東方恋華想《完結》   作:室賀小史郎

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恋人は豊姫。

※東方儚月抄に出て来る綿月姉妹は既婚者設定がありますが、ここではあくまで恋人同士として書きます。
そして月の都と幻想郷の歴史や月の都の文化についても複雑なので、ここでは一切触れず、いつもと変わりなくほのぼのと書かせて頂きます。
ご了承をお願い致します。


儚月抄
豊姫の恋華想


 

 月の都ーー

 

 地上から遠く離れた場所、月。

 しかしこの月でも地上と同様、何ら変わりなく穏やかに時が過ぎていた。

 

「ふぁ〜……しっかし、こうも平和だと門番するのも退屈だな〜」

「何言ってるんだ。これも都を守る大切な役目だ。そんな不謹慎なことを言うもんじゃないぞ」

 

 都の門を預かる二人の門番はそんな話をしながら門を守っていた。

 

 すると背後から「やっほ〜♪」と明るい声をかけられた。

 二人が背後に目を向けると、そこには自分達の主である綿月豊姫がにこやかに手を振っていた。

 

「と、豊姫様!? いかがされました!?」

 

 二人の内、真面目な門番が急いで豊姫の元で片膝を突いて訊ねると、豊姫は「そんなに畏まらなくていいわよ〜♪」と軽く言いながらその門番を気遣った。

 しかし、真面目な門番は「お心遣いありがとうございます」と返すだけで姿勢は崩さなかった。

 そんな彼を見て豊姫は苦笑いを浮かべると、もう一人の少し軽い感じの門番が豊姫に向かって口を開いた。

 

「もしかしてダンナのことですかい?」

「えぇ、そうなの〜♡ 私暇だからダーリンに会いたくって〜♡ ダーリンここに来なかった?」

 

 門番の質問に豊姫はデレデレとだらしない顔をして二人に訊ねた。

 

 豊姫と門番があげた人物は豊姫の恋人で、月の都の防衛部隊の参謀総長をしている月人の青年である。

 参謀総長と言っても彼が本部に居ることは少ない。何故なら彼自身が生涯現場主義を掲げ、日中は常にあちこちの防衛カ所を見て回っているのだ。

 月人の中でも高い位を持つ青年ではあるものの、彼はそれにお高く止まることはせず、常に月の民には優しく接し、防衛に携わる月人達や玉兎達に対しては気さくに、そして常に職務に励んでくれていることに対する尊敬を持って接しているため、多くの者達から慕われている存在だ。

 そんな青年が同じく皆から慕われている(良く挙動に振り回されるが)豊姫と恋仲になったのは月の都では大ニュースであり、今では皆が二人の仲を温かく見守っている状況なのだ。

 

「参謀総長殿ならば先程訪れまして、我々に声をかけてくださった後は依姫様達が居る訓練所へ向かうと仰られていました」

 

 真面目な方の門番が豊姫にそう言うと、豊姫は「分かったわ、ありがと♪」と返し、二人に差し入れの桃を渡してスキップしながら訓練所へ向かった。

 

「相変わらず豊姫様はダンナに首ったけって感じだな〜♪」

「参謀総長殿も豊姫様を凄く大事にしていらっしゃる。もしご結婚となれば都をあげてお祝いすることになるだろうな」

「早く結婚式が出来るといいよな〜♪ その時はより美味い酒が飲めそうだし♪」

 

 軽薄そうな門番はそう言って豊姫から貰った桃にかぶり付くと、真面目な方の門番は「お前はブレないな」と言って桃にかぶり付くのだった。

 

 

 その頃、訓練所では、

 

「ほら、そこ! 隊列を乱すな! そのせいで仲間が死ぬんだぞ!」

『サーイエッサー!』

 

 依姫の指導の元、玉兎達が訓練に励んでいた。

 

「皆さん、大分連携が取れてきましたね」

 

 その依姫の横で参謀総長は玉兎達の動きを見て笑顔を浮かべていた。

 

「まだまだよ。今日はあなたが見に来ているから頑張ってるだけ。私だけだったらこんなにもハキハキしてないもの」

「手厳しいですね、依姫様は」

 

 青年は依姫にそう言って苦笑いを浮かべると、依姫は「これが普通よ」と真面目に返した。

 

「時に、そろそろ休憩を入れてはいかがでしょう?」

「何故? まだ三時間しか訓練をしていないというのに」

「何事も時には休むことも必要です。でないと訓練時に必要な集中力が保てません」

「それは軟派な考えね。鍛え方が足りない証拠よ」

「全員が全員依姫様ではないのです。押し付けてはそれが原因で士気が下がります。そしてそれが月に益をもたらすことはありません。どうかお聞き入れください」

 

 青年は恭しく頭を下げて進言すると、依姫は渋々といった感じに「分かったわ」と返し、訓練をしている玉兎達に「十分間の休憩を与える!」と号令を出した。

 それを聞いた玉兎達は安堵のようなため息を吐いてその場にへたり込んだ。

 

「情けない……あれぐらいの訓練で。これでは都を守ることなど……」

 

 玉兎達の様子を見て依姫は思わずそう嘆く。

 

「依姫様、そう思っていても口には出さぬ方が良いかと。皆の士気に障ります。依姫様がもし師と仰ぐ方からかのようなことを言われたら、どう思われますか?」

「そう言われないよう、更なる努力をするのみ」

「…………それは依姫様だから言えるのでしょう。ですが先程も申しました通り、全員が全員依姫様ではないのです。アメとムチの使い方を間違わぬよう、お願い致します」

「…………心に留めておこう」

 

 依姫はまた渋々といった感じに言葉を返すと、青年は「それでこそ依姫様です」と言って笑みを浮かべた。

 プライドの高い依姫がどうしてここまで青年の言葉に頷くのかというと、彼が常に月の都や民達を考え、真の意味で益を考えていることを良く理解しているからだ。

 すると、

 

「難しいお話は終わりかしら〜?」

 

 と豊姫が二人に声をかけてきた。

 そんな豊姫に二人は苦笑いを浮かべて挨拶をすると、豊姫はにこやかに返して、わざわざ依姫と青年の間に割って入って彼の腕に抱きついた。

 

「いくら依姫でもダーリンは渡さないからね〜♪」

「私達はそんな話をしていた訳ではありません……」

「知ってるわよ〜……でもダーリンの隣は私だけの場所なの〜」

 

 豊姫はそう言って青年の腕に力を入れると、依姫は「はぁ……」と苦笑いを浮かべて返した。

 

「豊姫様、皆の前なのですから……その……」

「みんな私達の仲は知ってるんだもん、いいでしょ〜♡」

「しかし……」

 

 青年は頬を赤くして豊姫に離れてくれるよう頼むが、対する豊姫は「聞こえな〜い♡」と言って彼の腕に頬擦りしていた。

 そんな豊姫と青年の様子を玉兎達は目をシイタケにして眺めている。

 

「お姉様、ここは訓練所です……睦み合うのでしたら他でやってください」

 

 依姫がそう言うと、豊姫は「は〜い♪」と元気に返事をし、青年のことを引きずるように訓練所を去った。

 

「し、失礼しますね、依姫様」

「んもぉ、今は依姫じゃなくて私を見るの!♡」

「は、はい……」

 

「…………お姉様も相変わらずね……」

(あやつも大変だな……いや、寧ろそれが嬉しいから恋仲なのか?)

 

 二人の背中を見送る依姫はそう思いつつ、また玉兎達の訓練を再開するのだった。

 

 

 そしてーー

 

「ねぇねぇ、何処か景色のいいところでお休みして、桃でも食べない?♡」

 

 豊姫は青年の腕に抱きついたまま道を歩き、彼にそう提案した。

 一方、青年は顔を赤くしたまま周りの目を気にしていて桃どころではない。

 現にすれ違う者達はみんなして、微笑まし気な視線や好奇な視線を二人に向けている。

 

「まだ見回るところがあるのですが……」

「むぅ……私と仕事どっちが大事なの!?」

 

 豊姫が少し声を荒げて青年に詰め寄ると、それまで狼狽していたはずの青年はハッキリと「仕事です」と答えた。

そんな青年に豊姫は明らかにショックといった表情を浮かべるが、彼は更に言葉を続ける。

 

「自分の仕事はこの都や民を守ることです。それはすなわち豊姫様を守ることでもあります……私は愛する豊姫様が傷付くところを見たくありません。ですから仕事を大切にすることで、その根底にある豊姫様を日々守りたいと願っています」

 

 真剣な眼差しで豊姫を捉えて青年が言うと、豊姫はボンッと顔を真っ赤にさせ、次第に頬を緩めて恍惚な表情を浮かべた。

 

「え、えへへ〜♡ それじゃあ仕方ないわね〜♡」

 

 豊姫は自身の胸がキュンキュンとときめくのを感じながらニヤけた顔をして青年に言うと、彼は「はい」と少しはにかんで返した。

 

「でも、休憩も大切よね〜?♡」

「へ?」

「私のために頑張ってくれるのは素敵だけど〜、私を放っておくのはいけないことよね〜♡」

「決して放っている訳では……」

「なら一緒に桃食べましょ♡」

「…………」

 

 豊姫の可愛らしく「ね?♡ ね?♡」と青年におねだりすると、彼はとうとう根負けして「では、一つだけ」と折れるのだった。

 そして二人は地球が一望出来る場所で、仲睦まじく桃を食べさせ合うのだったーー。




綿月豊姫編終わりです!

風神録より書籍の儚月抄の方が先に登場したのでこちらのキャラを先に書きました!
色々と独自設定が多く、今回は甘さ控え目ですがどうかご了承を。

ではでは、お粗末様でした〜☆

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