霧の湖ーー
俺は大きなバスケットを持って霧の湖へやってきた。
今日は昼間でも霧が濃くなく、絶好のピクニック日和なのだ。
そして、
「お〜い!」
湖の方から複数の影が現れ、真っ直ぐに俺の方へ向かってくる。
それを見ると俺は思わず顔が綻んでしまう。
何故なら、
「兄ちゃ〜ん!♡」
「お〜、チルノ♪」
胸に飛び込んでくる愛しい恋人であるチルノに会えるからだ。
「チルノ〜、待ってよ〜」
「チルノちゃ〜ん」
その後からフランちゃんと大妖精の大ちゃんが現れた。フランちゃんは日傘を持っているせいで全速力が出せないのだろう。
「こんにちは♪」
そして最後に湖の上を軽快に走ってきた美鈴さんが荷物を持って到着した。
今日はみんなでピクニックをする約束で今に至る。
みんなが俺とチルノの側にやってくると、何やらニヤニヤされた。
俺が首を傾げていると、
「兄ちゃん♡ 兄ちゃん♡」
チルノが俺の胸に顔を埋めて氷の羽をパタつかせていたのだ。
「チルノちゃんは相変わらずお兄さんのことが好きだね〜♪」
「熱くて溶けないか心配になるね〜♪」
「傍から見たら犯罪臭が半端ないですけどね」
「どうして犯罪なの?」
美鈴さんの言葉にチルノが反応して質問すると美鈴さんは笑顔で答えた。
「それが大人のルールなの」
「あたいが最強でもダメなの? あたいは兄ちゃんと付き合ってちゃダメなの?」
「え……あ、あ〜……」
俺の右腕をギュッと抱きしめて「そんなのヤダ!」と言うように美鈴さんを睨むチルノに、美鈴さんはどうしようかとあたふたしている。
「あたいレミリアやパチュリーから教えてもらったぞ! 好きって気持ちに歳とか見た目とか関係ないって! それは周りが勝手に決めることだって!」
「ま、ま〜、確かにそういう意見もあることにはあるけど〜……」
「美鈴あたふたしてるね〜♪」
「チルノちゃんはお兄さんのことになると必死だからね……」
美鈴さんもどうしたらいいのか分からず、俺の方へ目配せをしてきた。『助けての合図』だ。俺は小さく笑うと、まだ美鈴さんに力説するチルノの頭にポンッと手を置いた。
「どうしたの、兄ちゃん?」
「俺達は俺達でこれまで通りでいれば大丈夫だよ。好き同士なんだからな」
「兄ちゃん……うん♡ あたいは兄ちゃんが大好きで、兄ちゃんもあたいが大好き!♡ 何も問題ないよね!♡」
そう言ってチルノはまた俺の胸に顔をグリグリと埋めた。そんなチルノが可愛くて、俺は目一杯チルノの頭を撫でてやると、チルノは「兄ちゃ〜ん♡」と甘えた声を出した。
そんな声を聞いて俺のエクステンドがアップしたのは言うまでもない。
一方の美鈴さんは「助かった〜」と大きく息を吐き、フランちゃんと大ちゃんはチルノを微笑ましく眺めていた。
それから俺達は湖からほんの少しだけ離れた場所にレジャーシートを敷いた。この場所は森のすぐ側でもあるから、ちゃんとフランちゃんに木陰が当たるように配慮している。
それでも美鈴さんは念には念をと、フランちゃんのために持ってきた特大パラソルも立てた。
「よぉ〜し、遊ぶぞ〜!」
「チルノ、ちょっと待ってよ」
「遊ぶ前にお昼御飯でしょ?」
「あ、そっかそっか♪ 忘れてた♪」
チルノはそう言って「てへへ」と笑ってペロッと舌を見せた。
そんなことをしている内に俺と美鈴さんは昼食の用意を済ませ、チルノ達を呼んだ。
「準備が出来たぞ〜」
「みんな集まって〜♪」
するとみんなは『は〜い♪』と元気に返事をして満面の笑みで集まってきた。
今回、料理の方は俺が用意する番だった。おにぎりやサンドイッチ、レバニラ炒め、玉子焼き、アスパラベーコン巻き、ポテトサラダなどなど、つい気合を入れ過ぎてしまった。それでも咲夜さんの料理には負ける。
今回はフランちゃんも参加するため、フランちゃん専用の生レバーなどもちゃんと用意した。
「うわぁ〜、これお兄さんが作ったんだよね!? 咲夜みたい!」
「フラン様、私もたまにお料理をお出ししているんですけど?」
「美鈴はカップ麺だよね♪」
「違いますよ! ついこの間も酢豚とか作って差し上げたじゃないですか!」
「私、酢豚にパイナップルって許せないの」
「あぁぁんまりだぁぁっ!」
「わ、私はパイナップル入りも好きですよ」
泣きわめく美鈴さんに大ちゃんが優しくフォローをすると、美鈴さんはぱぁっと顔を明るくさせた。しかしすぐさまフランちゃんに「次からはパイナップル抜きで」と言われて、また泣いてしまった。
そんな美鈴さんを可笑しそうに笑うチルノとフランちゃんだったが、大ちゃんだけは一生懸命フォローしていた。
気を取り直してみんなで手を合わせ『頂きます』をすると、みんな俺の料理に笑みをこぼしてくれた。
「はぐはぐ……生レバー美味しい♪」
「このカツサンド完璧だよ!」
「おにぎりも美味しいです♪」
「へへん、あたいの兄ちゃんなんだから何作ったって最強に決まってるでしょ♡」
みんなの言葉にチルノはまるで自分が褒められているかのように胸を張っている。
「チルノは次、何食べたい?」
「玉子焼き♡」
「はいよ。ほら♪」
俺のあぐらを掻いた足の隙間に座るチルノの口元へ玉子焼きを持っていくと、チルノは「あ〜♡」と口を開けてパクンと一口に玉子焼きを頬張った。ハムスターみたいにほっぺを膨らましているチルノは、本当に愛らしくて俺のエクステンドは更に上昇する。
「相変わらず仲良しだね〜、私とお姉様みたい♪」
「フランちゃん達とチルノちゃん達では愛が少し違うけどね♪」
「にしてもチルノちゃんって羽たためたんだね〜。初めて知った……」
「兄ちゃんもあ〜ん♡」
「あ〜ん♪」
三人の視線を感じつつも、俺はチルノと幸せな昼食を過ごした。
それから食べ終わると、チルノ達は湖の側へ遊びに行った。
一方の俺と美鈴さんはチルノ達のはしゃぎ声を聞きながら後片付けをしていた。
「いやぁ、どれも美味しかった。ご馳走様でした♪」
「お粗末様でした。みんなに喜んでもらえて何よりだったよ」
「流石は人里で惣菜屋さんをやってるだけのことはあるね〜♪」
「あはは、まあ仕事と今回のはまた別だからな。愛情の入れようが違うよ♪」
そう言って俺は自分の二の腕をポンポンと叩くと、美鈴さんは「ご馳走様」と苦笑いを浮かべた。
「そういえばチルノちゃんから聞いたんだけど、お兄さんに算数を教わってから算数が少し分かってきたんだってね」
片付けを終えた俺と美鈴さんはレジャーシートに座り直し、湖の側で戯れるチルノ達を見守っていると、ふと美鈴さんがそう切り出してきた。
俺は内心ドキッとしたが、平静を装って返した。
「ま、まぁね……かけ算の五の段までは今のところ出来るかな……」
「ちゃんと出来るとキスのご褒美があるのなら、頑張って覚えるでしょ〜♪」
「…………」
美鈴さんはニヤニヤしながら言って俺の脇を肘で『このこの』っとつついてきた。
だってそうすると本当にちゃんと覚えるんだもん! 仕方ないじゃないか!
「それとテストで取った点数と同じ数だけキスしてあげるんだってね〜? 嬉しそうに自慢されちゃったんだよね〜、来る途中にさ〜♪」
「そ、そうすると次のテストも頑張るって言うから……俺としてもおねだりされるのは嫌じゃないし」
「あの文さんが今では熱愛報道記事も書かなくなったくらいだもんね〜♪」
「まぁでもあの報道のお陰で堂々としていられるようになったから、そこは感謝してるかな〜」
「ほうほう♪」
その後も俺は美鈴さんにチルノと何処までいったのかとか、モラルは守っているのかとか色々訊かれた。
「あ、チルノ〜。美鈴がお兄さんと仲良くしてるよ〜?」
「あ〜! ホントだ〜! 美鈴! 兄ちゃんはあたいのだぞ〜!」
休憩にやってきたフランちゃんの呼び掛けで、チルノは素早く俺と美鈴さんの間に割って入った。
「兄ちゃんはあたいのだぞ! いくら友達の美鈴でも渡さないからな!」
そう言って俺にしがみつくチルノ。
「だ、大丈夫だって! ちゃんと分かってるから!」
「美鈴は確かに優しくて美人だけど、兄ちゃんはあたいのことが好きなんだからな!」
「わ、分かったってば〜!」
「もぉ、フランちゃんったら……」
「だって美鈴があたふたしてるとこ面白いんだもん♪」
すると、
「いいか、よく見てるんだぞ!?」
チルノが俺の顔をグイッと自分の方に向けた。
「ん♡」
「っ!?」
チルノに思いっ切りみんなの前で唇を奪われてしまった。
「うわぁ」
「これがキスか〜♪」
「あわわわ」
「ちゅっ、ん、ん〜……んはぁ♡ どうだ、これで兄ちゃんがあたいのだって分かったでしょ?♡」
キスをし終えたチルノが美鈴さんにそう言うと美鈴さんは顔を真っ赤にして困ったような笑顔で頷いた。
その一方でフランちゃんは楽し気にクスクスと笑い、大ちゃんは俯いていた。
「チルノ!」
流石にこれは恥ずかしいと言うとした俺だったが、
「だ〜い好きだよ、兄ちゃん♡」
眩し過ぎる愛らしい笑顔でそう言われた俺は、ただ頷くことしか出来なかったーー。
チルノ編終わりです!
チルノは真っ直ぐに相手を思う純粋な恋愛モノにしました!
チルノも妖精だからセーフということでお願い致します!
ではお粗末様でした♪