人里ーー
穏やかなお昼を迎えた幻想郷。
しかし人里ではちょっとした異変が起こっていた。
「おい、あれって映姫だよな、霊夢?」
「そうね……まごうこと無き映姫だわ」
「小町さんが言ってたのって本当だったんですね……」
「ただの戯言だと思ってたけど、現場を見ちゃうと……ね」
人里に居合わせた魔理沙、霊夢、早苗、アリスの四人は驚愕していた。
何故なら、
「ほら、早く♡ 時間は限られているのよ♡」
「そ、そんなに引っ張らないでください、四季様!」
あの映姫が男の鬼と仲睦まじく人里を歩いているからだ。
映姫は鬼である男の左腕をグイグイと引っ張り、無邪気な笑顔を浮かべている。
霊夢達が小町から聞いた話。それは映姫に前々から恋人が居るという話だった。
小町の話によれば、この鬼は映姫が閻魔になった頃から側に仕える獄卒の一人で映姫の右腕的存在であり、映姫にとって小町と同じくらい心を許せている者なのだ。
映姫の性格上、色恋沙汰は無縁だったがそれでは寂し過ぎると考えた小町がけしかけ、映姫はこの鬼と付き合うことになった。
それから映姫はプライベートの時間の使い方がガラリと変わり、鬼とのデート時はあの小五月蠅い説教も無くなって、今のようにラブラブオーラ全開で人里を見て回っている。
「あの真面目が服を着て歩いてるような映姫がな〜……」
「映姫さんだって一人の女っていうことでしょ」
心底感心する魔理沙にアリスは苦笑いを浮かべて返した。
「真面目一辺倒じゃなくなったのはいいことだと思うけどね、私は」
「私もそう思います♪ 閻魔様とはいえ、やはり逆恨みされることもありますし、心の支えがあった方がいいですよね♪」
霊夢の言葉に早苗も目を輝かせて賛同する。
でも、
「ねぇねぇ、お昼御飯を食べたら旧都に行きましょ♡ 前に温泉に行きたいって言っていたものね、あなた♡」
「え、しかし……」
「私はあなたとなら何処でも楽しいです♡ さぁ、早く行きましょ♡」
甘ったるい空気をそこら中にばら撒く映姫を見て、霊夢達は思わず口の中をジャリジャリとさせるのだった。
そんな霊夢達に構うことなく、映姫は鬼を引っ張りながら適当なお食事処へと向かうのだった。
ーー。
「貴女のお店を運良く見つけられて良かったわ♪」
「いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます♪」
映姫達は人里の外れで、ひっそりと屋台を出していたミスティアの店で昼食にしていた。
「時に、本日小町はここへ訪れましたか?」
「い、いえ今日はまだ……」
「そうですか……もし訪れた時には帰るよう言ってください。私か彼へ報告すると脅しても構いませんので」
上司モードの映姫の気迫にミスティアは「は、はい……」と返して、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
それからミスティアはお昼だけの限定メニュー『ヤツメウナギのひつまぶし』を二人に出すと、二人は礼儀正しく手を合わせ「頂きます」と言ってから食べ始めた。
「相変わらず良い味です……貴女が首を縦に振ってくれさえすれば、中有の道へ店を構えることを二つ返事で許可するのですが」
「あはは、私は目的があって屋台をしてますから……お気持ちだけ受け取っておきます」
ミスティアが迷いのない笑顔で返事をすると、映姫は「残念♪」と微笑んでひつまぶしをまた口に含んだ。
「女将さん、お代わり」
早くも一杯目の大盛りを食べ終えた鬼がミスティアにお重を手渡すと、ミスティアは「また大盛りでいいですか?」と訊ねた。
すると鬼はミスティアの言葉に笑顔で頷き返し、ミスティアはそれを見て「少々お待ちくださいね〜♪」と返してお代わりの準備を始めた。
「あなたは本当に彼女の料理が好きよね……」
「え、あ、はい。妖怪の山で女将さんが屋台を出している時なんかは、仲間と良く飲みに行くので」
「そう言えば前に言っていましたね。美味しい酒と料理が出て来る美人女将の店を見つけた、と」
映姫が鬼に対して少しばかり棘のある言い方をすると、彼は「いやぁははは……」と苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「お兄さんはいつも私の料理を美味しそうに食べてくれますし、酔って絡んでくるような苦手なお客さんからも守ってくれるので、私は大好きですよ♪(お得意様として)」
「女将さん!?」
「へぇ〜……ほほぅ〜……詳しく訊かねばいけませんね〜♪」
「四季様!!!?」
無邪気なミスティアのリークに映姫はニッコニコな笑顔を見せ、彼の言い分を聞くことなく、ミスティアから根掘り葉掘りと彼の話を聞いた。
そしてーー。
「とても有意義な昼食でした♪ ご馳走様でした♪」
「いえいえ♪ お粗末様でした〜♪」
「………………ご馳走様でした……」
映姫とミスティアは互いに満足気な表情をしているが、鬼の方はとても青ざめていた。
何故ならミスティアがノリノリで彼の武勇伝(酔った時の話など)を次々とリークしたので、それを聞いた映姫は目のハイライトを留守にさせていたからだ。
「ではお代は私が払いますね♪」
「し、四季様、こ、ここは自分gーー」
「何か問題でも?」
「い、いえ……」
「ならばあなたは黙って奢られなさい♪」
「ご、ご馳走様です……」
鬼が弱々しくそう言うと、映姫は「はい♪」とハイライト不在のままの笑顔を見せた。
そして映姫は彼に荷物を持たせ「少し待っていなさい」と言って、ミスティアのすぐ側へ向かった。
「(ミスティアさん……)」
お会計をする際、映姫はミスティアに小声で話しかけた。
そんな映姫にミスティアが小首を傾げると、
「(タレのレシピまでは聞きませんので、よろしければ今度貴女のお料理のレシピをいくつか教えてください)」
と映姫ははにかんでミスティアに耳打ちした。
ミスティアは一瞬驚いた表情を見せたが、映姫の健気さに笑みを見せ「(いつでもどうぞ♪)」と耳打ちを返した。
映姫はそれを聞いて「ありがとう♪」と返し、少し色を付けてお会計を済ませた。
それから映姫はまた鬼の腕を引っ張りながら、次の目的地、旧都にある温泉を目指して歩き出した。
(ふふ、仲良しで見てるこっちまでぽかぽかするな〜♪)
そんな二人を見送るミスティアはほっこりとしながら、二人が使った食器を片付けるのだった。
妖怪の山ーー
旧都へ行くには妖怪の山にの中にある間欠泉を通る必要がある。
映姫は鬼の左腕に抱きつきながら歩くが、彼はまだ映姫が怒っていると思っているため、凄く不思議な空気が流れていた。
そんな空気の中で鬼はオドオドしているが、その一方で映姫は彼の困った表情等を見て内心ではとても楽しんでいた。
「あ、あの〜……四季様?」
この空気に耐え切れなくなった鬼が映姫の顔色を伺いながら声をかけると、映姫は「何かしら?」と小首を傾げた。
「今度から酒は程々にしますから……その、怒らないでください」
「私はそもそも怒ってませんよ?」
「え……しかし、あの時の目は……」
「怒っていた、と?」
映姫の問いに鬼が恐る恐る頷くと、映姫は小さく息を吐いて立ち止まった。
「四季様?」
突然立ち止まってしまった映姫に鬼が声をかけると、映姫はムギュッと彼の胸に顔を埋めた。
「し、四季様!?」
「…………ない」
「?」
「今の私は皆の閻魔様じゃない」
「…………映姫」
鬼が照れながらも映姫を呼び捨てにすると、映姫は嬉しそうに「うん♡」と言って彼の背中に回した両手に力を込めた。
「あなたは初めから白よ……黒なのは私……」
「え?」
「私は怒っているつもりはなかった。でもあなたがそう感じたのであれば、あなたが私を怒っていたと誤解させた心当たりがあるの……」
「そう、なのですか?」
「えぇ……私はきっとミスティアさんに嫉妬していたの」
映姫の告白に鬼は「何故?」と疑問を投げ掛けた。
すると映姫は真っ直ぐに彼の目を見て、
「あの子が私の知らないあなたを沢山見ていたから……」
と、頬を赤く染めて答えた。
「映姫……」
藍色掛かった澄んだ瞳で言われた鬼はドクンと胸が高鳴った。
「あなたが同僚や部下と楽し気に過ごしているのを知れたのは嬉しい。でもその反面、それを知っている彼女がどこか羨ましかった……あなたの全てを私は知っているつもりでいた。だから知らず知らずの内に嫉妬をしていたのよ……」
その言葉を聞いた鬼は映姫の全てを包み込むように、映姫を優しく抱きしめた。
「どうしたの、いきなりこんな優しく抱きしめてくれたりして♡」
「愛おしくてつい……」
鬼が素直に思ったことを口にすると、映姫は「そう♡」と嬉しそうに返した。
「映姫にしか見せてない顔が自分には沢山あります……ですから、その……どうかご安心ください。自分は死ぬまで映姫を愛しますから」
「それはプロポーズですか?♡」
「…………そう思ってもらって構いません」
「ふふ、間があったので黒です♡」
「す、すみません」
すると映姫は彼のことを見上げ、ソッと彼の唇に自身の唇を重ねた。
「ちゅっ……ふふ♡ これが私からの答えです♡」
「映姫……」
「私とあなたの未来は白と断言します♡ 幸せにしてくださいね♡」
「はい!」
その後、二人は旧都で婚前旅行と称して一泊し、家族風呂で身も心も深く繋がるのだったーー。
四季映姫・ヤマザナドゥ編終わりです!
えいきっきはちょっと大人っぽい話にしました!
こんな風にデレるえいきっきは白ですよね?
やってることは黒かもしれませんがご了承を!
そしてこれにて花映塚は終わりです♪
ではお粗末様でした!