東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はお燐。


燐の恋華想

 

 地底ーー

 

 灼熱地獄跡の上に蓋をするかのようにそびえ立つ地霊殿。

 ここにはその主である古明地さとりとその妹であるこいしだけでなく、さとりのペットも数多く住んでいる。

 

 中でも灼熱地獄跡の温度管理をする霊烏路空、通称お空と灼熱地獄跡で怨霊の管理や死体運びを任されている火焔猫燐、通称お燐は飼主であるさとりのために日々自分の職務をこなしている。

 

 そして本日のお勤めを終えたお空とお燐は報告のためさとりの元へと訪れていた。

 

「ーーご報告は以上です♪ こちらが先程ご報告しました内容の報告書になります♪」

「えぇ、今日もありがとう。お空、お燐」

 

 さとりはお燐から報告書を受け取ると、お空は頭、お燐には顎とそれぞれ優しく撫でた。

 撫でられたお空は幸せそうに「うにゅ〜♪」と声をもらし、お燐は嬉しそうに喉を鳴らしている。

 さとりはそんな二人の笑顔を見て、思わず自分も笑みをこぼした。

 

 するとさとりの仕事部屋のドアがガチャッと勢い良く開いた。

 そこには、

 

「お姉ちゃ〜ん、ただいま♪」

 

 こいしの姿があった。

 しかしやってきたのはこいしだけでなく、こいしのすぐ隣には長身で細身の青年が立っていた。

 この青年は人の形に化ける山猫の妖怪で名前はヤマカゲ。昔は山に迷い込んだ人間を襲う極悪妖怪だったが地底に来てからは罪人しか襲わず、旧都で居酒屋を営み、そこそこ繁盛している店の店主なのだ。

 どうしてヤマカゲがいるのかというと、こいしが手を繋いでいることから無意識のままに連れてこられたのだろう。その証拠にヤマカゲは魂が抜けているかのように生気を感じ取れない。

 

「こいし、あなたまtーー」

「こいし様ぁぁぁ! どうしてヤマカゲさんを連れてきたんですかぁぁぁ!?」

 

 さとりの言葉を遮り、お燐はそう叫びながらこいし達の元へ近付くと、素早くこいしとヤマカゲを引き離して「ほら、しっかりおし!」と呼び掛けてヤマカゲの頬を軽く叩いた。

 

「…………はっ、ここはどこだ!?」

 

 こいしから離れたヤマカゲは我に返り、辺りをキョロキョロと見回した。

 するとすぐ側にいるお燐と目が合った。

 

「お、お燐ちゃん……?」

「うん、あたいだよ♪」

「てことはここは地霊殿か?」

 

 ヤマカゲの言葉にお燐が頷くと、ヤマカゲは一瞬ホッとしたが、またすぐにどうして自分がここにいるのか分からないという表情に変わった。

 

「ごめんなさい。妹が勝手に連れてきてしまって」

 

 さとりがヤマカゲの前に立って謝ると、ヤマカゲは「あ〜、そういうことか〜」と間延びした返事を返した。

 

「カゲさん、オッスオッス♪」

「お〜、お空ちゃん、オッスオッス♪」

 

 お空がヤマカゲと挨拶を交わしていると、それを見ながらさとりはこいしに「どうしてヤマカゲさんを連れてきちゃったの?」と訊いた。

 

「あのね、ヤマカゲさんのお店に行ったらヤマカゲさんが『お燐ちゃん、今何してんのかな〜?』って言ってたから連れてきてあげたの♪」

「えぇ!?」

 

 こいしの説明にいち早く反応したのはお燐だった。

 

「こいしちゃんに聞かれてたのか〜」

 

 ヤマカゲははにかみながらそう言うと、ポリポリと頬を掻いた。

 対するお燐は「にゃう〜……」と恥ずかしそうにモジモジしている。

 

 どうして二人して照れているのかというと、二人は恋人同士だからだ。

 ヤマカゲは旧都で罪人を捕まえては化け猫ネットワークを通じてお燐に死体を提供していて、対するお燐はそのお礼としてヤマカゲのお店を良く利用していた。

 そういうこともあったので二人は自然と話す機会が多くなり、お燐もヤマカゲも何もなくてもお互いに会うのが自然となっていき、今に至る。

 

「それにしたってちゃんと説明してから連れてきなさい。ヤマカゲさんにだってお仕事があるんだから」

「は〜い……」

「まあまあ、さとりさん。おいらは気にしてねぇから、そう怒らないでやってくれよ」

「いいえ、こういうことはしっかりと言い聞かせないといけません。無意識なら何をやってもいいということではいけませんから」

 

 さとりの言葉に部外者であるヤマカゲは何も言い返せなかった。

 それからさとりはこいしに「私の部屋へきなさい」と言うとヤマカゲに「お詫びはします」と一言言ってから仕事部屋を後にしようとした。

 するとさとりはドアに手を掛けたところで、ふと口を開く。

 

「お空、あなたの報告書にも誤字があったからこいしと一緒にいらっしゃい」

「うにゅ!?」

「お燐はヤマカゲさんを家まで送ってあげて」

「え、あ、はい。分かりました!」

 

 お燐は返事をした後でヤマカゲの手を取って部屋を出ようとした。

 するとさとりはお燐の耳に素早く耳打ちする。

 

「(今夜は帰って来なくてもいいから、沢山甘えてきなさい♪)」

「にゃにゃにゃっ!!?」

 

 さとりの言葉にお燐が素っ頓狂な声をあげるが、さとりは小さく笑って「お幸せに」と口パクした。

 それを見たお燐は顔を赤らめつつ「いってきましゅ……」とだけ返事をし、ヤマカゲを引きずるように部屋を後にするのだった。

 

「お燐はヤマカゲさんと遊ぶのに、私とこいし様はこれから怒られるのかぁ……」

「何だか不公平だよ〜……」

 

 こいしとお空がお燐とヤマカゲを羨ましがっていると、

 

「ほら、二人共。早くいらっしゃい。今日はお燐がいない分、みんなでお夕飯の準備をしなくちゃいけないんだから」

「え……お姉ちゃん、私達に怒ってるんじゃ……?」

「うにゅ?」

「怒ってるわ……だから私と地霊殿のみんなのお夕飯を作るの」

 

 そう言うとさとりは「これが今回の罰よ♪」と付け足して、二人にウィンクした。

 すると二人はさとりに抱きつき、三人で仲良く厨房へと向かうのだった。

 

 

 ーー。

 

「ヤマカゲさん……今日のお店休んじゃって本当に良かったのかい?」

「あ〜、大丈夫大丈夫♪ 元々開店時間過ぎちまってたし、今日は予約客も居ないからな♪」

 

 ヤマカゲの店舗兼住居に着いたお燐は、ヤマカゲの住居スペースである居間のところに座り、台所で料理をしているヤマカゲと話をしていた。

 

「そっか……うぅ、でも本当ならお店開いてたんだよね……ごめんよぉ」

 

 ヤマカゲは気にしていないようだが、お燐としては気にしてしまい、思わず縮こまってしまう。

 すると台所から料理の乗った皿を持って戻ってきたヤマカゲが、ちゃぶ台に料理を並べつつお燐に言葉をかける。

 

「謝ることねぇよ……こいしちゃんのお陰でお燐ちゃんに会えたんだしよ」

「ヤマカゲさん……♡」

「それにせっかくお燐ちゃんがいるのに、店なんてやってたらお燐ちゃんとこうしてゆっくりと話も出来ねぇしな……だからこれはおいらのワガママさ」

 

 はにかみながら言うヤマカゲにお燐の胸はグググ〜ンと昂る。

 

「ほ、ほら、お燐ちゃんが好きな魚の煮物と甘い厚焼き玉子だぞ……他にも作ってくっからさ、どんどん食ってくれよ♪」

「うん、いただきます♡」

 

 それから二人は仲睦まじく食卓を囲み、互いに愛する者の笑顔で心まで満たされるのだった。

 

 そして食後ーー

 

「ふぅ、お腹いっぱいだよ〜♡ やっぱヤマカゲさんのお料理はいつ食べても美味しい♡」

「あはは、お燐ちゃんだけのために心を込めて作った甲斐があるよ♪」

 

 ヤマカゲは当然のことのように言うが、不意にそんなことを言われたお燐はまたも胸がグググ〜ンと昂ぶった。

 そして、

 

「…………あの、ヤマカゲさん……♡」

 

 と静かに言ったお燐はヤマカゲの肩にもたれ掛かった。

 そんなお燐にヤマカゲが「ん?」と訊き返すと、

 

「……あたい、今日は帰りたくないなぁ……なんて♡」

「え」

「ヤマカゲさん……♡」

 

 お燐が切なそうにヤマカゲの名を呼び、潤んだ瞳で見つめると、次の瞬間にはお燐の唇がヤマカゲの唇に重なっていた。

 

「っ……んっ♡ ちゅぱっ……にしし♡」

「お燐ちゃん……」

「ほら……あたいのここ、触って♡」

「お、お燐ちゃん!?」

「ヤマカゲさんといるとあたいはいつもこうなっちゃうんだよ♡」

「そ、そうか……」

「ヤマカゲさん……あたいのこの火照り、鎮めてくれるかい?♡」

 

 お燐の問いにヤマカゲは顔を真っ赤にしたままコクコクと頷いた。

 

「にしし……じゃあ、あたいと朝まで沢山にゃんにゃんしよ♡ 離しちゃイヤだよ?♡」

「離してくれないのはお燐ちゃんだろ……?」

「あたいはしつこいからね♡ 覚悟してね♡」

「おう」

 

 その後めちゃくちゃにゃんにゃんしたーー。




火焔猫燐編終わりです!

猫らしい性格にしようと思いましたが、擦り寄ってくれる猫ちゃんぽくしました!

お粗末様でした♪

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