※本編のほんの一部に同性愛的な表現が含まれます。ご了承お願い致します。
阿求の恋華想
人里ーー
穏やかに晴れ渡った幻想郷。そんな昼下がりの空の下を阿求は楽し気に歩き、資料として借りた本を返却しに鈴奈庵へ向かっていた。
鈴奈庵の暖簾をくぐると、いつも店番をしている友人の小鈴が「いらっしゃ〜い♪」と阿求に声をかけた。
そんな小鈴に阿求は「こんにちは♪」と笑顔で挨拶を返し、返却本を小鈴に渡した。
小鈴はその返却された本を確認し、異常が無いことを伝えると阿求と共にその本を棚に戻す作業に移った。
「いつも手伝わせてごめんね〜」
「気にしないで。私が好きで手伝ってることだし、こうして手伝っている内にまた借りたい本が見つかる時もあるから」
「そっか……なら、ありがと♪」
小鈴が笑顔で阿求にお礼を言うと、阿求はニッコリと笑みを返した。
「これ片し終わったら紅茶ご馳走するね。この前お母さんが来客用にいい茶葉買ってきたから♪」
「いいの?」
「阿求は私の友達だけど、お客様でもあるんだからいいに決まってるじゃない♪」
「ふふ、ならご馳走になろうかしら♪」
そして二人で笑い合ってから、二人はまた棚へ戻す作業に戻った。その際に阿求はまた幾つか借りたい本を見つけ、またそれを借りる手続きも行うのだった。
それから小鈴は店番をしながらも、レジの隣に設置してあるテーブルに移って、阿求と共にお茶を飲みながら雑談をしていた。
「そう言えば阿求、今日の髪飾りも可愛いわね♪」
「そう? ありがとう♪」
「それも彼氏からの贈り物?」
小鈴が冷やかすように訊ねると、阿求はビオラの花を模した髪飾りを優しく撫でながら、恥じらう素振りも見せずに「えぇ♡」と頬をほんのりと赤く染めて答えた。
「かぁ〜……お熱いね〜、ホント」
「ラブラブだからね〜♡」
「はいはい、ご馳走様」
「お粗末様〜♡」
小鈴が言うように、阿求にはお付き合いしている恋人がいるのだ。
その恋人は妖怪『垢舐め』で、若い見た目の男であるが既に数百年の時を生きている。
この垢舐めという妖怪は水場などの垢を舐め取るだけの人間に無害な妖怪で、人間と妖怪の隔たりが無くなった数年前から人里に暮らし、その時から『垢舐め清掃』と言う店を営んでいる。
垢を舐めるだけでなく、埃なども舐め取り、仕上げはひとつひとつ丁寧に乾拭きまでするため、人里ではそこそこの人気を誇る。
その噂を聞きつけた阿求が屋敷の書庫や倉庫の掃除を頼んだのが、二人の出会いである。
稗田家には多くの使用人を雇っているが、書庫や倉庫の掃除となるとどうしても時間がかかり、更には完全に埃を取り除くのは不可能なのだ。そこで阿求が目をつけたのが垢舐めである。
垢舐めの精密かつ正確な仕事に感銘を受けた阿求は、その後に垢舐めと定期的な契約を結び、その都度垢舐めと親しくなっていった。
そして数ヶ月前、垢舐めが思い切って阿求に自分の阿求へ対する想いを告白すると、阿求はその告白に快く頷き、二人は晴れて恋仲となったのだ。
「でも、今回の髪飾りも素敵よね〜。この前のマーガレットの髪飾りも可愛かったし〜」
「ふふ、全部彼の手作りなのよ♡」
「ふぇ〜……尽くされてますね〜、奥さん」
「奥さんなんて〜、そんなことないわよ〜♡」
小鈴の「奥さん」という単語に阿求は否定するも、その顔は締まりなく蕩けているため、全く説得力がない。
「私はみんなや小鈴よりこの世に長く居られない……それでも彼は私を、彼が死ぬまで一生愛してくれると言ってくれたの♡」
「もし阿求が男として転生しても?」
「えぇ、男でも阿求に変わりはないって♡」
「ひぇ〜……なんかそこまでいくと重いような気がする〜」
小鈴が冗談半分で言うと、阿求は絶対零度の笑みを浮かべて「何か問題でも?」と返した。
そんな阿求に小鈴は「な、何にも〜」と苦笑いを浮かべて返すのだった。
「あ、そう言えばさ、私気になって調べたことがあったの」
話題を切り替えた小鈴に阿求が「何を調べたの?」と返すと、小鈴は店の本棚から一冊の本を持ってきた。
「これ、前に垢舐めさんが借りていった本なの」
「…………『花言葉全集』?」
小鈴が持ってきた本の名前を読み上げた阿求は、小首を傾げた。
「垢舐めさんがうちから借りた本ってこれだけなのよ〜。だからどうして借りたのか気になってこれを読んだの。そしたら……」
「そしたら?」
「阿求がこれまで身に着けてきた花の髪飾りの花言葉がすっごくロマンチックだったの!」
「……ほう、続けなさい」
(何キャラなのよ、あんた)
阿求の言葉に内心でツッコミを入れながら、小鈴は取り敢えず「先ずはそのビオラ」と言って、ビオラの項目を開いた。
「ビオラの花言葉……信頼、忠実、少女の恋、そして誠実な愛」
「ふむふむ……♡」
「んで、この前のマーガレットを模した髪飾りのマーガレットの花言葉……誠実な心、心に秘めた恋、真実の愛」
「んふふ……♡」
「その前のキキョウの髪飾り。キキョウの花言葉が……優しい愛情、誠実、清楚、気品、変わらぬ心、変わらぬ愛」
「ふへへへぇ〜♡」
小鈴がこれまで垢舐めが阿求へ贈った髪飾りの花言葉を読み上げる度に、阿求はだらしなく頬を緩めて「あの人ったら〜♡」と言いながら垢舐めに想いを馳せていた。
「ーーとまあ、こんな感じで垢舐めさんが阿求へ贈ってる髪飾りの花には、それぞれ凄いロマンチックな意味があることに気が付いたのよ」
「そっかそっか〜♡ にひひひ〜♡」
「嬉しいのは分かったから、そろそろその変な笑い方止めてくれない? 流石に怖いんだけど」
「ごめんごめん……ふふふふ♡」
(ダメだこりゃ……)
阿求の笑い声に小鈴はそう思うも、幸せそうな阿求に優しい眼差しを向けるのだった。
すると、
「ちわ〜、垢舐め清掃で〜す」
渦中の人物、垢舐めが鈴奈庵へやってきた。
ここ鈴奈庵でも垢舐め清掃と定期契約をしているからだ。
「あなた〜♡ 会えて嬉しいわ〜♡」
阿求は垢舐めを見るなり、彼の胸に飛び込んだ。
垢舐めは驚きながらも阿求をしっかりと抱きとめると、阿求は「ん〜♡」と幸せそうな声をもらしながら彼の胸に顔をグリグリと埋めた。
「阿求さんが鈴奈庵に居られるとは思いませんでしたよ」
「私もあなたが鈴奈庵に来るとは思ってなかったわ♡ あなたのいい情報も得たし、あなたに会いたいと心から思ってたの♡ だから本当に嬉しい♡」
「一体どんな情報を?」
垢舐めが阿求に訊ねると、阿求は「ヒミツ〜♡」と言ってはぐらかし、小鈴は「ご馳走様です」と二人に手を合わせた。
そんなこんなで謎は残るものの、垢舐めは阿求を下ろした後で鈴奈庵のクリーニングに取り掛かった。
「…………阿求さん、もしかしてずっとそうしてるおつもりですか?」
「あら、お仕事のお邪魔かしら?♡」
阿求は垢舐めの背中からお腹ら辺に手を回して、彼にギュ〜ッと抱きついて離れようとしなかった。
垢舐めはそんな阿求の行動を愛らしいと思う反面、
「そ、そうではありませんけど、小鈴さんが……」
小鈴に見られているという恥じらいを感じていた。
「あ、私は気にしないのでお構いなく〜♪」
「小鈴もああ言ってるし、いいでしょ?♡ ね?♡」
「…………分かりました」
垢舐めは小鈴の心遣いと阿求のおねだりに負け、阿求に引っ付かれながら掃除を始めるのだった。
「…………あの、阿求さん?」
「なぁに?♡」
「そんなに見つめられてると、恥ずかしいのですが……」
阿求は垢舐めの背中の脇から頭をぴょこっと出して、埃を舐め取る彼の仕事風景を見ているのだ。
「いいじゃない♡ 好きなんだもの、あなたがお仕事してる時の
「はぁ……」
「私に向けてくれる優しい表情も好きだけど、真剣なあなたの表情も大好き♡」
「…………」
「その長い舌で、いつも私を愛してくれてる時の表情も大大大好き♡」
すると垢舐めは阿求に少し顔を伏せて言葉を返す。
「……毎回すみません、埃や垢を舐めてる舌で阿求さんを……」
「あなたは気にし過ぎなの♡ それに私を気遣って毎回口の中を洗ってからしてくれるじゃない♡」
「で、でも、気にしますよ……」
「あなたがいつも贈ってくれる髪飾りのように、私もあなたへ変わらぬ愛や変わらぬ心といった気持ちを持ってるわ♡」
「え、何故それを!?」
「さぁ〜?♡」
「〜〜……」
またも阿求にはぐらかされた垢舐めは、今度は顔を赤くして阿求から顔を背けた。
「私はあなたが好き♡ あなたの全てが♡ だから何も後ろめたさを感じる必要は無いのよ♡」
「……ありがとうございます」
「私こそ、ありがとう♡」
それから垢舐めは阿求と愛の言葉を囁き合い、身を寄せ合いながら作業を終えると、阿求と共に身を寄せ合ったまま鈴奈庵を後にした。
その光景を最後まで見てしまった小鈴が、二人が帰るまでの間に紅茶やお茶をがぶ飲みしたのは言うまでもないーー。
稗田阿求編終わりです!
儚月抄の後に出たのは求聞史紀なので、あっきゅん編を書きました!
あっきゅんは30年前後の寿命で、転生までの100年あまりは地獄の閻魔の下で働き、転生の際に閻魔が用意する性別になりますが、このお話は二次創作としてどうかご了承ください。
それとここでお知らせなのですが、このお話で今年の更新を終わりにしようと思います。
これから仕事等で色々と忙しいので……何卒、ご了承お願い致します。
次の更新は今のところ未定ですが、気長にお待ち頂けると幸いです。
次回は風神録のキャラから更新予定です!
では後書きが長くなりましたが、此度もお粗末様でした☆
そして早いですが、読者の皆様、良い年末年始をお過ごしください!