地底ーー
この地底には灼熱地獄の熱を利用した温泉郷なるものがある。
最近では地底だけに限らず、地上からわざわざ温泉に入りにやってくる者も多い。
そんな温泉郷を管理経営する古明地さとりは、今とてつもない困難に見舞われていた。
「さとり様〜! 私はどうしたらいいんですか〜!?」
そう悲痛な叫びをさとりにぶつけるのは、さとりのペットである霊烏路空。通称お空で、灼熱地獄の温度管理を任せている八咫烏を取り込んだ地獄烏の妖怪である。
そんなお空がどうしてさとりの書斎にまで乗り込んで、さとりの膝にすがりついているのかと言うと、
「…………お空、もう一度言ってくれるかしら?」
「ですから〜! マルが私とセ○クスしてくれないんですぅ!」
夜のお悩みだったのだ。
お空にはマルという地獄烏(雄)の恋人がいる。
このマルもさとりのペットであり、お空が灼熱地獄の温度管理に専念出来るようにとさとりが間欠泉センター内においた妖怪で、主に迷い込んだ人々を地上へ戻す任務や危険人物の排除を担当している。
しかもマルの中には夜叉という鬼神の力も備わっているため、その性格は勇猛でいて正義感溢れる好青年である。
お空と同じく地獄烏ではあるが、お空とは違って疑り深く、記憶力も良いため、さとりとしてはそんな彼ならお空を安心して任せられると考えているので、お空とマルが無事に結ばれることを切に願っている。
実際にお空がマルに恋していると知ってからはあの手この手を使ってマルにお空の気持ちを勘付かせ、今のような関係に持っていった。
しかし夜の悩みに関してはさとりも経験が無いため、お手上げ状態なのだ。
さとりはどうしたらいいのか困り、丁度仕事の報告に来ていたお燐へ助けて光線を送った。
「お空、さとり様にそんなこと訊いちゃ失礼だろう?」
「だってさとり様くらいにしか相談出来ないんだもん……こうしてマルとラブラブになれたのだってさとり様に相談したからだし……」
お燐の言葉にお空はシュンとしながら返した。
そんなお空を見て、さとりの良心にチクリと刺さるものがあった。
「にしたってそういう相談するかい? そういうのなら地上に出回ってる雑誌とかに書いてあるだろう?」
「だってさとり様はえっちな小説書いてるから、そういうのに詳しいのかなって、思って……」
まさかの暴露だった。
それはさとりの胸に大きな衝撃を与え、お燐は思わずさとりの顔を見てしまった。
「お、お空……どどど、どうして私がそんな物を書いてると思うのかしらららら?」
あくまで平静を装ってさとりがお空に訊ねると、
「こいし様が『お姉ちゃんが書いた本読んであげるね♪』って時間がある時に良く読んでくれるからです!」
と満面の笑みで素直で真っ直ぐな瞳をしてお空は答えた。
さとりはそんなお空の眩しい笑顔の前に思わず目の前が霞み、机に突っ伏してしまった。
「さとり様ぁぁぁ! しっかりしてくださいぃぃぃ!」
「お燐、あなたも疲れたでしょう? 私も疲れたわ……今は何だかとても眠いの……お燐……」
「にゃ〜ん……じゃなくて、さとり様ぁぁぁ! それはフラグのセリフですよぉぉぉ! それとあたいは犬じゃありませんからぁぁぁ!」
現実逃避するさとりの肩をお燐は必死に揺すった。
そして何とか踏ん張ったさとりは咳払いをしつつ姿勢を直すと、お空に落ち着いて説明を始めた。
「あのね、お空……そういうことには順序があるの。どうせあなたのことだからストレートに言い過ぎたのでしょう?」
「ストライクって何ですか?」
「ストライクじゃなくてストレート……真っ直ぐにという意味よ」
「お空はマルになんて言ったんだい?」
お燐がお空にそう訊ねると、
「『あなたの熱いものを私にぶち込んで、私をあなたの力で制圧して!』って……」
何の恥じらいも無く言い放った。
お燐は言葉を失い、さとりは思わず意識を失いかけたが、飼主の責任感が上回り、何とか持ち返した。
「お、お空……どうしてそのセリフを選んだのかしら?」
「え……そのセリフの後でヒロインの子はいっぱいえっちなことされてたから、そう言えばマルも私にしてくれるかなって思って……」
「そう……そうね、そうよね、そう思うわよね……」
さとりは酷い頭痛に悩まされつつ、ふぅと一息吐いてからお空が理解しやすいように言葉を選んでゆっくりと説明を始めた。
「あのね、お空……私の考えたお話では、彼の気持ちは動かないの」
「そうなんですか?」
「えぇ……彼はお空も知っての通り、真面目でお空のことを一途にちゃんと愛してくれているでしょう?」
「はい♡ いつも私に愛してるって言ってくれます♡」
「……そんな彼がお空にそんなセリフを言われたら、どうしたのかと心配してしまうでしょう?」
「はい……何言ってるんだって言って頭を撫で撫でしてくれました……♡」
「…………そう、だからあんなセリフは彼にの胸には響かないの」
「でも私、マルと一つになりたいですぅ……マルの愛をもっと深く感じたいんですぅ……」
「………………え、えぇ、十分理解してるわ……だからそんなセリフではなくて、もっとお空が思ってることを伝えればいいと思うの」
さとりの言葉にお空は「うにゅ?」と小首を傾げる。
それを見たさとりはお空の頭を優しく撫でて、
「難しく考えちゃ駄目……お空のそのままの気持ちを伝えればいいの」
と諭すように言葉をかけた。
「私の気持ち……」
「そう。でもいきなりは駄目よ? 誰も居ない二人きりの場所で言うの。ちゃんと相手の目を見てね」
するとお空は晴れ晴れとした表情に変わり、さとりに「分かりました!」と元気に言った後にちゃんとお礼も言ってから部屋から去っていった。
さとりはそれを見送るとその身にドッと疲れやら羞恥やらが襲った。
「お疲れ様でした、さとり様」
「ありがとう……お燐……」
そう言うと同時に、さとりはこいしにも勘付かれないようなペンネームにしようと誓うのだった。
ーー。
「…………おい、空」
「うにゅ?♡ なぁに、マル?♡」
「なぁにじゃない。いきなり俺のところに来たかと思ったら、急に空の部屋に連れてこられたんだ。ちゃんと説明しろ」
急に連れ攫われたマルは自分の胸板に顔を埋めるお空に説明を求めた。
「大体、俺はまださとり様にご報告すらしてないんだぞ?」
「うにゅ〜……だって、早くマルに会いたかったから……」
少し怒り気味のマルにお空がしょぼんとしながら返すと、マルは「うぐ……」と思わずたじろいでしまった。
「そ、その気持ちは嬉しい……が、いつも急過ぎるんだよ、空は」
マルはお空の頭を優しく撫でながらそれとなく注意すると、お空は「えへへ、ごめんねぇ♡」と嬉しそうに謝った。
そんなお空の笑顔を見て、マルの胸はドクンと大きく跳ねた。
するとその瞬間、お空が「あ……」と何か発見したように声をあげた。
「どうかしたのか?」
「うん……今、マルの胸がドクンって跳ねたのが分かった♡」
「そ、そりゃあ、そんなに胸に顔を近付けてりゃ分かるだろう?」
「うん……今もドクンドクンってちゃん聞こえるよ♡」
「そりゃあ生きてるからな……」
マルが照れくさそうに言うと、お空は「うん、そうだね♡」と返し、今度はしっかりとマルの胸に耳をあてた。
「そんなに珍しいもんでもないだろ……」
「そうだけど……嬉しいの♡」
「…………嬉しい?」
そう訊き返すとお空は顔をマルの方に向けて「うん♡」と満面の笑みで頷いた。
そして、
「だって、私と一緒でマルの胸もドクンドクンって言ってるんだもん♡」
と続けた。
マルは意味が分からず「はぁ?」と首を傾げると、お空は「だからぁ♡」と言って、今度はマルの頭を自分の胸に強引に手繰り寄せた。
「う、空?」
「…………聞こえるでしょ?♡」
「何が?」
「私の胸の音♡ マルと一緒でドクンドクンって……聞こえない?♡」
マルは落ち着いて耳をすませると、確かにお空の胸からはドクンドクンと少し早い鼓動の音がした。
「…………聞こえるよ、空の鼓動が」
「マルと一緒にいるといつもこうなんだ♡ 疲れてもいないのに沢山沢山鳴るの♡」
「ふふ、そうか……」
「マルと一緒♡ マルも私と同じ気持ちなんだよね?♡」
「そうだな……」
マルが素直に頷くと、お空はソッとマルの唇に自身の唇を重ねた。
「ちゅっ……えへへ♡ マル、愛してるぅ〜♡」
「俺も空のことを愛してるよ」
「じゃあさ……♡」
「?」
「ちゅうよりもっと深くマルと繋がりたいな♡」
「!?」
「私、マルと一つになりたい♡」
「…………分かった」
「やった〜♡」
「ま、待て待て! 先ずは湯浴みをしてからベッドで落ち着いてだな!」
「もう待てないもん!♡ ずっとこうしたかったんだもん!♡」
「ま、待ってくれぇぇぇぇぇ!」
その後、めちゃくちゃ核融合したーー。
霊烏路空編終わりです!
ちょっと下ネタが入りましたがご了承を!
元気に真っ直ぐな好意を向けてくれるお空が彼女だと、毎日が楽しそうですよね、妬m……羨ましい!
ではではお粗末様でした〜☆