紅魔館ーー
心地よい日差しが降り注ぐ昼下がり。
紅魔館の門前に三人の少女達が現れた。
「皆さん、ようこそおいでくださいました。レミリアお嬢様達が中庭でお待ちですよ」
「あんたが起きてるなんて珍しいわね〜」
「霊夢〜、そう言ってやるなよ♪ なぁ、アリス?」
「うふふ、そうよ。今の美鈴はだらしない姿は晒せないもの」
アリスに「ねぇ?」と振られた美鈴は顔を赤くして苦笑いを返した。
「ま、それもそうよね〜。だらしないと愛想尽かされちゃうもんね♪」
「相思相愛なんだしその辺は大丈夫だろ♪」
霊夢や魔理沙にニヤニヤ顔で言われると、
「はは、早くお嬢様達の所へ向かってくだしゃい!」
顔を耳まで赤くして言葉を噛みながら中へ入るよう促す美鈴だった。
そして霊夢達が「またね〜♪」と手を振って中へ入ると、丁度一人の男に出くわした。
「あら、あんた何持ってるの?」
「どうせ美鈴へのお茶とかだろ?」
「これからも仲良くね♪」
「どうも♪」
この男は数ヶ月前からレミリアに召し抱えられた庭師の青年だった。元は人里でそこそこ腕の立つ庭師だった青年は、レミリアに半ば強引に自分の元へ召し抱えられた。
レミリアはとある幽霊に自分が従えている半人半霊の庭師を自慢されたので、自分の所にも欲しいと思って彼に目を付けたのだ。
そしてこの男は今では紅魔館の庭師で美鈴の彼氏……つまり恋人でもあるのだ。庭の手入れが終わると特にやることが無いため、暇な時は美鈴が寝ないように話し相手になっていたら……と言った感じだ。
男は霊夢達と別れると、すぐに美鈴の元へやって来た。
美鈴はまだ顔が赤かったため、男に「どうしたの?」と訊かれるとあたふたとした。そんな美鈴の反応に男が「可愛い」と言うと、美鈴は「はぅ〜」と言って余計に顔を赤くして俯いてしまった。
「うわっ、あっま」
「おとめーりんってやつだな♪」
「あそこだけ春告妖精が来そうね」
そんな二人の様子を見ながら、霊夢達はレミリア達が待つ中庭のパーゴラへ向かった。
「美鈴、大丈夫?」
「はい……」
「無理はしないでね?」
彼はそう言って美鈴の頭を優しく撫でた。すると美鈴は猫のように「みゅ〜♡」と声をもらしながら気持ち良さそうに目を細めた。
「はい、美鈴。烏龍茶で良かったよね?」
「はい♪ ありがとうございます♡」
冷たい烏龍茶が入ったコップを満面の笑みで受け取った美鈴は早速一口含んだ。
「あれ?」
一口飲んだ美鈴は思わず小首を傾げた。何故ならいつもの烏龍茶と少しだけ違ったから。
(美味しいけど咲夜さんが淹れてくれるお茶と違うなぁ……咲夜さんが淹れるヤツはいつも後味の苦味がガツンと来るのに……)
もう一口、また一口と烏龍茶を飲む美鈴。すると彼は頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「ご、ごめん。不味かったかな?」
その言葉に美鈴は目をカッと見開いた。
「こ、これ、あなたが?」
ワナワナしながら訊ねると、男ははにかみながらコクリと頷いた。
「ほら、今日はお客様がお越しになるってことで咲夜さんも忙しかったみたいで、代わりに淹れてくれって言われたんだ……」
「そ、そそそ、そうでしか♡」
(咲夜さんに後でお礼言わなきゃ!)
嬉し過ぎて言葉を噛む美鈴。
「咲夜さんみたいに上手に淹れられなくてごめんね。今お水か何かーー」
「ま、待ってくだしゃい!」
そう言って美鈴は彼の袖をキュッと掴んだ。
「?」
「お、おかおか……」
「丘?」
「お代わり……欲しいでしゅ♡」
「美鈴……勿論だよ♪」
「〜♡」
美鈴の言葉に笑顔で彼が返すと、美鈴は嬉しそうに頷くのだった。
パーゴラーー
そんな二人の様子を少し離れた場所から眺める一団がいた。
「うわぁ〜、美鈴嬉しそ〜♪」
「乙女ですね〜♪ 恋愛小説みたいです♪」
「フラン、そんなに見てちゃ駄目よ……ふふ」
「小悪魔もそこら辺になさい」
レミリア達だった。パーゴラからは場所的に二人の様子が丸見えなので、みんなは二人の様子をお茶菓子代わりに楽しんでいた。
「霊夢、アリス、大丈夫?」
「お願い、咲夜……くそにっがい抹茶を淹れて……うっぷ」
「甘くて胸焼けしそう……うっ」
「あはは、私はもう慣れたぜ♪」
美鈴達の甘々シーンを初めて見た霊夢とアリスは口の中がジャリジャリしていた。咲夜が透かさず苦いお茶を淹れると、二人はそれを一気に飲み干すのだった。
すると、
「しっかし、レミリアにしては珍しいよな〜」
魔理沙が咲夜の用意したクッキーを食べながらレミリアにそう言ってきたのだ。
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。お前って紅魔館の奴らのことは過保護なくらいなのに、美鈴とあいつが付き合うのをよく容認したな〜って」
するとレミリアは小さく笑って紅茶を一口含んでから、魔理沙に返した。
「確かにここにいるみんなは私の家族。誰に過保護と言われようと私なりの考えで全員を守るわ。でも縛り付けることだけはもうしたくないの……ね?」
そう言うとレミリアは微笑んでフランの頭を優しく撫でた。フランもそれに対して「えへへ♪」と笑顔を返す。
「それにあれだけお互いを愛し合っているのなら、第三者の私が出る幕は無いわ。あの男が私のおめがねにかなって、美鈴とああなる運命だった……ならその運命を見届けるのがあの二人の主である私の使命、よ♪」
そう言ってレミリアは軽くウィンクをするのだった。
「ご立派でございます、お嬢様」
「咲夜、鼻血出てるけど?」
「はっ、し、失礼しました!」
パチュリーに指摘された咲夜はすぐに止血した。
「でもまあ確かに咲夜が言う通り、立派な考えだと思うわよ、私は。前のあなただったら運命を操ってそうだし……」
「運命ってのは良く分からないけど、妖怪と人間がああしてるなんて、まさに今の幻想郷ならではの光景よね♪」
霊夢とアリスがレミリアの言葉に対してそう返すと、レミリアは「ふふん♪」と胸を張るのだった。
「あ、またちゅーしてる〜♪」
「ふぉ〜!」
「しかも長いな〜♪」
一方のフラン、小悪魔、魔理沙は二人の一挙手一投足に野次馬根性をまる出しにするのだった。
「これも見守る必要があるじゃないの、レミィ?」
「こいうことは敢えて本人達が責任を持つべきだと思うわ……」
パチュリーの言葉にレミリアは苦笑いを浮かべて、また優雅に紅茶を飲むだった。
門前ーー
みんなに見られているとも知らず、美鈴達は二人だけの世界に浸っていた。
「ちゅっ、ちゅ〜……んはぁ……ぁむ、っ……♡」
美鈴は恥ずかしさも忘れ、貪るように彼の唇を味わっている。
「んはぁ……美鈴はキスを知ってからキス魔になったね」
やっと唇が離れ、彼が若干息を荒くして言うと、美鈴は自分の唇を舌でなぞって笑顔を見せた。
「えへっ♡ 私をキス魔にした悪魔さんは誰ですか?♡」
「そ、それは……」
美鈴の言葉に彼は『自分です』言うように目を逸らすと美鈴は、
「んふふ♡ ちゃ〜んと責任を取ってくださいね♡」
そう言ってまた彼の唇に自らの唇を重ねるのだった。
それからまた暫く、二人のお互いの唇が離れると、美鈴は「ん〜♡」と声をもらして彼に抱きつくのだった。
最初の恥ずかしさは何処へやら。美鈴はもう何も気にすることなく愛しの彼へ甘えるのだった。
「は〜、幸せです♡」
「なら良かったよ」
抱きしめ合った状態で言葉を交し、二人はお互い相手の腰に手を回したままの状態で顔を合わせ、互いのでこをコツンと合わせた。
「私のこと、好きですか?♡」
「うん、好きだよ♪」
「大好きですか?♡」
「勿論、大好きだよ♪」
「きゃ〜♡ 私も大好きです♡ ん〜、ちゅっ♡」
美鈴は何度も何度も彼の頬へついばむようなキスをした。彼はハニカミながらも美鈴の頭を優しく撫で、彼からも美鈴の頬へ柔らかいキスを返した。
「んっ♡ やん♡」
「嫌だった?」
「今のは言葉の綾です……嫌じゃないですから、やめないでくださいよぅ♡」
美鈴は抗議の意味で彼の頬に自分の頬を擦り合わせる。彼は笑顔で「ごめんごめん」と謝ると、すぐにまた美鈴の頬へ幾つものキスをした。
「んっ♡ あっ♡ はんっ♡」
「美鈴、ちょっと声抑えて……誤解されるから」
「で、でも、気持ち良くて……あんっ♡」
「美鈴……」
「あ、やめないでください!♡」
「で、でも、そんな声を聞かされ続けたらこっちがもたないよ……」
「イジワル〜♡」
その言葉が彼を突き動かした。
美鈴をその場で壁ドンした彼は美鈴にこれまでとはまったく違う濃厚で熱いキスをし、そのまま……ーー
勿論その後、咲夜が止めに入ったので見せられない展開にはならなかった。
そして二人は揃ってレミリアと咲夜からお説教を受け、霊夢やアリスは耐え切れずに盛大に砂糖を吐き、残りのパチュリー達は美鈴達や霊夢達を笑って眺め、優雅なお茶会はたちまち賑やかになるのだったーー。
紅美鈴編終わりです!
お粗末様でした♪