妖怪の山ーー
穏やかな日和を迎えた幻想郷。
本日休暇の椛は、穏やかな休日の昼間を玄武の沢で過ごしていた。
その理由は沢にいるにとりと、趣味の将棋を指す約束を前もってしていたから。
「いやぁ、椛とこうして将棋を指すのは久々だね〜」
「そうかな? 私としてはそんなに経っていないような気がするけど?」
「そりゃあ、椛は彼氏と毎日キャッキャッうふふしてるからね〜。一人者とは時の感じ方が違うっしょ」
「な、何を言ってるの、そんなことないもん!」
椛はそう言うが明らかに一手を間違えたため、かなり動揺している。
にとりが言うように椛には恋人がいる。
椛の恋人は妖怪の山に住む同じ天狗の青年。
同じ天狗と言っても、青年は木の葉天狗で椛達、白狼天狗の一つ上の位だ。
木の葉天狗は
椛の部隊の隊長でもあるその木の葉天狗は、椛とは正反対の性格で飄々としている。良く言えば融通が利く天狗だ。
そのため椛と青年は仕事の件で意見が食い違うことが多かった。
しかしその都度、椛の意見に嫌な顔せずしっかりと理由と目的を返す木の葉天狗に椛は惹かれ、それは恋へと変わっていった。
そんな時、間欠泉や怨霊が噴き出してくるという異変が発生。その異変解決後の宴の席で酔っ払った椛は文に木の葉天狗に対する想いを告白してしまい、そのままゴシップ記事にされてしまった。
しかしそれを読んだ木の葉天狗本人は椛に自分の想いを告白。両想いだった二人は晴れて恋仲となるのだった。
「そうかな〜。今日だって本当なら彼氏の所に行きたかったんじゃないの〜?」
「あの方は今日もお仕事なの。私のワガママでお仕事の邪魔したくないもん」
(行きたかったってのは否定しないんだね〜)
「そ、そもそも、仕事の後とかに会える訳だし、私がちょっと我慢すればいいだけだもん」
椛はそう言うものの、表情はしょんぼり顔で尻尾も垂れてしまっている。
そんな椛ににとりは「まぁ将棋指しながら気長に待とうや♪」と王手をかけるのだった。
それから椛は気を引き締め直して巻き返しを図るが、にとりはそれをさせず、昼飯時になる頃には椛の負けで対局を終えるのだった。
「は〜、集中力を欠いたからその時点で負けてた〜」
「あはは♪ 椛の弱点は彼氏の話題だね♪」
にとりがそう言ってケラケラと笑うと、椛は悔しそうに「がるるる〜……」と唸った。
「さてと、もうお昼時だけど椛はこの後どうするの?」
「え、もうそんな時間!?」
驚いて訊き返す椛ににとりは「うん」と頷くと、
「大変! お昼御飯一緒に食べる約束してたんだった! 急いで待ち合わせの所に行かなきゃ!」
と頭を抱えて叫んだ椛は、鴉天狗顔負けのスピードでその場を後にした。
そして椛が座っていた場所には「午後になったらまたここで会おうね」と、椛からの書き置きの紙が置かれていた。
「相変わらずあっちっちだな〜。火傷しちゃうよ」
にとりは椛の書き置きを読みながらそうつぶやくと、沢で冷やしておいたキュウリを水から上げ、パリッと小気味よい音を立ててかぶりつき、椛の帰りのまったりと待つのだった。
ーー
待ち合わせ場所は椛が普段持ち場としている滝の所である。
椛がその場へ着くと、そこには代わりの白狼天狗ではなく、立派な茶色の翼を持った天狗が岩に寝そべっていた。
「お、お待たせしました〜!」
椛はそう言って急いで木の葉天狗の元へ近寄ると、木の葉天狗は全く微動だにせず、椛に背中を向けたままだった。
「お、遅くなったのは申し訳ありませんが、無視はしないでくださいよぅ……」
申し訳なさと無視された悲しみが半々といった所の椛。それでも木の葉天狗は黙っていた。
いつもなら優しく声をかけてくれるのにと思った椛は、ソッと彼の元へと近寄り、顔色を伺った。
もし本当に怒っているなら目を見て謝りたかったからだ。
「…………」
椛は言葉を失った。
何故なら木の葉天狗は怒っていたのではなく、居眠りしていたからだ。
(最近お疲れ気味でしたものね……)
他の部隊長のことは知らないなが、彼もまた忙しい身。自分達白狼天狗とはまた違う責任を担っている部隊長だからこそ、その心労は大きい。
椛はソッと彼の頭を自分の膝の上へ移し、彼の頭を優しく撫でながら彼の規則正しい寝息を聞きつつ、寝顔を見つめた。
(いつも飄々としてるのに、寝顔はとても可愛いんだよね〜……えへへ♡)
そんなことを思いながらはにかんでいると、
「ん〜……もみ、じ……」
木の葉天狗が寝言を発した。
その寝言に椛は思わず胸がときめき、無意識に尻尾をブンブン振っていた。
(あ〜、もう我慢出来ない♡)
そう思った椛は次の瞬間、彼の唇に自身の唇を軽く重ねた。
「えへへ……しちゃった♡」
自分からしたのに少し恥ずかしそうに言葉をもらした椛。
(ま、まだ起きないよね?♡)
すると椛はあと一回、もう一回、と言うように彼の唇をついばんでいった。
「ちゅっ♡ はむっ♡ んんっ♡ はふ♡」
「…………随分と積極的なんだな、椛」
「わふっ!?」
ふと目を覚ました木の葉天狗の言葉に椛はドキッと胸が飛び跳ねた。
「あ、あぁ……うぅ〜」
「あれ、もう終いか?」
「い、いつから起きておられたのですか?」
「椛が膝枕をしてくれた辺りから」
ニヤニヤと悪戯っ子のような笑みで答える木の葉天狗に、椛はボンッと顔を赤くした。
「膝枕を堪能したら声をかけようとしたんだがな〜。まさか唇を奪われるとは思わなんだ」
「ご、ごめんなさ〜い……」
すると彼は「よっ」と起き上がり、椛と向かい合うと椛の頬を優しく撫でた。
「?」
「驚きはしたが、謝る必要はないさ。恋人の可愛い衝動だからな」
「はぅ〜♡」
「てな訳で、今度はこっちからな?」
「はい♡ ん……♡」
椛は素直に頷くと、目を閉じて、彼へ唇を差し出した。
木の葉天狗は「好きだぞ、椛」と言ってから、すぐに自分の唇を椛の唇に重ねた。
唇が重なり合うと椛は自然と口を開き、彼の舌を自身の口の中へと誘った。
彼の舌がスルリと入ると、椛はハムハムと甘噛みした後、ペロペロと優しく愛撫した。
互いの吐息と舌が絡まる音を聞きながら、短くも長い甘い時が流れた。
「んはぁ……はぁはぁ♡」
「はぁはぁ、随分と積極的なんだな、今日は?」
「はい……どういう訳か、あなたの匂いを嗅ぐと体が火照ってきてしまって♡」
「大分蕩けた顔をしてるしな……熱でもあるんじゃ?」
心配になった木の葉天狗が椛の額と自身の額をコツンと合わせるが、次の瞬間には椛がまた唇を重ねてきた。
「もみっ……じ、んんっ!」
「んっ、ちゅっ♡ んはぁ、もっろ♡ はむっ♡ ちゅっ♡」
完全に歯止めが利かない椛は木の葉天狗に覆いかぶさるように、彼を押し倒した。
更に椛は腰をクイクイッと木の葉天狗の腰に押し付けてくる。
「……お前、もしかしてあの時期がきたのか?」
「かもしれません♡」
「かもしれませんというか、そうだろ……」
「うぅ〜♡」
椛は申し訳なさそうにしながらも本能に抗えず、そのまま木の葉天狗に覆いかぶさったまま、艶めいた吐息をもらして身悶えている。
「…………ここじゃ、誰かに見つかるから場所を変えるぞ」
「シてくれるんですか?♡」
「恋人に求められたら、応えるのが男ってもんだろ?」
「えへへ……嬉しいです♡」
木の葉天狗は起き上がると、椛を優しくお姫様抱っこし、そのまま山の木々の中へと姿を消すのだった。
そしてーー
「午後に来るって割には、来たのは昼下がりだね〜。椛の午後は遅いんだね〜」
「ご、ごめん……」
「別に謝る必要ないよ。恋仲の男女がお楽しみだった訳だし? あっ、あとさ、内容は聞かないけど終わったなら口の周りちゃんと拭きなよ。付いてるよ?」
「あ……ペロッ♡」
(舐め取っちゃうんだ〜)
お楽しみ後の椛は顔を赤くさせながらも、艶々していたとかーー。
犬走椛編終わりです!
ちょっちえっちぃ感じになりましたがご了承を!
ではお粗末様でした☆