東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人はレイセン。


レイセンの恋華想

 

 月の都ーー

 

「それじゃあ今回もよろしく頼むわね、レイセン♪」

「気を付けて行ってくるのよ? それとくれぐれも八意様には失礼の無いように」

「はい! 分かりました!」

 

 綿月姉妹から永琳へ宛てた書状を受け取ったレイセンは、お腹から声を出して返した。

 第二次月面戦争終息後、レイセンは「月の使者」の一員となり、今では月の親善大使的な役割も担っている。

 ただ、気軽に地上へ行けない綿月姉妹が、恩師である永琳に私的な文を渡してほしいがためにレイセンを遣わしている方の意味合いが強い。

 

「あ、それと、地上へ降りたら地上の時間で二週間くらい過ごしてきなさい。新しい文化が生まれてるとか、前に比べてどれほど技術が進んだとか、色々見て報告してほしいの」

 

 豊姫がレイセンにそう付け加えると、レイセンはまた「はい!」と返事をした。

 すると今度は依姫が口を開く。

 

「……ただし、この前の小娘の恋日記みたいに甘ったるい報告書は書かないように」

「あぅ……気を付けます」

「私はそういう報告書でもいいわよ〜♪ 大切なペットの恋路を見守るのも、主の役目だしね♪」

「お姉様が良くても私が困るんです……そもそもお前達の(しとね)での話まで書かなくて良いのだ。あんな……あんな……っ!」

「は、はひ」

「まあまあ、レイセンもお年頃だし、あの地上人にメロメロだから仕方ないわよ〜♪ ま、何にしろ気を付けて。任務をちゃんと遂行すれば、私も依姫もとやかく言わないから♪」

 

 ワナワナと肩を震わせる依姫とは違い、豊姫が優しい言葉をかけると、レイセンは顔を赤くさせながらも「はい」としっかり返事をし、笑顔を浮かべてリュックを背負い、月の羽衣を持ってその場を後にした。

 

「早く会いたいって顔して行ったわね〜♪」

「そうですね……内容はどうあれあの子が幸せなら、私もそれは嬉しいです」

「八意様の教えを受けている人だから、多少は安心だしね♪」

「はい……ただしあの子を泣かせるようなら、いくら八意様の弟子と言えど処します」

「それは同感ね〜♪」

 

 綿月姉妹はレイセンを見送りつつ、そんな話をしながらレイセンの恋路を応援するのだった。

 

 レイセンには地上人の恋人がいる。

 この恋人は地上人、即ち幻想郷に住む人間であり、永琳の元で薬術を学んでいる若い青年である。

 

 青年の優しさや誠実さに惹かれたレイセンは一目惚れするも、地上人との恋愛は許されないことだと考え、その恋心をひた隠しにしていた。

 しかしその恋心を輝夜や永琳に見透かされ、永琳が仲介。するとレイセンと青年は両想いだったこともあり二人に残る問題は月と地上の関係性だった。

 永琳は綿月姉妹へ書状で二人の恋愛に対し理解してくれるよう伝えた。

 その書状を読んだ姉妹は、これを期に地上と月との友好関係を築こうと考え、何よりレイセンの幸せを考え、二人の交際を認めたのだ。

 永琳はその際に紫にも理解を求めたが、紫の方は「こちらに過度な干渉さえしなければ構わない」とのことだった。

 

 

 永遠亭ーー

 

 そんなこんなで数ある障壁を乗り越え、

 

「いらっしゃい、レイセン。待ってたよ」

「こんばんは、またお世話になります♡」

 

 二人は今を共に過ごすのだった。

 

 ーー。

 

 夜の地上へ降り立ったレイセンは青年に連れられ、輝夜と永琳の元へ通された。

 

「こちらが今回の書状です」

 

 レイセンは永琳へ三通の書状を手渡した。

 内二通は豊姫と依姫の永琳への私的な手紙で、最後の一通が今回レイセンを地上へ遣わした旨が記されていた。

 

「二週間の滞在ね、了解したわ……部屋はいつもの部屋でいいかしら?」

 

 永琳の言葉にレイセンは恭しく頭を下げて「はい」と返事をした。

 しかし永琳の隣に座って、これまでずっと黙っていた輝夜がふと口を開いた。

 

「そろそろ彼と同じ部屋でもいいんじゃないの〜? どうせどちらかはどちらかの部屋に行く訳だし〜♪」

「ひ、姫様!?」

 

 輝夜の言葉に青年が思わず反応するも、輝夜は「本当のことでしょ〜?」と言い、手にしている扇子で口元を隠して楽しそうに笑った。

 

「あの二人がレイセン(この子)を遣いに送ってくるのが、玉兎達の繁殖期に合わせて送ってくるのはそういうことなのかしら〜?」

「八意様っ!?」

「あら〜、なら尚更同じ部屋にしてあげた方がいいんじゃないの〜?♪」

「ん〜……二週間も交尾を続けられると流石に困りますわ」

「お二人共、いい加減にしてくださいよ!」

「わ、私、そんなにえっちな子じゃありません!」

 

 レイセン達が輝夜達の戯言にとうとう声をあげると、輝夜達は声をあげて笑い「ごめんなさい♪」と口だけで謝るのだった。

 

 それからレイセンはいつもの客室へ通され、永遠亭の食卓をみんなして囲んだ。

 その後、片付けの手伝いや、その他もろもろも済ませたレイセンは永遠亭の縁側へ立ち、月の本部に居る玉兎へ定期連絡を入れていた。

 

『ーー今回の連絡は以上。後日また定期連絡するわ』

『あいあい。んじゃ任務頑張ってね〜』

 

 本部へ連絡を済ませたレイセンは小さく息を吐くと、地上の空に浮かぶ故郷を眺めた。

 

(綺麗だな〜♪)

 

 地上から見る故郷の美しさに、レイセンは思わずため息をこぼした。

 それから永遠亭の庭にある橋が掛かった池の橋に立ち、夜風で笹の葉が揺れる音を聞きながら月見をした。

 

 すると、

 

立待月(たちまちづき)に橋の上で誰をお待ちしているのですか?」

 

 レイセンは背後から何者かに優しく声をかけられた。

 

「何ですか〜、その他人みたいな言い方なんかして〜?」

 

 誰の声かすぐに理解したレイセンは、振り向かずに言葉だけを返すと、声の主はレイセンのすぐ右隣に立った。

 

「あはは、少々気障過ぎた言い回しだったね♪」

 

 レイセンの恋人である青年が笑いながらそう言うと、レイセンは「ホントよ〜♡」とどこか嬉しそうに返した。

 

「そう言えば、たちまちづきって何ですか?」

 

 青年の先程の単語をレイセンが訊ねると、青年はレイセンの頭を優しく撫でてから「それはね」と説明を始めた。

 

「立待月っていうのは満月と十六夜月の次に出る月でね。人が月が出るのをいまかいまかと立って待つ内に月が出るって意味だよ」

「おぉ〜……地上では様々な呼び方があるんだね!」

 

 青年の説明を聞いたレイセンが目を輝かせると、青年は「そうだね」と言って優しく微笑みを返した。

 それから二人は何も言葉を交わさずとも、肩を寄せ合い、その立待月を眺めた。

 青年がレイセンの肩を優しく抱き寄せると、レイセンは彼の体に自身の体を預けるようにしながら身を寄せた。

 

 その一方ーー

 

「(甘いわね〜! 激甘オーラプンプンじゃないの!)」

「(姫、少しは黙れよ。気付かれちゃうだろ)」

「(そもそも何で覗くんですか!?)」

 

 そんなレイセン達を建物の陰に隠れ、輝夜、てゐ、鈴仙が野次馬根性で覗……静かに見守っていた。

 

「(あんなバカップルはそうそう見られないからな〜。しかも超が付く遠距離恋愛だから、どんな風になんのか見たいじゃん?)」

「(そうそう。それに何だかんだ言いながらイナバだって私達と見てるじゃない♪)」

「(…………お言葉ですが、私は輝夜様達が変な悪戯をしないようにお目付け役として来たんです)」

 

 もっともらしい言葉を言う鈴仙だったが、輝夜に「間があったから却下」と笑顔で否定されるのだった。

 

「(しっかし黙ったままで何もしねぇな〜)」

「(それでも当人達からすれば楽しいのよ♪)」

「(……ドキドキ……)」

 

 ーー

 

「レイセン……」

「はい、何でしょう?♡」

 

 青年に呼ばれたレイセンが上目遣いで返すと、彼は少し頬を赤らめながら、

 

「…………そろそろ冷えて来たし、部屋へ戻らないか?」

 

 と言った。

 するとレイセンもかぁ〜っと顔を赤くし、青年の袖をキュッと握った。

 

「…………いっぱいしてくれる?♡」

「っ!?」

 

 レイセンの控えめなおねだりとモジモジしながらの上目遣いビームを喰らった青年は一気に顔を赤く染めた。

 

「……今夜はずっと一緒に居よう」

「っ……うん♡ 私を離さないでね♡」

 

 こうして二人は仲睦まじく屋敷の中へと消えていった。

 

 一方ーー

 

「オロロロ〜!」

「これくらいで砂糖を吐くとか、イナバはまだまだね〜」

「これが鈴仙だってことさ」

 

 二人の様子を見ていた輝夜達の内、鈴仙だけが砂糖を吐いていた。

 しかし余裕そうな輝夜とてゐも実は口をジャリジャリとさせていたのは秘密である。

 

 それからの二週間、レイセンは月へ帰るまで日中は青年とデートしながら任務を遂行し、夜は青年と沢山ぴょんぴょんして過ごすのだった。

 そして綿月姉妹へ提出した報告書にはまたも全てバッチリと書いていたとかーー。




レイセン編終わりです!
そして儚月抄も終わりです!

今回もオリジナル要素をかなり入れましたがご了承を。
レイセンは月と地上という遠距離恋愛っぽくしました♪

ではお粗末様でした☆

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