東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は早苗。


早苗の恋華想

 

 妖怪の山ーー

 

「想い風〜♪ 君に届いていて〜♪」

 

 妖怪の山に社を置く守矢神社。

 その住居スペースの台所では、守矢神社の風祝(かぜはふり)で神奈子の巫女にして諏訪子の遠い子孫である早苗が上機嫌に歌を歌いながら夕飯の準備をしていた。

 早苗の背後にあるテーブルには既に出来上がった料理が湯気と共に美味しそうな匂いを漂わせていた。

 

 するとそこへコソコソと諏訪子がやってきた。

 諏訪子は元々小さい体を更に縮めテーブルへ忍び寄ると、持っている爪楊枝で早苗の作った鶏の唐揚げに手を伸ばした。

 

「一個だけですよ、諏訪子様」

 

 早苗が諏訪子の気を感じて振り向かずにそう告げると、諏訪子の方は「ありゃ、バレた」と返した。そしてちゃっかりと唐揚げは二個刺して。

 

「私も成長してますからね♪ これくらいは分かります♪」

「胸だけじゃなくて、早苗自身も立派になったね〜。いいことだ〜」

「どういう意味ですか?」

「あ、ごめんごめん。胸は元々立派だったね」

「終いには怒りますよ?」

 

 早苗がそう言うと、奥から神奈子がやってきて「そう怒るな、早苗よ」と声をかけた。

 

「諏訪子はふざけて言っているだけで、本心からではない。そう簡単に心を乱すものではないぞ」

「そ、それはそうですけど……」

「それにな、諏訪子は最近早苗が他のことにご執心だから構ってもらいたいのさ」

 

 神奈子の言葉に諏訪子は唐揚げを頬張りながら「そうだそうだ〜」と言った。

 

「べ、別に執着してる訳じゃないですよ……」

 

 早苗はそう返しつつ、焼き上がったハンバーグをお皿に盛る。しかしその顔は少し赤く染まっていた。

 

「そうは言うけどさ〜。これだってあの人間のために作った料理でしょ?」

「そ、それはそうですけどぉ……い、いいじゃないですか、ダーリンったら私が料理持ってかないと適当な物で済ましちゃうんですもん!」

「という大義名分で今日も押しかけるのね。流石早苗汚い」

「諏訪子様のお夕飯のおかずは煮干だけにしますね」

 

 早苗に反撃された諏訪子はその言葉を聞いて急いで謝るのだった。

 

 神奈子や諏訪子が言うように、早苗には心から慕っている恋人がいる。

 その男は人里で酒造業を営む若き青年で、守矢神社の祭時にはそこの酒を使っている。

 異変を起こし、なかなか信仰が集まらない中でこの青年は守矢を信仰。早苗は巫女としてしょっちゅう顔を合わせている内に青年の人柄に惹かれ、数ヶ月の恋煩いを経て告白し、神奈子や諏訪子に許しを得て恋仲へとなった。

 

 そして諏訪子が言ったように、早苗は毎日青年の元へ手料理を持っていくのだ。

 これは付き合う前からのことで、青年のずぼらな性格に見かねた早苗が自主的に行ってあげていたことなのだが、今では早苗が彼に会う口実にしているのは言うまでもない。更にはそのまま朝まで帰って来ない日も多い。

 しかし神奈子や諏訪子は「愛する者が出来ればこうなる」と寛大な心で受け入れている。

 

「まぁ押しかけ女房と言われても仕方ないくらいの頻度で朝帰りだからな。諏訪子の言うことももっともだ」

 

 神奈子にサラリと言われた早苗は思わず「うぐっ」と狼狽えた声をあげた。

 

「まぁ、朝チュンは構わないけどさ〜。早苗は守矢の風祝で神奈子の巫女なんだから、嫁にはやれないからね。結婚するなら婿取りだから」

「わ、私達、まだそこまで考えてませんよ!」

()()ならその内ということだろ? 覚悟は早い内にしておいた方がいい」

「うぅ〜……」

「婿って言っても別に宮司になれとは言わないよ。でも早苗を嫁入りさせるのは出来ないって話」

「は、はひ……」

「あやつも人間にしてはそこそこ我々に信仰をおく者だ。そこら辺さえ守れば私達は何も言わんよ」

 

 二人の言葉に居ても立ってもいられなくなった早苗は、強引に「わ、分かりましたから!」と二人の話を終わらせ、手早く料理を包んで「行ってきます!」と叫ぶように言って逃げるようにこの場を後にした。

 

「ちょっと色々と突っ込んだこと言い過ぎちゃったかな?」

「そうでもないだろ。いずれは言わなければいけないことなのだから」

「それもそっか♪ それじゃあ早苗も行っちゃったし、私達もご飯食べよ♪」

 

 諏訪子が笑顔でそう言うと神奈子も笑顔で頷き、二人は早苗が自分達のために置いていった料理を茶の間へ運ぶのだった。

 

 

 人里ーー

 

 青年の住む借家の玄関前に着いた早苗は、すぐに入ることなく何やら悶々としていた。

 

(神奈子様も諏訪子様も話が大袈裟なんですから……ダーリンと私が、けけけ、結婚だなんて)

 

 先程、神奈子達に言われたことが頭から離れないのである。

 

(そ、そりゃあ、確かにいずれは……ゆくゆくは添い遂げたいと思ってるけど、今はまだ恋人以上夫婦未満の期間を楽しみたいというか)

 

 今の早苗は人の家の玄関前でニヤニヤモジモジしながらいるのでとても怪しい。

 

(白無垢よりウェディングドレス着たいって言ったら怒られるかな〜……あ〜、でもチャペルなんてないから無理かな〜?)

 

『早苗の白無垢姿、素敵だね。惚れ直したよ』

『そんな♡ ダーリンの正礼装も素敵よ♡』

『早苗の方が』

『ダーリンの方が♡』

 

「な〜んちゃってな〜んちゃって〜!♡」

 

 早苗は一人コントをし、一人ツッコミをし、人の家の前なのに「きゃ〜きゃ〜♡」と一人で騒いでいた。

 

「早苗?」

 

 玄関から顔を出して青年に声をかけられた。自分の家の前が騒がしいなら見に来て当然である。

 早苗は顔を真っ赤にしながら「わ、忘れて!」と言いながら片手で顔を隠した。

 青年は小首を傾げながらもコクリと小さく頷くと、早苗に「上がったら?」と声をかけ、耳まで真っ赤になった早苗を招き入れるのだった。

 

「ははは、そんなことを考えて一人であんなに盛り上がってたのか」

「うぅ〜、笑うことないでしょ……もう」

 

 早苗から一人コントをしていた理由を聞いた青年は早苗に悪いと思いつつも、早苗の可愛らしい理由に笑い声をあげていた。

 

「悪い悪い。でも……ふふ、まさかそんな話をあのお二人からされて一人でああもなってる早苗が可愛らしくてな♪」

「そんな言い方、ずるいよぅ♡」

 

 青年からの不意打ちに早苗の鼓動は喜びでトクンと跳ねた。

 

「まぁでも、あのお二人がそこまで考えてくれてるのもありがたい話だけどな。こうして早苗と付き合ってること事態が奇跡だと思ってるのに」

「奇跡は起こすものだからね! ダーリンと結ばれたいと思った時から、私はダーリンと結ばれるために頑張ったんだから♡」

「流石巫女さんは言うことがすごいな〜」

 

 感心した青年に早苗は「えっへん♡」と言って胸を張った。

 それから二人は早苗が作ってきた手料理を温かいうちに食べつつ、結婚の話題が尽きなかった。

 それは食べ終わって二人が肩寄せ合って食休みをしてる今まで続いた。

 

「なぁ、早苗」

「な〜に、ダーリン?♡」

「守矢神社って敷地広かったよな」

「え、うん、それなりに広いけど……」

「なら、婿入りしたらそこで新しく酒造業しようかな。俺は」

 

 青年の言葉に早苗は思わず「へ?」と素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「俺、次男だしさ。家元は兄貴が継いでるし、婿入りを機会に自分の酒を作ろうかなって」

「そんなに簡単に決められる話なの?」

「そりゃあ最初は色々と揃えなきゃいけない。そもそも八坂様や洩矢様に許可貰わなきゃ出来ないけどさ」

「無理に私の所に来なくていいんだよ? 妖怪も沢山いるし……」

「危ない妖怪なんていないだろ。今の幻想郷には」

 

 青年はそう言うが早苗はまだ「でも……」と遠慮がち。

 そんな早苗を見た青年は、

 

「…………結婚しても離れて暮らすなんてやなんだよ、俺は」

 

 と少し強引に言葉を発した。

 そう言った青年の頬はとても紅潮していて、いつもの涼し気な顔は何処かにいっていた。

 それを見た早苗は辛抱出来ずに青年を押し倒した。

 

「どうした、早苗?」

「ダーリンが私を本気にさせること言うから♡」

「今まで本気じゃなかったのか?」

「今のは言葉の綾というか……結婚を本気で考えようって意味の本気♡」

「早苗……」

「うふふ、二人で幸せになろうね♡ ちゅっ♡」

 

 早苗に軽く口づけされた青年は唇を離してから、はにかんで「おう」と返した。

 

「じゃあ先ずは、宝物から作っちゃおうか♡」

「宝物?」

「うん♡ こ・だ・か・ら♡」

「!!!?」

「頑張ろうね、あ・な・た♡」

「なら目指すのは上が女の子、下が男の子の一姫二太郎ってことだな……」

「え、何言ってるの野球チームが出来るくらいだよ?♡」

「野球チームって外の世界のやつだよな? でもそれって確か九人じゃ……」

「うん♡ あ、でも控えの投手も合わせて十人かな?♡」

「おぉう……」

「この幻想郷では常識に囚われてはいけないの〜♡」

 

 この日の弾幕ごっこ(意味深)で早苗はずっと青年をふわとろに包み込み、朝まで抜くことを許さなかったそうなーー。




東風谷早苗編終わりです!

早苗は昼はおしとやか、夜はガッツリにしました!
因みに一姫二太郎は一番目が女の子、二番目が男の子の姉弟のことで、女男男の三人姉弟は間違いです。

というどうでもいいことを書きつつ、此度もお粗末様でした!

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