東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はにとり。


にとりの恋華想

 

 妖怪の山ーー

 

 シトシトと雨が振り、余計に寒い幻想郷。

 そんな妖怪の山の一際大きな杉の木の下に、一人の若い男の鬼がポツンと立ち、誰かを待っているようだった。

 この鬼の見た目は若いがこれでも軽く千年は生きている。

 その証拠に額から生えた立派な銀色の角は真っ直ぐに、そして雄々しく存在感を放っている。

 この銀色の角が特徴的なのでこの鬼はみんなから「銀」と呼ばれている。

 

 殆どの鬼は例外を除いて地下に移り住んでいるが、銀は山にいる頃から人里に度々出没しては人々が困っていることを解決したり、相談に乗ったりしていたため、古くから人々と交流があるため例外的に地上(人里の外れ)に住んでいる鬼である。

 そんな銀が何故わざわざ雨の中、山まで来て待ち合わせをしているのかというと、

 

「銀ちゃ〜ん♡」

 

 この河城にとりと会う約束をしていたからである。

 

 どうして銀とにとりが会う約束をしているのかというと、二人が前から恋仲だったからだ。

 まだ銀が妖怪の山にいた頃、強大な力を持つ鬼に誰もが恐れる中、銀だけはひっそりと暮らし、宴会などでは常に立場の弱い者の側に立っていた。

 にとりも銀に何度も助けてもらい、人見知りな自分にも優しく接してくれる銀に惹かれ、何年もの恋煩いを経て思い切って告白して恋仲となった。

 そしてその告白をしたのがこの杉の木の下であり、二人の逢瀬や逢引はここが待ち合わせ場所なのだ。

 

 にとりが銀の隣に立つと、銀は黙ってにとりに手拭いを差し出した。

 

「ありがと♡ いやぁ、今日は降っちゃったね〜」

「そんな日もあるさ……ほら、ここもちゃんと拭け」

 

 銀はにとりの言葉に返事をしつつ、にとりが拭き取れていない所を優しく拭いてやった。

 

「んぁ♡ くすぐったい♡」

「河童とはいえ風邪なんか引いたらいけないからな。我慢しろ」

「ちょ、そ、そこは……んひぃ♡」

女子(おなご)は首周りを冷やしちゃいかんと聞いた」

「そ、それは人間であって、私ら妖怪じゃ……んにゃん♡」

「女子には変わりないだろう?」

「んんっ……そ、そうだけど〜、あっ♡」

 

 それからもにとりは銀に優しく拭かれ、その都度艶めかしい声をあげるのだった。

 やっと拭き終わった頃、にとりは両頬を紅潮させ肩で息をしていた。

 

「大丈夫か、にとり?」

「だ、大丈夫……」

「今度はもっと優しくする」

「い、いや、それ以上優しくされると私が色々とヤバイからダメだから」

 

 にとりの言葉に銀は「何故だ?」と首を傾げたが、にとりは「何でも!」と言って詳しくは話さなかった。

 

「それより今日はどうするんだ? ここに留まってても体を冷やしちまうが?」

「私は銀ちゃんが肩抱いてくれてるから温かいよ?♡」

「そうじゃなくてだな……」

「えへへ♡ ごめんごめん♡ それじゃ私の家に行こうか♡ この雨じゃ間欠泉センター前も閉まってる店が多そうだし」

 

 にとりがそう提案すると銀は「分かった」と頷いて、肩寄せあった相々傘で仲良くにとりの家へ向かった。

 

「ねぇねぇ♡」

 

 山道を歩いていると、ふとにとりが銀に声をかけた。

 

「ん?」

「好き♡」

「なんだ、ヤブから棒に?」

「だって私の方に傘を差してくれてるからさ♡ 河童だから濡れたっていいのに♡」

「当然のことをしてるだけだ」

「ふふ、そういう優しいとこ、大好き♡」

 

 そう言ってにとりは満面の笑みで銀の逞しい左腕に抱きつくと、銀は「おう」と小さな笑顔を見せた。

 

「私の家に着いたら何かしたいこととかある?」

「にとりと一緒にいたい」

「そ、そうじゃなくてさ〜……もっとこう、お茶飲みたいとか、きゅうり食べたいとかさ〜♡」

「にとりがしたいことなら何でもいい……俺はにとりと同じ時間を過ごせるならそれだけで幸せだ」

「ひゅいっ!?♡」

 

 真っ直ぐな眼差しで銀に言われたにとりは、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。それと同時に胸にキュンキュンと心地良い締付けを感じた。

 

「な、なんでそんな恥ずかしいセリフをサラッと……♡」

「俺は恥ずかしいセリフなんて言ってない。本当のことを言ってる」

「止めて! これ以上キュンキュンさせないで! 死んじゃう!」

「…………」

 

 にとりにそう言われた銀は『それは嫌だ』と目で訴えながらも、しっかりとにとりの言う通りに口をつぐんだ。

 

(はぁ〜……これじゃいくら残機があっても足りないよ〜)

 

 そう考えながらにとりはふぅと小さくため息を吐いて、火照った頬の熱を冷ました。

 すると、

 

「疲れたなら抱えるが?」

 

 と銀がにとりに訊いた。彼なりの心遣いなのだが、にとりは銀の優しさにまたも残機を減らすのだった。

 

 それからにとりはグレイズを繰り返しつつ、何とか銀の優しさという弾幕を掻い潜って家に着いた。

 着いたと言ってもにとりは赤面し過ぎて頭から湯気が出ている程だった。

 

「大丈夫か、にとり?」

「う、うん……平気平気……♡」

「具合が悪いならお暇するが?」

 

 するとにとりは「やだやだやだ〜!」と銀の胸にしがみついた。それを見た銀はにとりの頭を優しく撫でながら「分かった」と言って微笑んだ。

 

「とりあえずお茶淹れるね♡」

「おう」

 

 にとりは台所へとテコテコ歩いて行った。

 

「〜♡」

「…………」

 

 そんなにとりの後ろを銀はのそのそと追いかける。

 

「ん? どったの?」

「離れたくない」

「ひゅいっ!?♡」

 

 銀の素直な言葉ににとりはまたしても素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

(あ〜! 可愛いよ〜! キュンキュンするよ〜!)

 

 にとりは高鳴る鼓動と共に心の中でそう叫びつつ、銀には「そかそか〜♡」と蕩けた顔で返した。

 

「また見知らぬ発明品が増えているな……」

 

 にとりを後ろから抱きしめながら銀がつぶやくと、にとりは「そうでしょそうでしょ♪」と言って胸を張った。

 

「最近は更に絶好調だしね〜♪ これなんかお湯を保温出来る機械なんだよ♪」

 

 得気に可愛らしい河童型の置き物を撫でるにとり。

 その河童のお皿部分を押すと河童のくちばしが開いて、そこからお湯が出てくる代物だ。

 

「危険な発明はやってないだろうな?」

「や、やってないよ〜……銀ちゃんに怒られるもん」

「当たり前だ。にとりが危険な目に遭うかもしれないのに……」

 

 銀はそう言うとにとりを抱きしめている両手にまた少し力を込めた。それを感じたにとりは「うん♡」と嬉しそうに微笑んで頷いた。

 

 お茶を淹れた後、銀はいつものソファーに座ると左隣の位置をポンポンと叩いた。

 

「お茶置いたら座るから待ってよ〜♡」

「……すまん」

「謝んなくてもいいよ♡ そういうちょっと強引なとこも大好きだから♡」

「俺はにとりの全部が好きだ」

「……またそうやってぇ♡」

 

 にとりは銀の言葉にまたも胸をキュンキュンとさせられ、心地良い締付けを感じながら銀の左隣へぽふっと座り、銀の肩に頭を預けた。

 

「ぎ〜んちゃん♡」

「なんだ?」

「好き♡」

「俺もだ」

「大好き♡」

「俺もだ」

「愛してるぅ?♡」

「勿論」

 

 銀はそう言った後、にとりの頬を優しく撫でた。

 にとりは銀の優しい手つきに思わず「えへへ〜♡」と嬉しそうに笑い、銀の大きな手に頬擦りする。

 すると銀は不意ににとりの顎をクイッと上げ、にとりの顔を自分の方へ向けた。

 

 少し強引な顎クイににとりは自然に「あ♡」と声をもらすと、銀はにとりの目を真っ直ぐに見つめて「にとり……」と声をかけた。

 

「うん……いいよ♡ ん〜♡」

 

 にとりはそう言って目を閉じて銀へ自身の唇を差し出した。

 すると銀はにとりに自分の角が当たらないように顔を傾け、その差し出された唇に自身の唇をゆっくりと重ねた。

 重ねたら最後、二人は互いの唇を求め合い、舌を絡め、互いの温度を高めていった。

 

「ぎんちゃ……んんっ、ちゅっ♡ しゅき♡ んちゅっ♡ らいしゅき〜♡」

「ちゅっ……おれも、んっ……だぞ、にとり……ちゅっ……」

 

 口づけを交わしながら愛を囁き合う二人は、もうお茶どころではなく、そのままにとりは銀に押し倒される形でソファーへ寝転んだ。

 

「えへへ♡ 鬼に押し倒されちゃった♡」

「嫌ならしない……」

「こんなに好きな男から求められてるのに、断る理由(わけ)無いじゃん♡」

「じゃあ……」

「うん♡ 今日もいっぱいいっぱい愛して♡」

「にとり!」

「銀ちゃ〜ん♡」

 

 こうしてにとり達は夜遅くまでお互いの体温を感じ合い、また愛を育むのだったーー。




河城にとり編終わりです!
そして明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願い致します!
コツコツ書き溜めて元旦に間に合わせました!

にとりのお話はお互いにお互いのことで夢中といったバカップルにしました!

元旦早々、お粗末様でした〜♪

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