東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は静葉。


風神録
静葉の恋華想


 

 妖怪の山ーー

 

 秋が過ぎ、冬が訪れた幻想郷。

 山を流れる玄武の沢では、暇を持て余した秋姉妹が釣りをしながら時間を潰していた。

 

「あ〜、秋が終わって本当に最悪だわ〜♪ 秋以外の季節なんて滅んでしまえばいいのに〜♪」

「…………」

 

 毎度の文句を言う姉の静葉だが、今の静葉はめちゃくちゃにこやかでいつもの言葉に棘がない。

 そんな姉を妹である穣子は少々冷ややかな目で見ながらいた。

 

「ねぇ〜、穣子もそう思うでしょ〜?」

「ん〜、そっすね〜。姉さんは冬が来てもポカポカと温かそうで妬ましいけど〜」

 

 穣子が皮肉のつもりでそう言ったが、静葉の方は「そんなことないわよ〜♪」と全く皮肉と捉えていなかった。

 

 どうしていつも秋以外はネガティブな静葉がこんなにもうz……元気なのかというと、今の静葉には心を支えてくれる力強い存在がいるからなのだ。

 

 それは、

 

「静葉さ〜ん♪」

「あら〜、もう見つかっちゃった〜♡」

 

 この若い青年の存在である。

 この青年は若い外見をしているが、この妖怪の山に住む木魅(ことだま)……つまり木の精霊であり、この姿になるまでにざっと千年以上の時を経ている。

 静葉は紅葉の神であり、幻想郷中の紅葉を司っているため、こうした木魅との知り合いは多い。

 その中でも静葉が一番心の拠り所にしているこの木魅は、数ヶ月前から静葉の恋人としてお付き合いを始めた存在なのだ。

 静葉が今年の紅葉祈願で木魅の本体である老木に訪れた際、彼から『前から好きでした! 付き合ってください!』と告白された。

 元々静葉も木魅を好意的に思っていたこともあり、静葉は『私で良ければ♡』と告白を快諾。

 それからというもの、二人は互いに用事がない時は常に一緒にいるほどのバカップルとなり、静葉に至っては人里の若者達から縁結びの神として信仰され始めているほどなのだ。

 

 そして本日も互いに暇なのでこうしてイチャついているのである。

 

「静葉さん♪」

「なぁに?♡」

「呼んだだけです♪」

「もぉ〜、またなの〜?♡」

「嫌ですか?」

「嫌じゃないわよ〜♡」

「静葉さ〜ん」

「うふふ〜♡」

 

 それを隣で聞く他ない穣子は「名前を呼ぶだけでどうしてそこまで笑えるのか」と言いたいのをグッと堪え、釣り竿に無意識に力を入れていた。

 

 するとそこにフワッとした風が吹き込んできた。

 

「ども〜♪ 清く正しい射命丸文です♪」

 

 風が止むとそこには山の鴉天狗が現れた。

 

「あら、天狗じゃない。どうかしたの?」

 

 穣子が呆れた感じで文に訊ねると、文は「実はですね〜♪」と前置きしながら手帳を取り出した。

 

「今人里で縁結びの神として名高い静葉さんの特集記事を書こうと思いまして、こうして取材のご依頼に参った次第です♪」

「姉さんも私も秋の神なんだけど? というか、姉さんが縁結びの神様なら、その側にいる私にご縁がないのは縁結びの神様としてどうなのよ?」

「それはただ単に穣子さんにご縁が無いからでは?」

「姉さん、今日の夕飯は焼き鳥にしない?」

「お〜、怖い怖い♪ ここにも妬まシストが居られるとは驚きです♪」

 

 文の発言に穣子は思わず拳に力を込めたが、静葉が慌てて止めに入り、文の方には青年が「文さんも言い過ぎですよ」と口を挟んだ。

 文はすぐに「すみませ〜ん♪」と反省していないものの謝罪の言葉を口にすると、穣子は「ったく……」と不満そうな声をもらしつつも拳を引っ込めた。

 

「そ・れ・で〜、取材の方なんですけど〜、ご了承頂けませんか!? ゴシップ記事にはしませんから!」

「二人の取材は止めといた方がいいと思うよ〜、私は」

 

 穣子が文にそう忠告すると文は「何故です?」と首を傾げた。

 すると穣子は「ん」と言って静葉達を指差した。

 文は透かさず穣子が指差した二人を見ると、

 

「静葉さん、宜しければこれから寒椿が綺麗に咲いている場所に行きませんか? 前からご案内したいと思ってたんです♪」

「まぁ、嬉しいわ♡」

「愛しい貴女と前から冬の山で寒椿や蝋梅を眺めながら過ごしたいと思ってたんです……あ、でも花より静葉さんを見てしまうかもしれません」

「自分で誘っておいて私しか見ないなんて……馬鹿ね♡ うふふ♡」

 

 二人はもう自分達の世界に入って、手を取り合って互いの瞳を見つめ合いながらラブラブトークをしている。

 

「あやや〜……これはお熱いですね〜。春告精が来てしまいそうです。取り敢えず一枚♪」

 

 文が静葉達のラブラブシーンを激写すると、穣子は「悪用はしないでよね?」と釘を刺した。

 

「悪用はしませんよ♪ お二人は一緒にいると常にあんな感じなのですか?」

「そうね……付き合ってから毎日毎日ま〜い日、二人で寄り添ってるわ。家に帰る時なんて姉さんは泣きながら帰ってくるもん」

「お〜重い重い。それに対して彼氏さんはなんと?」

「私が聞いた台詞は歯が浮くような言葉だったわね。貴女が泣くと僕も悲しいとか、心はいつも貴女と共にありますとか」

「もう一緒に暮らしちゃえばいいのでは?」

「私も何度もそう言ってるわよ」

「妹さんからのお許しは得ているのに……何か一緒に暮らせない理由があるのでしょうか?」

「知らないわよ、そんなの。でも私に気を遣ってるとかではないと思う。前にそう言ったら『気なんて遣ってない』って即答されたから」

 

 穣子がなんだかんだ言いつつも文に情報提供すると、文はそれをしっかりと手帳に書き込んだ上で、もう一度静葉達に取材依頼をしようと二人に視線を戻したが、二人の姿はもう何処にも無かった。

 

「あれ?」

「二人ならもうどっかに行ったわよ〜。さっき話してた寒椿が咲いてる所にでも行ったんじゃない?」

「あややや!? 私も驚く早業ですね! 穣子さん、お二人が行かれた場所をご存知ですか?」

「私は山に関しては詳しくないからね〜。姉さんや木魅さんしか知らない場所かもしれないし、諦めたら?」

「そうはいきません! あんなバカップルはそういませんからね! 是が非でも特集記事を書かせて頂かないと!」

 

 そう言った文は瞬く間に姿を消し、二人の行方を追った。

 

「縁結び特集なんてやらないんじゃない」

 

 小さくなった文の背中に、穣子はそう言って自分はまた釣りに戻るのだった。

 

 ーー。

 

 その頃、静葉は木魅と共に大蝦蟇の池のほとりに訪れていた。

 そこには寒椿が満開に咲き誇り、寂しい冬景色を色鮮やかに彩っていた。

 

「寒くないですか?」

「うん♡ あなたとこうしてるから温かいわ♡」

 

 静葉はそう言うと、木魅の左腕をまた少しキュッと抱きしめた。

 

「寒かったら言ってくださいね?」

「うん、ありがと♡ ちゅっ♡」

 

 木魅の優しさに静葉はお礼を言って彼の左頬へ軽くキスをすると、彼はかぁ〜っと顔を赤くさせた。

 

「ふふ、もっと温かくなったわ♡」

「か、勘弁してくださいよ」

「千年以上も生きてるのに心は初心よね、あなたって♡」

「心から恋い焦がれたのが遅かっただけです」

「私もあなたが初めての恋人なんだけどね〜♡」

「……うぅ」

「ふふふ♡」

 

 二人は寒椿よりも互いの話しかしてなかった。もしここに幽香がいれば、きっと寒椿は「解せぬ」と言ってると告げられるだろう。

 

 ーー。

 

(お〜、これは流石に入ってはいけない空気ですね〜)

 

 静葉達を見つけた文は池の側にある木の枝に隠れ、二人の写真を撮りつつ、出るタイミングを伺っていた。勿論シャッター音は消してある。

 

(それにしても、花を愛でずに相手を愛でるとはこれ如何に……。先程から静葉さんは彼氏さんの頬や首筋にちゅっちゅしてばかりですね〜……ラブいラブい)

 

 ーー。

 

「ねぇ、私、ちょっと寒くなってきちゃった♡」

「ならば他の場所に移りましょうか。神であれ何かあってはいけませんし」

「うん……でも、手っ取り早く温かくなる方法あるのよね〜?♡」

「ほう、それは焚き火とかですか?」

「あっちの茂みに行きましょ♡」

「へ? 茂みですか? 日も当たってませんよ?」

「まだ分からないの?♡ ん〜?♡」

 

 そう言うと静葉は胸元のボタンを外して谷間をチラチラと木魅へ見せつけた。

 

「ちょ、静葉さん!?」

「あなたの愛で温めて♡」

「!!?」

 

 そして二人は茂みへと消えると、暫くしてから二人の艶めかしい声が聞こえてきた。

 

 ーー。

 

(さ、流石にこれは記事に出来ませんね……うわ、あんなことまで!)

 

(もしかして一緒に暮らさない理由って、これに溺れてしまうからということですかね……わわっ、凄い体勢です!)

 

 静葉達のおしくらまんじゅうの一部始終を見てしまった文は、そう思いながらソッとその場から退散した。

 後日の文々。新聞のトップ記事には『縁結び秋静葉! 恋人とのラブラブデート!』という見出しが踊り、おしくらまんじゅうの部分はちゃんとカットされていたーー。




こつこつ書いていたら出来上がったので更新しました!
そして秋静葉編終わりです!

なんか肉食系静葉にしてしまいましたがご了承を。
こんな静葉もいいですよね?

ではお粗末様でした!

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