〜ん♪」

「えぇぇっ!?」

 

 青年が笑顔でナズーリンの口元に団子を持っていくと、ナズーリンは素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

「? ナズーリンが貰った物だから、最初はナズーリンからでしょ? あ〜ん」

「だ、だだ、だからって食べさせてもらわなくても、一人で食べられるぞ!」

「え……マミゾウさんやぬえちゃんから恋人なら食べさせてあげるのが普通だ……って教わったんだけど、何か間違えちゃった?」

「〜〜っ」

(アイツら〜〜っ!)

 

 青年の言葉にナズーリンはマミゾウとぬえのニヤニヤした顔が脳裏に浮かび、心の中で二人を呪った。

 しかし青年はそんなナズーリンに対して「ナズーリン?」と小首を傾げたまま、ナズーリンに団子を食べさせようと待っていた。

 

「…………頂きます」

 

 ナズーリンは青年の心を無碍に出来ず、観念したかのように青年の手から団子を頬張った。

 

「もぐもぐ……」

「美味しい?♪」

「……ごくん。ま、まぁ……不味くはない♡」

「そっか、良かった♪ じゃあ、僕も頂きmーー」

「ほ、ほら……あ〜ん♡」

 

 青年が団子を食べようとすると、ナズーリンが言葉を遮って青年の口元へ団子を運んだ。

 すると青年は嬉しそうに笑ってその団子を頬張った。

 

「……わ、私だけ食べさせてもらっては不公平だからな♡」

「ありがとう♪ ナズーリンに食べさせてもらうと余計に美味しく感じるよ♪」

「……ヨイショしても何も出ないからな♡」

 

 こうして二人はその後も仲良く団子を食べさせ合い、団子の甘さとは違う、甘い一時を過ごすのだったーー。




ナズーリン編終わりです!

ちょいツンデレっぽく、そして甘さ控えめで書きました!
鼠は繁殖力があるからあっち系にしようとも思ったのですが、最初はやはり甘酸っぱい方がいいかと思ったので……w

ではお粗末様でした〜♪

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